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Of Montreal “The Gay Parade” / オブ・モントリオール『ゲイ・パレード』


Of Montreal “The Gay Parade”

オブ・モントリオール 『ゲイ・パレード』
発売: 1999年2月16日
レーベル: Bar/None (バーナン)

 音楽コミュニティ「エレファント6」の一員でもある、ジョージア州アセンズ出身のバンド、オブ・モントリオールの3rdアルバム。前作『The Bedside Drama: A Petite Tragedy』は、彼らの地元アセンズのレーベル、Kindercoreからのリリースでしたが、本作は1stアルバムと同じく、ニュージャージー州のレーベル、Bar/Noneからリリース。

 1stアルバムと2ndアルバムでは、アヴァンギャルドな空気を持ったポップ・ミュージックを展開していたオブ・モントリオール。3作目となる本作でも、彼ら特有のバランス感覚を武器に、適度にねじれた、アヴァンギャルドでカラフルな音楽を奏でています。

 実験性の点では、前2作と比較して格段にアヴァンギャルドな要素が増しているのに、同時にカラフルでポップな魅力も比例して増加。実験的であるのに、難しさを全く感じさせず、アヴァンギャルド・ポップと言うべき、音楽を展開しています。

 1曲目「Old Familiar Way」は、ピアノがフィーチャーされた、ミドル・テンポの1曲。穏やかなボーカルと、厚みのあるコーラスワークが、心地よいサウンドを作り上げますが、部分的にフレーズを繰り返すコーラスからは、ドラッギーでサイケデリックな空気も漂います。

 2曲目「Fun Loving Nun」が、60年代のサイケデリック・ロックを連想させるキーボードの音色と、エモーショナルに歌い上げるボーカル、タイトなリズム隊が絡み合う、疾走感あふれる1曲。

 3曲目「Tulip Baroo」は、多種多様な音が四方八方から聞こえる、カラフルでサイケデリックな1曲。アヴァンギャルドな雰囲気でありながら、極上にポップでもあり、おもちゃ箱にダイブしたような気分にさせられるサウンド。

 4曲目「Jacques Lamure」は、ピアノが楽曲を先導していく、躍動感と疾走感のある曲。この曲でも、随所でジャンクな音が飛び交い、アヴァンギャルドな空気を演出。

 5曲目「The March Of The Gay Parade」は、耳障りなノイズと、ピアノのリズム、民族音楽的なメロディーが溶け合う、なんとも不思議な1曲。しかも、敷居の高い楽曲ではなく、思わず口ずさみたくなるようなポップさにも溢れています。

 6曲目「Neat Little Domestic Life」は、ピアノとコーラスワークを中心に、積木かブロックのおもちゃで城を作り上げるような、ポップさとチープな壮大さを持ち合わせた1曲。

 8曲目「Y The Quale And Vaguely Bird Noisily Enjoying Their Forbidden Tryst / I’d Be A Yellow Feathered Loon」は、サイケデリックなコーラスワークのイントロから始まり、カラフルでポップな演奏が繰り広げられる1曲。いたるところでファニーなサウンドが飛び交い、アヴァンギャルドな空気とポップな空気が共生し、充満した曲です。

 9曲目「The Autobiographical Grandpa」は、やや不穏な空気を醸し出すアコースティック・ギターと、おもちゃのようなドタバタしたドラムが絡み合う、ローファイかつポップな1曲。

 10曲目「The Miniature Philosopher」は、中期ビートルズを感じさせる、カラフルで多層的なコーラスワークと、サイケデリックな雰囲気の融合した1曲。

 14曲目「A Man’s Life Flashing Before His Eyes While He And His Wife Drive Off A Cliff Into The Ocean」は、歌を中心としながらも、頻繁にリズムとアレンジを切り替え、リズムが伸縮するような感覚のあるサイケデリックなポップ。ストリングスから、飛び道具的なファニーな音まで、多種多様なサウンドが効果的に用いられた、カラフルで楽しい楽曲です。

 15曲目「Nickee Coco And The Invisible Tree」は、民謡のようなコーラスワークから、スポークン・ワード、サイケデリアまで、多様な音楽が1曲の中に詰め込まれた、カラフルでポップな1曲。5分20秒ほどの曲ですが、展開が多彩で、このアルバムを象徴する1曲と言えます。

 アヴァンギャルドかつサイケデリックな要素を多分に持ちながら、それらが全て非常にポップなかたちに消化され、全体のサウンドとしては極上のポップスに仕上がっているのが、このアルバムの魅力。フロントマンのケヴィン・バーンズ(Kevin Barnes)によるところが大きいのだと思いますが、ポップ・センスに非常に優れたバンドだと思います。

