「1980年代」タグアーカイブ

X “Los Angeles” / エックス『ロサンゼルス』


X “Los Angeles”

エックス 『ロサンゼルス』
発売: 1980年4月26日
レーベル: Slash (スラッシュ)
プロデュース: Ray Manzarek (レイ・マンザレク)

 1977年にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたパンク・バンド、Xのデビュー・アルバム。プロデューサーは、元ドアーズ(The Doors)のキーボーディスト、レイ・マンザレクが担当。

 「X」というと、日本のロックバンドX JAPANを思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、ここで紹介するのは、70年代後半から活動する、アメリカのパンク第一世代に属するバンド。ロック史的には、テレヴィジョンやラモーンズをはじめとしたニューヨーク・パンクの方が、取り上げられる機会が多いですが、LAパンクを代表するバンドといえば、このXです。

 シンプルなロックンロールを下敷きにした音楽性は、ピストルズやラモーンズとも共通する、初期パンクの特徴のひとつ。Xの特異な点は、カントリーやロカビリーからの影響も色濃く出ているところ。1stアルバムである本作では、まだシンプルなロックといった色合いが強いのですが、作品を追うごとにルーツ・ミュージック色を強め、それと反比例して初期のパンク色は薄れていきます。

 また、紅一点のボーカル、エクシーン・セルヴェンカ(Exene Cervenka)と、ベースのジョン・ドウ(John Doe)による男女混声のツイン・ボーカルも、彼らの音楽をカラフルに彩る特徴と言えます。この2人は1980年から1985年までは、夫婦でもありました。

 ちなみにジョン・ドウは芸名で、本名はジョン・ノーメンセン・デュシャック(John Nommensen Duchac)。ジョン・ドウという名前は、日本語でいうところの「名無しの権兵衛」の意味があり、名前が不明の人物を指すときに使われます。

 本作で展開されるのは、シンプルなロックンロールを基調とした初期パンクらしい音楽。しかし、前述したとおり、次作以降はルーツ・ミュージック色を強めていくX。本作でも、どこか土臭く、ルーツを感じさせる要素が、随所にあります。

 1曲目の「Your Phone’s Off The Hook, But You’re Not」は、アルバム冒頭にふさわしく、前のめりに疾走していくパンク・ナンバー。高音域でシャウト気味に、しかし艶っぽくもあるエクシーンのボーカルが、楽曲を鮮やかに彩っています。

 2曲目「Johny Hit And Run Paulene」では、古き良きロックンロールと、ロカビリーを彷彿とさせるギターが、イントロから鳴り響きます。この曲では、ジョン・ドウがメイン・ボーカルを担当。タイトで疾走感あふれるバンド・アンサンブルに合わせて、1950年代のシンガーのごとく、ダンディーに歌い上げていきます。そのままだと、ロックンロールを焼き直した懐古主義的な楽曲のように聞こえてしまいそうですが、エクシーンのコーラスが、新しい風を吹き込んでいます。

 3曲目「Soul Kitchen」は、プロデューサーのレイ・マンザレクが在籍していたバンド、ドアーズのカバー。オルガンがフィーチャーされたサイケデリックな原曲に対して、速度を上げたパンキッシュなアレンジ。原曲とは打って変わって、後のメロコアやパワーポップを彷彿とさせるほどポップで、軽快な疾走感を持った曲に仕上げています。

 4曲目「Nausea」は、ドタドタと叩きつけるパワフルなドラムが印象的な、ミドルテンポのナンバー。この曲では、レイ・マンザレクがオルガンで参加。揺らめくオルガンのサウンドが、怪しげな空気を作りだし、前曲「Soul Kitchen」以上に、ドアーズ直系のサイケデリックな耳ざわりを持った1曲です。

 6曲目は、アルバム表題曲の「Los Angeles」。エクシーンとジョン・ドウが対等にボーカルを取り、時に絡み合うように、時にコール・アンド・レスポンスのように、息もピッタリに歌い上げていきます。演奏も直線的なスピード重視ではなく、タイトな8ビートを基本としながら、随所にリズムのフックを作り、躍動感を演出。

 9曲目「The World’s A Mess; It’s In My Kiss」は、サーフロックを感じさせる、爽やかな1曲。この曲でも、プロデューサーのレイ・マンザレクがオルガンを弾いています。男女混声のコーラスワークが心地よく、オルガンもおしゃれでキュートな雰囲気をプラス。軽やかで、カラフルな楽曲です。

