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Edith Frost “Telescopic” / イーディス・フロスト『テレスコピック』


Edith Frost “Telescopic”

イーディス・フロスト 『テレスコピック』
発売: 1998年10月20日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Neil Hagerty (ニール・ハガーティ), Jennifer Herrema (ジェニファー・ヘレマ)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの2ndアルバム。

 1stアルバム『Calling Over Time』と、4thアルバム『It’s A Game』でプロデューサーを務めているリアン・マーフィーは、今作ではドラマーとしてレコーディングに参加しています。代わってプロデュースを手掛けるのはニール・ハガーティとジェニファー・ヘレマの2人。このコンビは、クレジット上は「Adam And Eve」と表記されています。

 イーディス・フロストの音楽は、根底に共通する部分も持ちながら、アルバムによってかなり耳ざわりが異なります。本作は彼女のアルバムのなかで、最もノリが良く、ラウドなサウンドを持った1枚と言えるでしょう。と言っても、轟音ギターがガンガンに鳴り響く作品ではありません。

 彼女の音楽の特徴は、フォークやカントリーを下敷きにしながら、実験的なアプローチを導入し、現代的なサウンドに丁寧に仕上げるところです。そのため「オルタナ・カントリー」のジャンルに括られることもしばしば。本作も、ルーツ・ミュージックへのリスペクトも感じさせながら、テンポを上げ、エレキ・ギターやキーボードが、サウンドに彩りを加えています。

 1曲目「Walk On The Fire」は、ローファイな歪みのギターと、ドタバタしたドラム、遠くで鳴る電子音のような音と、イーディスの幻想的な声が、絶妙なバランスで溶け合う、アルバム中屈指の完成度のトラックです。

 2曲目「On Hold」は、ややポリリズミックな構成のアンサンブルが心地よい1曲。アコースティック・ギターなど、鳴っている音自体には奇をてらったところはないのに、全体として聴くとサイケデリックな雰囲気を醸し出します。

 4曲目の「The Very Earth」は、スライドギターとアコースティック・ギターが、カントリーを思わせる1曲。でも、イーディスの浮遊感のあるカントリーくさくないボーカルのためか、全体としてはカントリーの印象はそこまで強くなく、モダンな耳ざわり。

 6曲目はアルバム表題曲の「Telescopic」。アコースティック・ギターのコード・ストロークを中心に据えたアレンジですが、どこか濁りを感じるコードの響きと、迫りくるようなチェロの音が、サイケデリックな香りをふりまきます。

 11曲目「Tender Kiss」は、フォーキーなサウンドに、パーカションがオルタナティヴな雰囲気をプラスします。ストリングスも入っていますが、ストリングスらしくない使われ方で、民謡をオルタナティヴ・ロックの方法論で再構築したような1曲。

 イーディス・フロストは大好きなんですが、このアルバムは特にオススメしたい1枚です。ルーツ・ミュージックとインディー・ロックが、理想的な融合を果たした作品であると思います。

 本作『Telescopic』と、2ndアルバム『Wonder Wonder』は、心からオススメしたい作品! ぜひ聴いてみてください!

 





Edith Frost “It’s A Game” / イーディス・フロスト『イッツ・ア・ゲーム』


Edith Frost “It’s A Game”

イーディス・フロスト 『イッツ・ア・ゲーム』
発売: 2005年11月15日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの4枚目のアルバムです。これまでの3枚のアルバムと同じく、シカゴのドラッグ・シティからのリリース。

 ピアノとアコースティック・ギターを中心にした、音数を絞ったアンサンブル。フォーキーなサウンド・プロダクションながら、効果的に使用されるシンセサイザーと思われる電子音とエレキギター、イーディスのアンニュイな声によって、全体としては幻想的な雰囲気が漂います。早朝、朝靄がかかった湖畔か森の中を、散歩しているような気分になる1枚。

 2曲目「It’s A Game」は、余裕のあるゆったりとしたテンポで、各楽器もリラックスして、音を丁寧に置いていくようなアレンジ。シンセサイザーなのか、奥の方では電子音が、アンサンブル全体を優しく包みこむように鳴っています。

 4曲目の「A Mirage」は、2本のアコースティック・ギターとベースのゆったりした伴奏の上に、雰囲気たっぷりのイーディスの声が漂う1曲。途中から入ってくるボトルネック奏法のような音のギターと、柔らかな音質の電子音が、曲に彩りをプラスしています。蜃気楼を意味するMirageという曲名のとおり、揺らめくような幻想的な雰囲気の1曲。

 10曲目の「If It Weren’t For The Words」は、シンセサイザーの持続音とアコースティック・ギターが、レイヤーのように重なり、優しく広がるような音像。

 音数を絞ったリラクシングなアンサンブルが展開される1枚です。「オルタナ・カントリー」と呼ぶほど実験的でもなければ、「フリーク・フォーク」と呼ぶほどサイケデリックでもありませんが、エレキギターと電子音が、フォーキーなサウンドに彩りを加えています。

 各楽器の音もナチュラルで、まるでそこで鳴っているかのような耳ざわりをしており、サウンド・プロダクションと楽曲のバランスも秀逸だと思います。

 





Edith Frost “Calling Over Time” / イーディス・フロスト『コーリング・オーバー・タイム』


Edith Frost “Calling Over Time”

