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Asobi Seksu “Fluorescence” / アソビ・セクス『フローレサンス』


Asobi Seksu “Fluorescence”

アソビ・セクス 『フローレサンス』
発売: 2011年2月14日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Chris Zane (クリス・ゼイン)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスの4thアルバム。前作『Hush』に引き続き、イリノイ州のインディー・レーベル、Polyvinylからのリリース。

 アソビ・セクスは、2013年9月に無期限の活動休止を発表。本作が、現時点でのラスト・アルバムとなります。

 デビュー以降アルバムごとに、ボーカルとキーボードのユキ・チクダテ(Yuki Chikudate)、ギターのジェームス・ハンナ(James Hanna)以外のメンバーが交代しているアソビ・セクス。

 4作目のアルバムとなる本作も例外ではなく、ベースにビリー・パヴォン(Billy Pavone)、ドラムにラリー・ゴーマン(Larry Gorman)を、新たに迎えています。

 ジャンルとしては、シューゲイザーあるいはドリームポップに分類されることの多いアソビ・セクス。初期はギターがアンサンブルの隙間を埋めつくす、シューゲイザー的なアプローチが多かったのですが、作品を重ねるごとに、より柔らかな電子音を用いて、立体的なアンサンブルを構成するように変化しています。

 本作は、アソビ・セクス史上もっともサウンド・プロダクションがカラフルなアルバムと言っていいでしょう。轟音ギターやソフトな電子音だけでなく、多様な音作りが詰め込まれた、おもちゃ箱のようなサウンドを持っています。

 1曲目「Coming Up」は、立体的なドラムと、毛羽立ったシンセサイザーのサウンド、ファルセットを用いた高音ボーカルが溶け合う、カラフルなサウンド・プロダクションの1曲。ドリームポップ的な浮遊感、シューゲイザー的な厚みのあるサウンドを持ち合わせていますが、それ以上に立体的なアンサンブルが際立つ演奏。

 2曲目「Trails」は、電子的な持続音と、ざらついた歪みのギターが重なる1曲。ボーカルは伸びやかで、リズムは比較的シンプル。シューゲイザー的な厚みのあるギター・サウンドを用いてはいますが、歌が中心に据えられたコンパクトなロックです。

 4曲目「Perfectly Crystal」は、日本語詞の1曲。ボーカルのユキ・チクダテは日本生まれ。これまでのアルバムにも、日本語で歌われる曲がたびたびありました。

 分厚いディストーション・ギターと、柔らかな電子音、浮遊感のあるウィスパー系のボーカルが共存。シューゲイザーとドリームポップの要素を併せ持つ曲と言えます。飛び跳ねるようなリズムが、楽曲に立体感をプラス。

 現在、一部のサブスクリプション・サービスでは、この曲のEnglish Versionがボーナス・トラックとして収録されています。

 6曲目「Leave The Drummer Out There」は、各楽器ともリズムの異なるフレーズを持ち寄り、それぞれが噛み合って、躍動的なアンサンブルが作り上げられる1曲。音がギッシリ敷きつめられているわけではなく、適度に隙間があり、グルーヴ感を重視した演奏です。随所で聞こえる奇妙なサウンドもアクセント。

 7曲目「Sighs」では、清潔感のある音色のシンセサイザーが、イントロでバンドを牽引。その後は、タイトなリズムに乗って、バンド全体が一体となって疾走していきます。

 12曲目「Pink Light」は、ドラムが淡々とリズムを刻むなか、電子的な持続音と、幻想的なコーラスワークが層になって音楽を作り上げていく、音響的アプローチの1曲。エレクトロニカを彷彿とさせるサウンド・プロダクションではありますが、バンドらしいグルーヴ感も共存しています。

 アソビ・セクスのアルバムの中で、もっとも音作りが多彩な1作。激しく歪んだギターと、柔らかなシンセのサウンド。エフェクターを駆使したアヴァンギャルドな音色が、バランスよく用いられ、彼らの音楽の完成形だと感じさせます。

 本作で全てやりきったということなのか、前述のとおりアソビ・セクスは本作を最後に活動停止。いずれにしても本作は、音響的アプローチとロック的なアンサンブルが両立した良作。

 ただ、これまでの彼らのアルバムと比較すると、良く言えばバランス良好、悪く言えばどっちつかずなアルバムとも言えます。

 個人的にはなかなか良い作品だとは思うけど、前の3作の方がそれぞれ個性があって好きだな、というのが正直なところです。

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Asobi Seksu “Hush” / アソビ・セクス『ハッシュ』


