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Joanna Newsom “Ys” / ジョアンナ・ニューサム『イース』


Joanna Newsom “Ys”

ジョアンナ・ニューサム 『イース』
発売: 2006年11月6日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Van Dyke Parks (ヴァン・ダイク・パークス)

 カリフォルニア州ネバダシティ出身のハープ奏者でありシンガーソングライター、ジョアンナ・ニューサムの2ndアルバム。タイトルは「ワイエス」ではなく、「イース」と読みます。

 プロデュースとオーケストラのアレンジをヴァン・ダイク・パークス、ミックスをジム・オルーク、レコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当する、この手のインディー好きにはたまらない豪華な布陣。

 本作には、30人を超えるオーケストラが参加しており、非常に立体的かつ厚いサウンドを響かせています。このうち20人以上はバイオリン等のストリングス隊です。

 オーケストラ以外の楽器も、ジョアンナ・ニューサム自身が奏でるハープを筆頭に、バンジョーやアコーディオンなどアコースティック楽器がほとんど。また、マリンバとパーカッションは入っていますが、ドラムセットは使用されていません。

 これは凄いアルバムです。ロックやポップスでストリングスを導入すると、基本的には楽譜に記されたとおりのリズムで旋律を演奏し、いわゆるクラシックのような雰囲気がプラスされます。

 しかし、本作ではヴァイオリンやヴィオラが、完全なフリーフォームで弾いているのかと思わせるぐらい、圧倒的なグルーヴ感と躍動感を響かせます。しかも、前述したとおりストリングス隊は20人を超える人数。その多数のストリングスが有機的に絡み合い、いきいきと生命力あふれるアンサンブルを繰り広げます。

 さらに、ジョアンナ・ニューサムの独特のクセのある、チャイルディッシュな声も唯一無二。童話の世界か、壮大な神話の世界に迷い込んだのかと思うぐらい、メルヘンチックで幻想的な音楽が展開される作品です。

 1曲目の「Emily」から、12分を超える大曲です。ジョアンナのハープの弾き語りから始まり、徐々に楽器が増加。再生時間2分を過ぎる頃には、立体的かつ躍動感あふれる音楽が構成されます。再生時間2:33あたりからの短い間奏の、流れるように盛り上がっていくバイオリンも凄い。

 前述したとおり、このアルバムではドラムが使われていません。しかし、まるでバンド全体が一体の生き物であるかのごとく、呼吸をし鼓動を打つように音楽全体が躍動するため、ビートが足りないという感覚は全くありません。生楽器のオーガニックな音色を用いて、スケールの大きなアンサンブルが展開される1曲です。

 2曲目の「Monkey & Bear」は、1曲目「Emily」とは雰囲気が変わって、童話の世界に迷い込んだかのような、かわいらしい1曲。しかし、かわいいだけではなく、異世界の得体の知れなさも内包した雰囲気があります。

 圧倒的なボリュームでストリングスが迫り来る「Emily」とは違い、ハープが中心に据えられ、それを取り囲むようにトランペットやバイオリンが彩りをプラスします。

 3曲目の「Sawdust & Diamonds」は、ハープの弾き語り。自ずとジョアンナの声とメロディーが前景化されます。9分を超える曲ですが、まるで口から自然と音楽が流れ出るかのように、ハープと声のみで疾走感とダイナミズムを生み出す展開は圧巻。

 4曲目「Only Skin」。イントロから、泉から音楽が湧き出てくるかのように、オーガニックでみずみずしいサウンドが流れ出します。ストリングスとハープが立体的に絡み合うアンサンブルは、高度なコミュニケーションを楽しんでいるかのよう。再生時間7:35あたりからの、巧みに緩急をつけながら前進していく展開にもワクワクします。

 5曲目の「Cosmia」は、独特のハリのある優しいサウンドのハープと、緊張感を演出するようなストリングスが対比的な1曲。ジョアンナのボーカルも、起伏が大きくエモーショナル。このアルバムの中では最も短い曲(それでも7分15秒)ですが、展開が多く、物語を見ているかのような感覚になります。