 





Of Montreal “Cherry Peel” / オブ・モントリオール『チェリー・ピール』


Of Montreal “Cherry Peel”

オブ・モントリオール 『チェリー・ピール』
発売: 1997年7月15日
レーベル: Bar/None (バーナン)

 コロラド州デンバーで幼なじみの友人たちで結成され、その後ジョージア州アセンズに拠点を移す音楽コミュニティ、エレファント6(Elephant 6)。そのエレファント6を代表するバンドのひとつ、オブ・モントリオールの1stアルバムです。ニュージャージー州のインディー・レーベル、Bar/Noneからのリリース。

 時期により音楽性の異なるオブ・モントリオール。1stアルバムである本作では、ローファイなサウンドに乗せて、無邪気なギターポップを奏でています。

 ギター、ベース、ドラムの3ピースによる、シンプルなアンサンブルに、ゆるいボーカルとコーラスワークが合わさる、バンドの楽しさに溢れたアルバムです。

 1曲目「Everything Disappears When You Come Around」は、アコースティック・ギターのコード・ストローク、やや隙のある手数の少ないリズム隊に、力の抜けたリラクシングなボーカルが溶け合う、なんとも平和な1曲。

 2曲目「Baby」は、リズムが随所で伸縮するような、まったりとした躍動感のある1曲。

 3曲目「I Can’t Stop Your Memory」は、曲中でリズムが切り替わり、コントラストの鮮やかな1曲。再生時間0:21あたりから入るキーボードと思われるファニーなサウンドもアクセント。

 5曲目「Don’t Ask Me To Explain」は、やや歪んだギターと高音のコーラスワークが、ジャンクでローファイな空気を醸し出す1曲。

 6曲目「In Dreams I Dance With You」は、2分ちょっとのコンパクトな1曲ながら、イントロのシタールのようなサウンド、再生時間1:29あたりからの4拍子から3拍子へのリズムの切り替えなど、フックの多い1曲。

 7曲目「Sleeping In The Beetle Bug」は、各楽器が複雑に絡み合いながら疾走する、ファットでジャンクなサウンドの1曲。

 8曲目「Tim I Wish You Were Born A Girl」は、ローファイ風味は控えめに、アコースティック・ギターとボーカルを中心にした、ナチュラルなサウンドを持った曲。ですが、再生時間1:25あたりから入ってくる独特のハーモニーを持ったギターが、サイケデリックでアヴァンギャルドな空気を吹き込みます。

 11曲目「I Was Watching Your Eyes」は、歯切れのよいギターに、シンプルでタイトなリズム隊が重なる、メリハリのあるアンサンブルが展開する1曲。サウンド・プロダクションも基本的にはナチュラルですが、随所に入ってくる倍音豊かなギター(あるいはキーボード?)らしき音が、わずかにサイケデリックな雰囲気を添えています。

 12曲目「Springtime Is The Season」は、シンセサイザーで出しているのか、電子音が前面に出る1曲。ギター主導の本作の中では、特異なサウンドとして響きます。しかし、ミニマルでローファイかつポップな、オブ・モントリオールらしい耳ざわりの曲に仕上がっています。

 先にも書いたとおり、サウンド・プロダクションにはローファイ色が強く、音圧の高いハイファイ・サウンドから比較すると、チープなサウンドと言えます。しかし、その音質がメロディーを前景化し、親しみやすさを演出し、魅力に転化しています。

 また、テクニック的にも、特別に優れているという印象はありませんが、全くのヘロヘロなローファイではなく、アンサンブルは機能的で、随所にアレンジのかっこよさを感じるアルバムでもあります。





They Might Be Giants “Lincoln” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『リンカーン』


They Might Be Giants “Lincoln”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『リンカーン』
発売: 1988年9月25日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 1982年に結成され、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの2ndアルバム。タイトルの「リンカーン」とは、彼らが育ち出会った、マサチューセッツ州の街の名前です。

 前作『They Might Be Giants』では、2人のメンバーが多重録音と打ち込みを駆使して、ほぼ全ての楽器を演奏していましたが、2作目となる本作でもその方針は変わりません。

 主な担当楽器は、ジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)が、ギター、トランペット、グロッケンシュピール、メロディカ(鍵盤ハーモニカ)。ジョン・リネル(John Linnell)が、アコーディオン、キーボード、オートハープ、サックス、クラリネット。ボーカル、作曲、打ち込みのプログラミングは、2人とも務めます。唯一のサポート・ミュージシャンは、3曲目の「Lie Still, Little Bottle」でドラムを担当するケネス・ノーラン(Dr. Kenneth Nolan)。

