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The Higher “On Fire” / ザ・ハイヤー『オン・ファイア』


The Higher “On Fire”

ザ・ハイヤー 『オン・ファイア』
発売: 2007年3月6日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデューサー: Mike Green (マイク・グリーン)

 ネヴァダ州ラスベガス出身のエモ・バンド、ザ・ハイヤーの2ndアルバム。

 結成当初は、セプテンバー・スター(September Star)を名乗っていましたが、その後ザ・ハイヤーへと改称しています。

 ポスト・パンク勢に通ずるダンサブルな要素を持ちながら、ソウルやファンク、R&Bなどブラック・ミュージックの香りもあわせ持つのが、このバンドのユニークなところ。

 シングアロングが沸き起こるのが容易に想像できる流麗なメロディーに、粘り気のあるバンドのグルーヴ感が共存。

 4曲目「Weapons Wired」のイントロ部分では、西部劇のBGMのような雰囲気もあり、思った以上にバラエティ豊かなジャンルを参照しています。

 7曲目の「Can Anyone Really Love Young」では、アコースティック・ギターをサンプリングによって再構築。ほのかに揺らぎと粘り気があり、ブラック・コンテンポラリーに通ずるリズムとサウンドを持っています。

 メロディーとサウンド・プロダクションは、極めて現代的であるんですけど、往年のブラック・ミュージックを彷彿とさせるアレンジが、ところどころに散りばめられ、エモ一辺倒でないところが特異。

 前述のとおり、いわゆるブラック・コンテンポラリーや最近のヒップホップを連想させるところもあり、エモなメロディーと歌唱、ほのかにファンキーなアンサンブルが溶け合っています。

 過去の音楽や他ジャンルを取りこみ、現代的にアップデートするという意味では、前述のポストパンク、ロックンロール・リヴァイヴァル勢にも共通するアプローチとも言えますね。

 ポスト・ファンクとでもいったところでしょうか。




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Iron & Wine “The Shepherd’s Dog” / アイアン・アンド・ワイン『シェパーズ・ドッグ (羊飼いの犬)』


Iron & Wine “The Shepherd’s Dog”

アイアン・アンド・ワイン 『シェパーズ・ドッグ (羊飼いの犬)』
発売: 2007年9月25日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brian Deck (ブライアン・デック)

 サウスカロライナ州チャピン出身のシンガーソングライター、サム・ビーム(Sam Beam)のソロ・プロジェクト、アイアン・アンド・ワインの3rdアルバム。前作『Our Endless Numbered Days』から、およそ3年半ぶりのリリース。

 フォークやカントリーを下敷きにした音楽を展開するサム・ビーム。前作では、アコースティック・ギターを中心に据えたフォーキーなサウンドに、各種パーカッションの多様なサウンドで、ほのかにオルタナティヴな香りを振りかけた音楽を作り上げていました。

 上記のとおり3年半ぶりのアルバムとなる本作では、エレキ・ギターが多用され、より雑多でオルタナティヴ色を増したアンサンブルが展開されています。

 1曲目「Pagan Angel And A Borrowed Car」は、多様な音が飛び交う、にぎやかでカラフルなアンサンブルに、流麗なメロディーが溶け合う1曲。時折はさまれる、ピアノの流麗な高速フレーズなど、多彩なアレンジが散りばめられています。

 2曲目「White Tooth Man」は、立体的に打ち鳴らされるトライバルなビートに、伸びやかなギターのフレーズが絡み合い、複雑なアンサンブルが構成されていきます。リズムが何層にも重なり、聴き方によって様々な表情を見せる1曲。

 3曲目「Lovesong Of The Buzzard」は、軽やかなドラムのビートに、流れるような歌のメロディーが重なる、ゆるやかなスウィング感のある曲。奥の方から聞こえる、ギターやキーボードの持続音が、楽曲にさらなる厚みをもたらしています。

 4曲目「Carousel」は、全体に空間系エフェクターをかけたような、酩酊的なサウンドを持った1曲。ボーカルも、あからさまにエフェクト処理され、ミドルテンポの穏やかな曲ながら、同時にサイケデリックな空気が充満します。

 5曲目「House By The Sea」は、電子的なサウンドがフィーチャーされた、ポストロック色の濃い1曲。エレクトロニカを彷彿とさせる音像と、軽快なビート、生楽器のオーガニックな音色が合わさり、カラフルな楽曲を作り上げます。

