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Bad Religion “Generator” / バッド・レリジョン『ジェネレーター』


Bad Religion “Generator”

バッド・レリジョン 『ジェネレーター』
発売: 1992年3月13日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Donnell Cameron (ドネル・キャメロン)

 カリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたパンク・バンド、バッド・レリジョンの6thアルバム。

 リズム構造、歌のメロディーとバンド・アンサンブルの関係性、ボーカルの歌唱法などなど、メロコアのひな型と思われる要素が、いくつも見つかるアルバムです。

 とくにボーカルの歌い方。ちょっと鼻にかかった発声法だとか、シャウトとも美声とも言えない絶妙なバランス感覚だとか、あまり意識することはなかったけど、いかにもメロコア的。やっぱりこのバンドの影響力は大きいんだなと、あらためて感じますね。

 1曲目「Generator」は、回転するようなリズムのイントロから、前のめりに突っ込むリズムへ展開。ボーカルは、バンドに推進力をプラスするように、メロディーを紡いでいきます。

 再生時間0:50あたりからのリズムの切り替えなど、ところどころアヴァンギャルドな香りを持ってるところも魅力。再生時間2:20あたりから始まるギターソロの、声が裏返ったようなサウンドも最高。

 2曲目「Too Much To Ask」は、音質もタイトなら、アンサンブルもタイト。ムダな装飾なく、正確にリズムが組み合った演奏が展開します。

 5曲目「Two Babies In The Dark」では、各楽器が組み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開。イントロと間奏に挿入される、ギターのねじれたフレーズがアクセントになっていて、楽曲の奥行きを増しています。まっすぐに走るだけじゃなくて、こういう意外性のあるアレンジが散在しているのも、このバンドの魅力。

 7曲目「Atomic Garden」は、アクセントが前に置かれ、前のめりに突っ込んでくる1曲。イントロでも聞こえる、ピアノらしき音が耳に残るんですが、クレジットを確認しても、ピアノやキーボードの記載は無し。エフェクターをかけたギターかベースでしょうか。

 10曲目「Chimaera」は、立体的なドラムのイントロから始まり、はずむように躍動する演奏が展開する1曲。波のように揺れるバンドのアンサンブルと、かろやかに動く歌のメロディーが、お互いの推進力となり、曲が進行します。

 前述したとおり、メロコア要素を持ったアルバムであるのは確かですが、それだけにはとどまらない実験的なアレンジも散りばめられています。

 あんまりジャンル名ばかり並べ立てるのもどうかとは思いますが、ポスト・ハードコア的な複雑性も併せ持ったアルバム。

 「メロコア」や「パンク」という言葉に引っ張られて、「どうせ単純なバンドなんでしょ」とスルーするのは、もったいないクオリティです。

 





Bad Religion “Against The Grain” / バッド・レリジョン『アゲインスト・ザ・グレイン』


Bad Religion “Against The Grain”

バッド・レリジョン 『アゲインスト・ザ・グレイン』
発売: 1990年11月23日
レーベル: Epitaph (エピタフ)

 カリフォルニア州ロサンゼルス出身のパンク・バンド、バッド・レリジョンの5thアルバム。

 メロコアの創始者のバンドのひとつと目されるバッド・レリジョン。ただ、彼らが1stアルバムをリリースしたのは1982年。

 初期のアルバム群は、2000年代以降の音圧に慣れた耳からすると、正直しょぼく感じられますし、「メロコアの生ける伝説!!」というテンションで聴くと、肩すかしを食らうことになるかもしれません。

 初期のアルバムがかっこわるい、劣っているというわけではありませんよ! 念のため。

 1990年にリリースされた本作『Against The Grain』。このあたりになると音圧も上がり、現代メロコアと地続きであることが実感できるでしょう。

 起伏のある、思わず口ずさみたくなるメロディーが、塊感のあるバンドのアンサンブルと一体となり、疾走していきます。

 1曲目「Modern Man」のイントロから、むせび泣くようなギターが演奏をリード。そのまま疾走感あふれるアンサンブルへと、なだれ込んでいきます。

 5曲目「The Positive Aspect of Negative Thinking」は、タイトルは長いが、尺は短い1分足らずの1曲。ですが、後半にリズムの切り替えがあり、直線的に走るだけの曲ではありません。もっと発展させられそうな曲なのに、スパッと閉じてしまうのが、彼らの美学なのかもしれません。

