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Bad Religion “No Control” / バッド・レリジョン『ノー・コントロール』


Bad Religion “No Control”

バッド・レリジョン 『ノー・コントロール』
発売: 1989年11月2日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Donnell Cameron (ドネル・キャメロン)

 カリフォルニア州ロサンゼルス出身のパンク・バンド、バッド・レリジョンの4thアルバム。

 1980年結成で、1stアルバム『How Could Hell Be Any Worse?』発売は1982年。そして、4作目のアルバムとなる本作『No Control』がリリースされたのは1989年。

 デジタル技術が加速度的に進化し、ちょうどレコードからCDへと、音楽の入れ物が変わった時期とも重なります。

 そんなわけで、バッド・レリジョンのアルバムを、時間軸にそって順番に聴いていくと、音圧が増して、徐々に現代的なサウンドに近づいていくんです。

 70年代のバンドだったり、2000年代以降のバンドだと、ここまでの振り幅はありません。バッド・レリジョンの息の長さと、ちょうど技術の転換期に活動をしていたことを、あらわしているとも言えます。

 これは音楽の質とも、ある程度リンクしていて、パンクからハードコア、初期メロコアから現代的メロコアへと、作品を重ねるごとに変化。

 メロディック・ハードコアの元祖とも言われるバッド・レリジョン。彼らの音楽性の変遷を追うことで、メロコアというジャンルの成り立ちを確認できると言っても、過言ではありません。

 前口上が長くなりましたが、前作『Suffer』から、およそ1年ぶりにリリースされた本作。

 前作は、スピード感重視のハードコア・パンクから、よりメロディアスな要素を持ったメロコアへの、転換点と言えるアルバムでした。本作では、さらに音圧が増し、より現代のメロコアへと近づいた作風になっています。

 3曲目「No Control」は、前のめりに突っ込んでくるバンドのアンサンブルに、流麗なメロディーが乗り、一体感があります。分離するわけではなく、かといって完全に一致するわけではないバランス感覚が、メロコアらしいですね。メロディーが決して疾走感重視の、起伏の少ない動きになっていないという意味です。

 4曲目「Sometimes I Feel Like」もリズムが前のめりで、スピード感あふれる曲なんですけど、メロディーがおざなりにならず、ほどよく音程が上下しています。再生時間0:22あたりなど、定期的に挿入される金属的なサウンドも、直線的なだけでなく、オルタナティヴな魅力を加えています。

 12曲目「I Want Something More」は、わずか50秒足らずで終わる1曲。なのですが、勢いに任せて疾走するだけでなく、曲後半にピタッとブレイクが入るところが、意外性もあり、アクセントになっています。

 バンドの疾走感と、シングアロングしたくなるメロディー。ほどよく歪んだギターをフィーチャーした、サウンド・プロダクション。

 メロコアの定型的な要素が、多分に含まれたアルバムです。前作『Suffer』と共に、このあたりが2000年代以降のメロコアのひとつのひな型になったんだろうな、とさえ感じさせる1作。

 





Bad Religion “Suffer” / バッド・レリジョン『サファー』


Bad Religion “Suffer”

バッド・レリジョン 『サファー』
発売: 1988年9月8日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Jim Mankey (ジム・マンキー)

 カリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたパンク・バンド、バッド・レリジョンの3rdアルバム。

 メロディック・ハードコアの創始者と言われることもあるバッド・レリジョンですけど、本作『Suffer』は、現在のメロコアに直接的につながるスタイルを、確立したアルバムと言えます。

 具体的には、伴奏に対して歌のメロディーが乗る、という主従関係ではなく、バンドとボーカルが塊となって駆け抜ける一体感を持っており、なおかつメロディーも、シングアロングが沸き起こるのが、容易に想像できるポップさなんです。

 メロディーがバックの演奏に引っ張られて、メロディー感が希薄になるのではなく、かといって完全にバンドと分離しているわけでもない。しっかりと起伏のあるメロディーでありながら、バンドのスピード感を損なうことなく、ともに疾走していきます。

 例えば2曲目の「1000 More Fools」では、前のめりに転がるバンドのアンサンブルに、曲芸的に乗るようにボーカルが躍動。同曲に関しては、ところどころで導入される、厚みのあるコーラスワークも、実にメロコアらしい空気を醸し出しています。

