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Bad Religion “Against The Grain” / バッド・レリジョン『アゲインスト・ザ・グレイン』


Bad Religion “Against The Grain”

バッド・レリジョン 『アゲインスト・ザ・グレイン』
発売: 1990年11月23日
レーベル: Epitaph (エピタフ)

 カリフォルニア州ロサンゼルス出身のパンク・バンド、バッド・レリジョンの5thアルバム。

 メロコアの創始者のバンドのひとつと目されるバッド・レリジョン。ただ、彼らが1stアルバムをリリースしたのは1982年。

 初期のアルバム群は、2000年代以降の音圧に慣れた耳からすると、正直しょぼく感じられますし、「メロコアの生ける伝説!!」というテンションで聴くと、肩すかしを食らうことになるかもしれません。

 初期のアルバムがかっこわるい、劣っているというわけではありませんよ! 念のため。

 1990年にリリースされた本作『Against The Grain』。このあたりになると音圧も上がり、現代メロコアと地続きであることが実感できるでしょう。

 起伏のある、思わず口ずさみたくなるメロディーが、塊感のあるバンドのアンサンブルと一体となり、疾走していきます。

 1曲目「Modern Man」のイントロから、むせび泣くようなギターが演奏をリード。そのまま疾走感あふれるアンサンブルへと、なだれ込んでいきます。

 5曲目「The Positive Aspect of Negative Thinking」は、タイトルは長いが、尺は短い1分足らずの1曲。ですが、後半にリズムの切り替えがあり、直線的に走るだけの曲ではありません。もっと発展させられそうな曲なのに、スパッと閉じてしまうのが、彼らの美学なのかもしれません。

 アルバム表題曲の10曲目「Against The Grain」は、ミュート奏法を用いたタイトなアンサンブルに、起伏を抑えたメロディーが乗り疾走。複数のギターを中心に、レイヤー状に厚みのあるアンサンブルが展開します。

 本作およびメロコアの魅力というと、歌とバンドの一体感がありながら、完全には一体とならないところじゃないかなと思います。

 どういうことかと言うと、バンドのスピード感あふれる演奏に、飲み込まれることなく、ボーカルのメロディーが曲芸的に乗っていくんですよね。

 高速で走る馬にただ乗るだけでなく、その上で踊り、さらに馬を加速させるとでも言ったらいいでしょうか。直線的でリズム主導の音楽のように思われがちですけど、とにかくメロディーも気持ちいいんです。

 ちなみにリマスター盤は、音がでかいです(笑) 僕はこのリマスターのバージョンしか聴いたことがないので、オリジナル盤がどうだったのか、比較はできませんが…。

 





Fastbacks “Very, Very Powerful Motor” / ファストバックス『ベリー・ベリー・パワフル・モーター』


Fastbacks “Very, Very Powerful Motor”

ファストバックス 『ベリー・ベリー・パワフル・モーター』
発売: 1990年3月1日
レーベル: Popllama (ポップラマ)
プロデュース: Conrad Uno (コンラッド・ウノ)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの2ndスタジオ・アルバム。前作に引き続き、ポップラマからのリリースで、レコーディング・エンジニアを務めるのは、同レーベルの設立者でもあるコンラッド・ウノ。

 グランジ旋風吹き荒れる、1990年リリースの作品ですが、実はファストバックスが結成されたのは1979年。この時点で、すでに10年以上のキャリアを持ったバンドです。

 そのため、というわけでもないのでしょうが、グランジに迎合することもなく、自分のやりたい音楽を心の底から楽しんでやっている、というのが滲み出たアルバムになっています。

 個人的には、じめじめした陰鬱なグランジも大好きなのですが、ファストバックスの鳴らす音は、それとは対極にカラッとした明るさを持ったもの。本作でも、分厚く歪んだギターと、ドタバタ感のあるアンサンブル、女性ボーカルによる親しみやすいメロディーが合わさり、カラフルなサウンドを作りあげています。ジャンル名を引き合いに出して説明するなら、ギターポップとパワーポップの融合、といったところ。

