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Bad Religion “How Could Hell Be Any Worse?” / バッド・レリジョン『ハウ・クッド・ヘル・ビー・エニィ・ワース?』


Bad Religion “How Could Hell Be Any Worse?”

バッド・レリジョン 『ハウ・クッド・ヘル・ビー・エニィ・ワース?』
発売: 1982年1月19日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Jim Mankey (ジム・マンキー)

 1980年にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたパンク・バンド、バッド・レリジョンの記念すべき1stアルバム。

 ギタリストのブレット・ガーヴィッツ(Brett Gurewitz)は、いまやパンクの世界的名門レーベルとなった、エピタフ・レコードの設立者。

 同レーベルは、もともとバッド・レリジョンの作品をリリースするために、バンドと同じく1980年に設立されたのであり、もちろん本作『How Could Hell Be Any Worse?』も、エピタフから発売されています。

 メロディック・ハードコア(melodic hardcore)を生み出したバンドの一つに数えられるバッド・レリジョン。

 1980年に結成された彼らのディスコグラフィーは、パンク・ロックからハードコア・パンク、そしてメロコアへと繋がる、ジャンルの歴史そのものと言っても過言ではありません。

 1982年にリリースされた本作で展開されるのは、まだオリジナル・パンクの色も濃く、70年代パンクの音像はそのままに高速化した、ハードコア・パンクです。

 14曲収録で、合計のタイムは30分ほど。もっとも長い曲でも、7曲目「In The Night」の3分25秒。テンポが速く、スピーディーな楽曲が収録されています。

 よくよく考えたら、再生時間が短いからといって、テンポが速いとは限りませんよね。短いけど、テンポが遅い曲というのもあるし。しかし本作に関しては、疾走感あふれるハイテンポの曲ばかりです。

 音圧の高い、より高速な曲に慣れている現代的な耳からすると、サウンドは思ったよりしょぼいし、テンポも速くない、と感じるかもしれません。

 でも、これはラモーンズやピストルズを聴くときにも言えることですが、バンド全体が前につんのめっていくリズム、メロディー感よりエモーションの解放を優先したボーカルには、テンポや音圧を超えたアジテーション効果があります。

 ちなみに2004年にリリースされたリマスター盤には、2枚のEP『Bad Religion』と『Back To The Known』、ハードコア・パンクのコンピレーション作品『Public Service』に収録された、計14曲が追加。合計28曲が収録されています。

 現在、各種サブスクリプションでも、こちらのリマスター版が視聴可能です。

 





Meat Puppets “Meat Puppets” / ミート・パペッツ『ミート・パペッツ』


Meat Puppets “Meat Puppets”

ミート・パペッツ 『ミート・パペッツ』
発売: 1982年
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 1980年1月に、アリゾナ州フェニックスで結成されたバンド、ミート・パペッツの1stアルバム。

 近年では「カート・コバーンが好んで聴いていた」という文脈で、語られることの多いミート・パペッツ。初期SSTを代表するバンドであり、ニルヴァーナ(Nirvana)をはじめ、サウンドガーデン(Soundgarden)やダイナソーJr.(Dinosaur Jr)など、数多くの後続バンドに、影響を与えたと言われています。

 ここで挙げたのは、いわゆるグランジとオルタナティヴ・ロックに括られるバンドたち。1980年に結成、1982年に本作でアルバム・デビューを果たすミート・パペッツは、1980年後半から沸き起こるグランジ・オルタナ・ブームを、準備したバンドのひとつと言っていいでしょう。

 しかし、1stアルバムである本作で鳴らされるのは、グランジやオルタナと言うよりも、疾走感の溢れるハードコア・サウンド。ここから彼らは音楽性を少しずつ熟成し、オルタナティヴ・ロックのプロトタイプとなる音楽を作り上げていきます。

 パンク旋風が過ぎ去り、ポストパンクやハードコアなど、パンクの先をバンドが急増し、各地でインディーレーベルが立ち上がっていく1980年代前半。そんな時代にデビューした、ミート・パペッツの音楽の変遷を追うことは、パンクからグランジまでの流れを把握する上でも、非常に有意義です。

 1970年代のオリジナル・パンクの延長線上にあると言える、スピーディなハードコア・パンクが展開される本作。1982年のオリジナル盤は、14曲収録で、時間はおよそ22分弱。速い、短い、アツい、と三拍子そろった1作です。

 しかし、直線的に初期衝動に任せて突っ走るだけかと思いきや、随所にその後の音楽性の拡大を感じさせる要素はあります。例えば、4曲目の「Walking Boss」は、アメリカのフォークシンガーであり、ブルーグラス・ギターの名手、ドク・ワトソン(Doc Watson)のカバー。ルーツ・ミュージックからの影響を、隠すこと無くあらわしています。

 次作『Meat Puppets II』では、よりルーツ・ミュージックを取り込んだロックを志向するミート・パペッツ。疾走感を重視したパンキッシュな曲が並ぶ本作ですが、次作へ繋がるヒントが、いくつも散りばめられています。

