Jim O’Rourke “Eureka”
ジム・オルーク 『ユリイカ』
発売: 1999年2月25日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Jim O’Rourke (ジム・オルーク)
イリノイ州シカゴ出身のミュージシャン、ジム・オルークのドラッグ・シティからリリースされる2枚目のアルバム。
フリー・インプロヴィゼーションや音響的な作品、ノイズや現代音楽など、実に多種多様な音楽を生み出すジム・オルーク。とっつきにくい印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、シカゴの名門インディペンデント・レーベル、ドラッグ・シティからリリースされている作品は、どれもポップです。
しかし、耳にやさしく聴きやすい音楽であるのと同時に、ジム・オルークの音楽的教養の深さ、知識の豊富さが感じられる、広大な世界観を持った作品でもあります。
本作『Eureka』は、カントリーやフォークなどのルーツ・ミュージック、古き良きアメリカン・ポップス、さらに電子音を使った音響的なアプローチやフレンチ・ポップまで、多種多様な音楽が、現代的な手法で再構築した1枚です。
言語化すると、なんだか小難しそうですが、できあがった音楽はどこまでも優しく、音楽の心地いい部分だけを素材として使い、凝縮したようにポップです。
アルバム1曲目の「Prelude To 110 Or 220 / Women Of The World」では、イントロからフィンガー・ピッキングによる、ナチュラルなアコースティック・ギターの音が響きます。しかし、ギターが鳴っているのは主に右チャンネル。左チャンネルからは、電子音のような響きが近づいてきます。両者は絶妙に溶け合い、全体として、とても心地よい響きを生み出すから不思議。
さらに再生時間0:20あたりで、視界が大きく開けるように、楽器の数が増え、カラフルで開放的なアンサンブルとサウンドを構成します。このあとも、ジムの優しい歌声が加わったり、1:48あたりからギターと電子音が絡み合うように旋律を紡いだりと、次々と風景が変わるように、展開していく1曲です。8分を超える曲ですが、全く冗長な印象はありません。
3曲目「Movie On The Way Down」は、音数が少なく、レコード針のノイズのような音が持続する、アンビエントなイントロから、徐々に音楽が姿をあらわしていきます。様々な音が重なり合い、幻想的な音世界を作り上げていく1曲。
4曲目の「Through The Night Softly」は、スティール・ドラムの響きがかわいらしい1曲。音の配置を変えれば、もっとアヴァンギャルドな印象の曲になりそうですが、一般的なヴァース-コーラス形式とは違うものの、進行感も感じられ、ポップな曲に仕上がっています。
6曲目の「Something Big」は、ピート・バカラックのカバー。こんなところにも、ジムの過去の音楽への深いリスペクトが感じられます。
前述したように、非常にポップで、楽しいアルバムです。しかも、どこかで聴いたことがありそうで、どこでも聴いたことがない、新しさにも溢れた1作。
様々な音楽を、再解釈し組み上げるセンスからは、ジム・オルークの音楽的語彙の豊富さと、音楽への深い愛情が伝わります。深い意味で、ポップな作品です。こういう作品が、もっと売れる世界になってほしい。(世界中で十分に売れた作品ですが…)