イーディス・フロスト 『コーリング・オーバー・タイム』
発売: 1997年4月22日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの1stアルバム。シカゴの名門レーベル、ドラッグ・シティからの発売で、レコーディングにはジム・オルークやデヴィッド・グラブスも参加しています。

 アコースティックギターとピアノを中心に据えたミニマルで幻想的な1枚。エレキギター、ドラム、電子音も聞こえますが、あくまで味付け程度。しかし、どれも少ない音数で効果的にアルバムを彩っています。

 音数を絞ることで、イーディスの声が自ずと前景化される作品とも言えます。感情を排したような、しかしノスタルジックな雰囲気も漂う声が、耳に染み入るような1作です。派手なサウンド・プロダクションではなく、ビート感も希薄なアルバムですが、前述したように音数が少ないだけに、無駄な音が一切なく、全ての音に意味が感じられる作品でもあります。

 1曲目「Temporary Loan」は、アコースティック・ギターの弾き語りが基本でありながら、ポツリポツリと単音を弾くピアノがアクセントになっています。再生時間1:49あたりから入ってくるバイオリンも良い。

 2曲目は「Follow」。ベースなのかシンセサイザーで鳴らしているのか、イントロから聞こえる「ボボーン」という低音。そこに音数を絞ったピアノが入ってくるミニマルなアンサンブル。歌のメロディーとイーディスの声が、空間に染み入るように響きます。

 3曲目はアルバム表題曲の「Calling Over Time」。やや意外性のあるコード進行と、イーディスのささやくような高音域のボーカルが心地よい1曲。

 4曲目「Denied」では、イントロから2種類のサウンドの異なる持続音が響き、ほんの僅かにドラムも入ってきます。一般的にはかなり音数の少ない曲ですが、このアルバムにあっては、かなり音が入っている印象。ドラムが本当にわずかしか入ってこないのに、常にフックになっています。

 6曲目「Too Happy」は、楽器の数も多く、ドラムがビートを刻み、アルバム中では賑やかな1曲。再生時間0:49あたりから入るエレキギターのボトルネック奏法のような音も、流れるような雰囲気の曲にぴったり。

 10曲目「Give Up Your Love」は、アコースティック・ギターの弾き語りを基本にした1曲ですが、コードストロークがはっきりした、リズムが掴みやすい曲です。

 前述したように非常に音が少なく、ミニマルな1枚。その代わりにひとつひとつの音に意味が感じられ、アンサンブルの精度と歌の美しさ、オーガニックな各楽器の音色に、思わずため息がもれるような作品です。

 





Edith Frost “Wonder Wonder” / イーディス・フロスト『ワンダー・ワンダー』


Edith Frost “Wonder Wonder”

イーディス・フロスト 『ワンダー・ワンダー』
発売: 2001年6月17日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Rian Murphy (リアン・マーフィー)
エンジニア: Steve Albini (スティーヴ・アルビニ)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの3rdアルバムです。

 シカゴの名門ドラッグ・シティ(Drag City)からのリリース、さらにレコーディング・エンジニアをスティーヴ・アルビニが担当していることからも、悪いはずがないと聴く前から期待が高まってしまう1枚。結論から言うと期待どおり、いやいや期待以上で、多くの人にオススメしたい1枚です。

 ビブラートなどの無駄な装飾なく、雰囲気たっぷりのイーディスの声。実験性やジャンクさも内包する多彩なアレンジメントとサウンド・プロダクションも、楽曲の魅力を増幅させています。その音楽性から、オルタナ・カントリー(オルタナティヴ・カントリー)の文脈で扱われることもある作品です。

 「オーガニック」という言葉がありますが、今作もまさにオーガニックなアルバムであると評したいです。すなわち、混じり気なしの音素材によって、丁寧に作り上げられた音楽、と言える1枚です。

 特に聴いていただきたいのは、2曲目「Cars And Parties」。バンド全体がトイピアノのような、かわいらしくカラフルな音色のイントロ。オモチャの太鼓のようなサウンドとリズムのドラム。チープかつ可愛いイントロと、コーラスに入ってからの壮大なサウンドとの対比も素晴らしく、本当に名曲。

 そんな、カラフルで楽しいサウンドと、低めのイーディスの声とのバランスも絶妙。「おもちゃ箱をひっくり返したような」という、もはやクリシェ化した形容の仕方がありますけれども、この曲はまさにそれ!です。

 3曲目「Who」は、アコースティック・ギターとまわりの電子音との融合が気持ちいい1曲。リズムとアンサンブルが楽しい2曲目と比べて、サウンド自体が楽しい1曲。ときおり打ち鳴らされる「バスン」という感じのパワフルなバスドラも、アクセントになっています。

 アルバムのタイトルにもなっている4曲目「Wonder Wonder」。この曲もイントロから色とりどりのサウンドが鳴っていて、楽しい1曲。牧歌的な雰囲気というべきなのか、僕はこの曲を聴くと牛がのんびりとたくさんいる牧場の風景が浮かんできます。

 8曲目の「Further」は、臨場感あるサウンドの様々な生楽器が、流れるように有機的に絡み合うアンサンブル。ピアノもストリングスもドラムも、まず音がいいです。

 実にドラッグ・シティらしい、インディーらしい名盤。カントリーの要素もありながら、実験性もポップに昇華されていて、こういう音楽が聴けるからインディーズを掘るのは止められない!と思わせてくれる1枚。日本での知名度は高くありませんが、心からおすすめしたい1作です。