Asobi Seksu “Hush”

アソビ・セクス 『ハッシュ』
発売: 2009年2月17日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)
プロデュース: Chris Zane (クリス・ゼイン)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスの3rdアルバム。前作までのFriendly Fireに代わり、本作よりイリノイ州のインディー・レーベル、Polyvinylからのリリース。

 過去2作に比べると、ギターによる量感を重視したサウンドは控えめ。代わりにドラムのビートと、エレクトロニカを思わせる柔らかな電子音が、前景化したアルバムとなっています。

 ファルセットを多用した高音ボーカルと、ソフトなサウンド・プロダクションが相まって、幻想的な雰囲気も漂います。

 前作からリズム隊が、またもや交代。ベースのハジ(Haji)と、ドラムのブライアン・グリーン(Bryan Greene)に代わり、ドラムはグンナー・オルセン(Gunnar Olsen)が加入。ベースは、ギタリストのジェームス・ハンナ(James Hanna)が兼任しています。

 1曲目「Layers」は、クリスマスでもやってきたのかと思う鈴の音が、イントロから「シャンシャン」と響きわたり、その上に透明感のあるギター、神秘的なボーカルが重なっていきます。教会で響きわたる宗教音楽のようにも聞こえる荘厳な1曲。

 2曲目「Familiar Light」は、ぎこちなく前のめりにリズムを刻むドラムに覆い被さるように、柔らかな電子音やボーカルが重なっていく、厚みのあるサウンドを持った1曲。

 3曲目「Sing Tomorrow’s Praise」では、立体的かつパワフルに響くドラムに、電子的な持続音と、伸びやかなボーカルが重なります。圧倒的な量感で押し流す、という感じではないのですが、柔らかな電子音が四方八方から押しよせ、空間を埋めていきます。

 4曲目「Gliss」は、前曲に引き続き、低音のきいたドラムのビートと、ソフトな電子音が溶け合う1曲。奥で聞こえるアコースティック・ギターのコード・ストロークが、サウンドにさらなる厚みをもたらすアクセント。

 5曲目「Transparence」は、軽やかにバウンドするリズムを持った、疾走感のある1曲。各楽器の輪郭がつかみやすく、シューゲイザー色は薄め。その代わりに、さわやかなギターポップのような響きを持っています。

 8曲目「Meh No Mae」は、エフェクターが多用された複雑なサウンドから浮かび上がるように、浮遊感のあるウィスパー系ボーカルが、メロディーを紡いでいきます。ボーカルはバックのサウンドと溶け合い、サイケデリックな空気も漂う1曲。

 10曲目「I Can’t See」では、アコースティック・ギターがフィーチャーされ、透明感のあるエレキ・ギターと電子音と共に、ソフトで穏やかなサウンドを作り上げていきます。全体的にはソフトなサウンド・プロダクションですが、ドラムの音量は大きめ。音響を重視したアプローチでありながら、ドラムが躍動感を加えるアクセントになっています。

 11曲目「Me & Mary」は、このアルバムの中では珍しく、各楽器の輪郭がくっきりとし、ビートもノリが良いコンパクトなロック。轟音ギターも唸りをあげます。

 12曲目「Blind Little Rain」は、男女混声のコーラスワークと、空間系エフェクターを駆使したバックのサウンドが溶け合う、幻想的で穏やかな1曲。

 前述のとおり、これまでの作品に比べると、激しく歪んだギターは控えめ。代わりに柔らかな電子音が前に出て、より幻想的な雰囲気を持ったアルバムになっています。

 ただ、ギターは控えめなのですが、ドラムの音量は大きく、ビートは強め。これまでの作品とは、違った立体感を持っています。

 音が空気を埋めつくす感覚はシューゲイザー的と言えますが、より音響系ポストロックあるいはエレクトロニカ色が濃いサウンド・プロダクションの1作です。

 





Asobi Seksu “Citrus” / アソビ・セクス『シトラス』


Asobi Seksu “Citrus”

アソビ・セクス 『シトラス』
発売: 2006年5月30日
レーベル: Friendly Fire (フレンドリー・ファイア)
プロデュース: Chris Zane (クリス・ゼイン)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスの2ndアルバム。前作『Asobi Seksu』に引き続き、ブルックリンのインディーズ・レーベル、Friendly Fireからのリリース。

