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Germs “(GI)” / ジャームス『ジー・アイ』


Germs “(GI)”

ジャームス 『ジー・アイ』
発売: 1979年10月
レーベル: Slash (スラッシュ)
プロデュース: Joan Jett (ジョーン・ジェット)

 1976年に結成された、ロサンゼルス最初期のパンク・バンド、ジャームスの1stアルバムであり、唯一のスタジオ・アルバム。アルバム・タイトルの『(GI)』は、「Germs Incognito」の略語で、彼らが用いていた別名です。

 プロデューサーを務めるのは、女性ロック・バンド、ザ・ランナウェイズ(The Runaways)のメンバーだったジョーン・ジェット。

 LAパンク・シーンの出発点とも言えるバンドですが、前述のとおり本作が、彼らが残した唯一のスタジオ・アルバム。ボーカルのダービー・クラッシュ(Darby Crash)が、1980年12月7日に自ら命を絶ってしまうためです。その日は奇しくも、ジョン・レノンが射殺される前日。

 また、ギターのパット・スメア(Pat Smear)は、のちにニルヴァーナのツアー・メンバーや、フー・ファイターズ(Foo Fighters)のメンバーとして、活躍しています。

 この時代のパンク・バンドらしく、シンプルなロックンロールを下敷きにした部分もありますが、そこをハミ出す要素も大きいのが、ジャームスの魅力。スピード重視のハードコアを思わせる楽曲があったり、アンサンブル重視のポスト・ハードコアを思わせるアプローチがあったりと、初期パンクの枠組みに収まらない音楽を展開しています。

 1曲目「What We Do Is Secret」は、前のめりに疾走していく、アルバムのスタートにふさわしい1曲。再生時間は、わずか44秒。

 4曲目「Richie Dagger’s Crime」は、イントロの立体的なギター・アレンジが印象的な、直線的ではない、複雑なアンサンブルを持った1曲。ハードコアも飛び越えて、ポスト・ハードコアを彷彿とさせる演奏が展開します。

 5曲目「Strange Notes」は、パワフルにドタバタと疾走するリズム隊に、ギターのねじれたフレーズが絡みつく、ハイテンポの1曲。足がもつれるのも気にせず走り抜けるような、疾走感に溢れた演奏。

 9曲目「Our Way」では、ざらついたジャンクな歪みのギターに、立体的なベースとドラムが重なり、すき間が多いながら、各楽器が絡み合うように、アンサンブルが構成されます。

 12曲目「The Other Newest One」は、イントロからギターとドラムが鼓動のようにリズムを刻み、その下を縫うようにベースが動き回る1曲。立体的なアンサンブルと対応するように、ボーカルのメロディーも、なめらかに動き回ります。

 ライヴ・レコーディングによる16曲目の「Shut Down (Annihilation Man)」は、10分近くに及ぶスローテンポのブルース。淡々と刻んでいくリズム隊に、音を染み渡らせるようなディストーション・ギター、ダークでアングラ臭満載のボーカルが絡みます。中盤以降は、ギターが自由にアヴァギャルドなフレーズを弾き始め、よりアングラ感が増加。

 前述したとおり、LAパンクの出発点とも言える本作。しばしば、ハードコア・パンクの最初のアルバムのひとつ、とも言及されます。

 その言葉どおり、一部の曲でのハイテンポの疾走感と、シャウトと歌の中間のようなクセのあるボーカルからは、ハードコア・パンクの香りが漂います。

 しかし、スピード重視のハードコアかと言えば、それだけではなく、のちのポスト・ハードコアやノイズ・ロックに繋がるアレンジが、随所に散りばめられています。

 ギターのパット・スメアが、ニルヴァーナやフー・ファイターズに参加したことも象徴的ですが、パンクの枠にとどまらない音楽性を有していたからこそ、パンク・バンドのみならず、オルタナティヴ・ロックを含む多くのバンドに影響を与えたのでしょう。

 あとは、ジャケットのデザインも、あまりパンクらしくありませんよね。むしろ、ニュー・ウェーヴを彷彿とさせる、コンセプチュアルなデザインです。