 アルバム表題曲の10曲目「Against The Grain」は、ミュート奏法を用いたタイトなアンサンブルに、起伏を抑えたメロディーが乗り疾走。複数のギターを中心に、レイヤー状に厚みのあるアンサンブルが展開します。

 本作およびメロコアの魅力というと、歌とバンドの一体感がありながら、完全には一体とならないところじゃないかなと思います。

 どういうことかと言うと、バンドのスピード感あふれる演奏に、飲み込まれることなく、ボーカルのメロディーが曲芸的に乗っていくんですよね。

 高速で走る馬にただ乗るだけでなく、その上で踊り、さらに馬を加速させるとでも言ったらいいでしょうか。直線的でリズム主導の音楽のように思われがちですけど、とにかくメロディーも気持ちいいんです。

 ちなみにリマスター盤は、音がでかいです(笑) 僕はこのリマスターのバージョンしか聴いたことがないので、オリジナル盤がどうだったのか、比較はできませんが…。

 





The Murder City Devils “Empty Bottles, Broken Hearts” / ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ『エンプティ・ボトルズ・ブロークン・ ハーツ』


The Murder City Devils “Empty Bottles, Broken Hearts”

ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ 『エンプティ・ボトルズ・ブロークン・ ハーツ』
発売: 1998年9月22日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデューサー: Jack Endino (ジャック・エンディーノ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、ザ・マーダー・シティ・デヴィルズの2ndアルバム。

 1997年にリリースされたデビュー・アルバム『The Murder City Devils』は、ダイ・ヤング・ステイ・プリティー(Die Young Stay Pretty Records)というサブ・ポップのサブレーベルから発売。この2ndアルバムより、サブ・ポップ本体からのリリースとなっています。

 ダイ・ヤング・ステイ・プリティーというレーベルは全く知らなかったのですが、他にはネビューラ(Nebula)や、アフガン・ウィッグス(Afghan Whigs)の作品を、リリースしたことがあるようです。

 グランジ・ブームが過ぎ去り、ロックンロール・リヴァイヴァルも夜明け前の90年代後半。グランジのお膝元シアトルで、当時としては異彩を放つほどシンプルなロックンロールを鳴らしていた、ザ・マーダー・シティ・デヴィルスの2ndアルバム。

 古のガレージロックを彷彿とさせる音像に、グランジのざらつきが加わり、若干のモダンさもプラス。ただ、根底にあるのは、古き良きロックンロールやガレージロックであるのは間違いありません。

 3曲目「18 Wheels」や5曲目「Ready For More」におけるオルガンの音色、4曲目「Left Hand Right Hand」のトレモロで揺れるギターサウンド、9曲目「Johnny Thunders」のうねるギターのフレーズなど、サイケな空気も共存。

 1960年代のロックンロールやガレージロック、サイケデリック・ロックに、グランジ的な音圧をプラスしたバンドとも言えるでしょう。

 ただ、グランジ・ブームが去ったとはいえシアトルのバンド。さらにレーベルはサブ・ポップ、プロデューサーを務めるのは、グランジ界隈の多くのバンドを手がけたジャック・エンディーノ。

 そのわりにはグランジ色が薄く、前述のとおり懐古趣味の強い音楽性を持っています。これもブームの強さゆえなのか、この時代は逆にグランジ的なアプローチを、みんな避けていたのかな、とも思いますね。

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At The Drive-In “In/Casino/Out” / アット・ザ・ドライヴイン 『イン・カジノ・アウト』


At The Drive-In “In/Casino/Out”

