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Veruca Salt “American Thighs” / ヴェルーカ・ソルト『アメリカン・シングス』


Veruca Salt “American Thighs”

ヴェルーカ・ソルト 『アメリカン・シングス』
発売: 1994年9月27日
レーベル: Minty Fresh (ミンティ・フレッシュ)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)

 1993年にシカゴで結成されたオルタナティヴ・ロック・バンド、ヴェルーカ・ソルトの1stアルバム。

 バンド名は、イギリスの小説家ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』(Charlie and the Chocolate Factory)に登場する、ワガママな少女の名前から。ちなみに同作は、2005年に公開された映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作です。

 プロデューサーを務めるのは、リズ・フェア(Liz Phair)やスマッシング・パンプキンズ(The Smashing Pumpkins)を手がけたこともあるブラッド・ウッド。エンジニアとして、トータスのジョン・マッケンタイア(John McEntire)も名を連ねています。

 本作制作時のメンバーは、ギター・ボーカルのルイーズ・ポスト(Louise Post)と、ギターのニーナ・ゴードン(Nina Gordon)の女性2人に、ベースのスティーヴ・ラック(Steve Lack)とドラムのジム・シャピーロ(Jim Shapiro)の男性2人からなる4人編成。

 本作がリリースされたのは、まだグランジの熱が冷めやらぬ1990年代前半。時にアンニュイに囁くように歌い、時にエモーショナルにシャウトする、表現力豊かな女声ボーカルが、グランジらしい激しく歪んだギターと融合。本作では、激しさと内省性が同居する、グランジ・サウンドを鳴らしています。

 1曲目「Get Back」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、ざらついたギターを中心にした、足を引きずるようなアンサンブルが展開するグランジーな1曲。女性ボーカルによる浮遊感のあるメロディーと、ディストーション・ギターの歪んだ音色も、グランジらしいバランス。

 2曲目「All Hail Me」は、激しく歪んだ2本のギターが、うねるように絡み合うアンサンブルに、エモーショナルなボーカルが合わさる1曲。

 3曲目「Seether」は、シンプルにリズムを刻むドラムを中心に、タイトなアンサンブルの1曲。コケティッシュなボーカルが、楽曲に彩りを加えています。

 6曲目「Wolf」は、厚みのあるギター・サウンドの上を漂うように、囁き系のボーカルがメロディーを紡いでいく、スローテンポの1曲。

 7曲目「Celebrate You」は、空間系エフェクターを用いた透明感のあるサウンドと、ざらついた歪みのサウンドなど、音色の異なる複数のギター・サウンドが重なる、ミドルテンポの1曲。

 10曲目「Victrola」は、野太く歪んだギターのドライブ感あふれる演奏と、ファルセットを用いた幻想的なボーカルが溶け合う、コンパクトなロック・チューン。

 11曲目「Twinstar」は、足を引きずるようなスローテンポに乗せて、アンニュイなボーカルがメロディーを紡ぐ、メロウな1曲。

 ハードロック的なゴージャズな歪みではなく、グランジ的なぶっきらぼうな歪みのギターが、唸りをあげるアルバムです。

 このような音作りを「時代の音」と言ってしまえばそれまでですが、確かにサウンドは良くも悪くも時代の空気を吸い込み、個性的ではないかもしれません。

 しかし、メイン・ボーカルを務めるルイーズ・ポストの表現力の高さが、このバンドを同時代のグランジ・バンドから隔て、特異な存在に押し上げていると言っても、過言ではないでしょう。

 もし、グランジ・バンドに多い、物憂げな男性ボーカルだったなら、ここまでのオリジナリティは獲得できなかったはず。ルイーズの声と歌唱法が、サウンド全体をグランジ一色には染まらせず、ギター・ポップやフレンチ・ポップすら彷彿とさせる、多彩なサウンドを生み出しているのだと思います。

 2018年10月現在、残念ながらデジタル配信は、されていないようです。





Pavement “Crooked Rain, Crooked Rain” / ペイヴメント『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』


