「ニューヨーク」タグアーカイブ

Ava Luna “Moon 2” / アヴァ・ルナ『ムーン2』


Ava Luna “Moon 2”

アヴァ・ルナ 『ムーン2』
発売: 2018年9月7日
レーベル: Western Vinyl (ウェスタン・ヴァイナル)

 ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する、男女混合の5ピース・バンド、アヴァ・ルナの4thアルバム。

 オリジナル・アルバムとしては4作目ですが、2015年にはレア音源集『Takamatsu Station』を、レーベルを通さずにデジタル・リリース。

 2018年には、セルジュ・ゲンズブール(Serge Gainsbourg)の『Histoire de Melody Nelson』(邦題:メロディー・ネルソンの物語)をアルバム1枚まるごとカバーした作品を、食と音楽をテーマにしたレーベル、ターン・テーブル(Turntable Kitchen)よりリリースしています。

 デビュー当初は、インディーロックとR&Bの融合と言われることの多かったアヴァ・ルナですけど、アルバムを重ねるごとに多様なジャンルを取り込み、音楽性がカラフルに進化。

 さらに、シンセサイザーのフェリシア・ダグラス(Felicia Douglass)が、ダーティー・プロジェクターズ(Dirty Projectors)に参加。ギターとボーカルを担当し、バンドのリーダー格のカルロス・ヘルナンデス(Carlos Hernandez)はソロ・アルバム『On Folly』をリリースするなど、各メンバーの活動も活発化。

 それぞれが課外活動で培った要素が、アヴァ・ルナにフィードバックされたということなのか、彼らのアルバムの中でも最も実験的。しかし、同時にポップさも兼ね備えた1作となっています。

 これまでの作品でも、例えば2ndアルバム『Electric Balloon』では、シンプルなインディーロックとソウルフルな歌唱が融合。ノイズやフリージャズの要素も散りばめられるなど、多彩な音楽を繰り広げてきたのですが、本作では多様なジャンルを自分の中に取り込み、より地に足の着いた音楽へと進化しています。

 多様なジャンルの参照は、ともすると折衷的で没個性的な音楽を生みだす危険性をはらみます。しかし、前述のとおり本作では、サウンドとアレンジの両面で、アヴァンギャルドとポップさが両立。おそらく、メンバーがこれまで積み上げてきたアイデアと技術が、ひとつの完成形に達した作品なのでしょう。

 サウンド的には、コンピューターを大々的に導入し、やわらかな電子音が前景化。バンドのアンサンブルを中心に据えながら、シンセのサウンドが多彩な色をプラスしています。

 1曲目「Accessible」は、電子音がシンプルなフレーズを紡いでいく、ミニマルなイントロから始まり、徐々に音数が増殖。電子音と声を中心にした柔らかなサウンド・プロダクションが、幻想的な空気を演出します。後半に出てくる、高音域を使ったピアノがアクセントとなり、電子音楽的なサウンドにフリージャズの要素をプラス。

 2曲目「Centerline」は、電子的な持続音が響く、アンビエントなイントロから始まり、タイトかつファンキーなリズム隊を中心に、ゆるやかな躍動感のある1曲。飾り気のない簡素なサウンドのなかで、伸びやかなボーカルのソウルフルな歌唱が、対比的に浮かび上がっています。

 6曲目「Moon 2」では、イントロからピコピコ系の電子音が用いられ、メロディアスに動きまわるベース、アンビエントな持続音など、様々な要素が組み合わさり、アンサンブルを構成。ボーカルはアンサンブルの上に、軽やかにメロディーを紡いでいきます。

 7曲目「Deli Run」は、打ち込みによるものと思われるビートがイントロから鳴り響く、ゆるやかにスウィングする1曲。どの楽器もリズムがタイトで、揺らぎを生む要素は少ないはずなのですが、ソウルフルなボーカルに先導されるように、いつの間にか躍動感が生まれています。

 アルバム全体をとおして、電子音がサウンドの主軸を担い、エレクトロニカ的な音像を持っています。しかし、音楽の核には、バンドの躍動感やボーカルのエモーションが感じられ、クールなサウンドでありながら温もりのある、絶妙なバランスのアルバム。

