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The Murder City Devils “In Name And Blood” / ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ『イン・ネーム・アンド・ブラッド』


The Murder City Devils “In Name And Blood”

ザ・マーダー・シティ・デヴィルズ 『イン・ネーム・アンド・ブラッド』
発売: 2000年6月6日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデューサー: John Agnello (ジョン・アグネロ)

 ワシントン州シアトル出身のガレージ・ロック・バンド、ザ・マーダー・シティ・デヴィルズの3rdアルバム。

 前作『Empty Bottles, Broken Hearts』と同じく、地元シアトルを代表するインディペンデント・レーベル、サブ・ポップからのリリース。

 プロデューサーを務めるのは、前作のジャック・エンディーノに代わり、ソニック・ユース(Sonic Youth)やダイナソーJr.(Dinosaur Jr.)での仕事でも知られるジョン・アグネロ。

 ガレージロックが下敷きにあるのは間違いないのですが、オルガンの音色を効果的に使い、サイケデリックな空気も併せ持つのが、このバンドのユニークなところ。

 本作『In Name And Blood』では、前作以上にオルガンが大胆にフィーチャーされています。

 アルバム1曲目「Press Gang」のイントロから、オルガンの浮遊感のあるサウンドが鳴り響き、その上にざらついた歪みのギター、シャウト気味のボーカル、立体的なリズム隊が重なっていく展開。

 オルガンを除けば、ガレージ色の濃いサウンド・プロダクションとアンサンブルなんですけれども、オルガンの音が加わることによって、一気にサイケな色をまとっています。

 モノクロの画像に、カラフルなマーブル状の色づけがなされるとでも、言ったらいいでしょうか。

 2曲目「I Drink The Wine」は、イントロから前のめりに疾走するガレージロック。なのですが、猪突猛進なバンドのアンサンブルを、やわらかく中和するかのように、オルガンのロングトーンが並走します。

 5曲目「Rum To Whiskey」は、オルガンも含めて、バンドが立体的に躍動する1曲。テンポはミドルテンポで、スピード感や荒々しさを重視した演奏ではないのですが、各楽器が有機的に絡まり、アンサンブルを構成。その中で、サウンド的にもリズム的にも隙間を埋めるように、オルガンがアクセントとなっています。

 前述のとおり、アルバム全体を通して、根底にあるのはガレージロック。バンドの演奏も、まずガレージロック的なアンサンブルがあり、その完成形に被せるように、オルガンが用いられています。

 しかしながら、両者が分離しているかと言えば、まったく逆。自然なバランスで、ガレージの荒々しさと、サイケな雰囲気が共存しており、このバランス感覚こそが、マーダー・シティ・デヴィルズの最大の特徴であると言えるでしょう。

 本作のあと、2001年にEP『Thelema』をリリース。その年のツアー中に、キーボーディストのレスリー・ハーディ(Leslie Hardy)が脱退し、バンドは解散します。

 音楽的にオルガンが、重要な要素をしめていますから、ハーディの脱退によって、解散もやむなしだったのでしょう。

 しかし2006年に再結成し、2014年には本作から14年ぶりとなる4thスタジオ・アルバム『The White Ghost Has Blood on Its Hands Again』をリリースしています。

 1960年代のガレージロックとサイケデリック・ロックを、90年代のオルタナティヴ・ロックの音像を持って、蘇らせたようなサウンド。

 でも、90年代前半のグランジ・オルタナのブームにも、2000年代のロックンロール・リヴァイヴァルにも乗り切れなかった、不運なバンドという一面もあるなと、個人的には思っています。

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Hop Along “Painted Shut” / ホップ・アロング『ペインテッド・シャット』


Hop Along “Painted Shut”

ホップ・アロング 『ペインテッド・シャット』
発売: 2015年5月4日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: John Agnello (ジョン・アグネロ)

 ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のバンド、ホップ・アロングの3rdアルバム。ネブラスカ州オマハのインディーズ・レーベル、サドル・クリークからのリリース。

