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Pussy Galore “Dial ‘M’ For Motherfucker” / プッシー・ガロア 『ダイヤル・エム・フォー・マザーファッカー』


Pussy Galore “Dial ‘M’ For Motherfucker”

プッシー・ガロア 『ダイヤル・エム・フォー・マザーファッカー』
発売: 1989年4月
レーベル: Caroline (キャロライン), Matador (マタドール)

 ジョン・スペンサーやニール・ハガティが在籍していたバンド、プッシー・ガロアの3rdアルバム。タイトルは、あまり良い言葉ではないので、一部のサイトでは『Dial ‘M’ for M**********r』と表記されています。

 1989年にキャロライン・レコードからリリースされ、その後1998年にマタドールから再発。

 ジャンルとしては、ジャンク・ロックやノイズ・ロックに括られることの多いプッシー・ガロア。本作でも、下品でアングラ臭の漂うジャンクなサウンドと、アヴァンギャルドなアレンジが多用されていて、「ジャンク・ロック」と呼ばれるのも納得の音楽性。

 彼らの音楽は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)と、ニューヨーク・ドールズ(The New York Dolls)にインスパイアされているのもまた納得です。

 1985年にワシントンD.C.で結成され、その後すぐに活動の拠点をニューヨークに移したプッシー・ガロア。間違いなく、ニューヨークのアングラ・シーンの流れの中にある、音楽性を備えたバンドと言えます。

 ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンは、現代音楽的であったり、あえて完成形を示さずに複数のジャンルを組み合わせたりと、メタ的な知性を持ったバンドを、数多く生み出してきました。歴史的にも貿易の要所であり、古くから多様な人種と文化が混合してきた、ニューヨークという都市の特徴とも比例しているのでしょう。

 プッシー・ガロアが本作で鳴らすのも、実に多彩なノイズや奇妙なサウンドを含みながら、ギリギリでポップ・ソングの枠組みを保っているような、アヴァンギャルドで刺激的な音楽。

 敷居が高くなりすぎす、どことなくコミカルで親しみやすい空気も持っているのが、このバンドの魅力だと思います。ガレージ・ロックやブルースを下敷きにしながら、多彩なノイズが立体的なサウンドを作り出す、ジャンクだけどポップな音楽が展開されます。

 個人的には、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが上品に感じられてしまうぐらい、プッシー・ガロアの自由でジャンクな雰囲気の方が好きです。愛すべき、クソ音楽。

 





Pussy Galore “Right Now!” / プッシー・ガロア『ライト・ナウ!』


Pussy Galore “Right Now!”

プッシー・ガロア 『ライト・ナウ!』
発売: 1987年
レーベル: Caroline (キャロライン), Matador (マタドール)

 1985年にワシントンD.Cで結成されたバンド、プッシー・ガロアの2ndアルバム。1987年にキャロライン・レコードからリリースされ、1998年にマタドールから再発されています。

 プッシー・ガロアが立ち上げた自主レーベル、シャヴ・レコーズ(Shove Records)からリリースされた1stアルバムは、ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』(Exile On Main St.)のカバー・アルバムだったため、本作『Right Now!』を1stアルバムとカウントすることもあるようです。

 ジョン・スペンサーやニール・ハガティが在籍し、解散後には各メンバーが、ボス・ホッグ(Boss Hog)、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン(Jon Spencer Blues Explosion)、ロイヤル・トラックス(Royal Trux)などで活躍。そのため、今となっては伝説的に扱われるバンドでもあります。

 しばしばジャンク・ロックやノイズ・ロックのカテゴライズされる彼らのサウンドは、ガチャガチャと騒がしく、しかし同時にどこかカラフル。サウンド的にもメロディー的にも、いわゆる売れ線とはかけ離れたアングラ臭の充満した作品ですが、このジャンクさは唯一無二で聴いているうちにクセになります。

 1曲目の「Pig Sweat」から、全ての楽器がジャンクなサウンドを持ち、前のめりに疾走していきます。全ての楽器が、現代的なハイファイ・サウンドとは程遠い、ガラクタのような耳ざわりなのが最高です(笑)

