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Hop Along “Bark Your Head Off, Dog” / ホップ・アロング『バーク・ユア・ヘッド・オフ、ドッグ』


Hop Along “Bark Your Head Off, Dog”

ホップ・アロング 『バーク・ユア・ヘッド・オフ、ドッグ』
発売: 2018年4月6日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Kyle Pulley (カイル・プリー)

 ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のバンド、ホップ・アロングの4thアルバム。

 1stアルバム『Freshman Year』はホップ・アロング、クイーン・アンスレイス(Hop Along, Queen Ansleis)名義でリリースされており、ホップ・アロング名義としては3作目のアルバム。

 レコーディング・エンジニアを務めるのはカイル・プリー。ホップ・アロングと同じく、フィラデルフィアを拠点に活動するバンド、シン・リップス(Thin Lips)のベーシストです。

 前作に引き続き、ネブラスカ州オマハの名門インディーズ・レーベル、サドル・クリークからのリリース。

 1stアルバムは、フランシス・クインラン(Frances Quinlan)のソロ・プロジェクトであったので、2ndの『Get Disowned』が、バンド体制になって実質1作目。

 同作では、アコースティック楽器のフォーキーな音色と、激しく歪んだギターの荒々しさが共存。初期衝動をそのまま音に閉じ込めたかのような攻撃的なサウンドは、実にロック・バンドの1stアルバムらしい質とも言えます。

 その攻撃性が、前作『Painted Shut』では後退し、代わりにアンサンブルを重視した音楽を展開。本作でも前作の音楽性を踏襲し、コンパクトに有機的なアンサンブルを組み上げています。

 具体的には、小節線を飛び越えるような自由なフレーズや、耳に突き刺さるアグレッシヴな音作りは鳴りを潜め、各楽器がチクタクチクタクと組み合うアンサンブルが展開。

 ただ、おとなしくなったというわけではなく、随所で意外性のあるアレンジが挟まれますし、アンサンブルからはバンドが一体の生き物であるかのような、ゆるやかで自然な躍動感が溢れています。

 例えばアルバム1曲目の「How Simple」では、各楽器の音作り、リズムともにシンプルながら、バンド全体でスイッチを切り替え、加速感を演出。ところどころで挟まれるギターの奇妙なサウンドや、立体的なドラムがアクセントとなり、楽曲に彩りを加えています。

 2曲目「Somewhere A Judge」は、隙間の多いアンサンブルですが、ボーカルも含めて、すべての楽器がお互いのリズムに食い込むように一体となり、ゆるやかに躍動するアンサンブルを作り上げています。音作りもサウンドもきわめてシンプルですが、再生時間0:59あたりから左チャンネルで聞こえる、声が裏返ったようなギターの音作りが、アヴァンギャルドな空気をプラス。

 3曲目「How You Got Your Limp」は、ハープとストリングスが導入され、室内楽的なサウンドを持った1曲。「バロック・ポップ」って、こういう曲のことを言うんでしょうね。フランシス・クインランのファルセットを織り交ぜた伸びやかな歌唱と、間奏の口笛も相まって、穏やかで牧歌的な雰囲気。

 5曲目「The Fox In Motion」は、粒だった音が四方八方でバウンドするイントロから始まり、リズム隊が入ると、途端に躍動感あふれる演奏へと発展。各楽器が持ち寄るフレーズは断片的なのに、集まったときに一体感を生む、このバンドの良さがあらわれた演奏とも言えます。

 9曲目「Prior Things」は、大々的にストリングスが用いられ、立体的なアンサンブルが構成される1曲。ストリングスの伸びやかなサウンドを活かし、グラデーションのように音量と雰囲気がコントロールされるアンサンブルが展開します。

 前述のとおり、2ndアルバム『Get Disowned』では、爆音ギターとアコースティック楽器が融合し、オルタナ・カントリーとも言える音楽を鳴らしていたのですけど、本作は爆音要素もルーツ・ミュージック要素も控えめ。

