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Asobi Seksu “アソビ・セクス” / Asobi Seksu『アソビ・セクス』


Asobi Seksu “アソビ・セクス”

Asobi Seksu 『アソビ・セクス』
発売: 2004年5月18日
レーベル: Friendly Fire (フレンドリー・ファイア)
プロデュース: Will Quinnell (ウィル・クィネル)

 ニューヨーク拠点のシューゲイザー・バンド、アソビ・セクスのデビュー・アルバム。2002年にセルフリリースされた後、2004年にブルックリンのインディーズ・レーベル、Friendly Fireよりリリースされています。

 バンドの始まりは2001年。ボーカルとキーボードを担当するユキ・チクダテ(Yuki Chikudate)と、ギタリストのジェームス・ハンナ(James Hanna)が出会います。その後、ベースのグレン・ウォルドマン(Glenn Waldman)と、ドラムのキース・ホプキン(Keith Hopkin)を加え、4人編成へ。

 当時はアソビ・セクスではなく、スポートファック(Sportfuck)と名乗り、同バンド名義でEPを自主制作。その後アソビ・セクスに改名し、本作をリリースしています。ちなみにバンド名の由来は「play sex」を日本語にしたそうで…。

 ユキ・チクダテは、日本生まれの日本人。4歳のとき家族と共に、南カリフォルニアへ移住し、その後16歳のときに単独でニューヨークへ引っ越しています。

 シューゲイザーあるいはドリーム・ポップに分類されることの多いアソビ・セクス。彼らの奏でる音楽は、すべてを押し流すような分厚いサウンドと、浮遊感のあるボーカルが溶け合い、確かにどちらのジャンルとも言える質を備えています。

 また、前述のとおりボーカルのユキ・チクダテは日本出身。そのため、一部の楽曲は歌詞が日本語で綴られ、日本語ネイティヴの者にとっては親しみやすいでしょう。

 1曲目の「I’m Happy But You Don’t Like Me」では、早速歌詞が日本語で綴られています。トイピアノを思わせるチープでキュートなイントロから始まり、シンプルかつコンパクトな8ビート、さらには押しよせる轟音ギターへと展開する、振れ幅の大きな1曲。

 2曲目「Sooner」は、はずむようなドラムと電子音によるイントロに続き、エフェクターの深くかかったギターサウンドが押し寄せる、マイブラ色の濃いシューゲイザー。厚みのあるギターと溶け合いながら、ささやき系のボーカルが、流れるようなメロディーを紡いでいきます。ボーカルのメロディーと、ギターを中心としたバンド・サウンドが不可分に溶け合い、音楽と一体となるような心地よさがあります。

 3曲目「Umi De No Jisatsu」は、タイトルのとおり、1曲目に続いて日本語詞。ねじれたバネが飛び跳ねるようなギターのイントロに続いて、躍動的なアンサンブルが展開します。イントロ以外も、再生時間0:44あたりからの伸縮するようなサウンドなど、ギターの音作りとフレーズが個性的。

 4曲目「Walk On The Moon」は、ボーカルとバンドサウンドが対等、あるいはバンドの方が前景化したここまでの3曲に比べると、ボーカルのメロディーが前に出た1曲。ボーカリゼーションも、ささやき系ではなく、伸びやかな声を響かせています。

 6曲目「Taiyo」は、またまた日本語詞。タイトルは日本語の「太陽」です。ボーカルもアンサンブルも軽やかで、フレンチポップのような趣があります。

 7曲目「It’s Too Late」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、波紋が広がるように音楽が空間を満たしていく1曲。ギターには空間系のエフェクターがかけられ、ボーカルはファルセットを用いた高音ながら、耳に刺さらない心地よさ。前半は透明感のあるサウンド・プロダクションですが、再生時間3:15あたりから折り重なるようにギターが入ってくると、音の壁と呼びたくなる厚みのあるサウンドが立ち上がります。

 8曲目「End At The Beginning」は、やや遅めのテンポに乗せて、だらっとしたアンサンブルが展開。足を引きずるように、すべての楽器が遅れて聞こえる、タメをたっぷりと取った演奏です。音数が少なく、ローファイ感の漂う前半から、徐々にギターが音に厚みを加えていきます。だらっとしたアンサンブルの中で、隙間を縫うように動きまわるベースラインも印象的。

 9曲目「Asobi Masho」は、イントロからギターがノイジーに唸りをあげる、アヴァンギャルドな1曲。音作りはアルバム中でもトップクラスに実験的なのに、同時に脳天気なほどのポップさも共存。「遊びましょ」というフレーズが、耳から離れなくなります。

 アルバムの最後に収録される11曲目「Before We Fall」は、アコースティック・ギターがフィーチャーされています。さらにユキ・チクダテではなく、ジェームス・ハンナがメイン・ボーカルを務め、その点でも他の曲とは異なる聴感。最後まで轟音ギターが押しよせることもなく、歌が中心に据えられた穏やかな1曲。

 ノイジーなギターも多用されていますが、ファルセットを駆使したボーカルは幻想的。先述したとおり、シューゲイザーとも、ドリームポップとも言えるサウンドを持った1作です。

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