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Bad Religion “Suffer” / バッド・レリジョン『サファー』


Bad Religion “Suffer”

バッド・レリジョン 『サファー』
発売: 1988年9月8日
レーベル: Epitaph (エピタフ)
プロデュース: Jim Mankey (ジム・マンキー)

 カリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたパンク・バンド、バッド・レリジョンの3rdアルバム。

 メロディック・ハードコアの創始者と言われることもあるバッド・レリジョンですけど、本作『Suffer』は、現在のメロコアに直接的につながるスタイルを、確立したアルバムと言えます。

 具体的には、伴奏に対して歌のメロディーが乗る、という主従関係ではなく、バンドとボーカルが塊となって駆け抜ける一体感を持っており、なおかつメロディーも、シングアロングが沸き起こるのが、容易に想像できるポップさなんです。

 メロディーがバックの演奏に引っ張られて、メロディー感が希薄になるのではなく、かといって完全にバンドと分離しているわけでもない。しっかりと起伏のあるメロディーでありながら、バンドのスピード感を損なうことなく、ともに疾走していきます。

 例えば2曲目の「1000 More Fools」では、前のめりに転がるバンドのアンサンブルに、曲芸的に乗るようにボーカルが躍動。同曲に関しては、ところどころで導入される、厚みのあるコーラスワークも、実にメロコアらしい空気を醸し出しています。

 「メロコアらしい」というよりも、本作を聴いた少年たちが、やがて自分たちでバンドをやるようになり、ジャンルを形成していったのでしょうね。今、聴くと若干の古さを感じるのは事実ですが、同時に現在のメロコアに繋がる要素が、随所で感じられ、影響力の大きさに驚くばかりです。

 アルバム表題曲でもある、9曲目の「Suffer」は、本作のベスト・トラックと言って良いでしょう。疾走感がありつつ、随所にリズムのフックを持ったバンドのアンサンブルに、切なさを包括したメロディーが重なります。

 メジャーキーで底抜けに明るく突っ走るだけでなく、憂いを持ったところも、バッド・レリジョンの大いなる魅力。

 また、ギタリストのブレット・ガーヴィッツ(Brett Gurewitz)は、エピタフ・レコードの設立者としても有名。いまや世界中にファンを持つ、パンクの大御所レーベルとなったエピタフですが、本作は同レーベルの方向性を、決定づけた作品であるとも言えます。

 本作をバッド・レリジョンの最高傑作に挙げる方もいますが、それも納得のクオリティ。

 ハードコアとメロコアを繋ぎ、現代のメロコアまでの道を示す、資料的価値だけではなく、メロコアの魅力のコアとなるものが、多分に感じられる1作です。

 





Gorilla Biscuits “Gorilla Biscuits” / ゴリラ・ビスケッツ『ゴリラ・ビスケッツ』


Gorilla Biscuits “Gorilla Biscuits”

ゴリラ・ビスケッツ 『ゴリラ・ビスケッツ』
発売: 1988年7月14日
レーベル: Revelation (レヴェレーション)
プロデュース: Don Fury (ドン・フューリー)

 1987年にニューヨークで結成されたハードコア・パンクバンド、ゴリラ・ビスケッツの7インチ作品。レコード時代は7曲収録、CD化された際に5曲追加されて、12曲収録となっています。現在、デジタル配信されているのも、CDと同様の12曲。

 前述のとおり、当初は7曲入りの7インチで発売されたため、アルバムと見なすべきなのか、EP扱いなのかは微妙なところ。サイトや書籍で言及される際にも、アルバム扱いとEP扱いの両方が存在します。参考までに、ウィキペディアではアルバム扱い。

 1980年代後半から、ハードコア・シーンを牽引したレーベル、レヴェレーションからのリリース。

 スピード感あふれる演奏と、メロディアスな歌メロが共存し、独自のハードコア・サウンドを作り上げたゴリラ・ビスケッツ。一体感と疾走感のあるバンドのアンサンブルに、ボーカルが速さにまかせてシャウトするだけではない、起伏のあるメロデイーを曲芸的に乗せていきます。