 「メロコアらしい」というよりも、本作を聴いた少年たちが、やがて自分たちでバンドをやるようになり、ジャンルを形成していったのでしょうね。今、聴くと若干の古さを感じるのは事実ですが、同時に現在のメロコアに繋がる要素が、随所で感じられ、影響力の大きさに驚くばかりです。

 アルバム表題曲でもある、9曲目の「Suffer」は、本作のベスト・トラックと言って良いでしょう。疾走感がありつつ、随所にリズムのフックを持ったバンドのアンサンブルに、切なさを包括したメロディーが重なります。

 メジャーキーで底抜けに明るく突っ走るだけでなく、憂いを持ったところも、バッド・レリジョンの大いなる魅力。

 また、ギタリストのブレット・ガーヴィッツ(Brett Gurewitz)は、エピタフ・レコードの設立者としても有名。いまや世界中にファンを持つ、パンクの大御所レーベルとなったエピタフですが、本作は同レーベルの方向性を、決定づけた作品であるとも言えます。

 本作をバッド・レリジョンの最高傑作に挙げる方もいますが、それも納得のクオリティ。

 ハードコアとメロコアを繋ぎ、現代のメロコアまでの道を示す、資料的価値だけではなく、メロコアの魅力のコアとなるものが、多分に感じられる1作です。

 





Bad Religion “How Could Hell Be Any Worse?” / バッド・レリジョン『ハウ・クッド・ヘル・ビー・エニィ・ワース?』


Bad Religion “How Could Hell Be Any Worse?”

バッド・レリジョン 『ハウ・クッド・ヘル・ビー・エニィ・ワース?』
発売: 1982年1月19日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Jim Mankey (ジム・マンキー)

 1980年にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたパンク・バンド、バッド・レリジョンの記念すべき1stアルバム。

 ギタリストのブレット・ガーヴィッツ(Brett Gurewitz)は、いまやパンクの世界的名門レーベルとなった、エピタフ・レコードの設立者。

 同レーベルは、もともとバッド・レリジョンの作品をリリースするために、バンドと同じく1980年に設立されたのであり、もちろん本作『How Could Hell Be Any Worse?』も、エピタフから発売されています。

 メロディック・ハードコア(melodic hardcore)を生み出したバンドの一つに数えられるバッド・レリジョン。

 1980年に結成された彼らのディスコグラフィーは、パンク・ロックからハードコア・パンク、そしてメロコアへと繋がる、ジャンルの歴史そのものと言っても過言ではありません。

 1982年にリリースされた本作で展開されるのは、まだオリジナル・パンクの色も濃く、70年代パンクの音像はそのままに高速化した、ハードコア・パンクです。

 14曲収録で、合計のタイムは30分ほど。もっとも長い曲でも、7曲目「In The Night」の3分25秒。テンポが速く、スピーディーな楽曲が収録されています。

 よくよく考えたら、再生時間が短いからといって、テンポが速いとは限りませんよね。短いけど、テンポが遅い曲というのもあるし。しかし本作に関しては、疾走感あふれるハイテンポの曲ばかりです。

 音圧の高い、より高速な曲に慣れている現代的な耳からすると、サウンドは思ったよりしょぼいし、テンポも速くない、と感じるかもしれません。

 でも、これはラモーンズやピストルズを聴くときにも言えることですが、バンド全体が前につんのめっていくリズム、メロディー感よりエモーションの解放を優先したボーカルには、テンポや音圧を超えたアジテーション効果があります。

 ちなみに2004年にリリースされたリマスター盤には、2枚のEP『Bad Religion』と『Back To The Known』、ハードコア・パンクのコンピレーション作品『Public Service』に収録された、計14曲が追加。合計28曲が収録されています。

 現在、各種サブスクリプションでも、こちらのリマスター版が視聴可能です。

 





Fastbacks “…And His Orchestra” / ファストバックス『…アンド・ヒズ・オーケストラ』


Fastbacks “…And His Orchestra”

ファストバックス 『…アンド・ヒズ・オーケストラ』
発売: 1987年6月15日
レーベル: Popllama (ポップラマ)
プロデュース: Conrad Uno (コンラッド・ウノ)

 ワシントン州シアトル出身のバンド、ファストバックスの1stアルバム。当時のシアトルを代表するプロデューサーであり、グランジ・オルタナ勢の多くの作品を手がけた、コンラッド・ウノがプロデュースを担当。

