「1994年」タグアーカイブ

Portastatic “I Hope Your Heart Is Not Brittle” / ポータスタティック『アイ・ホープ・ユア・ハート・イズ・ノット・ブリトル』


Portastatic “I Hope Your Heart Is Not Brittle”

ポータスタティック 『アイ・ホープ・ユア・ハート・イズ・ノット・ブリトル』
発売: 1994年2月14日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Jerry Kee (ジェリー・キー)

 スーパーチャンク(Superchunk)のマック・マッコーン(Mac McCaughan)のソロ・プロジェクト、ポータスタティックの1stアルバム。

 本作は、数曲でゲストを迎えてはいるものの、ほぼ全ての演奏をマック・マッコーン自身が1人で担当しています。そのため、宅録的、箱庭的な雰囲気を持ったアルバムです。しかし、音楽性は思いのほか多彩で、1人で殻に閉じこもった息苦しさではなく、何にも縛られず思いのままに作り上げた、リラクシングな空気を持った作品になっています。

 1曲目「Mute2」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、クリーン・トーンのギターと、ミュートを装着したトランペットらしき音が漂う、音響的な1曲。ミュートを使用しているから、「Mute2」というタイトルなのでしょうか。

 2曲目「Polaroid」は、程よく歪んだギターと、シンプルなリズム隊が、ミドル・テンポに乗って緩やかにグルーヴしていく1曲。再生時間1:20あたりからの、うなりを上げるようなギターなど、シンプルでむき出しのかっこよさに溢れたロック・チューン。

 3曲目「Gutter」は、タイトルのとおり楽器はギターのみが使用され、ボーカルと共に絡み合うように、ゆるやかに疾走する1曲。

 4曲目「Naked Pilseners」には、スーパーチャンクと同じくマージ所属のバンド、エレクトス・モノトーン(Erectus Monotone)のジェニファー・ウォーカー(Jennifer Walker)が、ベースとボーカルで参加。緩やかにグルーヴしていく演奏に、男女混声のコーラスワークが重なり、幻想的な空気を醸し出す1曲。

 5曲目「Tree Killer」は、歪んだギターと、ブチギレ気味のボーカルが疾走するガレージ・ロック風の1曲。ピコピコ系のキーボードの音色もローファイかつカラフルな空気を演出し、アクセントになっています。

 6曲目「Creeping Around」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされた、弾き語りに近い編成の、穏やかな1曲。

 8曲目「Silver Screw」は、激しく歪んだ2本のギターを主軸に、個人によるオーバーダビングらしからぬ、バンド感の強いアンサンブルが展開される曲。

 9曲目「Beer And Chocolate Bars」には、ニュージーランド出身のロックバンド、ザ・バッツ(The Bats)のケイ・ウッドワード(Kaye Woodward)がボーカルで参加。アコギとクリーントーンのエレキ・ギター、ドラムがゆったりと絡み合うアンサンブルに、穏やかなコーラスワークが重なる、牧歌的な雰囲気の1曲。

 11曲目「Memphis」は、立体的なサウンドを持った、古き良きロックンロールを彷彿とさせる疾走感に溢れた曲。

 12曲目「Receiver」は、スローテンポに乗せて、トレモロのかかった揺れるギターのサウンドと、ささやき系のボーカルが溶け合う、幻想的な1曲。再生時間1:33あたりから入ってくる、歌心の溢れたエモーショナルなエレキ・ギターが、楽曲に奥行きを与えています。

 前述したとおり、本作はマック・マッコーンがほぼ全ての楽器を1人で演奏しているのですが、実に多彩な楽曲とアレンジが詰め込まれたアルバムです。しかし、カラフルなアルバムと言うのとは違う、ゆるやかな一貫した空気も同時に持っていて、聴く人によってはやや地味な印象を受けるかもしれません。

 スーパーチャンクには消化しきれない部分を、ポータスタティックで放出しているということなのでしょうか。いずれにしても、メインのバンドと並行して、ここまでのクオリティのアルバムを作り上げるところに、マック・マッコーンのクリエイティヴィティの充実を感じます。

