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Iron & Wine “The Shepherd’s Dog” / アイアン・アンド・ワイン『シェパーズ・ドッグ (羊飼いの犬)』


Iron & Wine “The Shepherd’s Dog”

アイアン・アンド・ワイン 『シェパーズ・ドッグ (羊飼いの犬)』
発売: 2007年9月25日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brian Deck (ブライアン・デック)

 サウスカロライナ州チャピン出身のシンガーソングライター、サム・ビーム(Sam Beam)のソロ・プロジェクト、アイアン・アンド・ワインの3rdアルバム。前作『Our Endless Numbered Days』から、およそ3年半ぶりのリリース。

 フォークやカントリーを下敷きにした音楽を展開するサム・ビーム。前作では、アコースティック・ギターを中心に据えたフォーキーなサウンドに、各種パーカッションの多様なサウンドで、ほのかにオルタナティヴな香りを振りかけた音楽を作り上げていました。

 上記のとおり3年半ぶりのアルバムとなる本作では、エレキ・ギターが多用され、より雑多でオルタナティヴ色を増したアンサンブルが展開されています。

 1曲目「Pagan Angel And A Borrowed Car」は、多様な音が飛び交う、にぎやかでカラフルなアンサンブルに、流麗なメロディーが溶け合う1曲。時折はさまれる、ピアノの流麗な高速フレーズなど、多彩なアレンジが散りばめられています。

 2曲目「White Tooth Man」は、立体的に打ち鳴らされるトライバルなビートに、伸びやかなギターのフレーズが絡み合い、複雑なアンサンブルが構成されていきます。リズムが何層にも重なり、聴き方によって様々な表情を見せる1曲。

 3曲目「Lovesong Of The Buzzard」は、軽やかなドラムのビートに、流れるような歌のメロディーが重なる、ゆるやかなスウィング感のある曲。奥の方から聞こえる、ギターやキーボードの持続音が、楽曲にさらなる厚みをもたらしています。

 4曲目「Carousel」は、全体に空間系エフェクターをかけたような、酩酊的なサウンドを持った1曲。ボーカルも、あからさまにエフェクト処理され、ミドルテンポの穏やかな曲ながら、同時にサイケデリックな空気が充満します。

 5曲目「House By The Sea」は、電子的なサウンドがフィーチャーされた、ポストロック色の濃い1曲。エレクトロニカを彷彿とさせる音像と、軽快なビート、生楽器のオーガニックな音色が合わさり、カラフルな楽曲を作り上げます。

 6曲目「Innocent Bones」は、軽やかにスウィングするアンサンブルに、ささやき系のボーカルが重なる、ボサノヴァを彷彿とさせるメロウな1曲。

 7曲目「Wolves (Song Of The Shepherd’s Dog)」では、粒になった音が飛び交うイントロから始まり、音数が少なく隙間は多いのに、揺らめく躍動感を持った演奏が展開します。各楽器には、エコーやワウなどのエフェクターが用いられ、ダブの要素も併せ持った1曲。

 8曲目「Resurrection Fern」は、アコースティック・ギターとボーカルを中心に据えた、穏やかで牧歌的な1曲。

 9曲目「Boy With A Coin」は、躍動的なリズム隊と、エフェクトのかかった音響的なギターとボーカルが溶け合う1曲。歌心の溢れる穏やかなメロディーと、ポストロック的なアレンジが共存しています。

 10曲目「The Devil Never Sleeps」は、細かくリズムを刻むピアノを先頭に、ダンサブルで躍動感あふれるアンサンブルが展開する1曲。多様な楽器が用いられ、色彩豊かなサウンド。

 11曲目「Peace Beneath The City」では、音がポツリポツリと置かれるミニマルなイントロから、徐々に音が増え、ブルージーな演奏へと発展。ギターとボーカルにはエフェクターがかけられ、音響的なアプローチ。トライバルなドラムのリズムと、音響を前景化したポストロック的な音像が溶け合っています。

 12曲目「Flightless Bird, American Mouth」は、ボーカルを中心に据え、楽器の暖かなサウンドを活かし、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開する1曲。

 フォークやカントリーを下敷きに、オルタナティヴ・ロックやポストロック的な意外性のあるアレンジを散りばめた1作。

 曲によってエレクトロニカのようであったり、ブルース・ロックのようであったり、非常に多彩なアレンジとサウンドが用いられた、カラフルなアルバムです。

 「オルタナ・カントリー」と言うと一言で終わってしまいますが、生楽器を活かしたカントリー的な躍動感と、エフェクターを駆使したポストロック的な意外性が、巧みに溶け合った名盤!

