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Sunn O))) “Monoliths & Dimensions” / サン『モノリス・アンド・ディメンションズ』


Sunn O))) “Monoliths & Dimensions”

(Monoliths And Dimensions)
サン 『モノリス・アンド・ディメンションズ』
発売: 2009年5月18日
レーベル: Southern Lord (サザンロード)
プロデュース: Mell Dettmer (メル・デットマー), Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のドローン・メタル・バンド、サンの6thアルバム。メンバーは、ステファン・オマリー(Stephen O’Malley)と、グレッグ・アンダーソン(Greg Anderson)のギタリスト2名。

 サン名義でのスタジオ・アルバムとしては、2005年の前作『Black One』から4年ぶりのリリースとなりますが、その間も日本のバンド、ボリス(Boris)との共作『Altar』、ワシントン州オリンピア出身のドローン・メタル・バンド、アース(Earth)との共作『Angel Coma』、ミニ・アルバム『Oracle』、ライブ・アルバム『Dømkirke』のリリースなど、精力的に活動しています。

 正式メンバーは前述のとおり2名のみですが、アルバムごとに多彩なゲスト・ミュージシャンを迎えるサン。本作にも、ノルウェー出身のブラックメタル・バンド、メイヘム(Mayhem)のアッティラ・シハー(Attila Csihar,アッティラ自身はハンガリー出身)、オーストラリア出身のエクスペリメンタル系ミュージシャン、オーレン・アンバーチ(Oren Ambarchi)、オレゴン州コーバリス出身のヴィオリスト、エイヴィン・カン(Eyvind Kang)、アースのディラン・カールソン(Dylan Carlson)など、共演経験があるミュージシャンも含め、実に多くのゲストが参加しています。

 1曲目の「Aghartha」は、イントロから倍音たっぷりのギターによる、重々しいドローンが鳴り響く、サンらしい音像を持った1曲。ビート感は無く、ただただ全てを覆いつくすように、ヘヴィ・ドローンが続きます。中盤からはアッティラによる、不気味なスポークン・ワードが加わり、楽曲に神秘的な雰囲気をプラス。

 2曲目「Big Church [megszentségteleníthetetlenségeskedéseitekért]」は、神秘的で壮大な女声コーラス隊で幕を開けます。サンにとっては新境地と呼ぶべき、意外性のあるスタートから、すぐにギターの重苦しいドローンが加わり、なんだか安心します(笑) その後は、サン得意のヘヴィ・ドローンと、荘厳で宗教音楽のようにも響くコーラス隊が重なり、白と黒が調和しつつも、溶け合わず分離したまま並走するように進行。

 3曲目「Hunting&Gathering (Cydonia)」は、ノイズを受信したラジオのような音から始まり、ギターのヘヴィ・ドローンを中心にしつつも、多様な飛び交う立体的なアンサンブルが展開される1曲。トランペットも入り、カラフルな印象すら受けます。

 4曲目「Alice」は、2007年に亡くなった、ジャズ・ピアニストであり、ジョン・コルトレーンの妻としても有名なアリス・コルトレーン(Alice Coltrane)に捧げられた1曲。ヴィオラとアンサンブルのアレンジを、エイヴィン・カンが担当しています。ホルンやオーボエ、ヴィオラなど多くの楽器が用いられ、これまでのサンのイメージからは、かけ離れた音像の曲と言っていいでしょう。轟音ギターも用いられていますが、前面に立つわけではなく、シンフォニックなアンサンブルを支えるようにドローンを奏でています。

 彼らの代名詞とも言える、轟音ギターによるヘヴィ・ドローンは健在ですが、ホーンやストリングス、女声コーラスを大胆に導入し、サウンドが格段に多彩になった1作です。

 前作『Black One』は、色に例えると、タイトルのとおり黒。重いギターのサウンドを用いて、同じ黒でありながら、グレーから漆黒まで、濃淡を繊細に描き出していました。

 それに対して、本作は色に例えると白と黒。透明感のあるホルンやハープの音色、神秘的で荘厳なコーラスワークが、ロックの音響面でのハードな魅力を、極限まで煮詰めたようなヘヴィなギター・サウンドと溶け合い、新境地と言える音世界を作り上げています。多様な音楽が今までにない形で融合しているという点では、ポストロック的とも言えるし、現代音楽的とも言えるかもしれません。

 メロディーやハーモニーの要素が、これまでの作品よりも格段に増しているため、あまりこの種の音楽を聴いたことがない方にも、受け入れやすい音楽ではないかと思います。『Black One』と並んで、ドローン・メタルの入門盤としても、おすすめしたい1枚です。

 