 1曲目の「In The Summer」から、ドラムのリズムが前のめりに突っ込み、ギターはドライブ感全開のフレーズを繰り出していきます。ギターは激しく歪んでいるものの攻撃性は感じず、全音域が豊かで明るいサウンド。脳を揺らすように、パワフルに鳴り響きます。

 2曲目「Apologies」は、バンド全体が塊となって転がるように、疾走感に溢れたパンク・ナンバー。爽やかなコーラスワークも秀逸。この曲でもギターが、激しくも羽が生えたように軽やかなフレーズで、バンドを引っ張っていきます。

 5曲目「What To Expect / Dirk’s Car Jam」は、イントロからリズム隊がフィーチャーされ、立体的なアンサンブルが構成される1曲。本作の中では、ややリズムが複雑で、各楽器がリズムを噛み合うように、グルーヴ感が生まれていきます。

 6曲目「Says Who?」は、ドタドタと低音域を響かせるドラムのイントロに導かれ、パワフルに疾走する演奏が繰り広げられる1曲。アルバム中で、最もハードな音像を持っています。

 ちなみに、現在SpotifyやAppleで配信されている音源では、5曲目が「What To Expect」、6曲目が「Dirk’s Car Jam」という曲目になっています。しかし、CDのジャケットの表記だと、5曲目が「What To Expect / Dirk’s Car Jam」で、6曲目が「Says Who?」。

 Spotifyで配信されている6曲目を聴いてみると、タイトルは「Dirk’s Car Jam」なのに、歌詞では「Says Who?」と歌っています。おそらく、5曲目のタイトルを分割したために起きた間違いでしょう。以降の曲も、CDおよびLP版とは、曲目がズレています。

 8曲目「I Won’t Regret」(配信の表記は「Last Night I Had A Dream That I Could Fly」)は、激しく歪んだギターと、アコースティック・ギターが用いられ、立体的で厚みのあるアンサンブルが展開される1曲。やや物憂げでメロウなボーカルが、サビで「I won’t regret the times we walked and watched the days run by us」と歌いあげるのは、胸に沁みます。

 1stアルバムである前作『…And His Orchestra』に引き続き、とにかくポップで楽しいアルバム。シンプルで親しみやすいメロディーに、ハードロックを彷彿とさせるギターのフレーズが重なり、パワフルでダイナミズムも大きな1作です。

 キム・ワーニック(Kim Warnick)と、ルル・ガルジューロ(Lulu Gargiulo)の女声ボーカルも魅力的。高音域をいかした突き抜けるような声で、基本的には勢い重視の歌唱が多いのですが、絞り出すようなシャウトだったり、メロウで情緒的だったりと、表情豊か。楽曲をさらにカラフルに彩っています。





Dwarves “Blood Guts & Pussy” / ドワーヴス『ブラッド・ガッツ・アンド・プッシー』


Dwarves “Blood Guts & Pussy”

ドワーヴス 『ブラッド・ガッツ・アンド・プッシー』
発売: 1990年1月1日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Jack Endino (ジャック・エンディーノ (エンディノ))

 イリノイ州シカゴで結成されたバンド、ドワーヴスの2ndアルバム。1986年の前作『Horror Stories』は、ロサンゼルス拠点のボンプ・レコード(Bomp! Records)傘下のレーベル、ヴォックス・レコード(Voxx Records)からのリリースでしたが、本作からシアトルの名門サブ・ポップへ移籍しています。グランジ・ブームの真っ只中で、多くのバンドを手がけたジャック・エンディーノが、エンジニアを担当。

 ジャンルとしてはガレージ・ロックやハードコア・パンクに分類されるドワーヴス。とにかく勢い重視の演奏と、下品なサウンド・プロダクションが彼らの魅力です。本作も12曲収録ながら、収録時間は13分台という、文字通り勢いで突っ走るアルバム。ガレージ風のシンプルなロックを基本に、時に楽曲のなかで加速しながら走り抜けていきます。

 収録時間がとても短く、全てのトラックが1分程度。しかし、めちゃくちゃにテンポが速いというわけでも、直線的にリズムを刻み続けるわけでもなく、思いのほかアレンジが練り込まれ、コンパクトにまとまったロックンロールが、一貫して鳴らされています。

