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Sebadoh “Bakesale” / セバドー『ベイクセール』


Sebadoh “Bakesale”

セバドー 『ベイクセール』
発売: 1994年8月23日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Tim O’Heir (ティム・オハイア), Bob Weston (ボブ・ウェストン)

 ダイナソーJr.での活動でも知られるルー・バーロウ(Lou Barlow)を中心に、マサチューセッツ州ノーサンプトンで結成されたインディー・ロック・バンド、セバドーの5thアルバム。

 前作『Bubble & Scrape』に引き続き、サブ・ポップからのリリース。レコーディング・エンジニアは、楽曲によりティム・オハイアとボブ・ウェストンが分け合うかたちで担当。ジャケットに写っている子供は、1歳時のルー・バーロウで、彼の母親による撮影。

 当初は、シカゴにあるスティーヴ・アルビニ(Steven Albini)のスタジオで、ボブ・ウェストンをエンジニアにレコーディングを開始。シカゴでは4曲をレコーディングしますが、ドラムのエリック・ガフニー(Eric Gaffney)が脱退してしまいます。

 その後、レコーディング・スタジオを、ボストンのフォート・アパッチ・スタジオ(Fort Apache Studios)へ移し、サポート・ドラマーとしてタラ・ジェイン・オニール(Tara Jane O’Neil)、さらにガフニーの後任としてボブ・フェイ(Bob Fay)を迎え、レコーディングを完了。

 以上のように、レコーディング場所を変え、途中でメンバー交代も経た上で、リリースされた本作。バンドにとっても過渡期にあたる作品と言って良く、初期のローファイ感あふれるサウンドから、よりソリッドな音像へ。

 ギターのヘロヘロな音質と不安定な音程、ところどころ隙のあるアンサンブルが、これまでのセバドーの特徴でしたが、本作ではサウンドとアンサンブルの両面で、格段にタイトになっています。

 1曲目の「License To Confuse」から、ギターとベースのドラムの3者が有機的に絡み合い、躍動するアンサンブルを展開。ギターの音質も、これまでのチープで線の細いものではなく、パワフルにドライヴしていきます。

 2曲目「Careful」は、各楽器が重なり合うように、一体感のある演奏を繰り広げる1曲。物憂げながら、ブルージーで渋い雰囲気を醸し出すボーカルも、これまでのセバドーと比較すると耳ざわりが異なります。

 3曲目「Magnet’s Coil」は、各楽器とも毛羽立ったサウンドを持ち、前作までとは違ったローファイ感のある1曲。前作までがヘロヘロで弦のゆるんだサウンドだとすると、この曲は弦にトゲがついたような、ざらついたサウンド。クールなボーカルの歌唱も相まって、ガレージ・ロック的な佇まいも持っています。

 5曲目「Not Too Amused」は、気だるいボーカルに、バンド全体も弦やドラムヘッドが伸びきったような、気だるいサウンド。苛立った感情を直接的に吐き出すのではなく、うちに秘めたままドロドロと渦巻くような空気を持った1曲です。アンサンブルの面では、ゆるやかに絡み合い、バンドが一体となって進行。

 7曲目「Skull」は、乾いたギターの音色と、タイトにノリを演出するリズム隊、クールなボーカルの歌唱が溶け合った、ギターポップ色の濃い1曲。ダイナソーJr.を思わせる疾走感も感じられますが、彼らと比較すると、やはりサウンドとアンサンブルの両面において、ローファイ感が溢れています。

 8曲目「Got It」は、ドラムは手数は少ないものの前のめりにリズムを刻み、ギターとベースが一体となって駆け抜ける、疾走感のある1曲。しかし、ゴリゴリに押しまくるわけではなく、リズムにはいい意味での甘さがあり、それが全体に揺らぎと立体感を与え、音楽のフックとなっています。

 11曲目「Rebound」は、2本のギターとベースがレイヤー状に重なり、厚みのあるサウンドを作り上げる1曲。イントロ部分のハーモニーを前面に押し出したアレンジは、これまでのセバドーらしくないアプローチ。厚みのある多層的なバンド・サウンドに、ボーカルもバンドの一部のように溶け込んでいます。

