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Mudhoney “Digital Garbage” / マッドハニー『デジタル・ガービッジ』


Mudhoney “Digital Garbage”

マッドハニー 『デジタル・ガービッジ』
発売: 2018年9月28日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデューサー: Johnny Sangster (ジョニー・サングスター)

 ワシントン州シアトル出身のグランジ・バンド、マッドハニーの通算10作目のスタジオ・アルバム。

 プロデューサーを務めるのは、ザ・ポウジーズ(The Posies)や、ザ・メイカーズ(The Makers)などを手がけるジョニー・サングスター。

 1988年に結成。もはや伝説となったニルヴァーナと同世代で、グランジ第一世代と言えるマッドハニーが、いまもコンスタントに活動を続けているのは、なんとも頼もしい限りです。

 しかも、音楽性はブレずにグランジー。すなわち、アングラ感のある歪んだギターをはじめ、シアトルの湿ったスタジオの空気をそのまま閉じ込めたような、生々しい音楽が展開しています。

 1曲目「Nerve Attack」から、ねじれたギターのフレーズを筆頭に、各楽器がねっとりと絡みあうように、アンサンブルを構成。物憂げなボーカルも、だらしない雰囲気を醸し出し、非メジャー的なサウンドを作りあげています。

 2曲目「Paranoid Core」は、ビートがはっきりしたリズムに、ざらついたギターと、ぶっきらぼうなボーカルが乗る、疾走感あふれる曲。全体的に乾いたサウンド・プロダクションも、殺伐とした空気を演出します。

 3曲目「Please Mr. Gunman」は、バンド全体が、前のめりに突っ込んでくる1曲。テンポが速いわけではないのですが、ギターをはじめ、音作りがジャンク。なんとも下品なかっこよさがあります。

 6曲目「21st Century Pharisees」は、シンセサイザーだと思われる、厚みのある持続音がアクセントになった1曲。シンセのサウンド自体は清潔感があり、プログレを連想させるんですけど、他の楽器の音作りはいつも通り。むしろ、音作りの下品さが際立っています。

 10曲目「Next Mass Extinction」は、ハーモニカの音色と、立体的なアンサンブルが、イントロからルーツ臭を漂わせ、再生時間1:37あたりからはハードロック的な展開も見せる1曲。ロックのダイナミズムが、存分に詰め込まれています。

 さきほど「非メジャー的」という言葉を使いましたけど、いい意味で以前と変わらず、時代にも迎合せず、真にオルタナティヴなバンドだと思います。

 ボーカルも含め、各楽器の音作りからも、アングラ臭が漂っているんですよね。骨の髄までオルタナティヴ(笑)

 正直「いまさらマッドハニーかぁ」と、あんまり期待していなかったのですけど、現代的なサウンドと比較しながら聴くと、古さを感じるどころか、新鮮なかっこよさを感じました。

 もともとグランジを牽引した存在だったわけですが、ブームに乗ったわけではなく、あくまで自分たちの音を追求していたんでしょうね。

 その姿勢は本作でもブレず、なにかの焼き直しではない、説得力を持った音が鳴っています。

 




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The Murder City Devils “In Name And Blood” / ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ『イン・ネーム・アンド・ブラッド』


The Murder City Devils “In Name And Blood”

ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ 『イン・ネーム・アンド・ブラッド』
発売: 2000年6月6日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデューサー: John Agnello (ジョン・アグネロ)

 ワシントン州シアトル出身のガレージ・ロック・バンド、ザ・マーダー・シティ・デヴィルズの3rdアルバム。

 前作『Empty Bottles, Broken Hearts』と同じく、地元シアトルを代表するインディペンデント・レーベル、サブ・ポップからのリリース。

 プロデューサーを務めるのは、前作のジャック・エンディーノに代わり、ソニック・ユース(Sonic Youth)やダイナソーJr.(Dinosaur Jr.)での仕事でも知られるジョン・アグネロ。

 ガレージロックが下敷きにあるのは間違いないのですが、オルガンの音色を効果的に使い、サイケデリックな空気も併せ持つのが、このバンドのユニークなところ。

 本作『In Name And Blood』では、前作以上にオルガンが大胆にフィーチャーされています。

 アルバム1曲目「Press Gang」のイントロから、オルガンの浮遊感のあるサウンドが鳴り響き、その上にざらついた歪みのギター、シャウト気味のボーカル、立体的なリズム隊が重なっていく展開。