 ルーツ・ミュージックを参照しながら、疾走感と焦燥感のあるパンク・ロックを展開しており、音楽に奥行きがあるのが本作の魅力です。女性ボーカル、エクシーンの存在も、ニュー・ウェーヴな雰囲気をプラスし、音楽性の拡大に多大な貢献をしていると言って良いでしょう。

 余談ですが、Xの『Los Angeles』って、どちらの語も一般的すぎて、検索しにくいですね。

 





Meat Puppets “Monsters” / ミート・パペッツ『モンスターズ』


Meat Puppets “Monsters”

ミート・パペッツ 『モンスターズ』
発売: 1989年10月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Eric Garten (エリック・ガーテン)

 アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの、前作『Huevos』から2年ぶりとなる、通算6枚目のスタジオ・アルバム。プロデュースは、前作のスティーヴン・エスカリアー(Steven Escallier)に代わって、ミート・パペッツのセルフ・プロデュースへ。レコーディング・エンジニアは、エリック・ガーテンが担当。

 1stアルバムから本作まで、ブラック・フラッグのグレッグ・ギンが設立した、SSTからのリリースを続けていたミート・パペッツですが、それも本作が最後。次作『Forbidden Places』では、当時ポリグラム傘下だったレーベル、ロンドン・レコード(London Records)へ移籍しています。

 1980年に結成され、1982年の1stアルバムでは、高速のハードコア・パンクを鳴らしていたミート・パペッツ。ニルヴァーナのカート・コバーンをはじめ、多くのグランジ・オルタナ系のバンドへ影響を与えたバンドでもあります。

 1st以降は、カントリー、サイケデリック・ロック、サザンロックなど、多様な音楽を参照しながら音楽性を広げ、通算6作目、前述のとおりSSTでのラスト・アルバムとなる本作では、これまでの集大成と言える、多種多様でごった煮のロックを展開しています。

 本作がリリースされたのは1989年。ニルヴァーナの1stアルバム『Bleach』がリリースされ、グランジ・オルタナのムーヴメントが躍動し始めた年です。

 前述のとおり、カート・コバーンがお気に入りのバンドに挙げるなど、後続のバンドに多大な影響を与えたミート・パペッツ。時代が彼らに追いついたのか、あるいは彼らが時代を作ったと言うべきか、本作の音楽性は、当時のオルタナ勢の音楽と、多くの共通点が認められます。

 すなわち、激しく歪んだディストーション・ギターを用いているものの、展開される音楽には、ハードロック的な様式美や、メロコア的な爽快感は希薄。アンサンブルを重視したミドルテンポの曲が多く、ミート・パペッツが得意とするサイケデリックなアレンジも随所で聴かれます。

 1曲目の「Attacked By Monsters」では、イントロから唸りをあげるギターと、叩きつけるようなドラムが重なり、重心の低いサウンドで、引きずるようなアンサンブルが展開。ボーカルの気だるい歌唱と、バンドの重たいサウンドからは、アングラ臭も漂い、ニルヴァーナの『Bleach』にも繋がる空気を持っています。

 2曲目「Light」は、高音域を使ったキーボードや、アコースティック・ギターが用いられた、爽やかに疾走していく曲。コーラスワークも流麗で、王道のアメリカン・ロックのようにも、ギターポップのようにも響きます。

 3曲目「Meltdown」は、うねるようなギターが絡み合う、ギターを中心としたアンサンブルが繰り広げられる1曲。前作『Huevos』は、ZZトップからの影響が色濃いとも言われるアルバムですが、前作を彷彿とさせる、サザンロックらしいサウンドが展開されます。

 6曲目「Touchdown King」では、アコースティック・ギターによるコード・ストロークと、エレキ・ギターのフレーズが重なり、疾走感あふれる演奏が展開。フレーズとサウンドには、カントリーの要素もあり。このバンドの懐の深さが窺える1曲です。

 7曲目「Party Till The World Obeys」は、ギターのアヴァンギャルドな音色から始まる、アングラな空気を持った1曲。スライド・ギターなのか、浮遊するようなサウンドが耳に残り、サイケデリック・ロックも感じさせるアレンジ。

 10曲目「Like Being Alive」は、ドラムのシンプルなビートに導かれ、次々と楽器が加わり、歯車が組み合うような有機的なアンサンブルが構成される1曲。だらりとした、物憂げなボーカルが、楽曲に憂鬱な空気を加えます。