Pavement “Crooked Rain, Crooked Rain”

ペイヴメント 『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』
発売: 1994年2月14日
レーベル: Matador (マタドール)

 カリフォルニア州出身のインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの前作から約2年ぶりとなる2ndアルバム。

 ローファイを代表するバンドと目されるペイヴメント。しかし、前作から比較すると、音質はクッキリ。各楽器の分離もわかりやすくなり、音圧も増加。音質面でのローファイ感は、薄れています。

 ただ、時に不安定でカオティックな演奏は健在。音質よりも、チューニングやアンサンブルでの意外性が、前景化したアルバムとなっています。

 1曲目「Silence Kit」には、複数のギターが用いられていますが、それぞれの音作りが巧妙で、楽曲全体をカラフルに彩っています。ワウの効いたギターや、ざらついた歪みのギターなどが使い分けられ、各楽器がだらしなく絡み合うように、だらっと間延びしたアンサンブルが展開します。

 2曲目「Elevate Me Later」は、リズムにタメがあり、前のめりではなく、後ろのめりに引きずるような躍動感のある1曲。タメと言っても、グルーヴを生み出すための高度なタイミングを感じるものではなく、ただ単にもたっているような演奏。ですが、その独特なリズムがフックとなり、耳をつかんでいきます。

 4曲目「Cut Your Hair」は、軽快なアンサンブルとコーラスワークが心地よい1曲。きっちりとタイトに合わせるのではなく、適度にスキのあるアンサンブルからは、バウンドするような躍動感が生まれています。

 7曲目「Gold Soundz」は、ギターとボーカルが絡み合うように音を紡いでいくイントロから始まり、ゆるやかに躍動する演奏が展開します。空間系のエフェクターを用いたクリーントーンのギターが、不安定なフレーズを弾くバランス感覚は、このバンドならでは。

 9曲目「Range Life」は、爽やかなギターポップのようなアンサンブルに、不協和な音が紛れています。ポップさの中に、違和感を含ませるところが、ペイヴメントおよびローファイの魅力。

 12曲目「Fillmore Jive」は、揺れるギター・サウンドがフィーチャーされ、サイケデリックな空気と、ドリーミーな空気が共存した1曲。ギターを中心にした厚みのあるサウンドと、ボーカルの甘いメロディーが重なるバランスは、シューゲイザーのようにも響きます。

 音質が一般的な意味では向上し、ヘロヘロのローファイ感は薄まった本作。しかし、不安定なハーモニーや演奏は前作どおりで、ジャンクでガチャガチャした魅力的なアンサンブルが満載です。

 ローファイというジャンルの特徴とはいえ、音質が良くなったことを、ネガティヴなことのように扱うのも、おもしろいですね(笑) そこには「良い音とは何か?」という、問いが横たわってはいるのですが。

 





Fastbacks “Answer The Phone, Dummy” / ファストバックス『アンサー・ザ・フォン, ダミー』


Fastbacks “Answer The Phone, Dummy”

ファストバックス 『アンサー・ザ・フォン, ダミー』
発売: 1994年10月25日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Pete Gerrald (ピート・ジェラルド)

 ワシントン州シアトル出身の男女混合バンド、ファストバックスの4thアルバム。サブ・ポップ移籍後2作目のアルバムで、過去3作のアルバムでレコーディング・エンジニアを務めてきたコンラッド・ウノに代わり、本作ではピート・ジェラルドがレコーディングを担当。

 疾走感あふれる演奏に、女性ツイン・ボーカルによる爽やかなメロディー、ギターのカート・ブロック(Kurt Bloch)の多彩ギタープレイが重なるパワーポップが、デビュー以来一貫したファストバックスの魅力です。

 4作目となる本作でも、これまでの彼らの魅力は損なわず、ややハードロック色の濃くなった、演奏を展開。キャリアを通して、大きな音楽性の変更はおこなわなかったファストバックスですが、やはり作品ごとに色彩の違いがあり、常に真摯に音楽に向き合ってきたスタンスが窺えます。