 レコーディングもウノが所有するエッグ・スタジオ(Egg Studios)でおこなわれ、彼が設立したレーベル、ポップラマからリリースされました。

 80年代後半から90年代前半にかけて、シアトルから始まったグランジ・オルタナ・ブーム。その中心はもちろん、ニルヴァーナ(Nirvana)やMudhoney(マッドハニー)をはじめとする、サブ・ポップ周辺のバンドたちですが、他にもシーンを支える多様なバンドが存在していました。ファストバックスも、そのひとつ。

 彼らの音楽性を一言であらわすならば、ポップなパンクロック。親しみやすいメロディーに、ばたついた立体的なアンサンブル。パワーコードを中心に駆け抜けるだけでなく、ギターの単音弾きが、アンサンブルに立体感を与え、アルバムをカラフルに彩っています。

 ざらついた生々しいサウンドと、シリアスで物憂げな歌詞を持つ、いわゆるグランジのサウンドとは質感が異なり、むしろ正反対とさえ言える彼らの音楽性。サーフロックのような爽やかさと、パワーポップ的なノリの良さを持ち、元気いっぱいに駆け抜けていきます。

 ニルヴァーナの影響力があまりにも強く、この時代のシアトルと言えば、憂鬱な空気を持ったグランジ、というイメージが支配的。しかし、当時のシアトルには、多様なバンドがいたのだと実感させてくれるのが、ファストバックスです。

 ちなみに僕自身は、ニルヴァーナもファストバックスも、リアルタイムで経験していないため、音源や書籍の情報から、当時のシーンを想像するしかないのですが。

 さて、そんな音楽性を持ったファストバックスの1stアルバム。1作目のアルバムらしく、エンジン全開で疾走感あふれる演奏を繰り広げていきます。

 1曲目「Seven Days」は、ギターがうなりを上げ、ドラムがドタバタとリズムを刻み、前のめりに疾走するアンサンブルが展開される1曲。再生時間1:09あたりからのギターソロには、バックの演奏と合わせて、サーカスの曲芸的なスリルと疾走感があります。

 2曲目「Light’s On You」は、厚みのあるサウンドのギターに、タムとバスドラを多用したドラムが重なる、低音域に重心を置いた1曲。ギターが空へ飛び立つようにフレーズを弾き始めると、バンド全体の音域も広がり、ダイナミックに展開。

 3曲目「If You Tried」は、イントロから中音域の豊かなギターが、メロディアスなフレーズを繰り出す、ポップで疾走感のある1曲。コーラスワークも爽やかで、ポップパンクかくあるべし!という演奏が展開。

 4曲目「Don’t Cry For Me」は、ドラムがタイトにリズムを刻み、各楽器が有機的に絡み合う、躍動感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 5曲目「In The Winter」は、歯車のピッタリ合った機械のように、各楽器が組み合い、一体感と躍動感のあるアンサンブルが繰り広げられる1曲。音のストップとゴーが正確で、メリハリがはっきりしています。

 6曲目「Wrong, Wrong, Wrong」は、タイトにリズムを刻むドラムに、厚みのあるギターのサウンドが重なる、疾走感あふれる1曲。

 10曲目「Set Me Free」は、回転するようなギターとベースのフレーズに、小刻みなドラムのリズムが組み合わさり、転がるような疾走感のあるアンサンブルが展開する曲。再生時間1:20あたりからのギターソロは、高速で綱渡りをするような緊張感と疾走感があります。

 ギターポップを思わせるメロディーとコーラスワークが、パンク・ロックらしいスピーディーなリズムと合わさり、ポップさと疾走感が共存したアルバムとなっています。

 1987年にリリースされた本作ですが、実はファストバックスが結成されたのは1979年。本作リリース時点で、8年のキャリアを持つバンドでした。当時から楽しむことを第一に、バンドを続くけてきた彼ら。

 当時のシアトルを席巻した、いわゆるグランジとは耳ざわりが大きく異なる理由は、若干の世代間の差と、この音楽に対するスタンスによるものでしょう。ただ、売れることではなく、音を鳴らすことを一義的に考えるという点では、オルタナティヴ・ロック的な態度とも言えます。