 5曲収録で、およそ55分。長い曲が多いですが、冗長な印象はなく、この世界観を表現するなら、これぐらいの時間は必要だよね、と思う曲ばかり揃っています。

 前述したとおり、大量のストリングス隊が参加していますが、クラシカルな雰囲気とは異質な、オーガニックで生命力あふれる、全く新しいオーケストラのサウンドが展開されていると思います。

 本当に素晴らしい作品ですし、あまり似ている音楽が無い、という意味でもオススメしたい1枚です。

 





Loose Fur “Born Again In The USA” / ルース・ファー『ボーン・アゲイン・イン・ザ・USA』


Loose Fur “Born Again In The USA”

ルース・ファー 『ボーン・アゲイン・イン・ザ・USA』
発売: 2006年3月21日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 ジム・オルークとグレン・コッチェ、ウィルコのジェフ・トゥイーディによるバンドの2ndアルバムであり、最後のアルバム。グレン・コッチェは、後にウィルコに加入することになります。

 『Born Again In The USA』という示唆的なタイトルを持った本作。その名のとおり、古き良きロックンロールや、フォークやカントリー等のルーツ・ミュージックを下敷きにしながら、それだけにとどまらないアレンジとアンサンブルが展開されるアルバムです。ジム・オルークとウィルコが融合した作品だと思えば、納得できる音楽性。

 1曲目の「Hey Chicken」は、イントロからディストーション・ギターが鳴り響き、シンプルなロックンロールが炸裂する1曲です。しかし、縦のぴったり揃ったアンサンブルや、フックとなる効果的な楽器の重ね方など、ウィルコっぽさを感じさせる部分もあり。

 2曲目「The Ruling Class」は、緩やかにグルーヴしていくカントリー風味の1曲。口笛の音色も牧歌的な空気を色濃くしています。

 4曲目「Apostolic」は、ポストロックやマスロックを思わせる、リズムが周期的に切り替わる、緻密なアンサンブルが特徴の1曲。インストでもおかしくない雰囲気ですが、歌が入ってきて、ポップ・ミュージックの枠組みも備えています。再生時間0:56あたりからのメロディアスなベースと、流れるようなアコースティック・ギターなど、聴きどころとなるフックが、続々と放たれます。

 5曲目「Stupid As The Sun」は、シンプルな縦ノリのリズムと、意外性のあるコード進行が融合した1曲。イントロからの第一印象はシンプルなロック色の強い曲ですが、違和感が耳に引っかかり、クセになっていく曲です。

 8曲目「Thou Shalt Wilt」は、キーボードとベースが前に出た、立体的な音像を持った1曲。

 前述したとおり、一聴するとシンプルなロックンロールに聞こえるような曲にも、いたるところに音楽的なフックが配置されていて、聴けば聴くほどに魅力が増していく作品です。

 僕はジム・オルークもウィルコも大好きなのですが、期待を裏切らない1作。両者のどちらかが好きな方は、聴いておいて損はない作品だと思います。そうではない方にも、十分オススメできる1作!

 





Gastr Del Sol “Upgrade & Afterlife” / ガスター・デル・ソル『アップグレード・アンド・アフターライフ』


Gastr Del Sol “Upgrade & Afterlife”

ガスター・デル・ソル 『アップグレード・アンド・アフターライフ』
発売: 1996年6月17日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークという、非常に個性の強い2人が集ったグループ、ガスター・デル・ソルの1996年リリースのアルバムです。

 アコースティック・ギターは不協和音を響かせ、ピアノは奇妙なフレーズを弾き、耳障りなノイズが飛び交い、アンビエントな電子音が持続し、飾り気のない優しい声のボーカルが歌う…このアルバムの音を言語化してみると、このようになります。

 いわゆるポップな音楽ではありませんが、アヴァンギャルドで取り付く島もないぐらいの作品かというと、そうでもありません。

 聴く人を選ぶ音楽であることは事実ですが、不協和音と思われていた響きが心地よく聞こえてきたり、耳障りなノイズと思っていた音が妙に耳に残ったり、という発見がいくつもある作品です。