 ハードコアの持つスピード感という魅力を損なうことなく、メロディーだけ取り出しても十分に楽しめるポップさを併せ持っているところが、このバンドの最大に魅力。

 速度と攻撃性をとことん追求しハードコアを極めるか、あるいは速度を落とし、アンサンブルやメロディーや実験性を重視し、独自のポスト・ハードコアを作り上げるか、という2つの主要な選択肢があるところで、速度とメロディーを共存させることに成功しているのが本作です。

 大半の曲が2分以内に終わり、CD版では12曲で収録時間は19分28秒と、ハードコアらしく曲もコンパクトにまとまっていますが、多彩なメロディーが聴こえるアルバムになっています。

 8曲目に収録されている「Sittin’ Round At Home」は、イギリスのパンクロック・バンド、バズコックス(Buzzcocks)のカバー。

 その後のパワー・ポップやポップ・パンクに影響を与えたバズコックスの楽曲を取り上げていることも示唆的で、ゴリラ・ビスケッツがスピード感と同じぐらいメロディーも大切にしているバンドだと、物語っていると言えるでしょう。





They Might Be Giants “Lincoln” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『リンカーン』


They Might Be Giants “Lincoln”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『リンカーン』
発売: 1988年9月25日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 1982年に結成され、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの2ndアルバム。タイトルの「リンカーン」とは、彼らが育ち出会った、マサチューセッツ州の街の名前です。

 前作『They Might Be Giants』では、2人のメンバーが多重録音と打ち込みを駆使して、ほぼ全ての楽器を演奏していましたが、2作目となる本作でもその方針は変わりません。

 主な担当楽器は、ジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)が、ギター、トランペット、グロッケンシュピール、メロディカ(鍵盤ハーモニカ)。ジョン・リネル(John Linnell)が、アコーディオン、キーボード、オートハープ、サックス、クラリネット。ボーカル、作曲、打ち込みのプログラミングは、2人とも務めます。唯一のサポート・ミュージシャンは、3曲目の「Lie Still, Little Bottle」でドラムを担当するケネス・ノーラン(Dr. Kenneth Nolan)。

 ややローファイなサウンドで、ギターポップ色が強く、カラフルで親しみやすい音楽を作り上げた前作。本作では、カラフルで雑多な部分が引き継ぎつつ、アンサンブルはよりタイトに、深みと精度を増しています。

 先ほど挙げたとおり、アコーディオンやメロディカなど、一般的なロック・バンドがあまり使わない楽器を用いて、実験性とポップさを持ち合わせた、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げます。

 1曲目「Ana Ng」は、ギターとドラムがタイトにリズムを刻んでいく1曲。イントロはストイックに音数が絞られていますが、再生時間0:36あたりから軽快に疾走するところや、アクセントのように絶妙に差し込まれるアコーディオンなど、1曲目から彼らの音楽の深さが十分に感じられます。

 2曲目「Cowtown」は、イントロからサックスが鳴り響き、アヴァンギャルドな雰囲気を持った1曲。しかし、難しい曲というわけではなく、ジャンクなパートと、カラフルに緩やかにグルーヴするパートが交互の訪れ、全体の耳ざわりは非常にポップです。

 3曲目「Lie Still, Little Bottle」では、前述のとおりサポート・メンバーがドラムを担当。ドラムの立体的なリズムを筆頭に、歩き回るようなベース・ライン、アクセント的に挿入されるトランペットとサックスなど、ジャズの香りが漂う1曲です。

 4曲目「Purple Toupee」は、ほどよく歪んだギターとシンセサイザーが前面に出た、疾走感あふれるギターポップ。

 5曲目「Cage & Aquarium」は、下の方からパワフルに響くフロアタムと、ファニーな音色のギター、カラフルなコーラスワークが重なる、1分ほどの曲。

 8曲目「Mr. Me」は、様々な音が飛び交うカラフルでポップな1曲。アコーディオンや口笛のような音など、一般的なロックでは使用されない音が、楽曲を親しみやすく、鮮やかにしています。

 9曲目「Pencil Rain」は、行進曲のようなリズムに乗せて、ボーカルがダンディーにメロディーを歌い、まわりではポップかつアヴァンギャルドな音が飛び交う1曲。再生時間1:21あたりから信号音のように聞こえるキーボードらしき音など、実験的な要素も含んでいるのに、全体としては非常にポップな仕上がりなのは、彼らならではのバランス感覚。

