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Meat Puppets “Huevos” / ミート・パペッツ『ヒューボス』


Meat Puppets “Huevos”

ミート・パペッツ 『ヒューボス』
発売: 1987年10月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Steven Escallier (スティーヴン・エスカリアー)

 アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの通算5枚目のスタジオ・アルバム。プロデューサーは、前作に引き続きスティーヴン・エスカリアーが担当。

 アルバム・タイトルの「huevos」とは、スペイン語で「卵(eggs)」の意。アルバムのジャケットにも、卵の絵が描かれておりますが、これはギター・ボーカル担当のカート・カークウッド(Curt Kirkwood)によるものです。また、アメリカ南西部の俗語では、「huevos」は「大胆さ」(chutzpah)を意味するとのこと。

 スピード重視のハードコア・バンドとしてスタートしたミート・パペッツ。1stアルバムでは疾走感あふれるハードコア、2ndアルバムではフォークやカントリーを取り込んだロックを鳴らし、3rdと4thではテクニカルでアンサンブル重視の音楽を作り上げていました。3rdと4thは、ネオ・サイケデリックと評されることもあり、個人的にはプログレとマスロックの要素を併せ持ったインディー・ロック、と呼べるのではないかと思っています。

 で、5枚目の本作『Huevos』が、どんな音楽性なのかと言うと、テキサス州出身のロック・バンド、ZZトップからの影響が強いアルバムだと言われています。じゃあ、ZZトップってどんなバンドなの?と言うと、ジャンルとしてはサザン・ロックに分類されることが多く、南部テキサス州出身らしい、カントリーやブルースを取り込んだ音楽性が特徴のバンドです。

 もうすこし具体的に説明すると、南部で生まれたブルースをはじめとするルーツ・ミュージックを下敷きに、激しく歪んだギター・サウンドやレザー・ジャケットなどハードロック的な文化で、ルーツをアップデートしたバンド、といったところ。

 ZZトップが生まれたテキサス州は、元々はメキシコ領で、スペイン語圏の文化を色濃く残す地域です。そのため、ZZトップのアルバム・タイトルには、しばしばスペイン語が用いられ、ミート・パペッツが本作にスペイン語でタイトルを付けたのも、その影響からだとも言われます。

 ZZトップの話が長くなってしまいましたが、では実際に本作では、どのような音楽が鳴っているのか。本作のわずか半年前にリリースされた前作『Mirage』は、ギターの音作りはクリーントーンを主力として、プログレを彷彿とさせる、正確で複雑なアンサンブルが前面に出たアルバムでした。

 本作の再生ボタンを押すと、まずはそのサウンド・プロダクションの違いに驚くことでしょう。前作での清潔感のある音作りと比較すると、ギターは豊かに歪み、リズム隊は立体的で、揺らぎを活かすような音色でレコーディングされています。

 音楽性も、設計図に沿って組み上げられた建造物のようなアンサンブルの前作と比較すると、いわゆるスウィング感やグルーヴ感を伴った、躍動感あふれるものになっています。また、付け焼き刃でサザンロックに傾いたわけでもなく、これまでの彼らの作品と同じく、しっかりと消化した上でミート・パペッツの音楽として成立しています。

 前作から、わずか半年間しか間隔が空いていないのに、いったい何があったんだ!?とも思えますが、ハードコア・パンクからスタートし、カントリーやサイケデリック・ロックを取り込んだ音楽を展開してきたことを考慮すると、彼らにとっては自然な成り行きだったのでしょう。

 1stアルバムでハイテンポなハードコアを鳴らし、2ndアルバムでは一変してフォークやカントリーを取り入れたインディーロックへと舵を切ったミート・パペッツ。彼らの出身地アリゾナ州は、南北戦争時の歴史的な意味において、アメリカ南部には含まれませんが、地理的には南部が近く、他のルーツ・ミュージックと並んで、ZZトップをはじめとするサザンロックにも親しんでいたのでしょう。

 ミート・パペッツのオリジナル・メンバーは、1960年前後の生まれで、バンドを結成したのは1980年のこと。すでにラジオやテレビが普及し、情報化社会が始まりつつあり、地域性と音楽性は、もはやあまり関係がないのかもしれません。いずれにしても、本作がサザンロックを取り込み、コンパクトなインディーロックに仕立てた、優れた作品であることは確かです。