 ガレージ・ロック的な、ざらついた音像と疾走感を持ち、ボーカルのクセのある歌い方からは、アングラ感が漂います。アルバム全体を通して、ワルノリで押し切るようなところもあるのですが、前述のとおり単純に突っ走るだけでなく、アレンジが凝っていて、意外と真面目なのかな?と感じるところもあり。

 1曲目「Back Seat Of My Car」は、ギターのイントロを皮切りに、リズムが前のめりに走っていく、疾走感あふれる1曲。曲のラストには、車が衝突する音が入り、このバンドらしい遊び心も感じられます。

 2曲目「Detention Girl」は、イントロから前のめりに走っていきますが、再生時間0:37あたりのベースをスイッチにしてテンポを落とし、その後は段階的に再加速。緩急によって加速感を演出する1曲。

 5曲目「Skin Poppin’ Slut」は、毛羽立ったサウンドのギターを中心に、全ての楽器が塊となって転がるような、一体感と疾走感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 6曲目「Fuck You Up And Get High」では、シンプルなリフと、シャウト気味のボーカルが、勢いに任せて走り抜けていきます。わずか40秒の曲ですが、演奏時間の短さ以上に、疾走感に溢れ、短い体感の1曲。

 11曲目「Astro Boy」では、ギターは激しく歪み、各弦の分離感のないだんご状のサウンド。リズム隊とも一丸となり、転がるように駆け抜ける演奏が展開されます。

 音も下品なら、ジャケットも下品。しかし、リズムやテンポの切り替えが随所にあり、思ったよりも演奏は練りこまれています。

 とはいえアングラ臭が充満しているのも事実で、音圧の高いハイファイなサウンドのマスロックやハードロックとは、一線を画する耳ざわり。ガレージで鳴らされた音をそのまま閉じ込めたかのような、生々しく歪んだ音で、塊感のあるアンサンブルを展開していく1作です。

 





Archers Of Loaf “White Trash Heroes” / アーチャーズ・オブ・ローフ『ホワイト・トラッシュ・ヒーローズ』


Archers Of Loaf “White Trash Heroes”

アーチャーズ・オブ・ローフ 『ホワイト・トラッシュ・ヒーローズ』
発売: 1998年9月22日
レーベル: Alias (エイリアス), Merge (マージ)
プロデュース: Brian Paulson (ブライアン・ポールソン)

 ノースカロライナ州チャペルヒルで結成されたインディーロック・バンド、アーチャーズ・オブ・ローフの4thアルバム。プロデューサーは、前作から引き続きブライアン・ポールソン。

 1998年にエイリアスからリリースされ、その後2012年にボーナス・ディスクを加えた2枚組のデラックス・エディションとして再発。ちなみに本作に限らず、1stアルバムから3rdアルバムまでも、2011年から2012年にかけて、いずれも彼らの地元チャペルヒル拠点のレーベル、マージより2枚組のデラックス版が発売になっています。

 ここまで一貫して、実にインディーロックらしい音楽を作り続けてきたアーチャーズ・オブ・ローフ。このようにサラッと書いてしまうと、「インディーロックらしいってなに?」という話になりますが、過度に作り込まない生々しいサウンドでレコーディングされ、テクニックや楽理的知識をひけらかすことなく、実験性と攻撃性を持った、地に足の着いた音楽だということです。

 本作でも、前作までの音楽性を引き継ぎ、躍動感に溢れたコンパクトなロックが鳴らされています。また、複数のギターが、時に対立するように全く別のサウンドで、全く別のフレーズを弾くところも彼らの特徴のひとつ。もちろん、そのようなアレンジによって、アンサンブルがバラバラになることはなく、楽曲に立体感と多彩さをプラスしています。

 1曲目「Fashion Bleeds」では、イントロ部分から軽快なドラムのリズムに乗っかるように、2本のギターが片方はザクザクとコードを弾き、もう一方は音を揺らしながらジャーンと長めにコードを弾いていきます。前者は楽曲に疾走感を与え、後者はアヴァンギャルドな空気をプラス。テクニック的に難しいことをやっているわけではないのに、非常にパワフルで奥行きのあるサウンドに仕上がっています。再生時間2:07あたりからの高音域を駆使したギターソロも、アクセントになり、楽曲をますますカラフルに。