 個人的には、荒々しく躍動する2nd『Get Disowned』の方が好みなのですが、バランス感覚とアンサンブルの精度の点では、本作の方が上と言えるでしょう。

 音作りもアンサンブルもシンプルになり、ちょっと変なサウンドやアレンジが、隠し味のように聞こえるアルバムになっていて、いかにも2000年代以降の良質なインディーロック然としたクオリティです。

 ストリングスの導入の仕方も、絶妙だと思います。アイデアなしに入れると、クラシックからの安っぽい借り物みたいなサウンドにもなりかねませんが、本作ではバンドの躍動感を向上させるエッセンスとして、ストリングスが効果的に響いています。

 また、紅一点のボーカル、フランシス・クインランの歌唱もバンドの大きな魅力にひとつ。彼女の表現力は、アルバムを重ねるごとに向上し、本作でもハスキーにかすれた声から、伸びやかなファルセットまで、楽曲の世界観に合わせて、多様な歌声を聞かせてくれます。

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Hop Along “Painted Shut” / ホップ・アロング『ペインテッド・シャット』


Hop Along “Painted Shut”

ホップ・アロング 『ペインテッド・シャット』
発売: 2015年5月4日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: John Agnello (ジョン・アグネロ)

 ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のバンド、ホップ・アロングの3rdアルバム。ネブラスカ州オマハのインディーズ・レーベル、サドル・クリークからのリリース。

 プロデューサーを務めるのは、ソニック・ユース(Sonic Youth)や、カート・ヴァイル(Kurt Vile)を手がけたこともあるジョン・アグネロ。

 アコースティッキ楽器のフォーキーな要素も内包しつつ、荒々しい魅力のあった前作から比べると、サウンド・プロダクションもアンサンブルも、コンパクトにまとまった1作と言えます。

 特に前作で大々的に用いられていた、激しく歪んだエレキ・ギターは、使用頻度も音量もかなり控えめに。

 ただ、小さくまとまってつまらなくなったという意味ではなく、アンサンブルがより整然となり、線をはみ出すラフさよりも、建造物を作り上げるような正確さを持った演奏になったということです。

 また、もうひとつ指摘しておきたい点は、メイン・ボーカルを務めるフランシス・クインラン(Frances Quinlan)の歌唱。

 前作では、高音を伸びやかに響かせていましたが、本作では絞り出すようにかすれた歌声が増え、よりヒリヒリした緊張感を醸し出しています。

 1曲目「The Knock」は、各楽器がお互いをかけっこで抜き合うようにアンサンブルを展開。序盤はバラバラに感じていた演奏が、徐々に一体感と躍動感を帯びていきます。

 3曲目「Horseshoe Crabs」では、イントロからキーボードがフィーチャーされ、各楽器が正確に音を持ち寄り、バンド全体がひとつの機械のように、いきいきと躍動。テンポも音量も控えめながら、躍動感と一体感のあるアンサンブルが展開します。

 6曲目「Texas Funeral」は、地面を叩きつけるような躍動的なイントロから、ゆるやかに各楽器が絡み合うアンサンブルが展開。パワフルなドラム、地中をうねるようなベース、泣きのギターと、どの楽器にも見せ場があり、かすれ気味のボーカルはエモーショナルな空気を演出。

 7曲目「Powerful Man」は、チクタクチクタクと精巧な機械が動くように、各楽器がかみ合い、有機的なアンサンブルを作る1曲。ドラムのリズムに、ギターとベースのフレーズが食い込むように重なります。

