Meat Puppets “Monsters”
ミート・パペッツ 『モンスターズ』
発売: 1989年10月
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Eric Garten (エリック・ガーテン)
アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの、前作『Huevos』から2年ぶりとなる、通算6枚目のスタジオ・アルバム。プロデュースは、前作のスティーヴン・エスカリアー(Steven Escallier)に代わって、ミート・パペッツのセルフ・プロデュースへ。レコーディング・エンジニアは、エリック・ガーテンが担当。
1stアルバムから本作まで、ブラック・フラッグのグレッグ・ギンが設立した、SSTからのリリースを続けていたミート・パペッツですが、それも本作が最後。次作『Forbidden Places』では、当時ポリグラム傘下だったレーベル、ロンドン・レコード(London Records)へ移籍しています。
1980年に結成され、1982年の1stアルバムでは、高速のハードコア・パンクを鳴らしていたミート・パペッツ。ニルヴァーナのカート・コバーンをはじめ、多くのグランジ・オルタナ系のバンドへ影響を与えたバンドでもあります。
1st以降は、カントリー、サイケデリック・ロック、サザンロックなど、多様な音楽を参照しながら音楽性を広げ、通算6作目、前述のとおりSSTでのラスト・アルバムとなる本作では、これまでの集大成と言える、多種多様でごった煮のロックを展開しています。
本作がリリースされたのは1989年。ニルヴァーナの1stアルバム『Bleach』がリリースされ、グランジ・オルタナのムーヴメントが躍動し始めた年です。
前述のとおり、カート・コバーンがお気に入りのバンドに挙げるなど、後続のバンドに多大な影響を与えたミート・パペッツ。時代が彼らに追いついたのか、あるいは彼らが時代を作ったと言うべきか、本作の音楽性は、当時のオルタナ勢の音楽と、多くの共通点が認められます。
すなわち、激しく歪んだディストーション・ギターを用いているものの、展開される音楽には、ハードロック的な様式美や、メロコア的な爽快感は希薄。アンサンブルを重視したミドルテンポの曲が多く、ミート・パペッツが得意とするサイケデリックなアレンジも随所で聴かれます。
1曲目の「Attacked By Monsters」では、イントロから唸りをあげるギターと、叩きつけるようなドラムが重なり、重心の低いサウンドで、引きずるようなアンサンブルが展開。ボーカルの気だるい歌唱と、バンドの重たいサウンドからは、アングラ臭も漂い、ニルヴァーナの『Bleach』にも繋がる空気を持っています。
2曲目「Light」は、高音域を使ったキーボードや、アコースティック・ギターが用いられた、爽やかに疾走していく曲。コーラスワークも流麗で、王道のアメリカン・ロックのようにも、ギターポップのようにも響きます。
3曲目「Meltdown」は、うねるようなギターが絡み合う、ギターを中心としたアンサンブルが繰り広げられる1曲。前作『Huevos』は、ZZトップからの影響が色濃いとも言われるアルバムですが、前作を彷彿とさせる、サザンロックらしいサウンドが展開されます。
6曲目「Touchdown King」では、アコースティック・ギターによるコード・ストロークと、エレキ・ギターのフレーズが重なり、疾走感あふれる演奏が展開。フレーズとサウンドには、カントリーの要素もあり。このバンドの懐の深さが窺える1曲です。
7曲目「Party Till The World Obeys」は、ギターのアヴァンギャルドな音色から始まる、アングラな空気を持った1曲。スライド・ギターなのか、浮遊するようなサウンドが耳に残り、サイケデリック・ロックも感じさせるアレンジ。
10曲目「Like Being Alive」は、ドラムのシンプルなビートに導かれ、次々と楽器が加わり、歯車が組み合うような有機的なアンサンブルが構成される1曲。だらりとした、物憂げなボーカルが、楽曲に憂鬱な空気を加えます。
アルバム毎に音楽性を変え、常に変化を続けてきたミート・パペッツ。本作では、これまでに彼らが消化してきた、フォーク、カントリー、サイケデリック・ロック、サザンロックなどが全て融合し、当時のオルタナティヴ・ロックとも繋がる音楽性を披露しています。(しいて言えば、1stのハードコア・パンクの要素はほとんど感じられませんが…)
冒頭部でも書いたとおり、SSTからリリースされるオリジナル・アルバムは本作がラスト。1stアルバムから、6thアルバムである本作までの6枚のアルバムは、いずれも1999年にワーナー傘下のライコディスク(Rykodisc)というレーベルから、ボーナス・トラックを追加しリイシューされています。