 アコースティック楽器ではなく、いかにも電子的なサウンドを用いることで、逆にグルーヴ感やバンド感を際立たせているのでは、とすら思います。音響的なアプローチを用いることで、フレーズ自体を前景化させるとでも言ったらいいでしょうか。

 リズムもシンプルで反復も多く、ミニマル・ミュージック的なアプローチも感じられるのですが、ファンク的なグルーヴも共存。先述したとおり、実験性とポップさが両立し、新たなポップ・ミュージックを感じさせる1作です。

ディスクレビュー一覧へ移動

 





Ava Luna “Infinite House” / アヴァ・ルナ『インフィニット・ハウス』


Ava Luna “Infinite House”

アヴァ・ルナ 『インフィニット・ハウス』
発売: 2015年4月14日
レーベル: Western Vinyl (ウェスタン・ヴァイナル)

 ニューヨークのブルックリンを拠点に活動するインディーロック・バンド、アヴァ・ルナの3rdアルバム。

 前作と同じく、テキサス州オースティンのインディーズ・レーベル、ウェスタン・ヴァイナルからのリリース。日本ではインパートメント(Inpartmaint)より、ボーナス・トラックのダウンロード・クーポンが付いた日本盤が発売されています。

 前作は、メンバーのフェリシア・ダグラス(Felicia Douglass)の父親であり、グラミー受賞歴のある名サウンド・エンジニア、ジミー・ダグラス(Jimmy Douglass)がミックスを担当。

 本作ではダグラスに代わり、マーキュリー・レヴ(Mercury Rev)のメンバーとしても知られ、プロデューサーとしても著名なデイヴ・フリッドマン(Dave Fridmann)が、ミックスを担当しています。

 前述のフェリシア・ダグラスが、2018年からダーティ・プロジェクターズに参加していることもあり、たびたび同バンドと比較されることのあるアヴァ・ルナ。

 ただ、直接的に音楽性が似ているというよりも、共通しているのは音楽へのアプローチ。両バンドとも、多様なジャンルを参照しながら、コンパクトなバンドのフォーマットへとまとめあげるのを得意としています。

 前作『Electric Balloon』は、多様なジャンルを参照したインディーロックと、ソウルやR&Bなどブラック・ミュージックが融合。ガレージやノイズ、フリージャズなど、いかにもニューヨークのアングラらしい香りも漂わせながら、地に足の着いたアンサンブルを展開していました。

 前作から約1年ぶりのリリースとなる本作。前作と同じく多様なジャンルを取り込みながら、よりサイケデリック色の濃い音楽を鳴らしています。

 ざらついた歪みのギターが多用され、ガレージロックを彷彿とさせる要素もあった前作と比較すると、本作はよりノーウェーヴやポストパンク色が増したとも言えるでしょう。

 例えば1曲目の「Company」では、シンプルでタイトなアンサンブルを中心に据えながら、シンセのソフトな音色と、ギターの断片的なフレーズ、静と動を行き来するメリハリのきいたアレンジが共存。ゆるやかな躍動感が基本にありながら、ソフトなサイケ要素、ロックのダイナミズムを内包した1曲になっています。

 アルバム表題曲の6曲目「Infinite House」では、コーラスワークも含め、各楽器のフレーズがゆるやかに絡み合い、立体的かつ浮遊感のあるアンサンブルが展開。空中を散歩するようなリズムと、モヤがかかったような柔らかなサウンド・プロダクションが、サイケデリックな空気を演出します。

 前作に比べると、アルバム全体をとおして、ブラック・ミュージックの要素が後退。前作で聞かれたファンキーな躍動感も鳴りを潜め、その代わりに音響が前景化しています。

 各楽器の音作りも多彩になり、バンドとしての音楽性を拡大した1作とも言えるでしょう。

 2018年12月現在、各種サブスクリプション・サービスでの配信、デジタル販売などは、されていないようです。

ディスクレビュー一覧へ移動





Ava Luna “Electric Balloon” / アヴァ・ルナ『エレクトリック・バルーン』


Ava Luna “Electric Balloon”

