「スロウコア」カテゴリーアーカイブ

The New Year “The End Is Near” / ザ・ニュー・イヤー『ジ・エンド・イズ・ニア』


The New Year “The End Is Near”

ザ・ニュー・イヤー 『ジ・エンド・イズ・ニア』
発売: 2004年5月18日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 90年代を代表するスロウコア・バンド、ベッドヘッド(Bedhead)のメンバーだったマット(Matt Kadane)とバッバ(Bubba Kadane)のカデイン兄弟が結成したバンド、ザ・ニュー・イヤーの2ndアルバム。ベッドヘッド時代から引き続き、スロウコアと呼んでよい音楽を奏でるバンドです。

 2001年に発売された1stアルバム『Newness Ends』は、ゆったりとしたテンポに乗せて、シンプルな音作りの各楽器が、ゆるやかに絡み合う、スロウコアらしい1作でした。2作目となる今作『The End Is Near』は、前作の音楽性をさらに深化させたアルバムと言えます。

 前作と比較しながら本作を説明するなら、ゆったりとしたテンポはそのままに、音数と音作りをさらに吟味し、少ないパーツで最大限のグルーヴ感を生むよう、ストイックなまでに絞り込まれた作品です。また、前作に引き続きレコーディング・エンジニアを務めるスティーヴ・アルビニが作り出す、生々しい音像も、バンドの無駄のないアンサンブルを、ますます際立たせています。

 1曲目「The End’s Not Near」は、早速アルバムのベスト・トラックと言える1曲です。ピアノとギターが絡み合うイントロに、穏やかに囁くようなボーカルが重なり、徐々に音が増え、立体的なアンサンブルが構成されていきます。再生時間0:52あたりなど、随所に差し込まれるピッキング・ハーモニクスのような、ややノイジーな高音のギターも、アクセントになっています。

 3曲目「Chinese Handcuffs」は、各楽器とも粒の立ったフレーズで、タイトなアンサンブルを作り上げる1曲。再生時間1:08あたりからの、躍動感が生まれるアレンジなど、1曲の中でのコントラストも鮮やか。

 5曲目「Disease」は、このアルバムの中でもテンポが特に遅く、音数を絞ったミニマルなアンサンブルが展開。ゆったりとリズムをためるように、リズムが伸縮するように進行していきます。また、この曲にはアルバムのプロモーションの為に、ミュージック・ビデオが作成されています。

 6曲目「Age Of Conceit」は、イントロからドラムが立体的に響き、メリハリと躍動感のある1曲。テンポは抑えめですが、小気味いいドラムのリズムが、軽快なグルーヴ感を演出しています。再生時間2:40あたりから、バンド全体のシフトが上がる展開も鮮やか。

 9曲目「Stranger To Kindness」は、シンプルなサウンドのギターを、ミニマルなリズム隊に、物憂げなボーカルが溶け合う、スロウコアらしい1曲。隙間の多いアンサンブルから、徐々に隙間が埋まっていき、ゆるやかに躍動していきます。

 アルバムを通して、音数を絞り、間を大切にした作品です。「間を大切にした」と言うより、時には間にも意味が生まれるぐらいに、音数を絞ったアレンジも展開されます。

 テンポを落とすことで、楽器の絡み合いによって生まれる一体感や躍動感が前景化するところが、スロウコアと呼ばれるジャンルが目指すところのひとつですが、本作はそういう意味で、スロウコアの名盤と呼んでいいクオリティを備えています。





The New Year “Newness Ends” / ザ・ニュー・イヤー『ニューネス・エンズ』


The New Year “Newness Ends”

ザ・ニュー・イヤー 『ニューネス・エンズ』
発売: 2001年2月20日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)
プロデュース: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 1991年から1998年まで活動した、テキサス出身のスロウコア・バンド、ベッドヘッド(Bedhead)。ベッドヘッド解散後、メンバーだったマットとバッバのカデイン兄弟を中心に結成されたのが、ザ・ニュー・イヤー(The New Year)です。

 90年代に活躍し、スロウコアの第一世代と言えるベッドヘッドの音楽性を引き継ぎ、ザ・ニュー・イヤーもテンポを抑え、疾走感よりもグルーヴ感を重視したアンサンブルを展開します。彼らの1stアルバムである本作『Newness Ends』も、ゆったりとしたテンポに乗せて、音数を絞ったストイックなアンサンブルを聞かせるアルバムと言えます。

 また、スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを務め、バンドがそこで演奏しているかのような、生々しく臨場感のあるサウンドも魅力的です。

 1曲目「Half A Day」から、音圧が高いわけではありませんが、ドラムが残響音まで拾い上げるような音質でレコーディングされており、非常に臨場感のある音が響きます。ギターが立体的に絡み合い、心地よく、緩やかなグルーブが生まれる1曲。淡々と歌うボーカルも、音数を絞ったバンドのアンサンブルに溶け合っています。

 2曲目「Reconstruction」は、ボーカルも含め、各楽器が追い抜き合うように、絡み合い進行する1曲。各楽器とも音作りはシンプルですが、そのシンプルなサウンドが、折り重なるように編み込まれるアンサンブルを、際立たせています。

 5曲目「Simple Life」。基本的には、このバンドのボーカルはマット・カデインが担当していますが、この曲ではバッバ・カデインが歌っています。音数が少ないながら、無駄のない機能的なアンサンブルが展開され、例えば再生時間1:50あたりから流れるようなギターを筆頭に、徐々に音が増えていく展開は、非常の心地いいです。