 前述したとおり、レコーディング・スタジオおよびエンジニアを変え、メンバー交代も経た上で完成された本作。しかし、散漫な印象は無く、多彩な曲が収録され、サウンド面でも表現の幅を広げた1作です。

 ローファイ感はこれまでのアルバムと比較すると薄れてはいますが、一般的なバンドと比べれば、リズムやサウンドにはメジャー的ではない雑味があります。音質は向上していますが、セバドーの音楽が持つ揺らぎや奥行きなどは、引き継がれています。

 1994年のリリース当時は15曲収録でしたが、2011年のリイシュー版には25曲収録のエクストラ・ディスクが追加され、計40曲収録となっています。現在は、このリイシュー版が「Deluxe Edition」として、SpotifyやApple Music等のサブスクリプション・サービスで試聴可能です。

 





Sunny Day Real Estate “Diary” / サニー・デイ・リアル・エステイト『ダイアリー』


Sunny Day Real Estate “Diary”

サニー・デイ・リアル・エステイト 『ダイアリー』
発売: 1994年5月10日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)

 1992年にワシントン州シアトルで結成されたバンド、サニー・デイ・リアル・エステイトの1stアルバム。

 いわゆる「エモ」を代表するバンドと目される、このバンド。エモ、あるいは「エモーショナル・ハードコア」や「エモコア」とも呼ばれるこのジャンルは、その名のとおりエモーショナルな心の動き、感情を音楽であらわしたもの。

 では、その「エモさ」や「エモーショナル」とは何か。疾走感あふれるビートに乗せて、起伏のはっきりしたメロディアスな歌メロが、溢れ出す感情を表現し、リズムとメロディーの両面の親しみやすさから、リスナーに「エモい」と感じさせるのでしょう。

 また、シングアロングできる音楽面の親しみやすさに加えて、個人的な感情を吐露することの多い歌詞も、このジャンルの共感性を高めていると言えます。

 サニー・デイ・リアル・エステイトの1stアルバムである本作『Diary』は、エモの名盤と称えられる評価を受けており、実際に僕も「エモい」作品であると思います。

 しかし、前述したようなビートの強さやメロディーよりも、アンサンブルを優先し、バンド全体で感情を表すような複雑性も持ち合わせており、エモの要素もありつつ、ポスト・ハードコア的にジャンルの先を目指す実験性も共存。フックが多く、情報量の多い1作です。

 1曲目の「Seven」は、うなりを上げるギターと、高らかにメロディーを歌い上げるボーカルに耳が行きますが、その下で動き回るベースが、楽曲の躍動感を増しています。この曲以外も、ベースはメロディアスに動くプレイが多く、このアルバムに立体感を加えていると言えるでしょう。

 2曲目「In Circles」でも、厚みのあるギターのサウンドの下で、ベースが激しく動き回っています。手数を絞りながらも、タイトかつ立体的にリズムを刻んでいくドラムが、アンサンブルを引き締めています。

 3曲目「Song About An Angel」では、ゆったりとしたテンポに乗せて、丁寧に音が置かれていきます。穏やかなバンドのアンサンブルに合わせて、ボーカルも優しく丁寧に歌い上げていきます。再生時間1:30あたりで、分厚いディストーション・ギターが入ると、徐々にバンド全体もシフトを上げ、演奏とボーカルが熱を帯びていきます。

 4曲目「Round」は、細かくリズムを刻むドラムのイントロに導かれ、小気味よいスウィング感のあるアンサンブルが展開する1曲。

 5曲目「47」は、タイトなアンサンブルと、ボーカルの歌唱をはじめ穏やかな空気が充満する、ミドル・テンポの1曲。時折、差し挟まれる、高らかに歌い上げるようなギターのフレーズと音色が、楽曲をエモーショナルに彩っています。

 7曲目「Pheurton Skeurto」は、ピアノがフィーチャーされた、3拍子のミドル・テンポの1曲。楽器はピアノとベースのみで、ピアノに絡みつくようにベースがフレーズを繰り出し、ゆるやかに揺れ動く躍動感を生んでいます。