 『The Shepherd’s Dog』というタイトルのとおり、犬の絵のジャケットも好きです。

 





Iron & Wine “Our Endless Numbered Days” / アイアン・アンド・ワイン『アワ・エンドレス・ナンバード・デイズ』


Iron & Wine “Our Endless Numbered Days”

アイアン・アンド・ワイン 『アワ・エンドレス・ナンバード・デイズ』
発売: 2004年3月23日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brian Deck (ブライアン・デック)

 サウスカロライナ州チャピン出身のシンガーソングライター、サム・ビーム(Sam Beam)のソロ・プロジェクト、アイアン・アンド・ワインの2ndアルバム。前作に引き続き、シアトルの名門インディー・レーベル、サブ・ポップからのリリース。

 通常は「Iron & Wine」という表記ですが、本作のジャケット上では「Iron + Wine」と綴られています。

 4トラックのレコーダーを使用して、サム・ビーム個人で製作したデモテープが元となった前作『The Creek Drank The Cradle』。レコーディングも含め、全ての楽器をビーム自身が演奏し、宅録らしいチープな音質と、楽器数の少ないシンプルなアンサンブルを持つ1作でした。

 約1年半の間隔を置いてリリースされた本作では、バック・バンドを従え、シカゴのエンジン・スタジオ(Engine Studios)にてレコーディングを実施。サウンド・プロダクションとアンサンブルの両面で、前作よりも洗練されています。

 チープな音質を好むという方もいらっしゃるでしょうし、簡素なサウンド・プロダクションによって、歌や演奏が前景化されるといった効果もあるでしょう。そのため、音楽において何を「向上」と呼ぶべきかは、難しいところ。

 しかし、少なくとも前作と比較して、各楽器の音質がくっきりとし、音圧も高まっているのは確かです。多くの人が、前作よりも音質が向上したと感じるであろうサウンドで、レコーディングされています。

 音楽面でも、ビーム個人で全ての楽器をこなしていた前作に対して、本作ではプロデューサーを務めるブライアン・デックを含め、ビーム以外に6人のミュージシャンが参加。ギターと歌を中心に構成された前作と比較して、格段に厚みを増したアンサンブルが展開されています。

 フォークやカントリーの色が濃い作風は、前作と共通。しかし、無駄を削ぎ落としたシンプルなサウンドとアンサンブルによって、歌が前景化された前作に対して、本作では前述のとおり多くのミュージシャンを迎え、立体感と多彩さが格段に増しています。

 歌心は変わらず持ち続けていますが、よりアンサンブル志向の高まった1作とも言えます。

 1曲目「On Your Wings」では、イントロからギターがチクタクチクタクとフレーズを刻み、歌も含めて、各楽器がカッチリと組み合うアンサンブルが構成。そこまで音数は詰め込まれていないものの、多様なパーカッションの音色が、楽曲をカラフルに彩っていきます。

 2曲目「Naked As We Came」は、流れるように紡がれるギターのフレーズに、ボーカルのメロディーが重なり、穏やかな川のようなアンサンブルを構成する1曲。

 3曲目「Cinder And Smoke」は、音数が少ないながらも、立体的なアンサンブルを作り上げていく1曲。パーカッションの個性的なサウンドがアクセントとなり、耳を掴みます。途中から入ってくる、隙間を埋めるような野太いベース、低音でパワフルに響くバスドラなど、適材適所で音が置かれる、機能的なアンサンブル。

 4曲目「Sunset Soon Forgotten」は、みずみずしく、はじけるような音色のギターが躍動する1曲。ギターとボーカルのみで構成される曲ですが、不足は感じず、いきいきとした躍動感に溢れた演奏が繰り広げられます。

 5曲目「Teeth In The Grass」は、タイトなアンサンブルでありながら、前への推進力を持った、カントリー色の濃い1曲。

 6曲目「Love And Some Verses」では、前半はギターとボーカルが折り重なるようにフレーズを紡ぎ、再生時間1:24あたりでドラムが入ると、途端に躍動感が増加。ミドルテンポに乗せて、ゆるやかなグルーヴ感が生まれる、牧歌的な雰囲気の1曲。

 9曲目「Free Until They Cut Me Down」は、各楽器が絡み合うように、躍動的なアンサンブルが展開する、ブルージーな1曲。

 11曲目「Sodom, South Georgia」では、一定のリズムで揺れる伴奏をバックに、ボーカルが囁くようにメロディーを紡いでいきます。
 
 アルバム全体をとおして、生楽器のオーガニックな響きを活かした1作。サウンドにもアンサンブルにも、決して派手さはないのですが、音の組み合わせによって、多彩な世界観を描き出しています。

 前述のとおり、アコースティック・ギターが主軸に据えられ、フォーキーなサウンドを持った本作。しかし、随所で用いられる各種パーカッションの意外性のあるサウンドが、本作に色を足し、オルタナティヴな空気をもたらしています。

 音数を詰め込み過ぎず、適材適所に効果的なサウンドを用いた本作は、オルタナ性とルーツ・ミュージックが、巧みにブレンドされたアルバムであると思います。個人的に、かなりお気に入りの1作!