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The Brother Kite “thebrotherkite” / ザ・ブラザー・カイト『ザブラザーカイト』


The Brother Kite “thebrotherkite”

ザ・ブラザー・カイト 『ザブラザーカイト』
発売: 2004年6月1日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 2002年にロードアイランド州プロビデンスで結成された5人組シューゲイザー・バンド、ザ・ブラザー・カイトの1stアルバム。

 フロリダ州セントオーガスティンにオフィスを構えるシューゲイザー専門レーベル、クレアコーズからのリリースです。

 ステージ上で足元のエフェクターを見つめ、酩酊的に音作りに没頭するところから、いつしかジャンル名となった「シューゲイザー」。このジャンルの特徴をひとつ挙げるなら、メロディーや歌詞、アンサンブルのグルーヴ感よりも、音響を重視しているところ。

 メロディーやリズムなど、音楽を形作るパーツが、不可分に溶け合った音楽とも言い換えることができます。本作もまさに、メロディーもリズムも、分厚いギターサウンドに飲み込まれ、一体となってリスナーに迫ってきます。そういう意味では、極めてシューゲイザー的な作品と言えるでしょう。

 1曲目「Goodnight, Goodnight, Goodnight」では、ストリングスによる多層的で幻想的なイントロに導かれ、一定のリズムで押し寄せる波のように、バンドのアンサンブルが構成されています。

 2曲目「The Music Box」は、ビートのはっきりしたコンパクトなロック・チューンですが、歌のメロディーよりも、激しく歪んだギターの方が前面に出てくるバランス。ドラムのビート、流れるようなボーカルのメロディー、そして全てを押し流すようなギターが溶け合い、塊感のあるサウンドとなっています。

 3曲目「Mere Appreciation」は、アコースティック・ギターと歌のみのシンプルで柔らかなサウンドを持った1曲。量感のある前2曲を終えて、箸休め的な役割の曲です。

 4曲目「Simply Say My Name」は、再びギターサウンドの波が押し寄せる1曲。折り重なるように空間を埋めつくすギターの中に、穏やかなボーカルが溶け込んでいきます。

 5曲目「Porcelain」は、吹き荒れる嵐の中で物が飛び交うように、エフェクトのかかった音が交錯する1曲。しかし、難しい音楽というわけではなく、メロディーにもアンサンブルにも疾走感があり、ノリの良いロックとしても機能します。

 6曲目「Death Ray」は、イントロのギターは歪みながらも、各弦の音がつぶれずに粒が立って聞こえます。その後、歌が入ってくるとギターは退き、リズム隊によるタイトなアンサンブルが展開。ギターは時折、通り雨のように降り注ぎ、楽曲に鮮やかなコントラストを与えています。

 7曲目「The Blackout」は、金属的に歪んだギターと、硬質でアタックの強いリズム隊によって、パワフルなアンサンブルが繰り広げられる1曲。シューゲイザーというより、オルタナティヴ・ロックと呼ぶべきサウンド・プロダクションとアンサンブル。とはいえ、圧倒的な量感の轟音ギターは、正しくシューゲイザー的。

 8曲目「The Way That You Came Down」は、ビート感の無いアンビエントなイントロから始まり、多様な展開を見せる1曲。再生時間1:29あたりからは浮遊感のあるギターが中心にアンサンブルを構成、3:32あたりからはエフェクターの深くかかったジャンクな音像へと変化するなど、7分を超える中で様々な表情を見せる、壮大な楽曲です。

 本作で繰り広げられる、リズム、メロディー、ハーモニーが一体となり、結果として音響が前景化する音楽は、シューゲイザーと呼んで差し支えないでしょう。

 しかし当然ながら、一口に「シューゲイザー」と言っても、轟音ギターの量感を一義とするバンド、エフェクターを駆使したサウンド・プロダクションに拘りを見せるバンドなど、それぞれのバンドによって志向する音楽性は異なります。

 それでは、このザ・ブラザー・カイトはどのような音楽を志向しているのか。ロック的なグルーヴを持ったアンサンブルと、音響的なアプローチのバランスが良いバンド、と言えるのではないかと思います。

 轟音ギターを用いながらも、圧倒的な量感で押し流すだけではなく、他の楽器とのコミュニケーションが感じられ、また楽曲によっては轟音ではなく、エレクトロニカのような音像を持った曲もあり、音楽的語彙の豊富さも感じさせます。

