X “Wild Gift”
エックス 『ワイルド・ギフト』
発売: 1981年5月1日
レーベル: Slash (スラッシュ)
プロデュース: Ray Manzarek (レイ・マンザレク)
カリフォルニア州ロサンゼルス出身のパンク・バンド、Xの2ndアルバム。プロデューサーを務めるのは、前作に引き続き、元ドアーズのレイ・マンザレク。
アメリカにおけるパンク・バンドの第一世代であり、LAパンクを代表するバンドのひとつでもあるX。デビュー・アルバムとなる前作『Los Angeles』では、シンプルなロックンロールを基調とした、初期パンクらしい疾走感あふれる音楽を鳴らしていました。
しかし、前作から1年ぶりとなる本作では、カントリーやロカビリーなど、ルーツ・ミュージック色を強くした音楽を展開しています。ピストルズを中心としたパンク旋風も過ぎ去り、ニュー・ウェーヴやポストパンクの流れが加速していた1980年代前半。Xも時代の流れに呼応するように、初期パンクの構造には拘らず、音楽性を変えていきます。
1曲目「The Once Over Twice」は、アルバムの幕開けにふさわしく、軽快なリズムを持ったノリの良い1曲。しかし、ゴリゴリに駆け抜けるハードコア的なアレンジではなく、リズムに揺らぎがあり、カントリーからの影響も感じられる演奏になっています。
2曲目「We’re Desperate」は、リズムが前のめりに突っ込んでくる曲ですが、やはり1曲目と同様、直線的に走るだけではありません。随所にリズムのタメとズレが有り、立体的なアンサンブルが展開。
3曲目「Adult Books」は、リズムとボーカルの歌唱からは、トロピカルな雰囲気が漂う、リラックスした1曲。ギターのフレーズと音色は、ハワイアンのように響きます。
5曲目「I’m Coming Over」は、ドラムの乾いたサウンドと、ギターのざらついた歪みが印象的な、ガレージ・ロック色の濃い1曲。本作の中では、テンポが速く、疾走感に溢れた曲です。
6曲目「It’s Who You Know」では、ギターが倍音豊かに歪み、絡みつくようなフレーズを繰り出していきます。そのサウンド・プロダクションとフレーズからは、ハードロックの香りが漂う1曲。ブレイク部分のギターのフレーズも秀逸。
7曲目「In This House That I Call Home」では、ボールが弾むように、軽やかに生き生きと躍動していくアンサンブルが展開。男女混声のコーラスワークも冴え渡り、立体的な演奏が繰り広げられます。
10曲目「Beyond And Back」は、1950年代が目に浮かぶロカビリー全開な1曲。ギターが狙いすぎで、逆にダサいぐらいに、ノリの良いなめらかなフレーズを繰り出していきます。コーラスワークにおける、男女の声のバランスも素晴らしい。
シンプルな8ビートを多用していた前作から比較すると、リズムが立体的かつ複雑になった本作。そのため、疾走感は前作より抑えられ、代わりにアンサンブルの立体感と躍動感が増しています。
前作と比較して、本作の方が絶対的に優れている、ということではありませんが、リズムのパターンが多彩になり、音楽性の幅が広がったのは、事実でしょう。
アメリカのニュース・カルチャー誌、ヴィレッジ・ヴォイス(The Village Voice)が、1971年から毎年おこなっているPazz & Jop Critics Poll(音楽批評家の投票によって、その年の優れた作品を選ぶ企画)の1981年版では、クラッシュの『Sandinista!』が1位、本作が2位に選ばれています。
前作と本作は共に、ロサンセルスを拠点にするパンク系インディー・レーベル、スラッシュからのリリース。しかし、3rdアルバムとなる次作『Under The Big Black Sun』からは、ワーナー傘下のメジャー・レーベル、エレクトラ(Elektra)へ移籍。前述のヴィレッジ・ヴォイス誌での評価と合わせて、本作が彼らの出世作と言ってよいでしょう。