 アルバム毎に音楽性を変え、常に変化を続けてきたミート・パペッツ。本作では、これまでに彼らが消化してきた、フォーク、カントリー、サイケデリック・ロック、サザンロックなどが全て融合し、当時のオルタナティヴ・ロックとも繋がる音楽性を披露しています。(しいて言えば、1stのハードコア・パンクの要素はほとんど感じられませんが…)

 冒頭部でも書いたとおり、SSTからリリースされるオリジナル・アルバムは本作がラスト。1stアルバムから、6thアルバムである本作までの6枚のアルバムは、いずれも1999年にワーナー傘下のライコディスク(Rykodisc)というレーベルから、ボーナス・トラックを追加しリイシューされています。

 





Meat Puppets “Huevos” / ミート・パペッツ『ヒューボス』


Meat Puppets “Huevos”

ミート・パペッツ 『ヒューボス』
発売: 1987年10月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Steven Escallier (スティーヴン・エスカリアー)

 アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの通算5枚目のスタジオ・アルバム。プロデューサーは、前作に引き続きスティーヴン・エスカリアーが担当。

 アルバム・タイトルの「huevos」とは、スペイン語で「卵(eggs)」の意。アルバムのジャケットにも、卵の絵が描かれておりますが、これはギター・ボーカル担当のカート・カークウッド(Curt Kirkwood)によるものです。また、アメリカ南西部の俗語では、「huevos」は「大胆さ」(chutzpah)を意味するとのこと。

 スピード重視のハードコア・バンドとしてスタートしたミート・パペッツ。1stアルバムでは疾走感あふれるハードコア、2ndアルバムではフォークやカントリーを取り込んだロックを鳴らし、3rdと4thではテクニカルでアンサンブル重視の音楽を作り上げていました。3rdと4thは、ネオ・サイケデリックと評されることもあり、個人的にはプログレとマスロックの要素を併せ持ったインディー・ロック、と呼べるのではないかと思っています。

 で、5枚目の本作『Huevos』が、どんな音楽性なのかと言うと、テキサス州出身のロック・バンド、ZZトップからの影響が強いアルバムだと言われています。じゃあ、ZZトップってどんなバンドなの?と言うと、ジャンルとしてはサザン・ロックに分類されることが多く、南部テキサス州出身らしい、カントリーやブルースを取り込んだ音楽性が特徴のバンドです。

 もうすこし具体的に説明すると、南部で生まれたブルースをはじめとするルーツ・ミュージックを下敷きに、激しく歪んだギター・サウンドやレザー・ジャケットなどハードロック的な文化で、ルーツをアップデートしたバンド、といったところ。

 ZZトップが生まれたテキサス州は、元々はメキシコ領で、スペイン語圏の文化を色濃く残す地域です。そのため、ZZトップのアルバム・タイトルには、しばしばスペイン語が用いられ、ミート・パペッツが本作にスペイン語でタイトルを付けたのも、その影響からだとも言われます。

 ZZトップの話が長くなってしまいましたが、では実際に本作では、どのような音楽が鳴っているのか。本作のわずか半年前にリリースされた前作『Mirage』は、ギターの音作りはクリーントーンを主力として、プログレを彷彿とさせる、正確で複雑なアンサンブルが前面に出たアルバムでした。

 本作の再生ボタンを押すと、まずはそのサウンド・プロダクションの違いに驚くことでしょう。前作での清潔感のある音作りと比較すると、ギターは豊かに歪み、リズム隊は立体的で、揺らぎを活かすような音色でレコーディングされています。

 音楽性も、設計図に沿って組み上げられた建造物のようなアンサンブルの前作と比較すると、いわゆるスウィング感やグルーヴ感を伴った、躍動感あふれるものになっています。また、付け焼き刃でサザンロックに傾いたわけでもなく、これまでの彼らの作品と同じく、しっかりと消化した上でミート・パペッツの音楽として成立しています。

 前作から、わずか半年間しか間隔が空いていないのに、いったい何があったんだ!?とも思えますが、ハードコア・パンクからスタートし、カントリーやサイケデリック・ロックを取り込んだ音楽を展開してきたことを考慮すると、彼らにとっては自然な成り行きだったのでしょう。