 1stアルバムにして、かなりの完成度を持った作品です。(1stが最高で2nd以降が全くダメというバンドもいるので、あまり1stだからというのは意味が無いかもしれませんけどね…。)

 





Averkiou “Throwing Sparks” / アーヴァキウ『スローイング・スパークス』


Averkiou “Throwing Sparks”

アーヴァキウ 『スローイング・スパークス』
発売: 2008年11月11日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 バンド名は、カタカナで表すなら「アーヴァキウ」あるいは「アーヴァキュウ」に近い発音のようです。フロリダ出身の5人組シューゲイザー・バンド、アーヴァキウの1stアルバム。

 同じフロリダ州にオフィスを構える、シューゲイザー専門レーベル、クレアコーズからのリリース。

 「シューゲイザー」と一口に言っても、当然のことながら志向するサウンドには、バンドごとに差異があります。アーヴァキウは、激しく歪んだソリッドなギターを用いた、疾走感あふれるアンサンブルは展開するバンド。

 轟音ギターに、浮遊感のあるボーカルが溶け合い、爽やかなシューゲイザー・サウンドを響かせていきます。

 1曲目の「I Don’t Wanna Go Out」は、ガレージを彷彿とさせる荒々しいギター・サウンドと、ギターポップを思わせる甘いメロディーが溶け合い、疾走していく1曲。

 2曲目「Holland & Headaches」は、ディレイを用いて増殖していくようなクリーントーンのギターと、毛羽立ったファズ系のギターが絡み合いながら、躍動感あふれるアンサンブルを作り上げていきます。

 3曲目「New York Friends」は、立体的なドラムが曲を先導し、ギターとベースがそこに絡みついていくように、有機的なアンサンブルが構成。

 4曲目「The South Wall」は、タイトルにも「wall」が使われていますが、まさに分厚いギターの音が、壁となって目の前にあらわれるようなサウンド・プロダクションを持った1曲です。

 5曲目「We’ll Stand Erect」は、ファズ系の歪みのギターによる厚みのあるコード弾きと、クリーントーンのギターによる単音弾きが絡み、疾走していくロック・チューン。

 6曲目「Sudden Death, Over Time」は、ギター、ベース、ドラムが緩やかにグルーヴし、浮遊感のあるボーカルがそこに重なる、ギターポップ色の強い1曲。

 轟音ギター成分も多分に含まれていますけど、クリーントーンのギターもバランス良く用いられ、全体として爽やかな雰囲気を持っています。

 サウンド的にはシューゲイザーの範疇に入る作品だと思いますが、各楽器が分離して聞き取りやすい音色とバランスを保っており、ロック的なグルーヴとアンサンブル、それにギターポップのような爽やかさを併せ持っているところが、このアルバムの魅力ですね。

 





The Daysleepers “Drowned In A Sea Of Sound” / ザ・デイスリーパーズ『ドラウンド・イン・ア・シー・オブ・サウンド』


The Daysleepers “Drowned In A Sea Of Sound”

ザ・デイスリーパーズ 『ドラウンド・イン・ア・シー・オブ・サウンド』
発売: 2008年5月13日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)
プロデュース: Doug White (ダグ・ホワイト)

 ニューヨーク州バッファローにて、2004年11月に結成されたバンド、ザ・デイスリーパーズの1stアルバム。ちなみにアイスランドにも、「The」の付かないデイスリーパーズ(Daysleepers)というバンドがいるみたいです。

 シューゲイザー専門レーベル、クレアコーズからのリリース。クレアコーズからのリリースという事実を差し引いても、空間系エフェクターの多用されたギター・サウンドと、男女混声のよるコーラスワークが、幻想的なサウンドを作り出し、シューゲイザーらしい音楽が展開されています。

 クレアコーズは、一定以上のクオリティのシューゲイザーをリリースしている、良いレーベルだと思いますけど、やはりジャンルというのは袋小路に陥りやすいよな、とも思います。

 そして、このジャンルにとってマイブラの影響力は、やはり無視できないほど大きいよなとも。男女混声によるボーカルが、バンドに溶け合うように一体化したサウンドを聴くと、自ずと『Loveless』が思い浮かびます。

