Pavement “Crooked Rain, Crooked Rain” / ペイヴメント『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』


Pavement “Crooked Rain, Crooked Rain”

ペイヴメント 『クルーキッド・レイン、クルーキッド・レイン』
発売: 1994年2月14日
レーベル: Matador (マタドール)

 カリフォルニア州出身のインディー・ロック・バンド、ペイヴメントの前作から約2年ぶりとなる2ndアルバム。

 ローファイを代表するバンドと目されるペイヴメント。しかし、前作から比較すると、音質はクッキリ。各楽器の分離もわかりやすくなり、音圧も増加。音質面でのローファイ感は、薄れています。

 ただ、時に不安定でカオティックな演奏は健在。音質よりも、チューニングやアンサンブルでの意外性が、前景化したアルバムとなっています。

 1曲目「Silence Kit」には、複数のギターが用いられていますが、それぞれの音作りが巧妙で、楽曲全体をカラフルに彩っています。ワウの効いたギターや、ざらついた歪みのギターなどが使い分けられ、各楽器がだらしなく絡み合うように、だらっと間延びしたアンサンブルが展開します。

 2曲目「Elevate Me Later」は、リズムにタメがあり、前のめりではなく、後ろのめりに引きずるような躍動感のある1曲。タメと言っても、グルーヴを生み出すための高度なタイミングを感じるものではなく、ただ単にもたっているような演奏。ですが、その独特なリズムがフックとなり、耳をつかんでいきます。

 4曲目「Cut Your Hair」は、軽快なアンサンブルとコーラスワークが心地よい1曲。きっちりとタイトに合わせるのではなく、適度にスキのあるアンサンブルからは、バウンドするような躍動感が生まれています。

 7曲目「Gold Soundz」は、ギターとボーカルが絡み合うように音を紡いでいくイントロから始まり、ゆるやかに躍動する演奏が展開します。空間系のエフェクターを用いたクリーントーンのギターが、不安定なフレーズを弾くバランス感覚は、このバンドならでは。

 9曲目「Range Life」は、爽やかなギターポップのようなアンサンブルに、不協和な音が紛れています。ポップさの中に、違和感を含ませるところが、ペイヴメントおよびローファイの魅力。

 12曲目「Fillmore Jive」は、揺れるギター・サウンドがフィーチャーされ、サイケデリックな空気と、ドリーミーな空気が共存した1曲。ギターを中心にした厚みのあるサウンドと、ボーカルの甘いメロディーが重なるバランスは、シューゲイザーのようにも響きます。

 音質が一般的な意味では向上し、ヘロヘロのローファイ感は薄まった本作。しかし、不安定なハーモニーや演奏は前作どおりで、ジャンクでガチャガチャした魅力的なアンサンブルが満載です。

 ローファイというジャンルの特徴とはいえ、音質が良くなったことを、ネガティヴなことのように扱うのも、おもしろいですね(笑) そこには「良い音とは何か?」という、問いが横たわってはいるのですが。