 音楽性も前作の延長線上と言える、シューゲイザーともドリームポップとも呼べるもの。すなわち、量感のある轟音ギターと、ウィスパー系の幻想的なボーカルが、不可分に溶け合った音楽が展開しています。

 また、前作のアルバム・ツアー後に、ベースのグレン・ウォルドマン(Glenn Waldman)と、ドラムのキース・ホプキン(Keith Hopkin)が脱退。今作では、ベースはハジ(Haji)、ドラムはブライアン・グリーン(Bryan Greene)が、その穴を埋めています。

 1曲目「Everything Is On」は、20秒弱のイントロダクション的役割のトラック。電子音を逆再生したような、アンビエントなサウンドが響きます。

 2曲目「Strawberries」が、実質アルバムの1曲目。軽快なギターのイントロに続き、リズム隊がハッキリとリズムを刻んでいきます。各楽器とも手数は少なく、リズムも比較的シンプルですが、バンドが一体の生き物のように有機的に組み合い、アンサンブルを作り上げていきます。

 3曲目「New Years」は、前のめりに疾走していく、パンキッシュな1曲。荒々しいアンサンブルと比例して、サウンド・プロダクションもノイジー。そのなかで、ささやき系のボーカルが浮かび上がります。

 4曲目「Thursday」は、4つ打ちを基本としたリズムの上に、音がレイヤー上に重なっていく1曲。音が増えたり減ったり、ビートが強くなったり、基本の4つ打ちを守りながら、メリハリのきいた展開。

 5曲目「Strings」は、ベースが中心となった隙間の多いアンサンブルの部分と、ビートの強い部分とのコントラストが、あざやかな1曲。

 6曲目「Pink Cloud Tracing Paper」は、イントロからノイズ的なサウンドが鳴り響く、アヴァンギャルドなポップ・ソング。

 7曲目「Red Sea」は、浮遊感と重層感が両立した、シューゲイザーらしい1曲。厚みのあるサウンドの中を漂うように、心地よいファルセットのボーカルがメロディーを紡ぎます。

 8曲目「Goodbye」は、押し寄せるドラムから始まる、ビートのハッキリしたロック・チューン。アンサンブルはシンプルかつコンパクトで、このバンドにしてはドラムの音量が大きく、ノリやすい演奏。

 9曲目「Lions And Tigers」は、ギターのフィードバックから始まり、段階的に楽器と音数が増加。大音量のギターが入るか、入らないかによって、巧みにコントラストを演出する1曲。

 10曲目「Nefi + Girly」は、唸りをあげるギターと、柔らかな電子音が溶け合う1曲。

 11曲目「Exotic Animal Paradise」は、おそらくシンセサイザーか打ち込みによるものだと思いますが、ストリングスのサウンドから始まる曲。その後もゆったりしたリズムに乗せて、柔らかなサウンドが空気を満たす、音響的なアプローチ。再生時間2:40あたりからは、分厚いギター・サウンドが押しよせます。

 12曲目「Mizu Asobi」は、激しく歪んだギターと、コンパクトなリズム隊、柔らかなキーボードの音色が溶け合い、リズムとサウンドの両面でメリハリのある1曲。

 アルバム全体をとおして、ところどころでメロディーが演奏に飲み込まれる、あるいは一体となります。メインの歌のメロディーよりも、サウンドが前景化する点は、圧倒的な量感のサウンドが押しよせる、シューゲイザーらしいアプローチと言えるでしょう。

 ただ、曲によってはビートが強かったり、アンサンブルを重視していたりと、音響のみが前に出ているわけではなく、オルタナティヴ・ロック的なアプローチも、随所で聞こえます。

 2018年12月現在、Amazon、Apple、Spotifyの各種サブスクリプション・サービスでの配信、およびデジタルでの販売はされていないようです。

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Asobi Seksu “アソビ・セクス” / Asobi Seksu『アソビ・セクス』


Asobi Seksu “アソビ・セクス”

Asobi Seksu 『アソビ・セクス』
発売: 2004年5月18日
レーベル: Friendly Fire (フレンドリー・ファイア)
プロデュース: Will Quinnell (ウィル・クィネル)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスのデビュー・アルバム。2002年にセルフリリースされた後、2004年にブルックリンのインディーズ・レーベル、Friendly Fireよりリリースされています。

 バンドの始まりは2001年。ボーカルとキーボードを担当するユキ・チクダテ(Yuki Chikudate)と、ギタリストのジェームス・ハンナ(James Hanna)が出会います。その後、ベースのグレン・ウォルドマン(Glenn Waldman)と、ドラムのキース・ホプキン(Keith Hopkin)を加え、4人編成へ。