Sunn O))) “Black One” / サン『ブラック・ワン』


Sunn O))) “Black One”

サン 『ブラック・ワン』
発売: 2005年10月17日
レーベル: Southern Lord (サザンロード)

 ワシントン州シアトル出身のステファン・オマリー(Stephen O’Malley)と、グレッグ・アンダーソン(Greg Anderson)による、ギタリスト2名からなるドローン・メタル・バンド、サンの5枚目のスタジオ・アルバム。

 前作、前々作と多彩なゲスト・ミュージシャンを迎えていたサン。本作にも、カリフォルニア州アルハンブラ出身のブラック・メタル・バンド、ザスター(Xasthur)のマレフィック(Scott “Malefic” Conner)。ブラック・メタルのソロ・プロジェクト、リヴァイアサン(レヴィアタン,Leviathan)で活動するWrest(本名Jef Whitehead)。オーストラリア出身のエクスペリメンタル系ミュージシャン、オーレン・アンバーチ(Oren Ambarchi)などが参加しています。

 前々作から『White1』『White2』と続いて、『White3』とはならずに『Black One』と題された本作。タイトルの違いだけではなく、サウンドと表現方法についても、明らかな差異が認識できます。

 過去2作が、共に長尺の曲が並び3曲収録だったのに対して、本作は7曲収録。楽曲の長さが必ずしも音楽性に関係するわけではありませんが、ストイックにヘヴィな音響を追求した過去2作と比較すると、本作は構造のつかみやすい楽曲が並び、はるかに一般的な意味での「音楽」らしくなっています。

 とはいえ、一般的なロックやポップスからは、遠く離れた音楽であるのも事実ですから、全くこの種の音楽への免疫が無い方はご注意を。重々しく沈み込むような轟音ギターや、音響面を徹底的に煮詰めたようなギターリフなど、音の響きに重きを置きつつ、ロックの魅力の一部が凝縮され、断片的に楽曲に溶け込んだアルバムです。

 1曲目「Sin Nanna」には、前述のオーレン・アンバーチが、ボーカル、ギター、ドラム、シンバルなどで参加。シンバルはクレジットには「bowed cymbals」と記載されており、シンバルを弓で弾くボウイング奏法をおこなっているようです。無作為にも聞こえるドラムが奥の方で鳴り響き、多様なサウンドの持続音が重なり合い、不穏な空気を演出します。

 2曲目「It Took The Night To Believe」は、複数のギターが折り重なり、分厚い音の壁を作り上げる1曲。中盤から入る不気味なボーカルは、前述のWrestによるもの。ドラムなどのリズム楽器は入っていないものの、ギターは非常にゆったりとしたテンポの中で、いわゆるリフらしいフレーズを弾いており、楽曲の構造をつかみやすいです。ビートが無く、テンポも非常に遅いため、サウンドの重々しさがますます際立ち、ハードロックやヘヴィメタルが持つ重いサウンドが、極限まで凝縮され、抽出されたかのように響きます。

 3曲目の「Cursed Realms (Of The Winterdemons)」は、ノルウェー出身のブラック・メタル・バンド、イモータル(Immortal)のカバー。ですが、原曲がわからないほどに、テンポが遅く、沈み込むような重いサウンドになっています。色に例えると間違いなく黒なのですが、グレーから漆黒まで濃淡があり、ただ適当にノイズを出しているのではなく、理想とする音楽をストイックに追求しているのが分かります。

 6曲目「Cry For The Weeper」の前半は、轟音ギターではなく、電子音らしきサウンド(もしかしたらエフェクターをかけたギターかもしれません)が鳴り響く、アンビエントな音像。その後はギターも入り、高音域をプラス。このアルバムの中ではリフ感が薄く、音響が前景化された1曲と言えます。

 過去2作が、分厚いギター・サウンドが全てを覆いつくす曲であったり、ノイズ的なサウンドがミニマルに鳴り響く曲などが収められていたのに対して、本作ではギターのリフがはっきりとしていたり、ドローンの中にも音の動きがあったりと、楽曲の構造がつかみやすい曲が収録され、サンのアルバムの中でも特に聴きやすい1作ではないかと思います。

 サンの最高傑作に挙げられることもある本作。このバンドや、ドローン・メタルへの入門盤としても、おすすめできる1枚です。

 





Sunn O))) “White2” / サン『ホワイト・ツー』


Sunn O))) “White2”

サン 『ホワイト・ツー』
発売: 2004年6月29日
レーベル: Southern Lord (サザンロード)
プロデュース: Rex Ritter (レックス・リッター)