 2曲目「White Noise」も、わずか36秒の曲ですが、不協和なサウンドと、不安定な音程を持ったギター・リフが印象的な、ジャンクなロック・チューン。

 5曲目「Wretch」は、ワウの効いたギターと、呪術的で不気味なボーカルが、サイケデリックでアングラな空気をふりまく1曲。

 7曲目「Fuck You, Man」は、タイトルどおりFワードを繰り返すボーカルを筆頭に、下品に歪んだギターとリズム隊が絡み合い、疾走感に溢れた1曲。

 アルバム全体を通して、下品でジャンクな音と言葉の充満した1作ですが、多様なノイズ的サウンドを用いつつも統一感があり、前述したとおり、カラフルにさえ感じられます。

 また、ただ無茶苦茶にやっているだけではなく、下地にあるブルースやロックンロールが、構造を下支えしていることで、ポップ・ソングとしての機能も失わず、併せ持っているのだと思います。

 アレンジやサウンドにはやり過ぎだと思えるところもありますが、コンパクトにまとまるよりも、このぐらい振り切ってもらった方が、聴いていて単純に楽しいですね。

 プッシー・ガロアと比べてしまうと、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが上品にすら感じられます。

 





Edith Frost “Telescopic” / イーディス・フロスト『テレスコピック』


Edith Frost “Telescopic”

イーディス・フロスト 『テレスコピック』
発売: 1998年10月20日
レーベル: Drag City (ドラッグ・シティ)
プロデュース: Neil Hagerty (ニール・ハガーティ), Jennifer Herrema (ジェニファー・ヘレマ)

 テキサス州サンアントニオ出身の女性シンガーソングライター、イーディス・フロストの2ndアルバム。

 1stアルバム『Calling Over Time』と、4thアルバム『It’s A Game』でプロデューサーを務めているリアン・マーフィーは、今作ではドラマーとしてレコーディングに参加しています。代わってプロデュースを手掛けるのはニール・ハガーティとジェニファー・ヘレマの2人。このコンビは、クレジット上は「Adam And Eve」と表記されています。

 イーディス・フロストの音楽は、根底に共通する部分も持ちながら、アルバムによってかなり耳ざわりが異なります。本作は彼女のアルバムのなかで、最もノリが良く、ラウドなサウンドを持った1枚と言えるでしょう。と言っても、轟音ギターがガンガンに鳴り響く作品ではありません。

 彼女の音楽の特徴は、フォークやカントリーを下敷きにしながら、実験的なアプローチを導入し、現代的なサウンドに丁寧に仕上げるところです。そのため「オルタナ・カントリー」のジャンルに括られることもしばしば。本作も、ルーツ・ミュージックへのリスペクトも感じさせながら、テンポを上げ、エレキ・ギターやキーボードが、サウンドに彩りを加えています。

 1曲目「Walk On The Fire」は、ローファイな歪みのギターと、ドタバタしたドラム、遠くで鳴る電子音のような音と、イーディスの幻想的な声が、絶妙なバランスで溶け合う、アルバム中屈指の完成度のトラックです。

 2曲目「On Hold」は、ややポリリズミックな構成のアンサンブルが心地よい1曲。アコースティック・ギターなど、鳴っている音自体には奇をてらったところはないのに、全体として聴くとサイケデリックな雰囲気を醸し出します。

 4曲目の「The Very Earth」は、スライドギターとアコースティック・ギターが、カントリーを思わせる1曲。でも、イーディスの浮遊感のあるカントリーくさくないボーカルのためか、全体としてはカントリーの印象はそこまで強くなく、モダンな耳ざわり。

 6曲目はアルバム表題曲の「Telescopic」。アコースティック・ギターのコード・ストロークを中心に据えたアレンジですが、どこか濁りを感じるコードの響きと、迫りくるようなチェロの音が、サイケデリックな香りをふりまきます。

 11曲目「Tender Kiss」は、フォーキーなサウンドに、パーカションがオルタナティヴな雰囲気をプラスします。ストリングスも入っていますが、ストリングスらしくない使われ方で、民謡をオルタナティヴ・ロックの方法論で再構築したような1曲。

 イーディス・フロストは大好きなんですが、このアルバムは特にオススメしたい1枚です。ルーツ・ミュージックとインディー・ロックが、理想的な融合を果たした作品であると思います。

 本作『Telescopic』と、2ndアルバム『Wonder Wonder』は、心からオススメしたい作品! ぜひ聴いてみてください!