 2曲目「Dead Red Eyes」は、イントロからオルガンらしき音色が、シンプルなフレーズを弾き、中世の宗教音楽のような雰囲気の1曲。前半はキーボートとボーカルのみで進行し、再生時間2:08あたりからギター、ベース、ドラムが加わると、各楽器が有機的に絡み合う、立体的でゆるやかなスウィング感を伴ったアンサンブルが展開。

 3曲目「I.N.S.」は、つっかえながら刻まれる独特のリズムと、ギターの奇妙な音色、おどけたようなボーカルから、サイケデリックな空気が漂う1曲。

 5曲目「Slick Tricks And Bright Lights」は、スローテンポの中を、ギターをはじめとした各楽器の音が、ポツリポツリと埋めていく1曲。隙間が多く、休符さえ利用したようなアンサンブルで、ボーカルも楽曲の穏やかな空気に合わせて、優しくささやくように歌います。再生時間1:49あたりから一時的に躍動感あふれる部分がありますが、その後は再び音数を絞り、音響を前景化するようなアプローチが続きます。

 6曲目「One Slight Wrong Move」は、イントロからコミカルで奇妙な音が鳴り響き、アヴァンギャルドでカラフルなアンサンブルが展開していく1曲。コメディーじみたボーカルの歌唱や、再生時間1:33あたりからのキーボードなのか、あるいはエフェクターをかけたギターなのか、光線銃のようなサウンドなど、多様な音が飛び交い、楽曲を賑やかに盛り上げます。

 7曲目「Banging On A Dead Drum」は、濁りのあるギターの音色とハーモニー、オモチャのようなドラムの音、ジャンクなボーカルなどが、四方八方から飛び出す、実験的であり、同時にカラフルで楽しい雰囲気の1曲。このような曲には「オモチャ箱をひっくり返したような」という言葉を使いたくなります。

 10曲目「White Trash Heroes」は、電子的なサウンドによるビートを中心にして、徐々に音がレイヤー状に重なっていくような進行の1曲。荘厳な空気と、ジャンクなインディーロックの空気を、併せ持ったサウンド・プロダクション。

 本作を最後にバンドは解散。その後、2011年に再結成していますが、本作が解散前のラスト・アルバムとなりました。

 前述したとおり、これまでの音楽性を引き継いだインディーロックらしい音楽が展開しますが、随所で新たな試みも発見できるアルバムです。

 例えば、2曲目「Dead Red Eyes」や10曲目「White Trash Heroes」での、ギター以外のサウンドを中心に据えたアレンジ。5曲目「Slick Tricks And Bright Lights」での、ギターをフィーチャーしつつ、ゴリゴリに躍動するのではなく、音数を絞った音響的なアプローチなどです。

 いずれも、やみくもに新しい楽器や方法論を導入しました、という感じではなく、あくまで自分たちの手が届き、コントロールできる範囲で、いい意味でチープさを残したアレンジとなっています。これまでの彼らの良さを残しつつ、音楽性をさらに広げた1作と言っていいでしょう。

 





Archers Of Loaf “All The Nations Airports” / アーチャーズ・オブ・ローフ『オール・ザ・ネイションズ・エアポーツ』


Archers Of Loaf “All The Nations Airports”

アーチャーズ・オブ・ローフ 『オール・ザ・ネイションズ・エアポーツ』
発売: 1996年9月24日
レーベル: Alias (エイリアス), Merge (マージ)
プロデュース: Brian Paulson (ブライアン・ポールソン)

 ノースカロライナ州チャペルヒルで結成されたインディーロック・バンド、アーチャーズ・オブ・ローフの3rdアルバム。

 プロデューサーは、1stアルバム『Icky Mettle』ではカレブ・サザン(Caleb Southern)、2ndアルバム『Vee Vee』ではボブ・ウェストン(Bob Weston)が担当していましたが、3作目となる本作ではまた替わって、ブライアン・ポールソンが担当。ブライアン・ポールソンは、ウィルコ(Wilco)やスーパーチャンク(Superchunk)との仕事でも知られる人物です。

 レコーディング・スタジオも、1作目のチャペルヒル、2作目のシカゴと続いて、本作ではまた場所を変え、ワシントン州シアトルにあるアイアンウッド・スタジオ(Ironwood Studios)。