 ステファン・オマリー(Stephen O’Malley)と、グレッグ・アンダーソン(Greg Anderson)。ワシントン州シアトル出身の2人のギタリストによるドローン・メタル・バンド、サンの4枚目のスタジオ・アルバム。

 前作『White1』と同じく、グレッグ・アンダーソンが設立したドローン・メタル系のレーベル、サザンロードからのリリース。

 前作は3曲で約59分という収録時間でしたが、本作も3曲で約63分。全ての曲(と言っても3曲ですが…)が10分を超え、重く引きずるようなギターのサウンドが、前面に押し出された1作となっています。

 正式メンバーは2名のみですが、ゲスト・ミュージシャンとのコラボレーションも多いサン。本作でも、ノルウェー出身のブラックメタル・バンド、メイヘム(Mayhem)のボーカリスト、アッティラ・シハー(Attila Csihar)や、シカゴ出身のロック・バンド、ジェサミン(Jessamine)の元ベーシスト、ドーン・スミソン(Dawn Smithson)など、数名のゲスト・ミュージシャンを招いています。

 ちなみに、アッティラ自身はノルウェーではなくハンガリー出身。本作のプロデューサーを務めるレックス・リッターは、スミソンと同じくジェサミンの元メンバー。どちらかと言うと、ポストロックやスペース・ロックにカテゴライズされるジェサミンの元メンバーが、ドローン・メタルのサンと関わるというのも興味深いです。

 1曲目「Hell-O)))-Ween」は、本作では最も短い14分ほどの1曲。ギターの厚みのあるサウンドが響き、重なり、うねりながら躍動する、サンらしいヘヴィ・ドローンが繰り広げられます。いわゆるメロディーやビートは存在しない曲ですが、重心の低い、厚みのあるギター・サウンドは心地よく、音楽に包み込まれるような感覚に陥ります。ぜひ大音量で、身を委ねるようにして聴いてください。

 2曲目「BassAliens」は、1曲目の轟音ギターは鳴りを潜め、イントロからアンビエントな不気味な空気が充満する1曲。タイトルのとおり中盤以降は、ベースらしき音がエイリアンのごとく激しく動き回ります。とはいえ、ベースとはわからないぐらい、もしかしたらベースではないかもしれないぐらい、深くエフェクトをかけられ、奇妙なサウンド。ダークで不穏な空気が最後まで続きますが、ベースの音をはじめ音作りがあまりにも奇妙なため、1周回ってむしろ笑えてくるぐらいです(笑)

 3曲目「Decay2 [Nihil’s Maw]」には、前述したとおりメイヘムのアッティラ・シハーが参加。ハードに歪んだ轟音ギターではなく、重苦しいドローンが場を埋め尽くすアンビエントな1曲。闇をそのまま音に還元したかのようなドローン・サウンドに、アッティラの不気味なうめき声とスポークン・ワードが重なり、不穏な空気が充満していきます。

 アルバム全体を通して、圧倒的な轟音ギターで押し流すのではなく、重低音から中音域にかけてを埋め尽くす、重たいドローンが主軸になっています。ベースの演奏を「地を這うように」と形容することがありますが、本作は地を這うというよりも、地面が沈み込むような重々しいサウンドが充満。リスナーを選ぶ音楽ではありますが、ここでしか聴けない唯一無二の音を発しているバンドであることも確かです。

 この種の音楽を聴かない方からすると「全部同じに聞こえる」「何をやってるのか分からない」「とにかく不気味で怖い」と感じられるかもしれませんが、サンというバンドの優れたところは、作品によって毛色が異なるところ。

 決してカラフルな音楽ではありませんが、ワンパターンの轟音ノイズか重厚ドローンが、ただただ続く音楽ではなく、楽曲によって伝わるものが違います。本作は、前作『White1』と比較しても、重たく陰鬱で、そういう意味では、オススメしにくいアルバムかもしれません。

 





Sunn O))) “White1” / サン『ホワイト・ワン』


Sunn O))) “White1”

サン 『ホワイト・ワン』
発売: 2003年4月22日
レーベル: Southern Lord (サザンロード)
プロデュース: Rex Ritter (レックス・リッター)

 ワシントン州シアトル出身のドローン・メタル・バンド、サンの3rdアルバム。

 メンバーは、カネイト(Khanate)やバーニング・ウィッチ(Burning Witch)でも活動するステファン・オマリー(Stephen O’Malley)と、ゴートスネイク(Goatsnake)やエンジン・キッド(Engine Kid)でも活動するグレッグ・アンダーソン(Greg Anderson)。ギタリスト2名からなるバンドです。