 プロデューサーを務めるのは、ソニック・ユース(Sonic Youth)や、カート・ヴァイル(Kurt Vile)を手がけたこともあるジョン・アグネロ。

 アコースティッキ楽器のフォーキーな要素も内包しつつ、荒々しい魅力のあった前作から比べると、サウンド・プロダクションもアンサンブルも、コンパクトにまとまった1作と言えます。

 特に前作で大々的に用いられていた、激しく歪んだエレキ・ギターは、使用頻度も音量もかなり控えめに。

 ただ、小さくまとまってつまらなくなったという意味ではなく、アンサンブルがより整然となり、線をはみ出すラフさよりも、建造物を作り上げるような正確さを持った演奏になったということです。

 また、もうひとつ指摘しておきたい点は、メイン・ボーカルを務めるフランシス・クインラン(Frances Quinlan)の歌唱。

 前作では、高音を伸びやかに響かせていましたが、本作では絞り出すようにかすれた歌声が増え、よりヒリヒリした緊張感を醸し出しています。

 1曲目「The Knock」は、各楽器がお互いをかけっこで抜き合うようにアンサンブルを展開。序盤はバラバラに感じていた演奏が、徐々に一体感と躍動感を帯びていきます。

 3曲目「Horseshoe Crabs」では、イントロからキーボードがフィーチャーされ、各楽器が正確に音を持ち寄り、バンド全体がひとつの機械のように、いきいきと躍動。テンポも音量も控えめながら、躍動感と一体感のあるアンサンブルが展開します。

 6曲目「Texas Funeral」は、地面を叩きつけるような躍動的なイントロから、ゆるやかに各楽器が絡み合うアンサンブルが展開。パワフルなドラム、地中をうねるようなベース、泣きのギターと、どの楽器にも見せ場があり、かすれ気味のボーカルはエモーショナルな空気を演出。

 7曲目「Powerful Man」は、チクタクチクタクと精巧な機械が動くように、各楽器がかみ合い、有機的なアンサンブルを作る1曲。ドラムのリズムに、ギターとベースのフレーズが食い込むように重なります。

 8曲目「I Saw My Twin」は、イントロのコーラスワークから浮遊感が漂う、ミドルテンポの1曲。

 10曲目「Sister Cities」は、ビートのくっきりしたコンパクトなロック。軽快なリズムに乗って、ギターとボーカルのメロディーが疾走します。

 先述したとおり、前作の荒々しいアンサンブルはやや控えめ。その代わりに機会仕掛けのオモチャが動くような、正確性と一体感がある演奏が展開しています。

 そういえば前作で聴かれた、アコースティック・ギターを用いたフォーキーなサウンドも、本作では後退。その代わりに各楽器のサウンドの一体感が、上がっています。

 本作の魅力は、各楽器がカッチリと組み合い、ひとつのマシーンか生き物のように躍動するところ。

 荒々しく1stアルバムらしい前作(ホップ・アロング名義では1作目ですが実際は2ndアルバム)に比べ、アンサンブルの精度を追求したのが本作と言えるでしょう。

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Lee Ranaldo “Between The Times And The Tides” / リー・ラナルド『ビトウィーン・ザ・タイムズ・アンド・ザ・タイズ』


Lee Ranaldo “Between The Times And The Tides”

リー・ラナルド 『ビトウィーン・ザ・タイムズ・アンド・ザ・タイズ』
発売: 2012年3月20日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: John Agnello (ジョン・アグネロ)

 ソニック・ユースでの活動でも知られるギタリスト、リー・ラナルドの9枚目のソロ・アルバム。ドラムはソニック・ユースで活動を共にしたスティーヴ・シェリーが務めています。

 さすがリー・ラナルド!と思わせる、ギターのサウンドを有機的に組み上げ、素晴らしいアンサンブルが展開される1作です。ノイズを効果的に用いたサウンドを期待する方には、少し物足りないかもしれませんが、緩やかなグルーヴ感があり、非常に聴きやすい作品であると思います。