 ややローファイなサウンドで、ギターポップ色が強く、カラフルで親しみやすい音楽を作り上げた前作。本作では、カラフルで雑多な部分が引き継ぎつつ、アンサンブルはよりタイトに、深みと精度を増しています。

 先ほど挙げたとおり、アコーディオンやメロディカなど、一般的なロック・バンドがあまり使わない楽器を用いて、実験性とポップさを持ち合わせた、オリジナリティ溢れる音楽を作り上げます。

 1曲目「Ana Ng」は、ギターとドラムがタイトにリズムを刻んでいく1曲。イントロはストイックに音数が絞られていますが、再生時間0:36あたりから軽快に疾走するところや、アクセントのように絶妙に差し込まれるアコーディオンなど、1曲目から彼らの音楽の深さが十分に感じられます。

 2曲目「Cowtown」は、イントロからサックスが鳴り響き、アヴァンギャルドな雰囲気を持った1曲。しかし、難しい曲というわけではなく、ジャンクなパートと、カラフルに緩やかにグルーヴするパートが交互の訪れ、全体の耳ざわりは非常にポップです。

 3曲目「Lie Still, Little Bottle」では、前述のとおりサポート・メンバーがドラムを担当。ドラムの立体的なリズムを筆頭に、歩き回るようなベース・ライン、アクセント的に挿入されるトランペットとサックスなど、ジャズの香りが漂う1曲です。

 4曲目「Purple Toupee」は、ほどよく歪んだギターとシンセサイザーが前面に出た、疾走感あふれるギターポップ。

 5曲目「Cage & Aquarium」は、下の方からパワフルに響くフロアタムと、ファニーな音色のギター、カラフルなコーラスワークが重なる、1分ほどの曲。

 8曲目「Mr. Me」は、様々な音が飛び交うカラフルでポップな1曲。アコーディオンや口笛のような音など、一般的なロックでは使用されない音が、楽曲を親しみやすく、鮮やかにしています。

 9曲目「Pencil Rain」は、行進曲のようなリズムに乗せて、ボーカルがダンディーにメロディーを歌い、まわりではポップかつアヴァンギャルドな音が飛び交う1曲。再生時間1:21あたりから信号音のように聞こえるキーボードらしき音など、実験的な要素も含んでいるのに、全体としては非常にポップな仕上がりなのは、彼らならではのバランス感覚。

 10曲目「The World’s Address」は、ピアノがフィーチャーされ、ラテンの香り漂う1曲。しかし、再生時間1:30あたりからのギター・ソロからは、ジャンクでローファイな空気も漂い、ただジャンルを借りてくるだけではありません。サックスの音色もアクセントになっていて、楽曲を多彩にしています。

 15曲目「Shoehorn With Teeth」は、サックスとアコーディオン、ボーカルがいきいきとしたアンサンブルを繰り広げる、民謡的な耳ざわりの1曲。

 16曲目「Stand On Your Own Head」は、オートハープと思われるサウンドが弾むように鳴り響く、ブルーグラスを彷彿とさせる1曲。躍動感と疾走感もあり、ポップで楽しい空気に溢れています。

 18曲目「Kiss Me, Son Of God」は、ストリングスが導入され、ボーカルと共に、厚みのあるハーモニーを作り上げる1曲。クラシック寄りの荘厳な雰囲気にはならず、ほどよくポップで軽さを持った、曲に仕上がっています。

 多種多様な楽器と音楽ジャンルを参照しながら、オリジナリティを失わず、極上のポップスを聴かせてくれるのが、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツです。2作目となる本作では、前作以上に多くの音楽ジャンルの要素を感じさせながら、カラフルで親しみやすい、そして一貫性のあるアルバムを作り上げています。そのポップ・センス、バランス感覚が、本当に素晴らしいバンドです。





They Might Be Giants “They Might Be Giants” / ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ『ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ』


They Might Be Giants “They Might Be Giants”

ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ 『ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ』
発売: 1986年11月4日
レーベル: Bar/None (バーナン)
プロデュース: Bill Krauss (ビル・クラウス)

 マサチューセッツ州リンカーンで出会い、10代の頃から仲が良かったジョン・フランズバーグ(John Flansburgh)とジョン・リネル(John Linnell)により結成された2ピース・バンド、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ。本作は彼らの1stアルバムで、通称「ピンク・アルバム」(The Pink Album)とも呼ばれます。