 1曲目「Our Exquisite Replica Of “Eternity”」は、電子音が持続するアンビエントな1曲。再生時間2:30あたりから登場する、耳障りな高音ノイズがアクセント。

 2曲目「Rebecca Sylvester」は、どこか不穏な響きを持ったアコースティック・ギターに、素朴なボーカルが乗る1曲。途中から導入されるアンビエントな電子音が、不穏で幻想的な雰囲気をさらに色濃くします。

 3曲目「The Sea Incertain」は、捻れたピアノ・バラードといった空気の1曲。再生時間1:04あたりから近づいてくる電子音も、アンビエントで不可思議な空気感を演出します。アルバムを通して言えることですが、音質の選び方、音の置き方が、とても効果的だと思います。

 4曲目の「Hello Spiral」は、イントロから無数のノイズが飛び交い、それが過ぎ去ると、アンビエントな電子音とともに、牧歌的なボーカルとアコギが聞こえてきます。その後も再生時間2:30あたりから、複数のギターが重なっていったりと、次々と展開のある1曲。

 7曲目の「Dry Bones In The Valley (I Saw The Light Come Shining ‘Round And ‘Round)」は、フィンガー・スタイル・ギターの名手、ジョン・フェイヒィ(John Fahey)のカバー。イントロからアコースティック・ギターが大活躍し、アルバムの流れの中でほっとする1曲です。

 前述したとおり、明確な形式も持たず、誰でも楽しめる作品というわけではありませんが、随所にデイヴィッド・グラブスとジム・オルークという2人の鬼才の存在感が溢れる、スリリングな1作です。

 正直、一般的にはちょっと敷居が高いアルバムだとは思うのですが、ジム・オルークの歌モノが好きな方などにも、聴いてみてほしいです。

 





Gastr Del Sol “Crookt, Crackt, Or Fly” / ガスター・デル・ソル『クルックト・クラックト・オア・フライ』


Gastr Del Sol “Crookt, Crackt, Or Fly”

ガスター・デル・ソル 『クルックト・クラックト・オア・フライ』
発売: 1994年4月18日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークの双頭グループ、ガスター・デル・ソルの1994年リリースのアルバムです。

 デイヴィッド・グラブスとジム・オルークという個性の強い2人、さらにかつてはジョン・マッケンタイアとバンディー・K・ブラウンが在籍していたことでも有名。本作のレコーディングには、ジョン・マッケンタイアも参加しています。

 本作『Crookt, Crackt, Or Fly』を一言であらわすなら、アコースティック・ギターを中心に据えた、実験的ポップス、といったところでしょうか。アコースティック・ギターを主軸に、電子音や激しく歪んだエレキ・ギター、素朴なボーカルが絡み合う1作です。

 奇妙なフレーズと不協和音を奏で続けるアコースティック・ギター、ときには牧歌的、ときにはスポークン・ワードのように感情を排した歌い方をするボーカルが、ある意味ではバランスの取れた組み合わせと言えます。

 歌とアコギが入っていると聞けば、歌モノの作品を想像してしまいますが、本作はいわゆるアコギの弾き語りのような音楽を想像して聴くと、期待を裏切られることでしょう。

 1曲目の「Wedding In The Park」は、フィールド・レコーディングされた虫の音と、飾り気のないボーカルが重なる1分ほどの曲。アルバムへのイントロダクション的な役割の曲ということでしょう。

 2曲目の「Work From Smoke」は、イントロからアコースティック・ギターが、不協和音を織り交ぜ、アヴァンギャルドなフレーズをひたすら弾き続けます。やがて飾り気のないボーカルが重なり、後半はアンビエントな持続音が、不穏な空気を醸し出す展開。

 4曲目の「Every Five Miles」も、アコースティック・ギターが実験的なサウンドを響かせる1曲。なにが協和で、なに不協和なのか、わからなくなってきます。

 5曲目の「Thos.Dudley Ah! Old Must Dye」は、奇妙な響きのアコースティック・ギターと、奥の方で鳴るノイズに、純粋無垢なボーカルが溶け合う…ような、溶け合わないような1曲。