 





Meat Puppets “Mirage” / ミート・パペッツ『ミラージュ』


Meat Puppets “Mirage”

ミート・パペッツ 『ミラージュ』
発売: 1987年4月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Steven Escallier (スティーヴン・エスカリアー)

 1980年に、アリゾナ州フェニックスで結成。のちのグランジ・オルタナ勢へ、多大な影響を与えたバンド、ミート・パペッツの4thアルバム。

 プロデューサーは、1stアルバムから前作までを手がけたスポット(Spot)ことグレン・ロケット(Glen Lockett)に代わり、スティーヴン・エスカリアーが担当。

 疾走感あふれるハードコア・バンドとしてスタートしたミート・パペッツ。アルバムを追うごとに音楽性を変え、徐々にアンサンブル重視の複雑なロックを構築するようになります。

 前作『Up On The Sun』から2年ぶり、通算4枚目のスタジオ・アルバムとなる本作には、ハードコア要は皆無。ドラムのデリック・ボストロム(Derrick Bostrom)は、本作を「サイケデリックな大作」(psychedelic epic)と評しています。

 そんなメンバー自身の言葉どおり、各楽器の複雑なフレーズが絡み合う、摩訶不思議な空気感を持った本作。ジャケットのデザインも、サイケデリックですね。サウンド・プロダクションの面では、ギターはクリーントーンが中心。激しく歪んだサウンドや、過度なエフェクトに頼らず、アンサンブルで多様な音世界を作り上げています。

 1曲目「Mirage」は、ギターの回転するようなフレーズから始まり、各楽器が絡みつくように、複雑かつ有機的なアンサンブルを構成する曲。バックで鳴るシンセサイザーが、サイケデリックな空気を演出します。

 2曲目「Quit It」は、リズムとアンサンブルは抑え気味ながら、疾走感のある1曲。正確無比なタイトなアンサンブルが、ゆるやかな躍動感を生み、ボーカルはメロディアスなラインをシャウト気味に歌い上げ、楽曲を先導していきます。

 3曲目「Confusion Fog」は、カントリー色の濃いアンサンブルとフレーズながら、サウンドは清潔感のあるクリーントーンを用い、ジャンルレスな雰囲気。細かく刻まれるリズムには疾走感があり、心地よいです。

 4曲目「The Wind And The Rain」は、イントロからアコースティック・ギターが用いられ、3曲目に続いてカントリーを思わせる、穏やかで牧歌的な1曲。

 5曲目「The Mighty Zero」は、イントロからエフェクト処理されたドラムが、四方八方から響き渡る、サイケデリックな空気が漂う曲。

 9曲目「Beauty」は、イントロでは高速フレーズが正確に組み合う、プログレ色の濃い1曲。再生時間2:00過ぎからの厚みのある倍音を持ったギターも、70年代のプログレやハード・ロックを彷彿とさせます。

 前述したとおり、メンバーのデリック・ボストロムは本作を「サイケデリック」だと表現していますが、個人的にはプログレッシヴ・ロックとマスロックの間を繋いだ作品、と言った方がしっくりきます。テクニカルで複雑なアンサンブルが、高い精度で正確に作りこまれているという意味です。

 ただ、ジャンル名の組み合わせで語ることができないぐらい、多様な音楽を取り込み、自分たちで消化した上で、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げているバンドなので、あまり「○○と○○を合わせた」と語るのは、失礼にあたるでしょう。

 また、複雑なフレーズやアンサンブルではあるのですが、コンパクトにまとまり、難解さを感じさせないところも魅力。そんな地に足の着いた音楽性も含めて、90年代以降のオルタナティヴ・ロックやインディー・ロックを予見していると言ってもいいでしょう。

 1987年のオリジナル盤リリース当初は、12曲収録。これまでの3作のアルバムと同様、1999年にワーナー傘下のライコディスク(Rykodisc)よりリイシュー。このリイシュー盤には、ボーナス・トラックが5曲追加され、全17曲収録となっています。