 





Superchunk “Foolish” / スーパーチャンク『フーリッシュ』


Superchunk “Foolish”

スーパーチャンク 『フーリッシュ』
発売: 1994年4月18日
レーベル: Merge (マージ)
プロデュース: Brian Paulson (ブライアン・ポールソン)

 ノースカロライナ州チャペルヒル出身のバンド、スーパーチャンクの4thアルバム。メンバーのマック・マコーンとローラ・バランスによって設立されたレーベル、Mergeからリリース。プロデュースはブライアン・ポールソン、ミックスはスティーヴ・アルビニが担当。

 デビュー当初からのスーパーチャンクの武器である、疾走感とドライヴ感はそのままに、バンドの音楽性の拡大を示す1枚です。テンポを抑えた曲が増え、アンサンブルも高度に練り上げられ、コントラストや迫力の演出が、格段に向上しています。
 
 さらに、音がいい。音圧が圧倒的に高いというわけではないのですが、無駄なプロデュースが無く、各楽器が生々しく、臨場感あふれるサウンドでレコーディングされています。

 アルバムの幕を開ける、1曲目は「Like A Fool」。ゆったりと堂々としたテンポの曲です。イントロは2本のギターが、それぞれ穏やかに単音フレーズとコードを弾いていくのですが、再生時間1:00あたりでフル・バンドになると、パワフルに躍動感を響かせます。ドラムの音が立体的にレコーディングされていて、下から響くような鳴り方。

 2曲目の「The First Part」は、そこまでテンポが速いわけではありませんが、ギターのフレーズや、ベースの音程の動くタイミングが推進力になって、ドライブ感が溢れる1曲です。楽曲が前に進んでいく力が、みなぎっています。

 3曲目「Water Wings」は、イントロから感情が吹き出したかのようなギターが曲を先導。ともに歪んだ2本のギターと、タイトなリズム隊、開放感のある高音ボーカルが一丸となって迫ってくる1曲。

 4曲目の「Driveway To Driveway」は、各楽器が絡み合うアンサンブルが心地よい、ミドルテンポの1曲です。ところどころ声が裏返りそうなギターのサウンドも、アクセントになって耳に残ります。

 10曲目「Revelations」は、嵐の前の静けさのようなイントロから、途中でテンポも音量も上がるコントラストが鮮やかな1曲。ドラムの立体的な音もかっこいい。

 サウンドもアンサンブルもオーバー・プロデュースにならず、ロックのかっこいい部分を凝縮したようなアルバムです。ここまでの3作と比べて、楽曲の幅やアレンジには洗練も感じます。しかし、前の3作が劣っているというわけでも、本作がメジャー的な作風になったというわけではありません。

 あくまで地に足が着いたかたちで、自分たちの音楽を追求する姿勢が、音にも滲み出た1作です。

 





Shellac “At Action Park” / シェラック『アット・アクション・パーク』


Shellac “At Action Park”

シェラック 『アット・アクション・パーク』
発売: 1994年10月24日
レーベル: Touch And Go (タッチ・アンド・ゴー)

 レコーディング・エンジニアとして高名な、スティーヴ・アルビニ率いるバンド、シェラックの1stアルバムです。

 レコーディング・エンジニアとしてのアルビニは、生々しく臨場感あふれるサウンドを記録することで知られます。そんなアルビニ率いるシェラックの1作目は、彼の理想の音が閉じ込められた、ロックが持つサウンドのかっこよさが凝縮されたようなアルバムです。

 音数を絞り、ストイックなまでに無駄のないアンサンブルが、生々しく臨場感あふれる音で展開されます。

 1曲目「My Black Ass」では、金属的なざらついたサウンドのギターが、空気を切り裂くように鋭く響きます。硬質でハリのあるサウンドのベース、立体的に録音されたドラムも迫力満点。ロックのダイナミズムが凝縮されたような1曲。