 リリース当時はLP盤で11曲収録ですが、CD化される際に2枚のEP作品『Every Day Is Saturday』と『Play Five Of Their Favorites』が同時収録され、20曲入りになっています。現在、Spotify等のデジタル配信で聴けるのも、こちらの20曲収録バージョンです。

 





X “Wild Gift” / エックス『ワイルド・ギフト』


X “Wild Gift”

エックス 『ワイルド・ギフト』
発売: 1981年5月1日
レーベル: Slash (スラッシュ)
プロデュース: Ray Manzarek (レイ・マンザレク)

 カリフォルニア州ロサンゼルス出身のパンク・バンド、Xの2ndアルバム。プロデューサーを務めるのは、前作に引き続き、元ドアーズのレイ・マンザレク。

 アメリカにおけるパンク・バンドの第一世代であり、LAパンクを代表するバンドのひとつでもあるX。デビュー・アルバムとなる前作『Los Angeles』では、シンプルなロックンロールを基調とした、初期パンクらしい疾走感あふれる音楽を鳴らしていました。

 しかし、前作から1年ぶりとなる本作では、カントリーやロカビリーなど、ルーツ・ミュージック色を強くした音楽を展開しています。ピストルズを中心としたパンク旋風も過ぎ去り、ニュー・ウェーヴやポストパンクの流れが加速していた1980年代前半。Xも時代の流れに呼応するように、初期パンクの構造には拘らず、音楽性を変えていきます。

 1曲目「The Once Over Twice」は、アルバムの幕開けにふさわしく、軽快なリズムを持ったノリの良い1曲。しかし、ゴリゴリに駆け抜けるハードコア的なアレンジではなく、リズムに揺らぎがあり、カントリーからの影響も感じられる演奏になっています。

 2曲目「We’re Desperate」は、リズムが前のめりに突っ込んでくる曲ですが、やはり1曲目と同様、直線的に走るだけではありません。随所にリズムのタメとズレが有り、立体的なアンサンブルが展開。

 3曲目「Adult Books」は、リズムとボーカルの歌唱からは、トロピカルな雰囲気が漂う、リラックスした1曲。ギターのフレーズと音色は、ハワイアンのように響きます。

 5曲目「I’m Coming Over」は、ドラムの乾いたサウンドと、ギターのざらついた歪みが印象的な、ガレージ・ロック色の濃い1曲。本作の中では、テンポが速く、疾走感に溢れた曲です。

 6曲目「It’s Who You Know」では、ギターが倍音豊かに歪み、絡みつくようなフレーズを繰り出していきます。そのサウンド・プロダクションとフレーズからは、ハードロックの香りが漂う1曲。ブレイク部分のギターのフレーズも秀逸。

 7曲目「In This House That I Call Home」では、ボールが弾むように、軽やかに生き生きと躍動していくアンサンブルが展開。男女混声のコーラスワークも冴え渡り、立体的な演奏が繰り広げられます。

 10曲目「Beyond And Back」は、1950年代が目に浮かぶロカビリー全開な1曲。ギターが狙いすぎで、逆にダサいぐらいに、ノリの良いなめらかなフレーズを繰り出していきます。コーラスワークにおける、男女の声のバランスも素晴らしい。

 シンプルな8ビートを多用していた前作から比較すると、リズムが立体的かつ複雑になった本作。そのため、疾走感は前作より抑えられ、代わりにアンサンブルの立体感と躍動感が増しています。

 前作と比較して、本作の方が絶対的に優れている、ということではありませんが、リズムのパターンが多彩になり、音楽性の幅が広がったのは、事実でしょう。

 アメリカのニュース・カルチャー誌、ヴィレッジ・ヴォイス(The Village Voice)が、1971年から毎年おこなっているPazz & Jop Critics Poll(音楽批評家の投票によって、その年の優れた作品を選ぶ企画)の1981年版では、クラッシュの『Sandinista!』が1位、本作が2位に選ばれています。

 前作と本作は共に、ロサンセルスを拠点にするパンク系インディー・レーベル、スラッシュからのリリース。しかし、3rdアルバムとなる次作『Under The Big Black Sun』からは、ワーナー傘下のメジャー・レーベル、エレクトラ(Elektra)へ移籍。前述のヴィレッジ・ヴォイス誌での評価と合わせて、本作が彼らの出世作と言ってよいでしょう。