 また、ニュージャージー州のインディー・レーベル、Bar/Noneが契約した2つ目のバンドであり、同レーベル2枚目のアルバムでもあります。(1枚目は、レイジ・トゥ・リブ(Rage To Live)の1stアルバム『Rage To Live』)

 前述したとおり、2人組のバンドであり、レコーディングやライブではサポート・メンバーを迎えることもあるものの、本作ではほとんど全ての楽器を2人で演奏しています。例外は、13曲目の「Boat Of Car」で、マーガレット・セイラー(Margaret Seiler)がリード・ボーカルを、14曲目の「Absolutely Bill’s Mood」では、ジャズ・ギタリストのユージン・チャドボーン(Eugene Chadbourne)
がギターを務めています。

 それ以外は、メンバー2人で全ての楽器を担当。本作での主な担当楽器は、フランズバーグが、ギター、ベース、ハーモニカ。リネルが、アコーディオン、キーボード、シンセベース、サックス。作曲とボーカルは2人とも担当し、ドラムとベースは打ち込みも使用されています。

 そんな2人が鳴らすのは、様々な音が散りばめられた、カラフルでポップな音楽。アコーディオンや電子音など、ギター以外の音色が重用され、ややローファイ風味の親しみやすいサウンド・プロダクションも欠点ではなく、魅力に転化してします。

 1曲目「Everything Right Is Wrong Again」から、歪んだギターと、チェンバロのような倍音たっぷりの音色のキーボードが、軽快に疾走する1曲。再生時間0:58あたりからはテンポを落とし、空間系エフェクターのかかったギターがサイケデリックな空気を振りまきます。さらに、再生時間1:40あたりから元のテンポに戻ると、ピコピコ系の電子音が加わって、おもちゃのようなサウンドになり、色鮮やかな展開。

 2曲目「Put Your Hand Inside The Puppet Head」は、ドラムマシーンが刻むタイトなリズムに、テクノポップ的な電子音が絡み合う1曲。軽さを持ったボーカルも、バックのサウンドとマッチしていて、ポップな世界観を作り上げます。

 3曲目「Number Three」は、厚みのあるコーラスワークと、アコースティック・ギターのリズムから、カントリーが感じられる1曲。しかし、良い意味でカントリー色が薄く、ポップ色が色濃く出ています。

 5曲目「Hide Away Folk Family」は、イントロからクリーントーンのギターと、口笛のようなサウンドが響き、ボーカルも穏やかで、牧歌的な雰囲気の1曲。ですが、歌詞をじっくり聞いてみると、「隠れて! さもないと捕まっちゃうよ!」というようなことを歌っていて、ちょっとホラーな内容です。再生時間1:58あたりからハードに歪んだギターが入ってくる部分も象徴的ですが、サウンド的にも歌詞的にも、ちょっとねじれたところがあるのが、このバンドの魅力だと思います。

 8曲目「Rabid Child」は、揺らぎのあるキーボードと、シンセベースと思われる野太いサウンドが、独特の浮遊感あるアンサンブルを構成する1曲。ドラムはイントロからしばらくはシンプルですが、再生時間0:52あたりから立体的にリズムを刻み、アクセントになっています。

 9曲目「Nothing’s Gonna Change My Clothes」は、小刻みにリズムを刻むドラムに、キーボードやギター、ボーカルが立体的に重なり、アンサンブルを作り上げていきます。随所で聞こえるファニーなサウンドも、曲をカラフルに彩っています。

 13曲目「Boat Of Car」には、マーガレット・セイラーがゲスト・ボーカルとして参加。1分ちょっとの短い曲ですが、やや倍音多めのチープなキーボードの音色と、彼女のシリアスなボーカルが、絶妙なバランスで溶け合った1曲です。

 14曲目「Absolutely Bill’s Mood」には、ジャズ・ギタリストのユージン・チャドボーンが参加。演劇じみたボーカルに、チャドボーンのフリーなギターが絡み合い、ノー・ウェーブなど、ニューヨークのアンダーグラウンドを思わせる1曲です。

 打ち込みと多重録音を駆使した、2ピースの手作り感あふれる作品です。限られた機材で、一般的な3ピースや4ピース・バンドとは一線を画した、独自のポップな世界観を構築しています。彼らの溢れるクリエイティヴィティが感じられる1作。

 また、ポップなだけではなく、実験性も随所に隠し味のように含まれていて、音楽に深みがあるところも、彼らの魅力だと思います。





Shrimp Boat “Cavale” / シュリンプ・ボート『カヴァル』


Shrimp Boat “Cavale”