アット・ザ・ドライヴイン 『イン・カジノ・アウト』
発売: 1998年8月18日
レーベル: Fearless (フィアレス)
プロデュース: Alex Newport (アレックス・ニューポート)

 メキシコ国境に近い街、テキサス州エルパソ出身のバンド、アット・ザ・ドライヴインの2ndアルバム。

 前作『Acrobatic Tenement』は、カリフォルニア州のファンジン兼レコード・レーベル、フリップサイド(Flipside)からのリリースでしたが、本作は同じくインディーズながら、より大規模なレーベル、フィアレスからのリリース。

 パンク・ロックが持つ疾走感と初期衝動。プログレッシヴ・ロックが持つ複雑性。その両方を持ち合わせ、テクニカルかつスリリングな演奏を繰り広げるのが、アット・ザ・ドライヴインの特徴であり魅力です。

 1曲目の「Alpha Centauri」から、すべての楽器が前のめりになり、エモーションをそのまま変換したかのような音が噴出。荒々しさと高度なテクニックが共存したアンサンブルを展開していきます。とにかく溢れ出るパワーと疾走感がすごいです。

 2曲目「Chanbara」は、ダンサブルなリズムを母体に、絶叫するボーカル、唸りをあげるギター、強靭なリズム隊が絡み合い、複雑かつテンションの高い演奏を繰り広げます。確認できなかったのですが、タイトルの由来は、日本語のチャンバラでしょうか。

 3曲目「Hulahoop Wounds」は、ややテンポを抑え、テンションも控えめなイントロからスタート。しかし、後半は各楽器が競い合うようにフレーズを繰り出し、熱を帯びたアンサンブルへと発展。

 4曲目「Napoleon Solo」は、ギターとボーカルのみの不気味なほど抑えたイントロからスタート。しかし、そこから徐々にテンションを上げ、やがて感情が爆発。1曲の中でのコントラストが鮮明なアレンジ。

 5曲目「Pickpocket」は、イントロからパンキッシュに疾走する1曲。ただ、このバンドらしいと言うべきか、リズム構造は単純ではなく、各楽器とも地中から噴き出すマグマのように前のめり。ギターは複雑にねじれたフレーズを、曲芸的にくり出していきます。

 6曲目「For Now..We Toast」は、イントロから縦の揃った演奏が耳に残る1曲。ピッタリとタイトに合わせる部分と、ラフに躍動する部分があり、リズムのコントラストが鮮やか。

 7曲目「A Devil Among The Tailors」は、電子ノイズのようなサウンドがイントロに用いられ、その後も複雑怪奇なアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 8曲目「Shaking Hand Incision」では、複雑かつ立体的なドラムに、他の楽器が絡み合うように重なり、巨大な塊となって転がるようなアンサンブルが展開。疾走感と一体感を併せ持った、耳に襲いかかってくるかのような1曲です。

 9曲目「Lopsided」は、ドラムの立体的でドタバタしたリズムに合わせ、他の楽器もタテを意識しリズムを刻んでいく1曲。タイトな部分と、リラクシングな部分があり、緩急をつけて盛り上げていきます。

 10曲目「Hourglass」は、ピアノと電子音が用いられた、ミドルテンポのメロウな1曲。ボーカルも絶叫は控え、丁寧に歌い上げます。

 11曲目「Transatlantic Foe」は、ギターのアルペジオとドラムによる静かなイントロから始まり、緩急のあるアンサンブルが展開する1曲。再生時間0:58あたりからの急加速など、テンポと音量の両面でメリハリがあり、多様な顔を見せるアレンジです。

 キレ味の鋭い、尖ったサウンドと演奏が前面に出たアルバム。ギターを例にとっても、歪んでいるのは確かなのですが、ハードロック的な重厚なサウンドとは違う、鋭利で耳に刺さるようなサウンドです。