 8曲目「I Saw My Twin」は、イントロのコーラスワークから浮遊感が漂う、ミドルテンポの1曲。

 10曲目「Sister Cities」は、ビートのくっきりしたコンパクトなロック。軽快なリズムに乗って、ギターとボーカルのメロディーが疾走します。

 先述したとおり、前作の荒々しいアンサンブルはやや控えめ。その代わりに機会仕掛けのオモチャが動くような、正確性と一体感がある演奏が展開しています。

 そういえば前作で聴かれた、アコースティック・ギターを用いたフォーキーなサウンドも、本作では後退。その代わりに各楽器のサウンドの一体感が、上がっています。

 本作の魅力は、各楽器がカッチリと組み合い、ひとつのマシーンか生き物のように躍動するところ。

 荒々しく1stアルバムらしい前作(ホップ・アロング名義では1作目ですが実際は2ndアルバム)に比べ、アンサンブルの精度を追求したのが本作と言えるでしょう。

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Hop Along “Get Disowned” / ホップ・アロング『ゲット・ディスオウンド』


Hop Along “Get Disowned”

ホップ・アロング 『ゲット・ディスオウンド』
発売: 2012年5月5日
レーベル: Hot Green (ホット・グリーン), Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Joe Reinhart (ジョー・ラインハート)

 ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のバンド、ホップ・アロングの2ndアルバム。

 2005年に自主制作にてリリースされた前作『Freshman Year』は、ホップ・アロング、クイーン・アンスレイス(Hop Along, Queen Ansleis)名義。当時はバンドではなく、フランシス・クインラン(Frances Quinlan)のソロ・プロジェクトでした。

 その後、ギターのジョー・ラインハート(Joe Reinhart)、ベースのタイラー・ロング(Tyler Long)、ドラムのマーク・クインラン(Mark Quinlan)を加え、バンド編成へ。名前をホップ・アロングへ変更しています。

 ホップ・アロング名義としては、本作が1作目のアルバム。2012年に、アメリカ国内ではホット・グリーン、イギリスとヨーロッパではビッグ・スケアリー・モンスターズ(Big Scary Monsters)から発売され、その後2016年にサドル・クリークより再発。

 レコーディング・エンジニアとミックスは、メンバーのジョー・ラインハートが務めています。

 アコースティック・ギターのフォーキーなサウンドと、激しく歪んだエレキ・ギターが共存。アンサンブルはドタバタしてパワフルかつ立体的。

 フォークやカントリーを彷彿とさせるオーガニックなサウンドと、オルタナティヴ・ロック的なダイナミズムと攻撃性が溶け合っているのが、ホップ・アロングの魅力です。

 しかもハードなギターのみが攻撃性を担っているわけではなく、アコースティック楽器も荒々しく躍動するところが、なんともかっこいいのです。

 ルーツ・ミュージックを参照しながら、現代的なアレンジを加えてアップデートする、このようなバンドの音を聴くと、あらためてアメリカという国の面白さを実感しますね。

 メイン・ボーカルを務めるフランシス・クインラン(Frances Quinlan)の、ファルセットを織り交ぜた、伸びやかな歌声も大きな魅力のひとつ。

 1曲目「Some Grace」は、アコースティック・ギターを主軸にしたフォーキーなサウンドでありながら、ギターは荒々しくコードをかき鳴らす、パワフルな1曲。再生時間1:57あたりからの声が折り重なっていくコーラスワークも、ただのルーツ・ミュージックの焼き直しにとどまらない、モダンな空気をもたらしています。

 2曲目「Tibetan Pop Stars」は、イントロから前のめりに音が飛び出していく、躍動感あふれる曲。パワフルでドタバタしたドラムが立体感を、厚みのあるディストーション・ギターが重厚感を演出。いきいきと躍動するアンサンブルを作り上げていきます。

 4曲目「No Good Al Joad」は、ジャカジャカと激しくコードを刻むアコースティック・ギターと、金切り声のように耳にうるさいエレキ・ギターやヴァイオリンなどが絡まる、アヴァンギャルドな1曲。ボーカルも高音がかすれながら、絞り出すように歌い、緊張感を生み出しています。