アヴァ・ルナ 『エレクトリック・バルーン』
発売: 2014年3月5日
レーベル: Western Vinyl (ウェスタン・ヴァイナル)

 ニューヨークのブルックリンを拠点に活動するインディーロック・バンド、アヴァ・ルナの2ndアルバム。本作リリース時は、女性2名と男性3名からなる5人編成。

 ミックスを担当するのは、アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)やローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)のレコーディングに携わり、グラミー受賞歴もある、大御所スタジオ・エンジニアのジミー・ダグラス(Jimmy Douglass)。

 なぜ、このような名エンジニアを、若手バンドが起用できるのか。不思議に思ったので調べてみると、なんとキーボードのフェリシア・ダグラス(Felicia Douglass)は、ジミー・ダグラスの娘。その縁で実現したようです。

 1stアルバム『Ice Level』は、インフィニット・ベスト・レコーディングス(Infinite Best Recordings)というレーベルからのリリースでしたが、本作よりダーティ・プロジェクターズ(Dirty Projectors)を見出したレーベル、ウェスタン・ヴァイナルと契約。

 また、フェリシア・ダグラスは、2018年からダーティ・プロジェクターズに参加。そのためアヴァ・ルナは、しばしばダーティ・プロジェクターズと比較されることがあります。

 確かに多様なジャンルを参照しながら、コンパクトに自分たちの音楽へとまとめ上げるセンスは、ダーティ・プロジェクターズに通ずるところがあります。

 しかし、このようなカラフルな音楽性は、アヴァ・ルナとダーティ・プロジェクターズだけに特別なわけではなく、各種リヴァイヴァル・ブームをくぐり抜けた、ゼロ年代以降のインディーロックのひとつの潮流と言えるでしょう。

 アヴァ・ルナの音楽は、単純化して言ってしまうと、インディーロックとR&Bの融合。ギターを中心とした躍動的なアンサンブルに、ソウルフルなボーカルが絡む、ジャンルをまたいだ音楽を展開しています…と書くと、仰々しく大層な音楽をやっているように聞こえますが、彼らの長所は背伸びをしないところ。

 多様なジャンルからの影響が感じとれるアルバムですが、どれも地に足が着いており、無理してそのジャンルに歩み寄ることはしていません。

 また、上で挙げたインディーロックとR&Bのみならず、ガレージロックやノイズ・ミュージックの香りも漂い、いかにもニューヨークのバンドらしい多様性も彼らの魅力。

 例えば1曲目の「Daydream」では、ガレージを彷彿とさせるざらついたギターと、うねるようなベースが絡み、さらにソウルフルな男女ボーカルが加わり、グルーヴ感の溢れる音楽を展開。サックスによるアヴァンギャルドなフレーズも差し込まれ、ノイズやフリージャズまでもが飲み込まれた1曲です。

 2曲目「Sears Roebuck M&Ms」は、自由なリズムが刻まれるアヴァンギャルドなイントロから、ファンクを感じさせつつ、グルーヴし過ぎない、ゆるやかなアンサンブルへ。

 アルバム表題曲の6曲目「Electric Balloon」は、やわらかなシンセの音色と、毛羽立った歪みのギター、タイトなリズム隊が融合。インディーロックのフォーマットの中に、ファンキーな躍動感が隠し味のように落としこまれた1曲です。

 8曲目「Hold U」は、各楽器とも手数は少なく、隙間が多いアンサンブルなのに、ゆるやかに躍動する演奏が展開する1曲。ファルセットを織り交ぜた男女混声ボーカルは、実にソウルフル。揺らぎのあるシンセのサウンドも、アンサンブルに立体感をプラスするアクセントになっています。

 前述のとおり、全ての曲が背伸びすることなく、コンパクトにまとまった本作。一聴すると、サウンドもアンサンブルもおとなしく、やや地味に感じる部分があるのですが、そのぶん伸び代の大きさを感じるアルバムでもあります。

ディスクレビュー一覧へ移動

 





Asobi Seksu “Fluorescence” / アソビ・セクス『フローレサンス』


Asobi Seksu “Fluorescence”

