Meat Puppets “Mirage” / ミート・パペッツ『ミラージュ』


Meat Puppets “Mirage”

ミート・パペッツ 『ミラージュ』
発売: 1987年4月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Steven Escallier (スティーヴン・エスカリアー)

 1980年に、アリゾナ州フェニックスで結成。のちのグランジ・オルタナ勢へ、多大な影響を与えたバンド、ミート・パペッツの4thアルバム。

 プロデューサーは、1stアルバムから前作までを手がけたスポット(Spot)ことグレン・ロケット(Glen Lockett)に代わり、スティーヴン・エスカリアーが担当。

 疾走感あふれるハードコア・バンドとしてスタートしたミート・パペッツ。アルバムを追うごとに音楽性を変え、徐々にアンサンブル重視の複雑なロックを構築するようになります。

 前作『Up On The Sun』から2年ぶり、通算4枚目のスタジオ・アルバムとなる本作には、ハードコア要は皆無。ドラムのデリック・ボストロム(Derrick Bostrom)は、本作を「サイケデリックな大作」(psychedelic epic)と評しています。

 そんなメンバー自身の言葉どおり、各楽器の複雑なフレーズが絡み合う、摩訶不思議な空気感を持った本作。ジャケットのデザインも、サイケデリックですね。サウンド・プロダクションの面では、ギターはクリーントーンが中心。激しく歪んだサウンドや、過度なエフェクトに頼らず、アンサンブルで多様な音世界を作り上げています。

 1曲目「Mirage」は、ギターの回転するようなフレーズから始まり、各楽器が絡みつくように、複雑かつ有機的なアンサンブルを構成する曲。バックで鳴るシンセサイザーが、サイケデリックな空気を演出します。

 2曲目「Quit It」は、リズムとアンサンブルは抑え気味ながら、疾走感のある1曲。正確無比なタイトなアンサンブルが、ゆるやかな躍動感を生み、ボーカルはメロディアスなラインをシャウト気味に歌い上げ、楽曲を先導していきます。

 3曲目「Confusion Fog」は、カントリー色の濃いアンサンブルとフレーズながら、サウンドは清潔感のあるクリーントーンを用い、ジャンルレスな雰囲気。細かく刻まれるリズムには疾走感があり、心地よいです。

 4曲目「The Wind And The Rain」は、イントロからアコースティック・ギターが用いられ、3曲目に続いてカントリーを思わせる、穏やかで牧歌的な1曲。

 5曲目「The Mighty Zero」は、イントロからエフェクト処理されたドラムが、四方八方から響き渡る、サイケデリックな空気が漂う曲。

 9曲目「Beauty」は、イントロでは高速フレーズが正確に組み合う、プログレ色の濃い1曲。再生時間2:00過ぎからの厚みのある倍音を持ったギターも、70年代のプログレやハード・ロックを彷彿とさせます。

 前述したとおり、メンバーのデリック・ボストロムは本作を「サイケデリック」だと表現していますが、個人的にはプログレッシヴ・ロックとマスロックの間を繋いだ作品、と言った方がしっくりきます。テクニカルで複雑なアンサンブルが、高い精度で正確に作りこまれているという意味です。

 ただ、ジャンル名の組み合わせで語ることができないぐらい、多様な音楽を取り込み、自分たちで消化した上で、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げているバンドなので、あまり「○○と○○を合わせた」と語るのは、失礼にあたるでしょう。

 また、複雑なフレーズやアンサンブルではあるのですが、コンパクトにまとまり、難解さを感じさせないところも魅力。そんな地に足の着いた音楽性も含めて、90年代以降のオルタナティヴ・ロックやインディー・ロックを予見していると言ってもいいでしょう。

 1987年のオリジナル盤リリース当初は、12曲収録。これまでの3作のアルバムと同様、1999年にワーナー傘下のライコディスク(Rykodisc)よりリイシュー。このリイシュー盤には、ボーナス・トラックが5曲追加され、全17曲収録となっています。