 5曲目「Kids On The Boardwalk」は、イントロからキッチリとリズムが刻まれ、軽やかな疾走感のある演奏。でも途中から、うねるようなエレキ・ギターが暴れ、オルタナティヴ・ロック的な攻撃性も持ち合わせています。

 6曲目「Laments」は、ギターと歌を中心にした静かな前半から、徐々に楽器と音数が増え、躍動感と立体感を増していく展開。静寂から轟音へと移行する予定調和的なアレンジではなく、各楽器が有機的に組み合う、グルーヴ感を重視した演奏。

 9曲目「Young And Happy!」は、轟音ギターが押し寄せるイントロから始まり、隙間なく音が詰め込まれた、厚みのあるアンサンブルが展開。バンドが塊になって転がるような一体感があります。

 アルバムのラスト10曲目は、表題曲でもある「Get Disowned」。各楽器とも毛羽立ったように、微妙に歪んだ音作り。四方八方から多様な音が飛んでくるアレンジは立体的で、同時にアヴァンギャルドな空気も生んでいます。ボーカルも声をやっと絞り出すようにエモーショナル。

 前述したとおり、本作の魅力はルーツとモダンの融合。アコースティック・ギターを用いることで、フォーキーな耳ざわりを獲得しつつ、オルタナティヴ・ロックの実験性と攻撃性を、多分に併せ持ったアルバムです。

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Adam Stephens “We Live On Cliffs” / アダム・スティーヴンス『ウィー・リヴ・オン・クリフス』


Adam Stephens “We Live On Cliffs”

アダム・スティーヴンス 『ウィー・リヴ・オン・クリフス』
発売: 2010年9月28日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Joe Chiccarelli (ジョー・チッカレリ)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツのメンバーである、アダム・スティーヴンス初のソロ・アルバム。正式には、「アダム・ハワース・スティーヴンス」(Adam Haworth Stephens)名義でリリースされています。

 プロデュースを担当するのは、プロデューサーおよびエンジニアとして1970年代から活動し、グラミー受賞暦もあるジョー・チッカレリ。大御所からインディー系まで、多くの仕事をこなしてきたチッカレリですが、USインディー文脈の仕事だと、ストロークス(The Strokes)やザ・シンズ(The Shins)、ホワイト・ストライプス(The White Stripes)あたりが有名。

 2002年に結成されたトゥー・ギャランツは、フォークやブルースなどのルーツ・ミュージックを下敷きに、ロック的な躍動感や、オルタナやポストロックを思わせるアレンジを合わせた音楽を展開するバンド。本作は、トゥー・ギャランツが2008年から2012年にかけて、活動休止していた期間に制作されたアルバムです。

 2ピース・バンドのメンバーのソロ作ということで、もちろんメインのバンドであるトゥー・ギャランツと共通する要素を、多分に持っています。すなわち、ルーツ・ミュージックを、現代的に解釈した作風だということ。

 しかし、トゥー・ギャランツと全く同じというわけでは、もちろんありません。フォークやブルースを基調に、パンクの攻撃性やロックのグルーヴ感を合わせたトゥー・ギャランツと比較すると、本作はよりカントリー色の濃い、穏やかな音楽となっています。

 1曲目「Praises In Your Name」では、クリーン・トーンを主体としたサウンドで、徐々に躍動感が増していくアンサンブルが展開します。再生時間1:07あたりからは、立体的に音が飛び交い、カラフルでグルーヴ感抜群の演奏。

 2曲目「Second Mind」は、各楽器が絡み合うように、ゆるやかなグルーヴ感が育まれていく1曲。柔らかなオルガンの音がアクセントになり、全体のサウンド・プロダクションを、ソフトにまとめています。

 3曲目「With Vengeance Come」では、ギターのアルペジオとボーカルのみから始まり、ピアノも加わって、音の粒が有機的にアンサンブルを組み上げていきます。

 7曲目「Elderwoods」は、静かなギターのフレーズから始まるものの、その後はざらついた歪みのギターが入り、穏やかなパートと、ハードなパートを行き来する1曲。