 アンサンブルには、前述のとおりプログレ的な複雑さがあり、演奏とボーカルにはパンクに通ずる初期衝動の爆発があり、とにかくテンションの高い1作。

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Veruca Salt “American Thighs” / ヴェルーカ・ソルト『アメリカン・シングス』


Veruca Salt “American Thighs”

ヴェルーカ・ソルト 『アメリカン・シングス』
発売: 1994年9月27日
レーベル: Minty Fresh (ミンティ・フレッシュ)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)

 1993年にシカゴで結成されたオルタナティヴ・ロック・バンド、ヴェルーカ・ソルトの1stアルバム。

 バンド名は、イギリスの小説家ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』(Charlie and the Chocolate Factory)に登場する、ワガママな少女の名前から。ちなみに同作は、2005年に公開された映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作です。

 プロデューサーを務めるのは、リズ・フェア(Liz Phair)やスマッシング・パンプキンズ(The Smashing Pumpkins)を手がけたこともあるブラッド・ウッド。エンジニアとして、トータスのジョン・マッケンタイア(John McEntire)も名を連ねています。

 本作制作時のメンバーは、ギター・ボーカルのルイーズ・ポスト(Louise Post)と、ギターのニーナ・ゴードン(Nina Gordon)の女性2人に、ベースのスティーヴ・ラック(Steve Lack)とドラムのジム・シャピーロ(Jim Shapiro)の男性2人からなる4人編成。

 本作がリリースされたのは、まだグランジの熱が冷めやらぬ1990年代前半。時にアンニュイに囁くように歌い、時にエモーショナルにシャウトする、表現力豊かな女声ボーカルが、グランジらしい激しく歪んだギターと融合。本作では、激しさと内省性が同居する、グランジ・サウンドを鳴らしています。

 1曲目「Get Back」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、ざらついたギターを中心にした、足を引きずるようなアンサンブルが展開するグランジーな1曲。女性ボーカルによる浮遊感のあるメロディーと、ディストーション・ギターの歪んだ音色も、グランジらしいバランス。

 2曲目「All Hail Me」は、激しく歪んだ2本のギターが、うねるように絡み合うアンサンブルに、エモーショナルなボーカルが合わさる1曲。

 3曲目「Seether」は、シンプルにリズムを刻むドラムを中心に、タイトなアンサンブルの1曲。コケティッシュなボーカルが、楽曲に彩りを加えています。

 6曲目「Wolf」は、厚みのあるギター・サウンドの上を漂うように、囁き系のボーカルがメロディーを紡いでいく、スローテンポの1曲。

 7曲目「Celebrate You」は、空間系エフェクターを用いた透明感のあるサウンドと、ざらついた歪みのサウンドなど、音色の異なる複数のギター・サウンドが重なる、ミドルテンポの1曲。

 10曲目「Victrola」は、野太く歪んだギターのドライブ感あふれる演奏と、ファルセットを用いた幻想的なボーカルが溶け合う、コンパクトなロック・チューン。

 11曲目「Twinstar」は、足を引きずるようなスローテンポに乗せて、アンニュイなボーカルがメロディーを紡ぐ、メロウな1曲。

 ハードロック的なゴージャズな歪みではなく、グランジ的なぶっきらぼうな歪みのギターが、唸りをあげるアルバムです。

 このような音作りを「時代の音」と言ってしまえばそれまでですが、確かにサウンドは良くも悪くも時代の空気を吸い込み、個性的ではないかもしれません。

 しかし、メイン・ボーカルを務めるルイーズ・ポストの表現力の高さが、このバンドを同時代のグランジ・バンドから隔て、特異な存在に押し上げていると言っても、過言ではないでしょう。

 もし、グランジ・バンドに多い、物憂げな男性ボーカルだったなら、ここまでのオリジナリティは獲得できなかったはず。ルイーズの声と歌唱法が、サウンド全体をグランジ一色には染まらせず、ギター・ポップやフレンチ・ポップすら彷彿とさせる、多彩なサウンドを生み出しているのだと思います。

 2018年10月現在、残念ながらデジタル配信は、されていないようです。