 1曲目の「Waiting On A Dream」では、ギターのフレーズをリズム隊が追いかけ、お互いに追い越し合うような推進力を感じるアンサンブルが展開。テンポが速いわけではないのに、自然と足が前に進むような躍動感がある1曲です。

 2曲目「Off The Wall」は、イントロから各楽器が絡み合い、有機的なアンサンブルを構成。まるでバンド全体が生き物のような、一体感があります。

 6曲目「Fire Island (Phases)」は、叩きつけるようにパワフルにリズムを刻むドラムの上を、ほどよく歪んだ複数のギターが乗る1曲。

 7曲目「Lost」は、複数のクリーントーンのギターが多層的なサウンドを作り上げ、タイトなリズム隊がそれを支える1曲。

 アルバム全体を通して、ギターという楽器の特性と魅力を知り尽くしている、と思えるほどギターの響き、アンサンブルが心地よい作品です。ギターの音色の選び方、アンサンブルの構成ともに、的確に作り上げられた1枚だと思います。

 リー・ラナルドはアルバムによって、かなり作風が異なり、時には前衛性が前面に出ている作品もありますが、本作は近年のソニック・ユースに近いサウンドを持っています。

 僕はソニック・ユースが大好きで、ノイズの洪水も大歓迎なのですが、ノイズ成分は控えめに、アンサンブルに重きを置いた本作も好きです。歌モノとしても聴けるポップさを持ち合わせたアルバムなので、多くの人におすすめできます。

 





Kurt Vile “Smoke Ring For My Halo” / カート・ヴァイル『スモーク・リング・フォー・マイ・ハロ』


Kurt Vile “Smoke Ring For My Halo”

カート・ヴァイル 『スモーク・リング・フォー・マイ・ハロ』
発売: 2011年3月8日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: John Agnello (ジョン・アグネロ)

 The War On Drugsの元メンバーとしても知られる、ペンシルベニア州出身のミュージシャン、カート・ヴァイルのソロ名義としては4作目のアルバム。

 カート・ヴァイルの音楽を聴くといつも感じるのは、ギター・サウンドの多彩さ。同時に、歪みでもクリーントーンでもアコースティックギターでも、どこかジャンクな響きを残していること。また、多種多様なサウンドなのに、どこかローファイな雰囲気は共通して持っています。

 ギターの音色だけではなく、サウンド・プロダクション全体にも彼独特のジャンクでサイケデリックな雰囲気が充満していて、彼特有のこだわりと方法論があることが垣間見える作品でもあります。

 本作は、彼得意のディストーションギターは控えめに、アコースティック・ギターとクリーントーンのギターが中心に据えられていながら、実に多彩なギター・サウンドが響きます。

 1曲目の「Baby’s Arms」は、アコースティック・ギターのまわりに電子音がまとわりつくような、幻想的なアレンジ。アコースティック・ギターによる弾き語り中心のアレンジなのに、浮遊感のある音が飛び交い、サイケデリックな雰囲気も漂う1曲です。

 2曲目の「Jesus Fever」では、コーラスなどの空間系のエフェクターを使っているのでしょうが、立体感と濁りのあるクリーントーンのギターが聴こえます。みずみずしさの中に、わずかに不穏な空気が含まれたようなサウンド。

 6曲目「Runner Ups」は、弾力性を感じるアコースティック・ギターのサウンドと、そのまわりで鳴る電子音、パーカッションのリズムが、多層的に重なっていく1曲。

 7曲目「In My Time」は、打ち込みらしきリズムと、ナチュラルな音色のアコースティック・ギターが響く1曲。本作はアコースティック・ギターも、不思議なサウンドを持った曲が多いのですが、この曲はオーガニックな耳ざわり。流れるようなアンサンブルも心地よい。

 ディストーションギターは控えめに、アコースティック・ギターを多用したアルバムながら、単調なサウンドだという印象のないアルバム。カントリーやフォークといったルーツ・ミュージックも感じさせながら、オルタナ・カントリー的な解釈とは異なる、ローファイ感覚を織り交ぜています。「ローファイ・カントリー」といった雰囲気の1枚。