 当時はアソビ・セクスではなく、スポートファック(Sportfuck)と名乗り、同バンド名義でEPを自主制作。その後アソビ・セクスに改名し、本作をリリースしています。ちなみにバンド名の由来は「play sex」を日本語にしたそうで…。

 ユキ・チクダテは、日本生まれの日本人。4歳のとき家族と共に、南カリフォルニアへ移住し、その後16歳のときに単独でニューヨークへ引っ越しています。

 シューゲイザーあるいはドリーム・ポップに分類されることの多いアソビ・セクス。彼らの奏でる音楽は、すべてを押し流すような分厚いサウンドと、浮遊感のあるボーカルが溶け合い、確かにどちらのジャンルとも言える質を備えています。

 また、前述のとおりボーカルのユキ・チクダテは日本出身。そのため、一部の楽曲は歌詞が日本語で綴られ、日本語ネイティヴの者にとっては親しみやすいでしょう。

 1曲目の「I’m Happy But You Don’t Like Me」では、早速歌詞が日本語で綴られています。トイピアノを思わせるチープでキュートなイントロから始まり、シンプルかつコンパクトな8ビート、さらには押しよせる轟音ギターへと展開する、振れ幅の大きな1曲。

 2曲目「Sooner」は、はずむようなドラムと電子音によるイントロに続き、エフェクターの深くかかったギターサウンドが押し寄せる、マイブラ色の濃いシューゲイザー。厚みのあるギターと溶け合いながら、ささやき系のボーカルが、流れるようなメロディーを紡いでいきます。ボーカルのメロディーと、ギターを中心としたバンド・サウンドが不可分に溶け合い、音楽と一体となるような心地よさがあります。

 3曲目「Umi De No Jisatsu」は、タイトルのとおり、1曲目に続いて日本語詞。ねじれたバネが飛び跳ねるようなギターのイントロに続いて、躍動的なアンサンブルが展開します。イントロ以外も、再生時間0:44あたりからの伸縮するようなサウンドなど、ギターの音作りとフレーズが個性的。

 4曲目「Walk On The Moon」は、ボーカルとバンドサウンドが対等、あるいはバンドの方が前景化したここまでの3曲に比べると、ボーカルのメロディーが前に出た1曲。ボーカリゼーションも、ささやき系ではなく、伸びやかな声を響かせています。

 6曲目「Taiyo」は、またまた日本語詞。タイトルは日本語の「太陽」です。ボーカルもアンサンブルも軽やかで、フレンチポップのような趣があります。

 7曲目「It’s Too Late」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、波紋が広がるように音楽が空間を満たしていく1曲。ギターには空間系のエフェクターがかけられ、ボーカルはファルセットを用いた高音ながら、耳に刺さらない心地よさ。前半は透明感のあるサウンド・プロダクションですが、再生時間3:15あたりから折り重なるようにギターが入ってくると、音の壁と呼びたくなる厚みのあるサウンドが立ち上がります。

 8曲目「End At The Beginning」は、やや遅めのテンポに乗せて、だらっとしたアンサンブルが展開。足を引きずるように、すべての楽器が遅れて聞こえる、タメをたっぷりと取った演奏です。音数が少なく、ローファイ感の漂う前半から、徐々にギターが音に厚みを加えていきます。だらっとしたアンサンブルの中で、隙間を縫うように動きまわるベースラインも印象的。

 9曲目「Asobi Masho」は、イントロからギターがノイジーに唸りをあげる、アヴァンギャルドな1曲。音作りはアルバム中でもトップクラスに実験的なのに、同時に脳天気なほどのポップさも共存。「遊びましょ」というフレーズが、耳から離れなくなります。

 アルバムの最後に収録される11曲目「Before We Fall」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされています。さらにユキ・チクダテではなく、ジェームス・ハンナがメイン・ボーカルを務め、その点でも他の曲とは異なる聴感。最後まで轟音ギターが押しよせることもなく、歌が中心に据えられた穏やかな1曲。

 ノイジーなギターも多用されていますが、ファルセットを駆使したボーカルは幻想的。先述したとおり、シューゲイザーとも、ドリームポップとも言えるサウンドを持った1作です。

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The Brother Kite “thebrotherkite” / ザ・ブラザー・カイト『ザブラザーカイト』


The Brother Kite “thebrotherkite”