 とはいえ、それは次作以降の話。本作は、1stアルバムらしい荒々しい疾走感を、まずは楽しむべきでしょう。

 ちなみに前述のとおり、オリジナルのLP盤は14曲収録ですが、1999年にCDがリイシューされる際に、ボーナス・トラックを18曲(!)も追加。合計32曲収録となっています。

 このボーナス・トラックには、1981年にリリースされたEP『In A Car』や、イギー&ザ・ストゥージズのカバー「I Got A Right」、グレイトフル・デッドのカバー「Franklin’s Tower」などを含み、彼らの音楽性を探る上でも、興味深い内容。

 現在、各種サブスクリプション・サービスで配信されているのも、こちらの32曲収録バージョンです。





Descendents “Milo Goes To College” / ディセンデンツ『マイロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ』


Descendents “Milo Goes To College”

ディセンデンツ 『マイロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ』(ミロ・ゴーズ・トゥー・カレッジ)
発売: 1982年
レーベル: New Alliance (ニュー・アライアンス), SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Spot (スポット)

 1977年にカリフォルニア州マンハッタンビーチで結成されたバンド、ディセンデンツの1stアルバム。1982年にニュー・アライアンスからLPでリリースされ、1987年にニュー・アライアンスの親レーベルでもあるSSTから再発されています。

 アルバムのタイトルは、ボーカルのマイロ・オーカーマン(Milo Aukerman)が、カリフォルニア大学サンディエゴ校に進学するため、バンド活動を離れることに由来。アルバムのジャケットになっているのは彼のカリカチュアで、やがてバンドのマスコットになります。

 15曲収録で、合計時間は22分。大半が2分以内におさまった疾走感と、耳なじみの良いメロディーを併せ持つアルバムです。後のカリフォルニアのパンク・シーンの元を作ったバンドのひとつと言っていいでしょう。

 1982年の作品ということで、現代的な耳で聴くと、音圧は低めですが、疾走感あふれる演奏と、流れるようなメロディー、みずみずしく青春を感じさせるコーラスワーク、身近な日常を切りとる歌詞には、パンクの魅力が溢れています。と書くと「パンクってなに?」という話になってしまいますが、背伸びせずに日常を歌うのも、ある時期以降のパンクの役割のひとつではないでしょうか。

 日本でも青春パンクと呼ばれるジャンルがありますが、政治性や攻撃性を重視するだけでなく、日常をユーモアや音楽で描き出すことで、自分の日常や世界を変える。その態度にリアリティがあり、パンクなのだと思います。

 1曲目「Myage」から、速めのテンポに乗って、バンド全体が前のめりに突っ込んでくるようなアンサンブルが展開されます。シャウト気味ながら、メロディーもきちんと聴かせる、ボーカルの歌唱バランスも秀逸。

 2曲目「I Wanna Be A Bear」も、ギターとベースが絡み合うように疾走するイントロから、前のめりに進行していきます。わずか40秒ほどの1曲で、勢いと共にあっという間に終わります。

 4曲目「Parents」は、ベースラインにジャカジャカと歪んだギターが絡みつくようなアンサンブル。

 5曲目「Tonyage」は、前につっこみ気味のリズムで、徐々に加速していく1曲。この曲も1分以内の短い曲ですが、その中で何回かに分けてテンポを上げていき、疾走感に溢れています。

 8曲目「Catalina」は、上から叩きつけるような立体的なドラムと、淡々とリズムを刻むベースと、ざらついた音色のギターが、ただの勢い任せではない、機能的なアンサンブルを構成していきます。スポークン・ワードから始まり、徐々にテンションを上げていくボーカルも、バンドのテンションと一致していて、盛り上がりをさらに演出。

 10曲目「Statue Of Liberty」は、メタリックな歪みのギターと、タイトなリズム隊が、カチッとしたアンサンブルを展開していきます。流れるようなメロディーとコーラスワークも心地よく、アングラ感とポップさの溶け合ったロックンロール。

 13曲目「Hope」は、潰れたような歪みのギターを中心に、塊感のある演奏が展開されます。各楽器が分離し、絡み合うようなアンサンブルが、このバンドの魅力だと個人的には思うのですが、この曲はバンドがひとつの塊になって転がっていくような一体感があります。

 アルバム全体を通して、各楽器が絡み合うような一体感があり、その絡み合いが疾走感に繋がっています。全ての楽器が同じリズムで、縦をぴったり合わせるのではなくて、追い抜き合うような、もつれ合うような部分があるところが、フックになって、耳をつかみやすくなっているんじゃないかと思います。

 疾走感あふれる演奏やシャウト気味のボーカルなどハードコア的な要素と、親やすいメロディーとコーラスワークなどメロコアに通じる要素を併せ持ったアルバムで、その後のカリフォルニアのパンクシーンに与えた影響の大きさを感じさせます。

 また、直線的に突っ走るだけでなく、歌詞と演奏の両面において、知性を感じさせるところも、このバンドおよびアルバムの魅力であると思います。