 6曲目「Is That A Rifle When It Rains?」は、切れ味鋭く歪んだエレキ・ギターと、スポークン・ワードのようなメロディー感の希薄なボーカルが噛み合う、ロックでジャンクな1曲。

 8曲目の「The Wrong Soundings」は、14分を超える大曲。ここまでのアルバムを総括するように、不穏な響きのアコースティック・ギター、ジャンクに歪んだエレキ・ギター、アンビエントな空気感などが、コラージュのように重なり合う1曲です。

 前述したように、アコースティック・ギターを中心にした、歌も入った曲でありながら、一般的なロックやポップスを聴く感覚からすると、全くポップではありません。

 しかし、そこまで敷居の高い作品かというとそうでもなく、不協和だと思っていた響きが心地よく思えてきたり、奇妙なフレーズがやけに耳に残ったり、という体験をできるのが本作です。

 聴く人をある程度選ぶ作品だとは思いますが、気になった方はぜひとも聴いてみてください!

 





Jim O’Rourke “Insignificance” / ジム・オルーク『インシグニフィカンス』


Jim O’Rourke “Insignificance”

ジム・オルーク 『インシグニフィカンス』
発売: 2001年11月19日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク), Jeremy Lemos, Konrad Strauss

 イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる3枚目のアルバム。アルバム作品以外では、前作『Eureka』と本作『Insignificance』の間に、4曲入りのEP『Halfway To A Threeway』を発売しています。

 ドラッグ・シティ過去2作のアルバムは、全体の耳ざわりとしてはフォークやカントリーを感じさせる、アメリカーナな音像を持っていましたが、本作はロックな方向へ舵を切った1作と言えます。

 と言っても、現代的なラウドなディストーション・ギターを全面に押し出したアルバムという意味ではなく、50~60年代のオールドロックを、現代的に再解釈したアルバムと言った方が適切です。そういう意味では、素材としてピックアップした音楽は異なりますが、過去2作と方法論は近いとも言えます。

 1曲目「All Downhill From Here」から、パワフルで臨場感あふれるサウンドのドラムと、中音域の豊かなほどよく歪んだギターが、グルーヴしていきます。ジムの暖かみのある声は、ロックには不向きと思えますが、この曲では感情を抑えたクールな歌唱が、古き良きロックンロールの香り立つ演奏と、絶妙にマッチしています。

 2曲目「Insignificance」は、ギターとヴィブラフォンが、1枚の織物のようにアンサンブルを編み込んでいく1曲。随所の聴こえる不思議な電子音のようなサウンドもアクセントになっています。再生時間0:56あたりから入ってくるエレキ・ギターのフレーズも、音の運びが裏返ったようなサイケデリックな空気をふりまきながら、曲のなかにぴったりと馴染んでいます。いくつもの違和感が、すべて音楽のフックへと転化していく、ジム・オルークらしい展開。

 3曲目の「Therefore, I Am」は、イントロからハード・ロック的に歪んだギターが響きます。しかし、そのままロックのサウンドや形式を借りるだけでは終わらないのがジム・オルーク。再生時間1:45あたりからの様々な楽器が重層的に連なるアレンジなどに、彼のねじれたポップ感覚が垣間見えます。

 7曲目「Life Goes Off」は、イントロからアコースティック。ギターを中心に、オーガニックなサウンドが響きます。そこから、再生時間1:29あたりからの細かくリズムを刻むドラムなど、変幻自在のサウンドやフレーズが、次々と顔を出す1曲です。

 アルバム全体を通して聴くと、ラウドなギターが響く前半、ドラッグ・シティでの前2作に通ずるアコースティックな後半、という流れになっています。

 前2作に比べて、ディストーション・ギターのサウンドが加わったことにより、サウンド・プロダクションの印象は大きく変わっています。しかし、様々なサウンドやジャンルの要素を組み合わせ、全く新しいポップ・ミュージックを作り上げる、ジムのセンスは変わっていません。

 本作も、ラウドな音をルーツ・ミュージックや電子音楽と溶け合わせた、極上のポップ・ミュージックが響くアルバムであると言えます。