 6曲目「Innocent Bones」は、軽やかにスウィングするアンサンブルに、ささやき系のボーカルが重なる、ボサノヴァを彷彿とさせるメロウな1曲。

 7曲目「Wolves (Song Of The Shepherd’s Dog)」では、粒になった音が飛び交うイントロから始まり、音数が少なく隙間は多いのに、揺らめく躍動感を持った演奏が展開します。各楽器には、エコーやワウなどのエフェクターが用いられ、ダブの要素も併せ持った1曲。

 8曲目「Resurrection Fern」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据えた、穏やかで牧歌的な1曲。

 9曲目「Boy With A Coin」は、躍動的なリズム隊と、エフェクトのかかった音響的なギターとボーカルが溶け合う1曲。歌心の溢れる穏やかなメロディーと、ポストロック的なアレンジが共存しています。

 10曲目「The Devil Never Sleeps」は、細かくリズムを刻むピアノを先頭に、ダンサブルで躍動感あふれるアンサンブルが展開する1曲。多様な楽器が用いられ、色彩豊かなサウンド。

 11曲目「Peace Beneath The City」では、音がポツリポツリと置かれるミニマルなイントロから、徐々に音が増え、ブルージーな演奏へと発展。ギターとボーカルにはエフェクターがかけられ、音響的なアプローチ。トライバルなドラムのリズムと、音響を前景化したポストロック的な音像が溶け合っています。

 12曲目「Flightless Bird, American Mouth」は、ボーカルを中心に据え、楽器の暖かなサウンドを活かし、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開する1曲。

 フォークやカントリーを下敷きに、オルタナティヴ・ロックやポストロック的な意外性のあるアレンジを散りばめた1作。

 曲によってエレクトロニカのようであったり、ブルース・ロックのようであったり、非常に多彩なアレンジとサウンドが用いられた、カラフルなアルバムです。

 「オルタナ・カントリー」と言うと一言で終わってしまいますが、生楽器を活かしたカントリー的な躍動感と、エフェクターを駆使したポストロック的な意外性が、巧みに溶け合った名盤!

 『The Shepherd’s Dog』というタイトルのとおり、犬の絵のジャケットも好きです。

 





Phosphorescent “Pride” / フォスフォレッセント『プライド』


Phosphorescent “Pride”

フォスフォレッセント 『プライド』
発売: 2007年10月23日
レーベル: Dead Oceans (デッド・オーシャンズ)

  1980年、アラバマ州ハンツビル生まれ。2001年から、ジョージア州アセンズを拠点に音楽活動を開始し、現在はニューヨークを拠点にするシンガーソングライター、マシュー・フック(Matthew Houck)のソロ・プロジェクト、フォスフォレッセントの3rdアルバム。

 1stアルバム『A Hundred Times 0r More』は、アセンズのウォーム・エレクトロニック・レコーディングス(Warm Electronic Recordings)、2ndアルバム『Aw Come Aw Wry』は、ピッツバーグのミスラ・レコード(Misra Records)からのリリースでしたが、本作からインディアナ州ブルーミントンのインディー・レーベル、デッド・オーシャンズと契約しています。

 フォークを基調とした前作から比較すると、よりサウンドが多彩になり、オルタナティヴ・ロック色が増した本作。前作から引き続き、ソング・ライティングと音作りは、フォークを下敷きにしていて穏やか。

 しかし、スローテンポに乗せて展開される、ロングトーンを活かしたバンドのアンサンブルとコーラスワークは、音響系ポストロックのような響きも持ち合わせています。フォークやカントリーを下敷きにしながら、ドローンやサイケデリック・ロックの要素も感じられる1作です。

 1曲目「A Picture Of Our Torn Up Praise」は、音数の少ないアンサンブルの隙間を漂うように、ボーカルのメロディーが浮遊する、穏やかながら、どこかサイケデリックな空気も漂う1曲。ゆったりと打ち鳴らされるバスドラが、鼓動のように響き、ゆるやかな躍動感を生んでいきます。

 2曲目「Be Dark Night」は、イントロから厚みのあるコーラスワークが、教会音楽のようにも響く、幽玄な1曲。

 4曲目「At Death, A Proclamation」は、奥の方で鳴り続けるメトロノームのクリックらしき音と、せわしなくリズムを刻むドラムに、ボーカルと他の楽器が、覆いかぶさるように重なる1曲。やや、ざらついたサウンドでレコーディングされており、ドラムの細かいリズムも相まって、独特の殺伐とした空気を演出しています。