 1曲目「Waste Of Time」は、うねるようなギターのフレーズと、パワフルなリズム隊が重なる、ハードな音像を持ったミドルテンポのロック・チューン。ギターがボーカルと等しく前景化され、アルバムの幕開けにふさわしい、ハードさとポップさを持ち合わせた1曲です。

 2曲目「On The Wall」は、タイトに疾走するパンキッシュな演奏に、中音域を用いた、粘り気のあるギターフレーズが重なる1曲。前半はパンク色が濃い演奏が続きますが、再生時間1:35あたりからリズムの切り替えがあり、楽曲が多様な表情を見せます。

 3曲目「Went For A Swim」は、バタバタとバンド全体が前のめりに疾走するパンク・ナンバー。溜め込んだパワーが噴出するような、スピード感に溢れた演奏が展開されます。

 4曲目「Old Address Of The Unknown」は、ミドルテンポのメロウな雰囲気ながら、随所でテンポを切り替え、リズムがいきいきと伸縮する躍動感のある1曲。サウンドはハードで厚みがあり、メロディーには子守唄のような親しみやすさがあります。ハードとポップを共存させる、ファストバックスらしい曲だと言えるでしょう。

 8曲目「And You」は、ハードな音質は鳴りを潜め、クリーントーンのギターとキーボードが主軸に据えられた、ギターポップ色の濃い1曲。

 12曲目「In The Observatory」は、タイトにリズムを刻むベースとドラムに、倍音豊かに歪んだギターが重なり、躍動的なアンサンブルを作り上げる1曲。ハードな音像に対して、吹き抜ける風のような美しいコーラスワークが、コントラストをなしています。

 前述したとおり、これまでの作品と比べると、やや全体のサウンド・プロダクションがハードになり、ギターのフレーズにもハードロック的なアプローチが増えた本作。しかし、青春を感じる流麗なメロディーと、バンドの疾走感あふれるアンサンブルは変わらず健在。

 ちなみに、当時発売された日本盤には『電話だよ』という、なんとも言えない邦題がついています(笑)

 





Built To Spill “There’s Nothing Wrong With Love” / ビルト・トゥ・スピル 『ゼアーズ・ナッシング・ロング・ウィズ・ラヴ』


Built To Spill “There’s Nothing Wrong With Love”

ビルト・トゥ・スピル 『ゼアーズ・ナッシング・ロング・ウィズ・ラヴ』
発売: 1994年9月13日
レーベル: Up (アップ)
プロデュース: Phil Ek (フィル・エク)

 トゥリーピープル(Treepeople)のメンバーだったダグ・マーシュ(Doug Martsch)によって結成されたバンド、ビルト・トゥ・スピルの2ndアルバム。

 前作から、ベースのブレット・ネットソン(Brett Netson)と、ドラムのラルフ・ユーツ(Ralf Youtz)が、それぞれブレット・ネルソン(Brett Nelson)とアンディ・キャップス(Andy Capps)へ交代。また、レーベルもC/Zから、アップ・レコード(Up Records)へと移籍しています。

 上記のとおり、メンバー交代とレーベル移籍を経て、リリースされた本作。しかし、元々ダグ・マーシュを中心としたバンドであり、彼がギターとボーカルを変わらず担っているため、音楽性はそこまで大きくは変化していません。

 ダグは音楽雑誌『スピン』(Spin)による当時のインタビューで、「アルバムごとにメンバーを全て入れ替えるつもりだった」とも語っています。今後もたびたびメンバー交代はあるものの、実際にはアルバムごとのメンバー刷新はおこなっていません。

 今作では、フィル・エクがプロデューサーを務めているのも注目ポイントです。シアトルを拠点に活動し、最近ではフリート・フォクシーズ(Fleet Foxes)や、バンド・オブ・ホーセズ(Band Of Horses)のプロデュースでも知られるフィル・エク。