 8曲目「Shadows」は、2本のギターが絡み合う、穏やかなイントロから、轟音のアンサンブルへとなだれ込み、静と動を行き来するコントラスト鮮やかな1曲。

 9曲目「48」は、ドラムの小刻みなリズムをはじめ、各楽器が細かい音を持ち寄り、有機的にアンサンブルを作り上げていく1曲。前半は物静かに進みますが、再生時間1:25あたりで轟音ギターが登場し、ハードな音像へ。その後は轟音と静寂が交互に入れ替わるアンサンブルが展開します。

 11曲目「Sometimes」は、ゆったりとしたテンポの基本的には穏やかな1曲。ですが、轟音ギターと高らかに歌い上げるエモーショナルなボーカルがところどころに顔を出し、楽曲にコントラストを与えています。

 「Seven」「47」「48」と、数字のみの曲タイトルがありますが、これはもともとバンドがデモを作り始めたときに、作曲順を示すタイトルが付けられており、その名残りのようです。ちなみに2009年に発売されたリイシュー盤には、ボーナス・トラックとして「8」と「9」が収録されています。

 「エモ」と言うと、直線的なノリのいいビートに乗せて、起伏の激しいメロディアスなボーカルが疾走する音楽を想像する方が多いのではないかと思います。かくいう自分も、その一人です。

 しかし、本作はテンポを抑えた曲も多く、強靭なビートでグイグイと引っ張っていく場面は、それほどありません。その代わりに、メリハリの効いたコントラストの鮮烈なアンサンブルによって、感情の起伏や爆発を表現している、そんなアルバムではないかと思います。

 また、1990年代のシアトル、そしてサブ・ポップというと、グランジとオルタナティヴ・ロック旋風が吹き荒れていたんじゃないかと思いますが、本作にも少なからずその影響を感じます。

 いずれにしても、ジャンルの型にハマらず、オリジナリティと創造性を備えたバンドであり、作品であることは確かです。

 





Liz Phair “Whip-Smart” / リズ・フェア『ウィップ・スマート』


Liz Phair “Whip-Smart”

リズ・フェア 『ウィップ・スマート』
発売: 1994年9月20日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Brad Wood (ブラッド・ウッド)

 コネチカット州ニューヘイヴン生まれ、イリノイ州シカゴ育ちのシンガーソングライター、リズ・フェアの2ndアルバム。前作と同じく、ニューヨークのインディー・レーベル、マタドールからのリリースですが、前作の20万枚以上の大ヒットを受けて、本作はメジャーのアトランティック(Atlantic Records)がディストリビューションを担当。

 プロデュースは前作に引き続き、元シュリンプ・ボート(Shrimp Boat)のブラッド・ウッドが担当。

 ローファイ気味のざらついたサウンド・プロダクションと、無駄を削ぎ落としたアンサンブル。飾り気のない、むき出しの魅力があった前作『Exile In Guyville』と比較すると、凝ったサウンドも増え、洗練された印象の本作。

 1曲目「Chopsticks」は、ピアノの弾き語りを基本とした、穏やかなバラード。途中で挿入されるディストーション・ギターのロングトーンがアクセントになり、オルタナティヴな空気を演出。1曲目から、前作では聴かれなかったアプローチが垣間見えます。

 2曲目「Supernova」は、ワウの効いたギターを含め、各楽器が絡み合いながらグルーヴしていく、古き良きアメリカン・ロックを彷彿とさせる1曲。こちらも前作とは耳ざわりが異なる、カラフルなサウンド・プロダクションを持っています。

 3曲目「Support System」は、イントロからシンセサイザーの電子音と、クランチ気味の歯切れ良いギターが溶け合い、ゆるやかにグルーヴしていく1曲。

 6曲目「Nashville」は、空間系エフェクターの深くかかったギターがフィーチャーされた、サイケデリックな雰囲気を持った1曲。海のなかを漂うようなギター・サウンドと、金属的な響きのドラム、リズ・フェアのほどよくかすれた伸びやかなボーカルが溶け合います。

 10曲目はアルバム表題曲の「Whip-Smart」。表題曲だから、というわけでもないんでしょうが、個人的には本作のベスト・トラック。ドラッグ・シティかスリル・ジョッキーあたりの、シカゴのレーベルから出ていそうな質感の曲です。多種多様な音が組み合わせって、カラフルで立体的な、聴いていて楽しいアンサンブル。