ザ・ブラザー・カイト 『ザブラザーカイト』
発売: 2004年6月1日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 2002年にロードアイランド州プロビデンスで結成された5人組シューゲイザー・バンド、ザ・ブラザー・カイトの1stアルバム。

 フロリダ州セントオーガスティンにオフィスを構えるシューゲイザー専門レーベル、クレアコーズからのリリースです。

 ステージ上で足元のエフェクターを見つめ、酩酊的に音作りに没頭するところから、いつしかジャンル名となった「シューゲイザー」。このジャンルの特徴をひとつ挙げるなら、メロディーや歌詞、アンサンブルのグルーヴ感よりも、音響を重視しているところ。

 メロディーやリズムなど、音楽を形作るパーツが、不可分に溶け合った音楽とも言い換えることができます。本作もまさに、メロディーもリズムも、分厚いギターサウンドに飲み込まれ、一体となってリスナーに迫ってきます。そういう意味では、極めてシューゲイザー的な作品と言えるでしょう。

 1曲目「Goodnight, Goodnight, Goodnight」では、ストリングスによる多層的で幻想的なイントロに導かれ、一定のリズムで押し寄せる波のように、バンドのアンサンブルが構成されています。

 2曲目「The Music Box」は、ビートのはっきりしたコンパクトなロック・チューンですが、歌のメロディーよりも、激しく歪んだギターの方が前面に出てくるバランス。ドラムのビート、流れるようなボーカルのメロディー、そして全てを押し流すようなギターが溶け合い、塊感のあるサウンドとなっています。

 3曲目「Mere Appreciation」は、アコースティック・ギターと歌のみのシンプルで柔らかなサウンドを持った1曲。量感のある前2曲を終えて、箸休め的な役割の曲です。

 4曲目「Simply Say My Name」は、再びギターサウンドの波が押し寄せる1曲。折り重なるように空間を埋めつくすギターの中に、穏やかなボーカルが溶け込んでいきます。

 5曲目「Porcelain」は、吹き荒れる嵐の中で物が飛び交うように、エフェクトのかかった音が交錯する1曲。しかし、難しい音楽というわけではなく、メロディーにもアンサンブルにも疾走感があり、ノリの良いロックとしても機能します。

 6曲目「Death Ray」は、イントロのギターは歪みながらも、各弦の音がつぶれずに粒が立って聞こえます。その後、歌が入ってくるとギターは退き、リズム隊によるタイトなアンサンブルが展開。ギターは時折、通り雨のように降り注ぎ、楽曲に鮮やかなコントラストを与えています。

 7曲目「The Blackout」は、金属的に歪んだギターと、硬質でアタックの強いリズム隊によって、パワフルなアンサンブルが繰り広げられる1曲。シューゲイザーというより、オルタナティヴ・ロックと呼ぶべきサウンド・プロダクションとアンサンブル。とはいえ、圧倒的な量感の轟音ギターは、正しくシューゲイザー的。

 8曲目「The Way That You Came Down」は、ビート感の無いアンビエントなイントロから始まり、多様な展開を見せる1曲。再生時間1:29あたりからは浮遊感のあるギターが中心にアンサンブルを構成、3:32あたりからはエフェクターの深くかかったジャンクな音像へと変化するなど、7分を超える中で様々な表情を見せる、壮大な楽曲です。

 本作で繰り広げられる、リズム、メロディー、ハーモニーが一体となり、結果として音響が前景化する音楽は、シューゲイザーと呼んで差し支えないでしょう。

 しかし当然ながら、一口に「シューゲイザー」と言っても、轟音ギターの量感を一義とするバンド、エフェクターを駆使したサウンド・プロダクションに拘りを見せるバンドなど、それぞれのバンドによって志向する音楽性は異なります。

 それでは、このザ・ブラザー・カイトはどのような音楽を志向しているのか。ロック的なグルーヴを持ったアンサンブルと、音響的なアプローチのバランスが良いバンド、と言えるのではないかと思います。

 轟音ギターを用いながらも、圧倒的な量感で押し流すだけではなく、他の楽器とのコミュニケーションが感じられ、また楽曲によっては轟音ではなく、エレクトロニカのような音像を持った曲もあり、音楽的語彙の豊富さも感じさせます。

 1stアルバムにして、かなりの完成度を持った作品です。(1stが最高で2nd以降が全くダメというバンドもいるので、あまり1stだからというのは意味が無いかもしれませんけどね…。)