 5曲目「The Waves At Night」には、ジョージア州アセンズを拠点に活動するシンガーソングライター、リズ・デュレット(Liz Durrett)がボーカルで参加。男女混声による、穏やかなコーラスワークが響き渡る曲。デュレットの柔らかく、耳に刺さらない高音を筆頭に、全体のサウンド・プロダクションも、ほの暖かく、ソフト。

 6曲目「My Dove, My Lamb」は、アコースティック・ギターとキーボードの音が溶け合う、穏やかなイントロから始まり、ハーモニカのロングトーンと、厚みのあるコーラスワークによる、荘厳なサウンドが響き渡る1曲。

 8曲目は、アルバム表題曲の「Pride」。イントロから、聖歌隊を思わせる、厚みのあるコーラスワークが展開。その後は、四方八方から様々な音が飛び交い、穏やかで神秘的な空気と、オルタナティヴなアレンジが、共存して進行します。

 基本的には、歌を中心に据えた楽曲が並びますが、ラストに収録されるアルバム表題曲「Pride」には、わかりやすい歌のメロディーはありません。その代わりに、コーラスによるハーモニーと、それを取り囲むように断片的なフレーズが重なる、音響を前景化したアレンジが施されています。

 この曲に象徴されるように、歌モノのアルバムでありながら、意外性のあるアレンジが共存し、音響へのこだわりも感じられるアルバムとなっています。

 2018年10月現在、Spotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは未配信です。





Extra Golden “Hera Ma Nono” / エクストラ・ゴールデン『ヘラ・マ・ノノ』


Extra Golden “Hera Ma Nono”

エクストラ・ゴールデン 『ヘラ・マ・ノノ』
発売: 2007年10月9日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 2004年に結成された、ケニア人とアメリカ人による混成バンド、エクストラ・ゴールデンの2ndアルバム。

 結成当時のメンバーは、ワシントンD.C.拠点のポストロック・バンド、ゴールデン(Golden)のイアン・イーグルソン(Ian Eagleson)。同じくワシントンD.C.拠点のインディー・ロック・バンド、ウィアード・ウォー(Weird War)のアレックス・ミノフ(Alex Minoff)。そして、ケニアのベンガ(Benga)と呼ばれるポピュラー音楽のグループ、オーケストラ・エクストラ・ソーラー・システム(Orchestra Extra Solar Africa)のオティエノ・ジャグワシ(Otieno Jagwasi)の3人。

 2004年に1stアルバム『Ok-Oyot System』が完成しますが、2005年にジャグワシが肝不全のため死去。アルバムは2006年にリリースされ、バンドはオーケストラ・エクストラ・ソーラー・システムのドラマーであり、ジャグワシの兄弟でもあるオンヤゴ・ウウォド・オマリ(Onyago Wuod Omari)と、ベンガの著名なミュージシャンであるオピヨ・ビロンゴ(Opiyo Bilongo)を新メンバーに迎え、本作を制作しています。

 上記のメンバー交代を経て、アメリカ人2名と、ケニア人2名の4人編成となったエクストラ・ゴールデン。前作でも、直線的ではない飛び跳ねるリズムが、コンパクトなインディー・ロックのフォーマットに落とし込まれ、ゆるやかな多幸感を持った音楽を響かせていました。

 2作目となる本作では、ベンガとロックがより自然なかたちで溶け合い、一体感と躍動感を増したアンサンブルが展開しています。

 1曲目「Jakolando」は、小気味いいギターのカッティングから始まり、ベース、ドラム、ピアノが立体的に折り重なり、ゆるやかに躍動しながら進行します。

 2曲目「Obama」は、細かくポリリズミックなプレイを見せるドラムの上に、トロピカルで軽やかな歌と、バンド・アンサンブルが乗る1曲。この曲は、1人で変幻自在にリズムを刻む、ドラムが聴きどころです。

 4曲目「Night Runners」では、キレのあるベースと、細かくタイトにリズムを刻むドラムから、ファンクのノリも感じられるアンサンブルが展開。しかし、もちろんリズム構造がファンクと完全一致するわけではありません。ファンク的な、糸を引く粘っこいリズムではなく、鋭く時間を刻みながら、折り重なるようにポリリズムが形成されていきます。