 1stアルバムでハイテンポなハードコアを鳴らし、2ndアルバムでは一変してフォークやカントリーを取り入れたインディーロックへと舵を切ったミート・パペッツ。彼らの出身地アリゾナ州は、南北戦争時の歴史的な意味において、アメリカ南部には含まれませんが、地理的には南部が近く、他のルーツ・ミュージックと並んで、ZZトップをはじめとするサザンロックにも親しんでいたのでしょう。

 ミート・パペッツのオリジナル・メンバーは、1960年前後の生まれで、バンドを結成したのは1980年のこと。すでにラジオやテレビが普及し、情報化社会が始まりつつあり、地域性と音楽性は、もはやあまり関係がないのかもしれません。いずれにしても、本作がサザンロックを取り込み、コンパクトなインディーロックに仕立てた、優れた作品であることは確かです。

 





Meat Puppets “Mirage” / ミート・パペッツ『ミラージュ』


Meat Puppets “Mirage”

ミート・パペッツ 『ミラージュ』
発売: 1987年4月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Steven Escallier (スティーヴン・エスカリアー)

 1980年に、アリゾナ州フェニックスで結成。のちのグランジ・オルタナ勢へ、多大な影響を与えたバンド、ミート・パペッツの4thアルバム。

 プロデューサーは、1stアルバムから前作までを手がけたスポット(Spot)ことグレン・ロケット(Glen Lockett)に代わり、スティーヴン・エスカリアーが担当。

 疾走感あふれるハードコア・バンドとしてスタートしたミート・パペッツ。アルバムを追うごとに音楽性を変え、徐々にアンサンブル重視の複雑なロックを構築するようになります。

 前作『Up On The Sun』から2年ぶり、通算4枚目のスタジオ・アルバムとなる本作には、ハードコア要は皆無。ドラムのデリック・ボストロム(Derrick Bostrom)は、本作を「サイケデリックな大作」(psychedelic epic)と評しています。

 そんなメンバー自身の言葉どおり、各楽器の複雑なフレーズが絡み合う、摩訶不思議な空気感を持った本作。ジャケットのデザインも、サイケデリックですね。サウンド・プロダクションの面では、ギターはクリーントーンが中心。激しく歪んだサウンドや、過度なエフェクトに頼らず、アンサンブルで多様な音世界を作り上げています。

 1曲目「Mirage」は、ギターの回転するようなフレーズから始まり、各楽器が絡みつくように、複雑かつ有機的なアンサンブルを構成する曲。バックで鳴るシンセサイザーが、サイケデリックな空気を演出します。

 2曲目「Quit It」は、リズムとアンサンブルは抑え気味ながら、疾走感のある1曲。正確無比なタイトなアンサンブルが、ゆるやかな躍動感を生み、ボーカルはメロディアスなラインをシャウト気味に歌い上げ、楽曲を先導していきます。

 3曲目「Confusion Fog」は、カントリー色の濃いアンサンブルとフレーズながら、サウンドは清潔感のあるクリーントーンを用い、ジャンルレスな雰囲気。細かく刻まれるリズムには疾走感があり、心地よいです。

 4曲目「The Wind And The Rain」は、イントロからアコースティック・ギターが用いられ、3曲目に続いてカントリーを思わせる、穏やかで牧歌的な1曲。

 5曲目「The Mighty Zero」は、イントロからエフェクト処理されたドラムが、四方八方から響き渡る、サイケデリックな空気が漂う曲。

 9曲目「Beauty」は、イントロでは高速フレーズが正確に組み合う、プログレ色の濃い1曲。再生時間2:00過ぎからの厚みのある倍音を持ったギターも、70年代のプログレやハード・ロックを彷彿とさせます。

 前述したとおり、メンバーのデリック・ボストロムは本作を「サイケデリック」だと表現していますが、個人的にはプログレッシヴ・ロックとマスロックの間を繋いだ作品、と言った方がしっくりきます。テクニカルで複雑なアンサンブルが、高い精度で正確に作りこまれているという意味です。

 ただ、ジャンル名の組み合わせで語ることができないぐらい、多様な音楽を取り込み、自分たちで消化した上で、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げているバンドなので、あまり「○○と○○を合わせた」と語るのは、失礼にあたるでしょう。

 また、複雑なフレーズやアンサンブルではあるのですが、コンパクトにまとまり、難解さを感じさせないところも魅力。そんな地に足の着いた音楽性も含めて、90年代以降のオルタナティヴ・ロックやインディー・ロックを予見していると言ってもいいでしょう。