 オルガンを除けば、ガレージ色の濃いサウンド・プロダクションとアンサンブルなんですけれども、オルガンの音が加わることによって、一気にサイケな色をまとっています。

 モノクロの画像に、カラフルなマーブル状の色づけがなされるとでも、言ったらいいでしょうか。

 2曲目「I Drink The Wine」は、イントロから前のめりに疾走するガレージロック。なのですが、猪突猛進なバンドのアンサンブルを、やわらかく中和するかのように、オルガンのロングトーンが並走します。

 5曲目「Rum To Whiskey」は、オルガンも含めて、バンドが立体的に躍動する1曲。テンポはミドルテンポで、スピード感や荒々しさを重視した演奏ではないのですが、各楽器が有機的に絡まり、アンサンブルを構成。その中で、サウンド的にもリズム的にも隙間を埋めるように、オルガンがアクセントとなっています。

 前述のとおり、アルバム全体を通して、根底にあるのはガレージロック。バンドの演奏も、まずガレージロック的なアンサンブルがあり、その完成形に被せるように、オルガンが用いられています。

 しかしながら、両者が分離しているかと言えば、まったく逆。自然なバランスで、ガレージの荒々しさと、サイケな雰囲気が共存しており、このバランス感覚こそが、マーダー・シティ・デヴィルズの最大の特徴であると言えるでしょう。

 本作のあと、2001年にEP『Thelema』をリリース。その年のツアー中に、キーボーディストのレスリー・ハーディ(Leslie Hardy)が脱退し、バンドは解散します。

 音楽的にオルガンが、重要な要素をしめていますから、ハーディの脱退によって、解散もやむなしだったのでしょう。

 しかし2006年に再結成し、2014年には本作から14年ぶりとなる4thスタジオ・アルバム『The White Ghost Has Blood on Its Hands Again』をリリースしています。

 1960年代のガレージロックとサイケデリック・ロックを、90年代のオルタナティヴ・ロックの音像を持って、蘇らせたようなサウンド。

 でも、90年代前半のグランジ・オルタナのブームにも、2000年代のロックンロール・リヴァイヴァルにも乗り切れなかった、不運なバンドという一面もあるなと、個人的には思っています。

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The Murder City Devils “Empty Bottles, Broken Hearts” / ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ『エンプティ・ボトルズ・ブロークン・ ハーツ』


The Murder City Devils “Empty Bottles, Broken Hearts”

ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ 『エンプティ・ボトルズ・ブロークン・ ハーツ』
発売: 1998年9月22日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデューサー: Jack Endino (ジャック・エンディーノ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、ザ・マーダー・シティ・デヴィルズの2ndアルバム。

 1997年にリリースされたデビュー・アルバム『The Murder City Devils』は、ダイ・ヤング・ステイ・プリティー(Die Young Stay Pretty Records)というサブ・ポップのサブレーベルから発売。この2ndアルバムより、サブ・ポップ本体からのリリースとなっています。

 ダイ・ヤング・ステイ・プリティーというレーベルは全く知らなかったのですが、他にはネビューラ(Nebula)や、アフガン・ウィッグス(Afghan Whigs)の作品を、リリースしたことがあるようです。

 グランジ・ブームが過ぎ去り、ロックンロール・リヴァイヴァルも夜明け前の90年代後半。グランジのお膝元シアトルで、当時としては異彩を放つほどシンプルなロックンロールを鳴らしていた、ザ・マーダー・シティ・デヴィルスの2ndアルバム。

 古のガレージロックを彷彿とさせる音像に、グランジのざらつきが加わり、若干のモダンさもプラス。ただ、根底にあるのは、古き良きロックンロールやガレージロックであるのは間違いありません。

 3曲目「18 Wheels」や5曲目「Ready For More」におけるオルガンの音色、4曲目「Left Hand Right Hand」のトレモロで揺れるギターサウンド、9曲目「Johnny Thunders」のうねるギターのフレーズなど、サイケな空気も共存。