 11曲目「Jealousy」は、ドラムが立体的に響き、トライバルな空気も漂う、躍動感あふれる1曲。10曲目の「Whip-Smart」に続いて、個人的に大好きな部類のサウンドとアンサンブルです。

 アレンジもサウンドもシンプルだった前作に比べて、アレンジの幅が広がり、サウンドも鮮やかになった今作。前述したとおり、前作から引き続き、ブラッド・ウッドがプロデュースを担当しています。後にザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)を結成するサム・プレコップとエリック・クラリッジも在籍していた、シュリンプ・ボートのメンバーだったブラッド・ウッド。

 そんな予備情報から、プロデューサーとしての仕事でも、シカゴ音響派的なサウンドを期待してしまいましたが、前作『Exile In Guyville』は、ローファイ風の音作りで、いわゆる音響派の音作りとは異質なものでした。しかし、彼の本領発揮と言うべきなのか、本作ではポストロックを感じさせる多彩なサウンド・プロダクションが実現しています。

 どちらが優れた作品か、というより、どちらを自分は好むのか、という問題ですが、個人的には無駄を削ぎ落とし、歌の魅力がダイレクトに伝わる前作の方が、アルバムとしては好み。

 とはいえ、アルバム表題曲の「Whip-Smart」を筆頭に、サウンドだけを抜き出せば、本作の方が好きです。ただ、リズ・フェアは歌が主軸の人だと思うので、歌の魅力が前面に出ているのは前作かなと。

 正直、リズ・フェアは1st以外ほとんど聴いたことなかったんですけど、この2ndに関してはポストロックを感じる部分もあって、ものすごく良くて驚きました。

 





The Jon Spencer Blues Explosion “Orange” / ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『オレンジ』


The Jon Spencer Blues Explosion “Orange”

ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン 『オレンジ』
発売: 1994年10月14日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Jim Waters (ジム・ウォーターズ)

 元プッシー・ガロアのジョン・スペンサーを中心に、1991年に結成された、ギター2人とドラムからなるベースレスの3ピース・バンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの4thアルバム。

 ブルースを下敷きにしながらジャンクなギターが随所で鳴り響き、プッシー・ガロアの残り香をわずかに感じる前作『Extra Width』と比較すると、サウンドもアンサンブルもソリッドになったのが本作『Orange』。

 ブルースやガレージ・ロックを基本に、前述したとおりベースレスの3ピースによる、躍動感あふれるアンサンブルが展開されていきます。ジャンク成分は後退し、アンサンブルが前景化したアルバムと言えます。

 1曲目「Bellbottoms」は、3ピースのタイトなアンサンブルに、ストリングスが重なり、楽曲に立体感を加えています。ストリングスは、壮大でオーケストラルな雰囲気も漂わせていますが、アングラ感のあるコーラスワークをバランスを取り、ジャンクな空気も共存。

 2曲目「Ditch」は、2本のギターが絡みあうように躍動し、ドラムは手数は少ないながら、フックを随所に作りながらリズムを刻んでいく、グルーヴ感抜群の1曲。

 7曲目「Orange」は、物憂げなボーカルと、緩やかに躍動するアンサンブルが溶け合う、ミドル・テンポの1曲。ブルージーな空気を持ちながら、この曲でもストリングスが効果的に用いられ、奥行きのある楽曲に仕上がっています。

 10曲目「Blues X Man」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、立体的なアンサンブルが展開される1曲。基本的なリズムとコード進行は循環ですが、音の縦への重ね方が、楽曲を立体感をもたらしています。

 プッシー・ガロア以来のジャンクな魅力も持ちつつ、よりソリッドなサウンド・プロダクションとアンサンブルを持ったアルバム。グルーヴ感は本当に素晴らしく、いつの間にか、耳が音楽にとらわれてしまうような感覚に陥ります。

 1994年に発売された当初は13曲収録でしたが、2010年に再発された際にはCD2枚組で合計34曲収録となっています。このデラックス版は、現在ではデジタル配信でも聴けます。

 





Unsane “Total Destruction” / アンセイン『トータル・ディストラクション』


Unsane “Total Destruction”