 1987年のオリジナル盤リリース当初は、12曲収録。これまでの3作のアルバムと同様、1999年にワーナー傘下のライコディスク(Rykodisc)よりリイシュー。このリイシュー盤には、ボーナス・トラックが5曲追加され、全17曲収録となっています。

 





Meat Puppets “Up On The Sun” / ミート・パペッツ『アップ・オン・ザ・サン』


Meat Puppets “Up On The Sun”

ミート・パペッツ 『アップ・オン・ザ・サン』
発売: 1985年3月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの3rdアルバム。レコーディング・エンジニアは、1stアルバムから3作連続となる、スポットが担当。

 1stアルバム『Meat Puppets』では高速のハードコア・パンクを鳴らし、2ndアルバム『Meat Puppets II』ではテンポを落とし、フォークやカントリーを取り込んだロックへと、音楽性を変化させたミート・パペッツ。

 3作目となる本作『Up On The Sun』は、ミドル・テンポの楽曲が多いところは前作と共通しているものの、ルーツ・ミュージック色は後退。代わりに、サイケデリック・ロックを思わせる意外性のあるアレンジや、プログレッシヴ・ロックを思わせる複雑かつ整然としたフレーズが増加。音楽性を、またブラッシュ・アップしています。

 1曲目は、アルバム表題曲の「Up On The Sun」。回転するような小刻みなギターのフレーズと、歯切れの良いカッティング、だらっとしたボーカルが重なり、1stアルバムのハードコアとも、カントリー色の濃い2ndアルバムとも、異なるロックを展開しています。

 2曲目「Maiden’s Milk」は、各楽器が正確に組み合い、複雑なアンサンブルを構成する、プログレッシヴ・ロックを彷彿とさせるインスト曲。しかし、途中から口笛が導入され、牧歌的な雰囲気もプラス。様々なジャンルを飲み込んだ、カラフルな1曲です。

 3曲目「Away」も、2曲目に引き続き、各楽器が有機的に絡み合い、複雑なアンサンブルを作り上げていきます。リズムはタイトで、演奏の精度が高く、とても1stアルバムで勢い重視のハードコアをやっていたバンドとは思えません。

 4曲目「Animal Kingdom」は、イントロの高速ギターが、マスロックを思わせる1曲。キレのいいカッティング、スライド・ギターのように揺れ動くフレーズなど、ギターの多彩なアレンジが前面に出てきます。

 6曲目「Swimming Ground」は、空間系エフェクターを用いたギターと、タイトなリズム隊が躍動する、疾走感のある1曲。爽やかなサウンドとコーラスワークからは、ギターポップの香りが漂いますが、ギターの揺れ動くフレーズはサイケデリック・ロックも感じさせます。

 7曲目「Buckethead」は、歯切れの良いギターのカッティングをはじめ、バンド全体がタイトに疾走していく1曲。

 9曲目「Enchanted Pork Fist」は、イントロからバンド全体が一体となって走り抜ける、ハイテンポの1曲。随所でリズムの切り替えが挟まれ、1曲の中での緩急も鮮やか。再生時間1:15あたりからの、ギターの音が増殖していくようなアレンジなど、変幻自在のアレンジも魅力。

 12曲目「Creator」は、各楽器が別々のことをやっているようで、歯車で動くマシーンのようにバンド全体がぴったりと噛み合い、躍動する1曲。テンポが速く、疾走感もあります。各楽器のフレーズは、テクニカルで複雑なのに、完成するアンサンブルは整然としていて、まさに機械でコントロールされているかのように正確無比。

 過去2作と比較して、格段にテクニカルで、演奏の精度が増したアルバムと言っていいでしょう。ニルヴァーナを筆頭に、多くのグランジ・オルタナ世代のバンドに影響を与えたミート・パペッツ。本作を聴けば、その事実も納得です。

 ハードコア・パンクの1st、ルーツ・ミュージックを取り入れた2ndに続いて、3作目となる本作では、ジャンルを折衷した音楽性を超えて、独自の音楽を作り上げています。

 シンプルなロックやパンクをスタート地点としながら、どこか違ったオリジナリティ溢れる音楽を作り出すその手法は、オルタナティヴ・ロック的とも言えます。

 1985年にリリース当初は、12曲収録。その後、1999年にワーナー傘下のレーベル、ライコディスク(Rykodisc)からCDがリイシューされる際、ボーナス・トラックを5曲追加し、計17曲収録へ。

 現在、各種サブスクリプション・サービスで配信されているのも、17曲収録のバージョンです。