 2曲目の「Pull The Cup」は、少し鼻にかかったような歪みのギターが、イントロからぎこちなく、しかし鋭くフレーズを弾き、空気まで揺らすようなドラムが空間の広さを伝え、ベースが全体を引き締める絶妙のバランス。スリルと緊張感が溢れる1曲です。

 3曲目「The Admiral」。低音が響きわたるドラム、呪術的にリフを繰り返すギター、両者をつなぐように淡々とリズムを刻むベース。全てが絡み合うアンサンブルは、マスロックを連想させる機能性を持ちながら、難解な印象は全くなく、とにかくかっこよさの凝縮された1曲です。

 5曲目「Song Of The Minerals」は、イントロからメタリックな響きのギターが暴れまわります。ボーカルが入ってくると、今度はタイトなリズム隊が場を引き締め、メリハリのある展開。

 8曲目の「Dog And Pony Show」ドラムの残響音まで生々しく記録された、サウンド・プロダクションが素晴らしい1曲。ギターとベースも、贅肉を削ぎ落としたタイトでストイックなサウンド。

 とにかく音自体がかっこいい、そういう意味では音響が前景化されたアルバムです。数多くの作品でレコーディング・エンジニアを務めるスティーヴ・アルビニですが、シェラックで聴かれる音像とサウンド・プロダクションは、彼の理想のひとつなんでしょう。

 シェラックの作品の中でも、フォームのはっきりした聴きやすい曲が多く、アルビニ入門の1枚としても、タッチ・アンド・ゴーの名盤の1枚としても、オススメできます。

 





Gastr Del Sol “Crookt, Crackt, Or Fly” / ガスター・デル・ソル『クルックト・クラックト・オア・フライ』


Gastr Del Sol “Crookt, Crackt, Or Fly”

ガスター・デル・ソル 『クルックト・クラックト・オア・フライ』
発売: 1994年4月18日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークの双頭グループ、ガスター・デル・ソルの1994年リリースのアルバムです。

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークという個性の強い2人、さらにかつてはジョン・マッケンタイアとバンディー・K・ブラウンが在籍していたことでも有名。本作のレコーディングには、ジョン・マッケンタイアも参加しています。

 本作『Crookt, Crackt, Or Fly』を一言であらわすなら、アコースティック・ギターを中心に据えた、実験的ポップス、といったところでしょうか。アコースティック・ギターを主軸に、電子音や激しく歪んだエレキ・ギター、素朴なボーカルが絡み合う1作です。

 奇妙なフレーズと不協和音を奏で続けるアコースティック・ギター、ときには牧歌的、ときにはスポークン・ワードのように感情を排した歌い方をするボーカルが、ある意味ではバランスの取れた組み合わせと言えます。

 歌とアコギが入っていると聞けば、歌モノの作品を想像してしまいますが、本作はいわゆるアコギの弾き語りのような音楽を想像して聴くと、期待を裏切られることでしょう。

 1曲目の「Wedding In The Park」は、フィールド・レコーディングされた虫の音と、飾り気のないボーカルが重なる1分ほどの曲。アルバムへのイントロダクション的な役割の曲ということでしょう。

 2曲目の「Work From Smoke」は、イントロからアコースティック・ギターが、不協和音を織り交ぜ、アヴァンギャルドなフレーズをひたすら弾き続けます。やがて飾り気のないボーカルが重なり、後半はアンビエントな持続音が、不穏な空気を醸し出す展開。

 4曲目の「Every Five Miles」も、アコースティック・ギターが実験的なサウンドを響かせる1曲。なにが協和で、なに不協和なのか、わからなくなってきます。

 5曲目の「Thos.Dudley Ah! Old Must Dye」は、奇妙な響きのアコースティック・ギターと、奥の方で鳴るノイズに、純粋無垢なボーカルが溶け合う…ような、溶け合わないような1曲。