アンセイン 『トータル・ディストラクション』
発売: 1994年1月18日
レーベル: Matador (マタドール)
プロデュース: Martin Bisi (マーティン・ビシ)

 1988年にニューヨークで結成されたバンド、アンセインの2ndアルバム。

 本作は1993年にドイツで、地元インディー・レーベルのシティ・スラング(City Slang)より発売。アメリカ国内では翌年の1994年に、ニューヨークの名門インディー・レーベル、マタドールからリリース。当時マタドールは、メジャーレーベルのアトランティック(Atlantic)とパートナーシップを結んでおり、先のドイツでのリリースも含め、アトランティックの販売システムを通しての発売でした。

 プロデューサーは、ソニック・ユースの『EVOL』なども手がけたマーティン・ビシが担当。

 ノイズ・ロックに括られることもあるアンセイン。本作も、ノイズ要素を含み、ヘヴィで立体的なサウンドで、アングラ感のあるロックが展開されるアルバムです。しかし、ダークでアングラな空気感を、ロック的ダイナミズムを持ったサウンド・プロダクションが中和し、アングラ性と大衆性を併せ持った作品に仕上がっています。

 むしろ、アングラ性がアクセントとして、アルバム全体の魅力を増しているとさえ感じさせるところが、このアルバムの魅力。ジャケットの血のついたキャデラックも、大衆性と実験性を併せ持つこのアルバムの音楽性をあらわしてるのではないかと思わせます。

 1曲目の「Body Bomb」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、たたみかけるように迫り来るアンサンブルが展開される1曲。波打つようなリズム隊と、うねるようなギター、押しつぶされたようなサウンドの絶叫系のボーカルが絡み合うアンサンブルからは、アングラ感が溢れます。

 2曲目「Straight」は、絡み合いながら疾走していく、立体的なサウンドを持った1曲。

 3曲目「Black Book」は、硬質なサウンドのディストーション・ギターと、タイトなリズム隊が、回転するようにパワフルなアンサンブルを作り上げていきます。やや奥の方から聴こえるシャウト気味のボーカルとも相まって、グルーヴ感とアングラ感のあるロックが展開。

 4曲目「Trench」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、引きずるようにギターが唸り、ドラムは叩きつけるようにリズムを刻みます。テンポを落とすことで、ヘヴィさが増していることを実感できる1曲。再生時間2:50あたりからのねじれたギターのフレーズも、アングラな空気をプラスしていて、ロックのヘヴィネスと実験性が共存していて、非常にかっこいい。

 5曲目「Dispatched」では、硬くジャンクな響きを持ったギターが、イントロから耳に残る1曲。回転するようなベースラインと、タイトなドラムが、パワフルにリズムを刻むなか、ギターは切れ味鋭いナイフのように、フレーズを繰り出していきます。

 8曲目「Road Trip」は、一体感と躍動感のあるアンサンブルが展開されるミドルテンポの1曲。随所のリズムのタメがあり、耳をつかむフックになっています。

 10曲目「Get Away」は、バウンドするようにバンドが躍動する、疾走感と立体感のある1曲。細かく的確にリズムを刻むドラムと、豪快に歪んだギター、ブチギレ気味のボーカルが絡み合う、アングラ感たっぷりのロックンロール。

 11曲目「S.O.S.」は、波打つようなリズムが、サイケデリックな雰囲気を醸し出す1曲。ギターの歪みは控えめで、リズムに合わせてアームを使っているのか、音程が揺れるところがあり、その部分がとても心地よいです。リズムと音程が、同じタイミングで揺れる感覚と言ったらいいでしょうか。

 アレンジやサウンド・プロダクションに、多分に実験的でアングラな要素を含んだアルバムであるのに、ロックのダイナミズムの方を強く感じるバランスで成り立っていて、非常のかっこいいアルバムです。ロックの躍動感やダイナミズムを演出するアクセントとして、激しく歪んだサウンドや、アヴァンギャルドなアレンジを用いているような、絶妙なバランス感覚。

 実験のための実験に陥るのではなく、ロックのヘヴィな魅力を増幅させるために、一般的にはノイズと思われるような要素を作品に落とし込んでいるところが、このアルバムの魅力と言って良いでしょう。