 10曲目「The World’s Address」は、ピアノがフィーチャーされ、ラテンの香り漂う1曲。しかし、再生時間1:30あたりからのギター・ソロからは、ジャンクでローファイな空気も漂い、ただジャンルを借りてくるだけではありません。サックスの音色もアクセントになっていて、楽曲を多彩にしています。

 15曲目「Shoehorn With Teeth」は、サックスとアコーディオン、ボーカルがいきいきとしたアンサンブルを繰り広げる、民謡的な耳ざわりの1曲。

 16曲目「Stand On Your Own Head」は、オートハープと思われるサウンドが弾むように鳴り響く、ブルーグラスを彷彿とさせる1曲。躍動感と疾走感もあり、ポップで楽しい空気に溢れています。

 18曲目「Kiss Me, Son Of God」は、ストリングスが導入され、ボーカルと共に、厚みのあるハーモニーを作り上げる1曲。クラシック寄りの荘厳な雰囲気にはならず、ほどよくポップで軽さを持った、曲に仕上がっています。

 多種多様な楽器と音楽ジャンルを参照しながら、オリジナリティを失わず、極上のポップスを聴かせてくれるのが、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツです。2作目となる本作では、前作以上に多くの音楽ジャンルの要素を感じさせながら、カラフルで親しみやすい、そして一貫性のあるアルバムを作り上げています。そのポップ・センス、バランス感覚が、本当に素晴らしいバンドです。





Dinosaur Jr. “Bug” / ダイナソーJr.『バグ』


Dinosaur Jr. “Bug”

ダイナソーJr. 『バグ』
発売: 1988年10月31日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)

 マサチューセッツ州アマーストで結成されたバンド、ダイナソーJr.の3rdアルバムです。2ndアルバム『You’re Living All Over Me』に続き、SSTからのリリース。

 1990年代のグランジ・オルタナブームを代表するバンドと目されるダイナソーJr.。現代的なハイファイ・サウンドから比較すれば、音圧が圧倒的に高いというわけではないけど、彼らの轟音ギターにはキレと奥行きがあり、時空を切り裂くように、なおかつ耳に心地よく響きます。

 「グランジ」や「オルタナ」といったジャンル名、また彼らの音楽性を形容するときにしばしば用いられる「轟音」というワードが帯びる先入観を抜きにして聴くと、音作りの巧みさ、特に歪んだギター・サウンドの多様性には驚かされます。

 1曲目「Freak Scene」は、イントロからクランチ気味のギターとリズム隊が、コンパクトなロックを響かせます。再生時間0:31あたりから、堰を切ったようになだれ込んでくる轟音ギター。クリーン・トーンから、激しく歪んだディストーションまで、様々なサウンドのギターを効果的に使い分けるのが、このバンドの魅力。

 2曲目「No Bones」は、イントロから、やや潰れたように歪んだギターが響きわたります。テンポは抑え目に、物憂げなボーカルと、激しく歪んだギターが溶け合い、スピードではなくサウンドでエモーションを描き出す1曲。再生時間1:35あたりから加わるアコースティック・ギター、再生時間1:57あたりから唸りをあげる歪んだギターなど、段階的に異なるサウンドのギターが用いられ、楽曲に奥行きと多彩さをもたらしています。

 3曲目「They Always Come」は、イントロから、倍音たっぷりの厚みのあるディストーション・ギターが曲を先導し、バンド全体もタメを使って加速感を演出する、疾走感のある1曲。

 5曲目「Let It Ride」は、金属的なサウンドのギターが、耳をつんざくように鋭く響き、ややルーズなボーカルも、ジャンクな雰囲気をプラスする1曲。

 7曲目「Budge」は、ギターのサウンドもコーラスワークも、多層的で厚みのある1曲。音が洪水のように押し寄せ、塊感のあるサウンドを持っています。

 「轟音」という意味では、もっと音圧が高く、一聴すると迫力のあるサウンドを鳴らすバンドはいますが、ダイナソーの魅力はサウンド・プロダクションにこだわりが感じられ、非常に耳ざわりが良いところです。

 歪みにも種類を持たせ、クリーントーンも効果的に導入し、楽曲をカラフルに彩っています。轟音一辺倒に頼るのではなく、コントラストによって轟音の効果を最大限に引き出すところもさすがだなと思いますね。