 1960年代のロックンロールやガレージロック、サイケデリック・ロックに、グランジ的な音圧をプラスしたバンドとも言えるでしょう。

 ただ、グランジ・ブームが去ったとはいえシアトルのバンド。さらにレーベルはサブ・ポップ、プロデューサーを務めるのは、グランジ界隈の多くのバンドを手がけたジャック・エンディーノ。

 そのわりにはグランジ色が薄く、前述のとおり懐古趣味の強い音楽性を持っています。これもブームの強さゆえなのか、この時代は逆にグランジ的なアプローチを、みんな避けていたのかな、とも思いますね。

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Kinski “7 (Or 8)” / キンスキー『セブン (オア・エイト)』


Kinski “7 (Or 8)”

キンスキー 『セブン (オア・エイト)』
発売: 2015年6月2日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Phil Manley (フィル・マンリー)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、キンスキーの通算8枚目のスタジオ・アルバム。

 アルバムのタイトルは、おそらく本作が7作目、あるいは8作目となるため、付けられたのでしょう。自主リリースだった1stアルバムを含めると8作目、除くと7作目ということではないかと思います。

 アルバムごとに音楽性を、少しずつ変化させるキンスキー。サブ・ポップに残した3枚のアルバムは、いずれもポストロック色の強い作品でしたが、キル・ロック・スターズへレーベルを移籍してリリースした前作『Cosy Moments』は、ボーカル入りの曲が増え、取っつきやすい歌モノの一面も持ったアルバムでした。

 キル・ロック・スターズ移籍後、2作目となる本作。キンスキー史上、最もハードなサウンド・プロダクションの1作となっています。

 収録される7曲中、ボーカルが入るのは、2曲目「Flight Risk」と、6曲目「Operation Negligee」のみ。その2曲に関しても、歌のメロディーが前景化されているわけではなく、バンドのアンサンブルに埋もれるようなバランスで、レコーディングされています。

 1曲目「Detroit Trickle Down」では、アームを使っているのか、エフェクターで音を動かしているのか、イントロから音程が上下に動くギターが用いられています。激しく歪んだギターを筆頭に、全ての楽器は生々しく、タイトに引き締まった音質でレコーディングされています。各楽器が組み合い、パワフルで一体感のある演奏が展開。唸りをあげるギターソロが、楽曲にラフな魅力を加えています。

 2曲目「Flight Risk」は、ざらついた歪みのギターを中心に、各楽器が複雑にもつれ合うアンサンブルの間を、ボーカルがすり抜けるようにメロディーを紡いでいく1曲。ボーカル入りではありますが、音量的にはギターの厚みのあるサウンドが、前面に出てくるバランスです。

 3曲目「I Fell Like A Fucking Flower」は、跳ねたリズムのドラムに、ギターが絡みつき、徐々に音数が増え、アンサンブルが厚みを増していく1曲。リズムやフレーズはシンプルで、ループ・ミュージックの要素も持った楽曲です。

 4曲目「Powder」では、各楽器が絡み合いながら進行していく、グルーヴ感に溢れた演奏が繰り広げられます。この曲でも、シンプルなリズムをひたすら繰り返しながら、徐々に変化があらわれるループ・ミュージック的な手法が垣間見えます。ワウのかかったギターも、楽曲をカラフルに彩るアクセント。

 5曲目「Drink Up And Be Somebody」は、溜め込んだエネルギーが暴発するように、前のめりに音が飛び出していく1曲。タイトかつパワフルなリズム隊に、激しく歪んだ複数のギターが絡みつき、一体感と疾走感があふれる演奏が繰り広げられます。

 6曲目「Operation Negligee」は、ボーカル入りの曲ですが、各楽器の音に埋もれるように、ボーカルが奥の方から聞こえてきます。それぞれ音作りの異なる複数のギターが用いられ、ギターを中心に厚みのあるアンサンブルが展開。

 7曲目「Bulletin Of The International String Figure Association」は、12分近くに及ぶ大曲。音数を極限まで絞ったミニマルな前半部から、再生時間2:32あたりでギターが入り、徐々に音と楽器が増え、丁寧に織物を作り上げるようなアンサンブルを展開します。ドラムが複雑にリズムを刻み、立体感も伴ったアレンジ。