アソビ・セクス 『フローレサンス』
発売: 2011年2月14日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Chris Zane (クリス・ゼイン)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスの4thアルバム。前作『Hush』に引き続き、イリノイ州のインディー・レーベル、Polyvinylからのリリース。

 アソビ・セクスは、2013年9月に無期限の活動休止を発表。本作が、現時点でのラスト・アルバムとなります。

 デビュー以降アルバムごとに、ボーカルとキーボードのユキ・チクダテ(Yuki Chikudate)、ギターのジェームス・ハンナ(James Hanna)以外のメンバーが交代しているアソビ・セクス。

 4作目のアルバムとなる本作も例外ではなく、ベースにビリー・パヴォン(Billy Pavone)、ドラムにラリー・ゴーマン(Larry Gorman)を、新たに迎えています。

 ジャンルとしては、シューゲイザーあるいはドリームポップに分類されることの多いアソビ・セクス。初期はギターがアンサンブルの隙間を埋めつくす、シューゲイザー的なアプローチが多かったのですが、作品を重ねるごとに、より柔らかな電子音を用いて、立体的なアンサンブルを構成するように変化しています。

 本作は、アソビ・セクス史上もっともサウンド・プロダクションがカラフルなアルバムと言っていいでしょう。轟音ギターやソフトな電子音だけでなく、多様な音作りが詰め込まれた、おもちゃ箱のようなサウンドを持っています。

 1曲目「Coming Up」は、立体的なドラムと、毛羽立ったシンセサイザーのサウンド、ファルセットを用いた高音ボーカルが溶け合う、カラフルなサウンド・プロダクションの1曲。ドリームポップ的な浮遊感、シューゲイザー的な厚みのあるサウンドを持ち合わせていますが、それ以上に立体的なアンサンブルが際立つ演奏。

 2曲目「Trails」は、電子的な持続音と、ざらついた歪みのギターが重なる1曲。ボーカルは伸びやかで、リズムは比較的シンプル。シューゲイザー的な厚みのあるギター・サウンドを用いてはいますが、歌が中心に据えられたコンパクトなロックです。

 4曲目「Perfectly Crystal」は、日本語詞の1曲。ボーカルのユキ・チクダテは日本生まれ。これまでのアルバムにも、日本語で歌われる曲がたびたびありました。

 分厚いディストーション・ギターと、柔らかな電子音、浮遊感のあるウィスパー系のボーカルが共存。シューゲイザーとドリームポップの要素を併せ持つ曲と言えます。飛び跳ねるようなリズムが、楽曲に立体感をプラス。

 現在、一部のサブスクリプション・サービスでは、この曲のEnglish Versionがボーナス・トラックとして収録されています。

 6曲目「Leave The Drummer Out There」は、各楽器ともリズムの異なるフレーズを持ち寄り、それぞれが噛み合って、躍動的なアンサンブルが作り上げられる1曲。音がギッシリ敷きつめられているわけではなく、適度に隙間があり、グルーヴ感を重視した演奏です。随所で聞こえる奇妙なサウンドもアクセント。

 7曲目「Sighs」では、清潔感のある音色のシンセサイザーが、イントロでバンドを牽引。その後は、タイトなリズムに乗って、バンド全体が一体となって疾走していきます。

 12曲目「Pink Light」は、ドラムが淡々とリズムを刻むなか、電子的な持続音と、幻想的なコーラスワークが層になって音楽を作り上げていく、音響的アプローチの1曲。エレクトロニカを彷彿とさせるサウンド・プロダクションではありますが、バンドらしいグルーヴ感も共存しています。

 アソビ・セクスのアルバムの中で、もっとも音作りが多彩な1作。激しく歪んだギターと、柔らかなシンセのサウンド。エフェクターを駆使したアヴァンギャルドな音色が、バランスよく用いられ、彼らの音楽の完成形だと感じさせます。

 本作で全てやりきったということなのか、前述のとおりアソビ・セクスは本作を最後に活動停止。いずれにしても本作は、音響的アプローチとロック的なアンサンブルが両立した良作。

