Fastbacks “New Mansions In Sound”
ファストバックス 『ニュー・マンションズ・イン・サウンド』
発売: 1996年6月18日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Pete Gerrald (ピート・ジェラルド)
ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの通算5枚目のスタジオ・アルバム。レコーディング・エンジニアは、前作『Answer The Phone, Dummy』に引き続き、ピート・ジェラルドが担当。
疾走感あふれるポップなパンク・サウンドと、カート・ブラックの個性的なギタープレイ、女性ツイン・ボーカルによる多彩なコーラスワークが魅力のファストバックス。
1stアルバムから、安定して良質の作品を作り続けてきた彼らですが、5作目となる本作でも、ハードとポップが高次に共存した音楽を繰り広げています。ポップで親しみやすいメロディーが、ノリの良い疾走感あふれるアンサンブルの上に乗り、随所にテクニカルなギターフレーズが散りばめられ、非常にカラフル。
1曲目「Fortune’s Misery」は、ハードに歪んだギターと、女声ボーカルが交錯するコーラスワークを中心に、各楽器が絡み合う、躍動するアンサンブルが魅力の1曲。サウンド的にはハードなのに、キラキラとしたポップさを持ち合わせています。再生時間1:00過ぎからの間奏でも、ギターを主軸に据えた有機的なアンサンブルが繰り広げられます。
2曲目「Which Has Not Been Written」は、回転するような高速ドラムのイントロに導かれ、疾走感抜群の演奏が展開する、1分ほどのパンク・チューン。
3曲目「No Information」は、メロディアスなギターが疾走していく、メリハリのある1曲。パンキッシュな演奏ですが、前述のギターと、シンセサイザーと思しきサウンドが、楽曲をカラフルに彩っていきます。プレシデンツ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(The Presidents Of The United States Of America)や、ラヴ・バッテリー(Love Battery)での活動で知られる、ドラマーのジェイソン・フィン(Jason Finn)が参加。
4曲目「I Know」は、ギターの立体的なフレーズのイントロに導かれ、厚みと一体感のあるアンサンブルが展開される1曲。
6曲目と7曲目は、それぞれ「5 5 5 Part One」と「5 5 5 Part Two」。いずれも高速なリズムに乗って、スピード感重視で駆け抜けるパンキッシュな楽曲。
8曲目「Stay At Home」は、6分を超える壮大な1曲。前半はタイトなパンク・サウンドで進行し、再生時間2:15あたりからの中盤はスローテンポの子守唄のような雰囲気、再生時間3:36あたりからの後半はミドルテンポのロックへと、曲調が次々と移行します。
14曲目「Find Your Way」は、ミドルテンポの郷愁感のある1曲。サウンド・プロダクションもアレンジも奇をてらわずにシンプルですが、キーボードの柔らかなサウンドがアクセントとなり、部分的にサイケデリックな空気も漂います。
15曲目「Girl’s Eyes」は、イギリスのロックバンド、ザ・フー(The Who)のカバー。原曲に近いアレンジですが、こちらの方がギターの音が激しく歪み、全体のアンサンブルもドタバタした立体感があります。
3rdアルバム『Zücker』が代表作に挙げられることの多いファストバックスですが、5thアルバムとなる本作『New Mansions In Sound』も、負けず劣らず名盤です。
必ずしも洗練することが、音楽の魅力の向上ではありませんが、音作りの面でも、アンサンブルの面でも、多彩で間口の広いアルバムに仕上がっています。