シュリンプ・ボート 『カヴァル』
発売: 1993年4月1日
レーベル: Bar/None (バーナン)

 1987年にシカゴで結成されたバンド、シュリンプ・ボートの4thアルバムであり、ラスト・アルバム。ここまでの3枚を順番に挙げると『Speckly』『Volume One』『Duende』で、これ以前にもカセット音源をいくつかリリースしています。また2004年には、1986年から1993年までの音源を収録したコンピレーション『Something Grand』を発売。こちらは現在、配信でも購入できます。

 本作『Cavale』は、アメリカではBar/None、イギリスではラフ・トレード(Rough Trade)、日本ではジャズやラテンのリイシューを数多く手がけるボンバ・レコードからリリース。

 のちにザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)の結成に参加するサム・プレコップ(Sam Prekop)とエリック・クラリッジ(Eric Claridge)がメンバーだったシュリンプ・ボート。多種多様な音楽を飲み込みながら、耳なじみの良いギター・ロックに仕上げるセンスは、ザ・シー・アンド・ケイクに繋がると言っていいでしょう。

 最後のアルバムとなった本作では、フリージャズや現代音楽を感じさせるアヴァンギャルドな空気も振りまきながら、軽やかでカラフルな音楽を響かせます。アレンジには多分に実験的な要素も含むのですが、どこか牧歌的でカントリー色を感じさせるところも魅力。

 1曲目「Pumpkin Lover」は、バンド全体が緩やかに、軽やかにグルーヴしていく1曲。リズムには複雑なところもあるのですが、ややローファイで純粋無垢なサウンドが、牧歌的でかわいい雰囲気をかもし出します。どこか、とぼけた感じのボーカルも、良い意味での軽さをプラスしています。

 2曲目「Duende Suite」は、減速と加速をくり返しながら、駆け抜けていく1曲。小刻みで、せわしないリズムからは、カントリーの香りが漂いますが、前述したとおり速度を切り替えながら進むアレンジからは、カントリーだけにとどまらない実験性が伝わります。

 4曲目「Blue Green Misery」は、各楽器が緩やかに弾むようなリズムを刻み、バンド全体も立体的にグルーヴしていく1曲。聴いていると自然に体が動き出すような躍動感がありますが、強すぎず弱すぎず、非常に心地いい1曲です。

 5曲目「What Do You Think Of Love」は、一聴するとぶっきらぼうにも聞こえるドラムが、絶妙にタメを作りながらリズムをキープしていきます。その上にギターとサックス、ボーカルが乗り、いきいきとしたグルーヴが形成。エレキ・ギターのフレーズが、サウンドとアンサンブルの両面でアクセントになっています。

 6曲目「Swinging Shell」は、ギターを中心に、各楽器が緩やかに絡み合う1曲。裏声を使ったボーカルも、やわらかな雰囲気を演出。

 7曲目「Creme Brulee」は、サックスも使用され、音数が多く、立体的なアンサンブルが展開される1曲。いくつもの歯車が複雑に、しかしきっちりと噛み合ったような心地よさのある曲です。ドラムのソリッドな音色と、立体的なリズムが全体を引き締めています。

 9曲目「Free Love Overdrive」。イントロのハーモニーが奇妙な響きを持っていますが、聴いているうちに、その不協和音のような不安定な雰囲気が、クセになっていきます。曲全体としては、実験性が強く聴きづらい印象は全くなく、カラフルでポップな1曲です。まさにアヴァン・ポップと呼ぶべき1曲。

 11曲目「Apples」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、サックスとギターがムーディーなフレーズを奏でる、ジャズの香り立つ1曲。

 12曲目「Smooth Ass」も、ゆっくりなテンポで、緩やかなグルーヴが展開される曲。音数は少ないのですが、ヴェールが空間を包むような、穏やかなサウンドと雰囲気を持った1曲です。

 15曲目「Henny Penny」は、イントロから鳴り響くドラムの音に臨場感があり、印象的な1曲。ギターとベース、ボーカルも、ゆったりと絡み合い、有機的なアンサンブルを作りあげます。

 アルバム全体を通して、ジャズやカントリーなど様々なジャンルの香りを漂わせつつ、決して難解な印象にはならず、カラフルで良い意味で軽いギター・ロックを響かせています。実験性とポップさのバランスが秀逸で、9曲目の「Free Love Overdrive」の部分でも書きましたが、アヴァン・ポップと呼びたくなる作品です。

 非常にポップでありながら、実験性も持ち合わせていて、聴くごとに味が出てくる、奥深いアルバムだと思います。