 ただ、これまでの彼らのアルバムと比較すると、良く言えばバランス良好、悪く言えばどっちつかずなアルバムとも言えます。

 個人的にはなかなか良い作品だとは思うけど、前の3作の方がそれぞれ個性があって好きだな、というのが正直なところです。

ディスクレビュー一覧へ移動

 





Asobi Seksu “Hush” / アソビ・セクス『ハッシュ』


Asobi Seksu “Hush”

アソビ・セクス 『ハッシュ』
発売: 2009年2月17日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Chris Zane (クリス・ゼイン)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスの3rdアルバム。前作までのFriendly Fireに代わり、本作よりイリノイ州のインディー・レーベル、Polyvinylからのリリース。

 過去2作に比べると、ギターによる量感を重視したサウンドは控えめ。代わりにドラムのビートと、エレクトロニカを思わせる柔らかな電子音が、前景化したアルバムとなっています。

 ファルセットを多用した高音ボーカルと、ソフトなサウンド・プロダクションが相まって、幻想的な雰囲気も漂います。

 前作からリズム隊が、またもや交代。ベースのハジ(Haji)と、ドラムのブライアン・グリーン(Bryan Greene)に代わり、ドラムはグンナー・オルセン(Gunnar Olsen)が加入。ベースは、ギタリストのジェームス・ハンナ(James Hanna)が兼任しています。

 1曲目「Layers」は、クリスマスでもやってきたのかと思う鈴の音が、イントロから「シャンシャン」と響きわたり、その上に透明感のあるギター、神秘的なボーカルが重なっていきます。教会で響きわたる宗教音楽のようにも聞こえる荘厳な1曲。

 2曲目「Familiar Light」は、ぎこちなく前のめりにリズムを刻むドラムに覆い被さるように、柔らかな電子音やボーカルが重なっていく、厚みのあるサウンドを持った1曲。

 3曲目「Sing Tomorrow’s Praise」では、立体的かつパワフルに響くドラムに、電子的な持続音と、伸びやかなボーカルが重なります。圧倒的な量感で押し流す、という感じではないのですが、柔らかな電子音が四方八方から押しよせ、空間を埋めていきます。

 4曲目「Gliss」は、前曲に引き続き、低音のきいたドラムのビートと、ソフトな電子音が溶け合う1曲。奥で聞こえるアコースティック・ギターのコード・ストロークが、サウンドにさらなる厚みをもたらすアクセント。

 5曲目「Transparence」は、軽やかにバウンドするリズムを持った、疾走感のある1曲。各楽器の輪郭がつかみやすく、シューゲイザー色は薄め。その代わりに、さわやかなギターポップのような響きを持っています。

 8曲目「Meh No Mae」は、エフェクターが多用された複雑なサウンドから浮かび上がるように、浮遊感のあるウィスパー系ボーカルが、メロディーを紡いでいきます。ボーカルはバックのサウンドと溶け合い、サイケデリックな空気も漂う1曲。

 10曲目「I Can’t See」では、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、透明感のあるエレキ・ギターと電子音と共に、ソフトで穏やかなサウンドを作り上げていきます。全体的にはソフトなサウンド・プロダクションですが、ドラムの音量は大きめ。音響を重視したアプローチでありながら、ドラムが躍動感を加えるアクセントになっています。

 11曲目「Me & Mary」は、このアルバムの中では珍しく、各楽器の輪郭がくっきりとし、ビートもノリが良いコンパクトなロック。轟音ギターも唸りをあげます。

 12曲目「Blind Little Rain」は、男女混声のコーラスワークと、空間系エフェクターを駆使したバックのサウンドが溶け合う、幻想的で穏やかな1曲。

 前述のとおり、これまでの作品に比べると、激しく歪んだギターは控えめ。代わりに柔らかな電子音が前に出て、より幻想的な雰囲気を持ったアルバムになっています。

 ただ、ギターは控えめなのですが、ドラムの音量は大きく、ビートは強め。これまでの作品とは、違った立体感を持っています。

 音が空気を埋めつくす感覚はシューゲイザー的と言えますが、より音響系ポストロックあるいはエレクトロニカ色が濃いサウンド・プロダクションの1作です。