 6曲目「Is That A Rifle When It Rains?」は、切れ味鋭く歪んだエレキ・ギターと、スポークン・ワードのようなメロディー感の希薄なボーカルが噛み合う、ロックでジャンクな1曲。

 8曲目の「The Wrong Soundings」は、14分を超える大曲。ここまでのアルバムを総括するように、不穏な響きのアコースティック・ギター、ジャンクに歪んだエレキ・ギター、アンビエントな空気感などが、コラージュのように重なり合う1曲です。

 前述したように、アコースティック・ギターを中心にした、歌も入った曲でありながら、一般的なロックやポップスを聴く感覚からすると、全くポップではありません。

 しかし、そこまで敷居の高い作品かというとそうでもなく、不協和だと思っていた響きが心地よく思えてきたり、奇妙なフレーズがやけに耳に残ったり、という体験をできるのが本作です。

 聴く人をある程度選ぶ作品だとは思いますが、気になった方はぜひとも聴いてみてください!

 





Tortoise “Tortoise” / トータス『トータス』


Tortoise “Tortoise”

トータス 『トータス』
発売: 1994年6月22日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴのポストロック・バンド、トータスの記念すべきデビュー・アルバムです。

 この後の彼らの作品と比較すると、各楽器の音色も、全体のサウンド・プロダクションも、非常にシンプル。その代わりに、バンドが鳴らす音とアンサンブルが、むき出しのまま前景化される印象を受けます。

 シカゴ音響派という言葉でくくられることも多いトータス。本作は彼らのアルバムの中で、最も音響的な作品であると言えるかもしれません。

 1曲目は「Magnet Pulls Through」。アンビエントな電子ノイズが全体を包み、メロディーやリズムよりも、音響が前景化されたイントロ。しかし、再生時間1:05あたりからベース、続いてドラムが入ってくると、次第に躍動感が生まれ、形を持った音楽がゆっくりと目を覚まし、立ち上がります。

 2曲目「Night Air」は、スローテンポにのせて、各楽器がレイヤーのように重なりながら、漂っていく1曲。全くメロディアスではありませんが、ボーカルらしき声も入っています。しかし、メロディーやリズム、バンドのアンサンブルが前景化されるのではなく、あくまで全体のサウンドの響きを優先したような聴感。

 3曲目「Ry Cooder」は、イントロから比較的つかみやすいフォームを持って始まります。再生時間1:00あたりからの、うなりをあげるギターなど、進行感もあり、一般的なポップ・ミュージックに近い形式の1曲。と言っても、ヴァースとコーラスが循環するわけでは決してなく、刻一刻と変化を続けるサウンドスケープと言ったほうが適切。

 6曲目「Spiderwebbed」は、違和感を強く感じさせる奇妙なベースのフレーズが繰り返され、ギターやドラムが入り、徐々に音楽が形を明らかにするような展開。

 8曲目「On Noble」は、ドラムのリズムを中心に、緻密なアンサンブルが展開される1曲。再生時間0:36あたりで、ドラムが立体的にリズムを刻み始めてからのグルーヴ感が心地よい。

 10曲目「Cornpone Brunch」は、遊び心のあるイントロの後、各楽器が絡み合い、タベストリーのように美しいアンサンブルを編み込んでいく1曲です。模様が次々と変わっていくような、常に変化を続ける展開には、トータスらしさが凝縮されています。

 余計な飾り気なく、オーガニックな響きの楽器を用いて、淡々とアンサンブルを構成していく本作。全体のサウンドはどこか懐かしく、暖かみがありながら、無駄を一切削ぎ落としたストイックな雰囲気も漂います。

 アンサンブルの面でも、ポスト・プロダクションの面でも、今後のトータスと比較していまうと実験性や革新性は控えめですが、その代わりにバンド本来の音響とアンサンブルが、前景化された作品であるとも思います。

 このあとに発表される、2ndアルバム以降の作品があまりにも素晴らしいので、やや霞んでしまいますが、本作も優れたクオリティを持った作品であるのは間違いありません。