 9曲目「Everyday I Fall」は、イントロからヴィブラフォンらしき音が響き渡り、空気に浸透していくように、穏やかなサウンドを持っています。アンサンブルは、アコースティック・ギターを主軸に、カントリー色の濃い、いきいきとしたグルーヴ感を伴ったもの。

 オーバー・プロデュースにならず、シンプルなサウンドとアレンジを持ったアルバム。ですが、歌のメロディーのみが前景化されているわけではなく、ゆるやかに躍動するアンサンブルも心地よい1作です。

 また、楽器の種類と用いるサウンドは、それほど多いわけではないのに、カラフルで鮮やかなイメージの作品に仕上がっています。適材適所で、効果的に楽器を使い、シンプルながら音作りにもこだわっているのが、この多彩さの理由でしょう。

 フォークやカントリーの香りを漂わせながら、ギターポップのように爽やかな、耳なじみの良さがあります。

 バンドマンのソロ作は、そのメンバーがどのような音楽性を、バンドに持ち込んでいるのかが垣間見えるところも、面白いですね。

 





Two Gallants “Two Gallants” / トゥー・ギャランツ『トゥー・ギャランツ』


Two Gallants “Two Gallants”

トゥー・ギャランツ 『トゥー・ギャランツ』
発売: 2007年9月25日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Alex Newport (アレックス・ニューポート)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの3rdアルバム。2人とも複数の楽器をこなしますが、基本編成はギター・ボーカルとドラム。

 前作『What The Toll Tells』では、アコースティック・ギターを主軸にした2ピースとは思えぬ、荒々しく躍動的なサウンドを響かせていたトゥー・ギャランツ。その音楽性は、フォークとブルースとパンクが融合した、とでも言いたくなるものでした。

 およそ1年半ぶりとなる本作では、ダイナミズムは抑えめに、よりフォーク色の濃い、牧歌的な演奏が展開されています。パンクやオルタナティヴ・ロックの要素よりも、ルーツ・ミュージックが前景化されたアルバムとも言えるでしょう。

 1曲目「The Deader」は、空気に染み入るようなギターのイントロに続いて、ゆるやかな躍動感を伴った立体的なアンサンブルが展開する1曲。バンド全体が、一体の生き物のように、いきいきと進行します。

 2曲目「Miss Meri」では、コミカルなギターのイントロから始まり、ドラムが切れ味鋭くリズムを刻んでいきます。この曲は、とにかくドラムが素晴らしく、歌うように表情豊か。

 4曲目「Trembling Of The Rose」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据え、ストリングスが随所でヴェールのように、全体を包み込む1曲。

 6曲目「Ribbons Round My Tongue」は、ギターとハーモニカが織りなす穏やかなイントロに導かれ、ブルージーなボーカルがメロディーを紡いでいく1曲。音数を絞った隙間の多いアンサンブルですが、スカスカという感覚は無く、一音一音が染み入るように響きます。再生時間2:39あたりから始まる、泣きのハーモニカも聴きどころ。

 7曲目「Despite What You’ve Been Told」は、チクタクチクタクと軽やかにリズムを刻むギターに、パワフルなバスドラが重なり、徐々に立体感と躍動感を増していきます。

 9曲目「My Baby’s Gone」は、ギターとボーカルを中心とした、ゆっくりと音が広がるパートと、バンドが躍動感たっぷりにスウィングするパートが交互に訪れる、コントラストが鮮やかな1曲。

 躍動感とダイナミズムにおいては、前作より控えめ。しかし、いきいきとした躍動的なアンサンブルは健在です。音量や音数は抑えめに、音の組み合わせによってダイナミズムを演出する、よりアンサンブルに重きを置いたアルバムとも言えます。

 個人的には、パワフルな音像と、パンキッシュな疾走感を持った、前作の方が好みですが、本作も優れた質を持った作品であることは、間違いありません。