 5曲目「Street Parade」は、エフェクターのかかったギターがフィーチャーされた、ジャンクなサウンドを持った1曲。音はオルタナティヴ・ロックに近いのですが、リズムはロック的な8ビートや16ビートではなく、波打つように躍動的。

 6曲目「Brothers Gone Away」は、空間系エフェクターを用いた複数のギターが、絡み合うようにフレーズを重ね、ドラムはトライバルで立体的にリズムを刻む、インディー・ロックとアフリカ音楽が溶け合った、このバンドらしい1曲。

 8曲目は、アルバム表題曲の「Hera Ma Nono」。各楽器とも、そこまで手数は多くないものの、お互いがリズムを喰い合うように、穏やかなスウィング感を伴って進行。南国を感じさせる、楽しくリラクシングな雰囲気ですが、演奏が徐々に熱を帯びていき、多様なリズムを聞かせる展開はスリリングです。

 アクセントの位置を変えながらダンサブルに弾むリズムはファンクのようでもあるし、穏やかに揺らめくアンサンブルは、レゲエのようにも響きます。しかし、両者の折衷的な音楽というわけではなく、より自由にリズムが伸縮する、リラクシングなアンサンブルが展開するアルバムです。

 ドラムを担当するのは、ケニア人のオンヤゴ・ウウォド・オマリ。僕はベンガという音楽について、ほとんど知識を持ち合わせてはいませんが、いわゆる画一的なロックのリズムとは、異なるリズム構造を持った音楽であることはわかります。





Two Gallants “Two Gallants” / トゥー・ギャランツ『トゥー・ギャランツ』


Two Gallants “Two Gallants”

トゥー・ギャランツ 『トゥー・ギャランツ』
発売: 2007年9月25日
レーベル: Saddle Creek (サドル・クリーク)
プロデュース: Alex Newport (アレックス・ニューポート)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身の2ピース・バンド、トゥー・ギャランツの3rdアルバム。2人とも複数の楽器をこなしますが、基本編成はギター・ボーカルとドラム。

 前作『What The Toll Tells』では、アコースティック・ギターを主軸にした2ピースとは思えぬ、荒々しく躍動的なサウンドを響かせていたトゥー・ギャランツ。その音楽性は、フォークとブルースとパンクが融合した、とでも言いたくなるものでした。

 およそ1年半ぶりとなる本作では、ダイナミズムは抑えめに、よりフォーク色の濃い、牧歌的な演奏が展開されています。パンクやオルタナティヴ・ロックの要素よりも、ルーツ・ミュージックが前景化されたアルバムとも言えるでしょう。

 1曲目「The Deader」は、空気に染み入るようなギターのイントロに続いて、ゆるやかな躍動感を伴った立体的なアンサンブルが展開する1曲。バンド全体が、一体の生き物のように、いきいきと進行します。

 2曲目「Miss Meri」では、コミカルなギターのイントロから始まり、ドラムが切れ味鋭くリズムを刻んでいきます。この曲は、とにかくドラムが素晴らしく、歌うように表情豊か。

 4曲目「Trembling Of The Rose」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据え、ストリングスが随所でヴェールのように、全体を包み込む1曲。

 6曲目「Ribbons Round My Tongue」は、ギターとハーモニカが織りなす穏やかなイントロに導かれ、ブルージーなボーカルがメロディーを紡いでいく1曲。音数を絞った隙間の多いアンサンブルですが、スカスカという感覚は無く、一音一音が染み入るように響きます。再生時間2:39あたりから始まる、泣きのハーモニカも聴きどころ。

 7曲目「Despite What You’ve Been Told」は、チクタクチクタクと軽やかにリズムを刻むギターに、パワフルなバスドラが重なり、徐々に立体感と躍動感を増していきます。

 9曲目「My Baby’s Gone」は、ギターとボーカルを中心とした、ゆっくりと音が広がるパートと、バンドが躍動感たっぷりにスウィングするパートが交互に訪れる、コントラストが鮮やかな1曲。

 躍動感とダイナミズムにおいては、前作より控えめ。しかし、いきいきとした躍動的なアンサンブルは健在です。音量や音数は抑えめに、音の組み合わせによってダイナミズムを演出する、よりアンサンブルに重きを置いたアルバムとも言えます。

 個人的には、パワフルな音像と、パンキッシュな疾走感を持った、前作の方が好みですが、本作も優れた質を持った作品であることは、間違いありません。