 「スロウコア」は、その名のとおり遅めのテンポで、音数を絞ったアンサンブルを展開するのが特徴のジャンルですが、本作『Newness Ends』は、まさにスロウコアを体現したアルバムと言えるでしょう。すなわち、音数を絞り、一音一音の情報量を相対的に増すことで、濃密なアンサンブルを構成しています。

 前述したとおり、アルビニ録音による生々しいサウンド・プロダクションもこのアルバムの大きな魅力のひとつで、音圧やスピードに頼らず、アンサンブルを重視するザ・ニュー・イヤーというバンドのアティチュードを、ますます前景化していると言えるでしょう。





Codeine “Frigid Stars LP” / コデイン『フリジッド・スターズLP』


Codeine “Frigid Stars LP”

コデイン 『フリジッド・スターズLP』
発売: 1990年8月15日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Mike McMackin (マイク・マクマッキン)

 ニューヨーク出身のバンド、コデインの1stアルバム。ジャンルとしては、スロウコアにカテゴライズされる、というよりむしろ、スロウコアというジャンルの創始者とされることもあるバンドです。

 本作もスローテンポに乗って、物憂げなボーカルがたゆたい、音数を極力減らしたミニマリスティックなアンサンブルが展開されます。しかし、スカスカで味気ない作品かというと全くそんなことはなく、音量やスピードに頼らなくても、エモーショナルな音楽は作れる!と証明するようなアルバムです。

 曲によってはスロー再生をしている、あるいは逆再生なんじゃないかと思うぐらいスローテンポなのですが、その中にロックのダイナミズムが不足なく表現されています。

 音の少なさとスローテンポが、聴き手の熱量を奪うような、ひんやりとした質感を持っており、「極寒の星」というアルバム・タイトルも、本作の内容を示唆しているんじゃないかと思います。

 2曲目の「Gravel Bed」は、イントロでは何拍子がつかみにくいほどのスローテンポ。しかし、徐々にビート感が生まれ、感情を排したようなボーカルからは、切迫感が伝わります。伝えようとしているのは、絶望や悲しみといった感情でしょうか。

 3曲目「Pickup Song」は、音数を絞ったアンサンブルが展開されますが、再生時間0:41あたりで轟音ギターがなだれ込む、静寂から爆音へのコントラストは、後のポストロックを彷彿とさせます。

 5曲目の「Second Chance」は、ギターのノイジーなフィードバックが錯綜する隙間を探すように、ボーカルが淡々とメロディーを歌う1曲。静寂から轟音へ転化する時間的なコントラストではなく、同じ時間における質的なコントラストを生み出しています。

 音圧やスピードが表現するエモーションとは違った形で、違ったエモーションを表出するアルバム、と言ったらいいでしょうか。スローテンポで音数も絞り、時には静寂と爆音のコントラストによって、緊張感とスリルを演出しています。

 ボーカリゼーションによるところも大きいのですが、悲しみや切なさが前面に出た、独特の温度感を持ったアルバムです。

 





Low “Drums And Guns” / ロウ『ドラムス・アンド・ガンズ』


Low “Drums And Guns”

ロウ 『ドラムス・アンド・ガンズ』
発売: 2007年3月20日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Dave Fridmann (デイヴ・フリッドマン)

 「スロウコア(Slowcore)」というジャンルに括られることの多い、ミネソタ州ダルース出身のバンド、ロウの通算8枚目のアルバム。

 スロウコアというだけあって、ゆったりとしたスローテンポに、多種多様な音とアレンジが載っていく1作です。このジャンル自体の特徴でもありますが、テンポが遅いために、アンサンブルやメロディーよりも、音響が前景化されるところがあります。

 1曲目「Pretty People」は、ギターと電子音らしきドローンが鳴り響くなか、ボーカルもメロディー感が希薄になるぐらい、ゆったりと長い音符を使って歌っていきます。再生時間1:15あたりからドラムも入ってきますが、こちらもやはりテンポが遅く、音数も絞ってあり、いわゆるビート感やグルーヴ感は希薄です。

 しかし、スローテンポのバンドの重力に聴き手が引き寄せられるように、徐々にアンサンブルやグルーヴ感が現れてくるから不思議。アルバムの1曲目で、まずはリスナーの耳をバンドのペースにチューニングさせる1曲、ということなのかもしれません。

 3曲目「Breaker」では、イントロから、ミニマル・テクノのような無機質なビートと、立体感のあるサウンドの手拍子、シンセサイザーの持続音が重なります。この曲もスローテンポで、一般的なバンドの曲に比べれば音数は少ないものの、スカスカな印象は全くなく、むしろ空間が音に埋め尽くされている印象すらあります。中盤からはギターと思われる音も入ってきて、さらにサウンドが厚みを増します。

 6曲目「Always Fade」は、「地を這うような」という表現を思わず使いたくなってしまうベースと、このアルバムの中ではビート感の強いドラムが絡み合う1曲。立体的でソリッドなサウンド・プロダクションもかっこいい。

 10曲目の「Take Your Time」は、イントロからアンビエントな雰囲気が充満し、音響が前景化された、エレクトロニカを連想させる1曲。ここまでアルバムを通しで聴いてくると、彼らのペースに完全に取り込まれているので、十分に展開が感じられます。この種の音楽を聴かない人に聴かせたら「宇宙と交信してるの?」と言われそうな曲ですが(笑)

 スローテンポの上で、音響とアンサンブルをじっくりと味わうアルバムだと思います。遅いからこそ表現できるものがあると、示したような作品。

 スピード感のある速い曲もいいですが、本作のように時間を贅沢に使い、音響とアンサンブルにこだわった作品にも、また違った魅力があります。