 彼のプロデュース・ワークによって、前作よりもサウンドの輪郭がくっきりとし、各楽器が分離して聴き取りやすく、結果としてアンサンブルが引き立つ音像に仕上がっています。また本作は、スピン誌のトップ・インディー・レコード(top indie records of all time)のトップ10にも選出。これが、フィル・エクの名を上げるきっかけにもなっています。

 1988年に結成されたトゥリーピープルは、当時のグランジ旋風の影響を受けていたのか、ハードな音像を持ったバンド。ダグ・マーシュが、トゥリーピープル脱退後に結成したビルト・トゥ・スピルの1stアルバム『Ultimate Alternative Wavers』も、トゥリーピープルの音楽性をある程度は引き継ぎ、グランジを思わせるハードなサウンドを持っていました。

 しかし、2枚目のアルバムとなる本作『There’s Nothing Wrong With Love』では、サウンド面のアグレッシヴさは抑えられ、よりアンサンブルを重視した音楽性へと変化しています。

 1曲目の「In The Morning」は、歯切れの良いイントロのギターから始まり、バラバラの音が絡み合う、立体的なアンサンブルが展開。特にギターは、トリルを用いたマスロックを思わせるフレーズや、シャキシャキと軽快なカッティングなど、歌い上げるような泣きのフレーズが持ち味だった前作とトゥリーピープル時代から比較して、より多様なアレンジを聴かせます。この曲は、脱退したブレット・ネットソンによる作曲。

 2曲目「Reasons」は、ゆったりとタメを作ったリズムに乗せて、ギターとコーラスが多層的なサウンドを作り上げる1曲。やや遅れてリズムを刻むドラムと、そのドラムに絡みつくようにフレーズを繰り出すベースが、波のように躍動的に揺れるアンサンブルを支えます。

 3曲目「Car」は、2曲目とは打って変わって、タイトで小気味よいアンサンブルが展開される1曲。ところどころに、不安定な音程のフレーズを差し込むギターが、楽曲にキュートさを加えています。再生時間2:12あたりからの、うねるような音色のギターソロも、楽曲にオルタナティヴな空気をプラスするアクセント。

 5曲目「Fling」は、クリーントーンのギターとチェロを中心にした、穏やかなサウンド・プロダクションを持っています。ボーカルのメロディーも、流れるような美しさを持った、ギターポップ色の濃い1曲。

 7曲目「The Source」では、ドラムが立体的に響き、ギターがうなりを上げる、躍動感の溢れるアンサンブルが展開。再生時間0:48あたりからの壊れたオモチャのようなアレンジなど、オルタナティヴな空気も充満した、カラフルな曲です。

 10曲目「Distopian Dream Girl」は、複数のギターが複雑に絡み合うバンドの演奏に対し、爽やかなメロディーが乗る1曲。ギターの音作りとフレーズにはジャンクな香りも漂い、厚みのあるアンサンブルを作り上げます。とにかく、ギターが前面に出たアレンジ。

 メロディーも良いけど、アレンジも良い、多彩な楽曲が収録されたカラフルなアルバムです。歪んだギターが効果的に用いられ、ところどころアングラのノイズ・ロック的なサウンドも持っているのですが、ボーカルのメロディーはギターポップを彷彿とさせるぐらいポップ。バランス感覚に優れた1作です。

 ポッポさと実験性が独自の方法でブレンドされていて、実にインディー・ロックらしい耳ざわり。個人的にも大好きなアルバムです。1997年リリースの次作『Perfect From Now On』からは、メジャーのワーナーへ移籍。メジャー移籍で魅力をそこなうバンドも多いなか、ビルト・トゥ・スピルは変わらず良質な音楽を作り続けています。

 2015年には、シアトルを代表する名門レーベルであるサブ・ポップより、本作のアナログ盤が再発。





Treepeople “Actual Re-Enactment” / トゥリーピープル『アクチュアル・リイナクトメント』


Treepeople “Actual Re-Enactment”

トゥリーピープル 『アクチュアル・リイナクトメント』
発売: 1994年4月13日
レーベル: C/Z (シー・ズィー)
プロデュース: John Goodmanson (ジョン・グッドマンソン)