 レーベルは前作までと同じく、インディーズのエイリアスからのリリース。しかし、本作からメジャー・レーベルのエレクトラ・レコード(Elektra Records)が、ディストリビューションを担当しています。

 また、1996年にオリジナル版がリリースされた後、2012年にUSインディーを代表する名門レーベル、マージ(Merge)から2枚組のデラックス・エディションが再発されています。

 これまでの2作は、インディーらしく飾らない生々しい音像に、立体的で適度にドタバタ感のあるアンサンブルが展開される、実にインディーロックらしい耳ざわりを持っていました。3作目となる本作でも、過去2作を引き継ぎ、原音を活かした臨場感のあるサウンドで、いきいきと躍動する演奏が繰り広げられます。

 1曲目「Strangled By The Stereo Wire」は、イントロからやや奥まったサウンドの複数のギターが絡み合い、その後に入ってくるボーカル、ドラム、ベースも、少し距離のある場所から聞こえるようなミックスがなされています。しかし、再生時間0:51あたりでヴェールが剥がされるかのように、音量と音圧が高まり、パワフルなサウンドへ。厚みのあるサウンドで、一体感と躍動感のある演奏が展開されます。

 2曲目「All The Nations Airports」では、ギターのフレーズと音色、ドラムのリズムが、アヴァンギャルドな空気が漂わせながら、各楽器が絡み合って、アンサンブルを構成。パワフルでざらついたサウンドと、奇妙な部分を持ちながら、どこかポップにまとまった演奏が、カラフルな世界観を描き出します。

 3曲目「Scenic Pastures」は、イントロからシンプルかつタイトに、ゆるやかに躍動するアンサンブルが展開される1曲。2本のギターが手を取り合うわけでもなく、ケンカするわけでもなく、対等に向き合って音を紡いでいくところも、このバンドの特徴。

 5曲目「Attack Of The Killer Bees」は、歌のないインスト曲。ゆったりとしたテンポに乗せて、各楽器の音が、波のように重なり合いながら、躍動していきます。

 8曲目「Chumming The Ocean」は、ピアノがフィーチャーされたメロウな1曲。どこかで轟音ギターが押し寄せる静から動への展開かと思いきや、最後までボーカルとピアノと、わずかに奥で聞こえるフィードバックのような持続音のみ。丁寧に感情をこめて歌い上げるボーカルが、ピアノにも引き立てられ、響き渡ります。

 9曲目「Vocal Shrapnel」は、2本のギターが絡み合いながら、一体の生き物のように躍動しながら前進していく1曲。タイトにリズムを刻むベースとドラムに対し、ギターは自由にフレーズを繰り出し、タイトさとラフさが共存しています。

 10曲目「Bones Of Her Hands」は、ビートが直線的でわかりやすい、疾走感あふれる1曲。このバンドには珍しく、サビまではシンプルな8ビートで進みますが、サビではやや複雑で立体的に展開。意外性のある、このバンドらしいアレンジと言えるでしょう。

 14曲目「Distance Comes In Droves」は、音数を絞った緊張感のあるアンサンブルが展開されるミドル・テンポの1曲。ギターの音作りは、過度に歪ませたり、空間系エフェクターを用いたりせず、シンプル。ですが、高音域を使ったフレーズなど、サウンド以外の要素で、違いを生み出しています。

 15曲目「Bombs Away」は、ピアノのみのインスト曲。3拍子に乗せて、猫が自由に歩き回るように、加速と減速を織り交ぜ、アルバムを締めくくります。

 3作目のアルバムとなる本作。過去2作の良さを引き継ぎ、ギターの絡み合いなど、アンサンブルがますます洗練されてきたと言える1作です。

 「洗練」と書くと、落ち着いてきたという印象を与えるかもしれませんが、むしろその逆で、奇妙なフレーズやサウンドを応酬し、今まで以上に効果的に、躍動感や疾走感を生んでいます。

 飾りすぎない、むき出しのサウンド・プロダクションに、実験性と攻撃性を程よく持ち合わせたアレンジ。インディーロックの良心とでも呼びたくなるアルバムです。