 グレッグ・アンダーソンが設立した、ドローン・メタル、ドゥーム・メタルを中心に扱うレーベル、サザンロードからのリリース。

 ギタリスト2名による、リズム隊不在のバンド。その編成からして示唆的ですが、徹底的に重く、沈みこむようなサウンドを追求していくのが、サンです。メタルという音楽が持つ、テクニカルな速弾きやアンサンブルは放棄し、サウンドの持つ重厚さを凝縮し、抽出した音楽が展開されます。

 前述したとおり、ギタリスト2名からなるバンドですが、作品毎にゲスト・ミュージシャンを招くことが多く、本作でも数名のゲスト・ミュージシャンがレコーディングに参加しています。

 1曲目の「My Wall」は、不穏に響くギター・サウンドと、重々しい演説のようなポエトリー・リーディングによる1曲。ポエトリー・リーディングを担当しているのは、ゲストのジュリアン・コープ(Julian Cope)。イギリス出身で、ミュージシャン、作家、詩人、音楽学者と多彩な活動を展開している人物。25分を超える長尺の1曲で、中盤以降はギターのサウンドの厚みが増し、より重たく、響き渡ります。

 2曲目「The Gates Of Ballard」には、ゲスト・ボーカルとしてノルウェー出身のルンヒルド・ギャマルセター(ランヒルド・ガメルセター,Runhild Gammelsæter)が参加。トールズ・ハンマー(Thorr’s Hammer)というバンドで、サンの2人と活動を共にし、細胞生理学の博士号を持ち、生物学者としての一面も持つという人物。彼女がイントロからしばらく、故郷ノルウェーの民謡「Håvard Hedde」を歌っているのですが、バックに流れる陰鬱なギターのドローンと相まって、ボーカルも重々しく、どこか不気味に響きます。

 ボーカルのパートが終わり、再生時間2:20あたりからは、打ち込みによるドラムのビートが加わります。ドラムはおそらく意図的に軽くチープな音質でレコーディングされ、ギターはドラムとは絶妙にリズムをズラして演奏。ぴったりと合わせないことで、ますますリズムが引きずるように重く感じられ、ドラムのチープな音質とも相まって、沈み込むような重いギター・サウンドが前景化されます。

 3曲目の「A Shaving Of The Horn That Speared You」は、ギターの重たいサウンドは鳴りを潜め、不穏な空気が充満するアンビエントな1曲です。

 3曲収録で約60分。循環するコード進行など明確な構造はなく、一般的な意味でのポップさはほとんど無いと言っていいアルバムです。

 前述したとおり、メロディーを追う、リズムに乗るという楽しみ方ではなく、ただただ音楽に身を委ね、なるべく音量を上げてサウンドに圧倒される、という作品でしょう。

 リスナーを選ぶ音楽であるのは事実ですし、この手の音楽は受け付けないという方もいらっしゃるでしょうが、アルバムによって違った景色を見せてくれるのが、このサンというバンドです。

 





Earth “Earth 2: Special Low Frequency Version” / アース『アース2: スペシャル・ロー・フリークエンシー・バージョン』


Earth “Earth 2: Special Low Frequency Version”

アース 『アース2: スペシャル・ロー・フリークエンシー・バージョン』
発売: 1993年2月3日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 ワシントン州オリンピアを拠点に活動するドローン・メタルバンド、アースの1stアルバムです。本作は、同じワシントン州のシアトルに居を構えるサブ・ポップからのリリース。

 ドラムが無く、ギターの歪んだサウンドが空間に広がっていくようなアルバム。ビートが無いため、自ずとサウンドが前景化されます。ハードロック的な意味での重厚なサウンドとも違う、リズム的にもサウンド的にも重い、ギターによる重低音のリフが繰り返されます。3曲収録で、73分というボリュームの1作。

 タイトルにも「Special Low Frequency Version」とあるとおり、沈み込むような低音が響く作品です。3曲目の「Like Gold And Faceted」にはパーカッションが入っていますが、基本的にドラム・レスでビート感がありません。

 ですが、リフのかたちは比較的つかみやすく、音程の動きがほとんどないドローンというわけではないので、この種の音楽を聴いたことが無い方にも、入りやすい1枚なのではないかと思います。

 万人におすすめできる作品ではありませんが、オルタナとグランジを代表するレーベルであるサブ・ポップから発売されたのも納得できるほどには、サウンドとリフにいわゆるオルタナの雰囲気が感じられる1枚です。

 逆に言うと、そこまでノイズまみれでもなければ、圧倒的な爆音でも、ミニマルなドローンでもないので、極北の音楽を求める方には、物足りなく感じられるかもしれません。

 僕はこのジャンルの音楽をメインに聴いている者ではありませんので、本作のかっこいいリフと、ほどよいアンビエントさが、ちょうどいいです。