 アルバム全体を通して、激しく歪んだギターを主軸にしたアンサンブルが展開。ハードな音像を持った1作です。

 過去2作は、ボーカル入りの曲を増やし、分かりやすいポップ・ミュージックの枠組みに寄り添った音楽へ移行するのかと思いきや、いい意味で予想を裏切ってくれました。

 歌モノはダメで、激しいやつ、実験的なやつの方が良い!と、言いたいわけではありません。ただ、キンスキーというバンドの魅力は、やはりその壮大なアンサンブルと実験精神にあると思うんですよね。

 キャリアを重ねてきて、このようなアグレッシヴな作品を作り上げる彼らが好きです。

 





Kinski “Cosy Moments” / キンスキー『コージー・モーメンツ』


Kinski “Cosy Moments”

キンスキー 『コージー・モーメンツ』
発売: 2013年4月2日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)
プロデュース: Randall Dunn (ランドール・ダン)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、キンスキーの通算7枚目のスタジオ・アルバム。

 前作までに、地元シアトルの名門インディー・レーベル、サブ・ポップに3枚のアルバムを残していますが、本作ではキル・ロック・スターズへ移籍しています。

 レーベルを移籍したことが影響しているのかは分かりませんが、前作『Down Below It’s Chaos』と比較して、音楽性も変化を遂げた1作です。

 これまでのキンスキーの特徴は、轟音ギターや電子音を用いて、実験性とロックのダイナミズムが、融合したアンサンブルを作り上げるところ。本作にも、そうした要素は残っているのですが、多くの曲でボーカルが導入され、より歌モノに近い構造を持った楽曲が増加。前作でも、9曲中3曲にはボーカルが入り、本作に繋がる兆候はありました。

 もちろん、ただ歌が入ったからといって、以前のサウンド・プロダクションやアンサンブルが、全く変質しているわけではありません。しかし、歌のメロディーが入ることで、ヴァースとコーラスが循環する、分かりやすい進行の楽曲が増えたのは事実。

 1曲目の「Long Term Exit Strategy」では、ゆったりとしたテンポに乗せて、各種エフェクターのかかった、複数のギターを中心に、カラフルなサウンドでアンサンブルが編まれていきます。1曲目から早速ボーカル入りの楽曲で、バンドの一部に溶け込んで流れるように、メロディーを紡いでいきます。

 2曲目「Last Day On Earth」は、押しつぶされたような音色のギターが疾走する、パンキッシュな1曲。この曲にもボーカルが入り、バンド全体が前のめりに走り抜けていきます。

 3曲目「Skim Milf」は、多様な音が飛び交う、ノイジーで疾走感に溢れた1曲。前曲に続き、パンクな楽曲が続きます。

 4曲目「Riff DAD」では、ファットな音色のギターを中心に、バンド全体が塊となり、転がるようなアンサンブルが展開します。

 5曲目「Throw It Up」は、ざらついた歪みのギターが分厚い音の壁を作り、その上をボーカルが漂う1曲。シンプルなリズム隊と、厚みのあるギターサウンド、流れるようなメロディーからは、シューゲイザーの香りも漂います。

 6曲目「A Little Ticker Tape Never Hurt Anybody」は、シンプルなドラムから始まり、徐々に音数が増えて、ゆるやかなグルーヴ感を持った演奏が繰り広げられる1曲。シカゴ音響派を思わせる、インスト・ポストロックです。

 7曲目「Conflict Free Diamonds」は、キレの良いリズムを持った、タイトに疾走する1曲。アクセントが前のめりに置かれ、推進力を持った演奏。

 9曲目「We Think She’s A Nurse」では、トライバルなドラムのリズムに導かれ、様々なサウンドやフレーズが飛び交います。アンサンブルではなく、音響が前景化された1曲。

 前述したとおり、ボーカルの入ったコンパクトな構造の楽曲が増えましたが、6曲目「A Little Ticker Tape Never Hurt Anybody」や、9曲目「We Think She’s A Nurse」など、ポストロック全開の楽曲も含まれています。

 また、ボーカル入りの曲でも、サウンドやアレンジにはアヴァンギャルドな要素が散りばめられ、キンスキーらしさを残したまま、歌モノへの変換に成功した1作と言っても、良いかと思います。