 アイダホ州ボイシ出身のロックバンド、トゥリーピープルの3rdアルバムであり、最後のアルバム。

 前作『Just Kidding』から、ビルト・トゥ・スピル(Built To Spill)での活動に専念するため、ギターのダグ・マーシュ(Doug Martsch)が脱退。さらに、ベースのトニー・リード(Tony Reed)も脱退し、前作からはメンバー2名が交代。結局、本作『Actual Re-Enactment』を最後のアルバムとし、トゥリーピープルは解散してしまいます。

 「ビルト・トゥ・スピルのダグ・マーシュが在籍していた」という文脈で、語られることも多いトゥリーピープル。しかし、前述のとおり、ダグ・マーシュは既に脱退し、本作には参加していません。

 シアトルに拠点を置くレーベルのC/Zから、1994年のリリースということで、グランジの影響も感じられる、ハードでざらついた音像。しかし、例えばメジャー・デビュー以降のニルヴァーナの音質と比べると、トゥリーピープルには程よくテープが伸びたようなローファイ感があり、グランジ真っ只中のサウンドというわけではありません。

 スコット・シュマルジョン(Scott Schmaljohn)による、今でなら「エモ」と呼ばれそうな、伸びやかでメロディアスなボーカルも、気だるさや苛立ちを吐き出すようなシャウトを特徴とするグランジとは、一線を画していると言って良いでしょう。

 シアトル出身ではなく、ロッキー山脈がそびえる内陸のアイダホ州出身であるという距離感が、シアトルのシーンから若干の距離を置き、時代に迎合しすぎない音楽を育むことになったのかもしれません。

 アルバムの幕を開ける1曲目の「Wha’d I Mean To Think You Said」は、チープな音質のドラムが、ゆったりとリズムを刻み、スタート。その後2本のギターが絡み合いながら、堰を切ったように疾走感のあるアンサンブルが展開されます。この、さりげない始まり方と、ややローファイとジャンク風味のあるサウンドが、非メジャー的で実に魅力的に響きます。

 2曲目「Feed Me」は、太く歪んだサウンドで、うねるようなフレーズを応酬し合う2本のギターに、シャウト気味のボーカルが重なる、エモコア色のある1曲。

 3曲目「Slept Through Mine」は、各楽器が組み合って、一体感のあるバンド・アンサンブルを作り上げる1曲。アームを使用しているのか、エフェクターで変化させているのか、音程が歪むように動くギターが、アヴァンギャルドな雰囲気をプラス。

 4曲目「Heinz Von Foerster」は、ギターが軽快に弾むようなフレーズを繰り出していく、ギター・ポップ色の濃い1曲。しかし、ギター・ポップと呼ぶには、やや下品でチープなギターの音色がまた魅力です。

 6曲目「Liver Vs. Heart」は、感情が吹き出したかのようなギターを中心に、前のめりに突っ走る1曲。

 9曲目「Low」は、アコースティック・ギターとクリーントーンのエレキ・ギターが用いられた、ミドル・テンポのメロウな1曲。リズム隊も含めて、各楽器が分離して聞こえる、立体感のあるアンサンブルが展開されます。

 11曲目「Too Long」は、小刻みに回転するようなリズムが耳を掴む、各楽器がガッチリと組み合い、躍動的なアンサンブルが繰り広げられる1曲。ボーカルはみずみずしく伸びやかで、メロディーを際立たせ、楽曲をカラフルに彩っています。

 グランジ、オルタナ、ローファイを絶妙にブレンドしたサウンドが鳴り響く本作。アルバムを通して聴くと、特にギターの活躍が耳を引きます。

 音作りは歪み一辺倒というわけではなく、同じ歪みにしてもジャンクで下品なサウンドから、中音域の豊かな伸びやかなサウンドまで、実に多彩。フレーズも、バンドの推進力となるべく、グイグイと引っ張っていくものが多く、ボーカルよりも前に出てくることすらあります。

 アンサンブル全体もコンパクトにまとまり、これがラスト・アルバムであるというのが、残念な完成度です。