 ただ、ある程度の形式を借りた上で、自分たちのオリジナリティを表現するというのは、シューゲイザーというジャンルに限りません。シューゲイザーは、過度なエフェクターの使用、轟音ギターの導入など、サウンド・デザインに共通項を見つけやすいので、似ていると見なされやすいという一面もあるのでしょう。

 そんなわけで、ザ・デイスリーパーズの1stアルバム『Drowned In A Sea Of Sound』。前述したとおり、コーラスなど空間系エフェクターが使用されたギター・サウンドを主軸に、シューゲイザー然としたサウンドを持ったアルバムです。

 アルバムのタイトルは「音の海に溺れる」という意味ですが、確かに水を思わせる透明感のあるサウンドと、波を思わせるグルーヴするアンサンブルを併せ持っています。圧倒的な轟音で洪水を表現するのではなく、バンドのアンサンブルで、リスナーを音楽の海に引き込み、身を委ねさせることを狙っているようです。

 1曲目「Release The Kraken」は、コーラスが深くかかり透明感のあるギターと、男女混声による幻想的なコーラスワークに、ビートのはっきりしたリズム隊が重なります。ギターとボーカルのみのイントロからは、音響を重視したアプローチを予想しましたが、リズムもある程度はっきりと刻むところが、この曲およびアルバム全体を通した特徴。

 5曲目「Tiger In The Sea」は、空間系エフェクターの効いた浮遊感のあるギターと、立体的でソリッドな耳ざわりのベースとドラムが、アンサンブルを構成。

 9曲目「The Secret Place」は、スローテンポに乗せて、音数を絞った緩やかなアンサンブルが展開される、アンビエントな音像を持った1曲。エレクトロニカを彷彿とさせる電子的な持続音も使われていますが、リズム隊もゆったりとグルーヴを生み、バンド感を残したアレンジです。

 リズム隊の音量を抑えれば、もっと音響が前景化したアルバムにしたエレクトロニカ色の濃い作品に仕上がると思いますが、ベースとドラムのグルーヴが思いのほか前面に出てきて、音響と同じぐらいアンサンブルを重視した作品と言えます。

 クレアコーズの作品に限らず、2000年以降のいわゆる「ニューゲイザー」と言われるバンドは、電子音を導入しエレクトロニカ色の濃いバンドと、このザ・デイスリーパーズのように轟音やエフェクト過度なサウンドに頼らず、アンサンブルも丁寧に組み上げるバンドの2種類に、大別されるのではないかと思います。

 これもジャンルが成熟していく過程の宿命なのでしょうが、当該ジャンルのどの要素を際立たせるか、どのエッセンスを音楽に含めるか、というところに終着していくんでしょうね。

 





Tears Run Rings “Distance” / ティアーズ・ラン・リングス『ディスタンス』


Tears Run Rings “Distance”

ティアーズ・ラン・リングス 『ディスタンス』
発売: 2010年6月2日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 2006年に結成されたシューゲイザー・バンド、ティアーズ・ラン・リングスの2ndアルバム。前作に引き続き、シューゲイザーの名門レーベル、クレアコーズからリリース。

 マシュー・バイス(Matthew Bice)と、ローラ・ワトリング(Laura Watling)による男女混声ボーカルを擁し、エフェクターを多用したサウンド・メイキングで、アンサンブルを作り上げる手法は、正しくシューゲイザー的と言えるバンド。

 前作『Always, Sometimes, Seldom, Never』では、エフェクターを多用しつつも、使用過多にはならず、各楽器が分離して聞き取れるバランスが保たれていましたが、2作目となる本作では、エフェクトがより深くかかっています。

 そのため前作と比較すると、より音響が前景化され、各楽器の音がシームレスで、塊感のあるサウンド・プロダクションとなっています。

 また、前作は「Happiness Part One」から始まり、「Happiness Part Two」で終わるという流れでしたが、今作も「Happiness 3」から始まり、「Happiness 4」で締めくくられ、前作の流れを踏襲。アルバムという作品に対しての、こだわりが感じられるところです。

 アルバムの幕開けとなる1曲目の「Happiness 3」は、鼓動のような暖かみのあるビートと、幻想的なボーカル、空間系エフェクターの効いたギターが溶け合う、音響を前景化したアプローチの1曲。

 2曲目の「Forgotten」は、トレモロをはじめとした空間系エフェクターを用いた複数のギターが絡み合い、複雑に入り組んだ立体的なサウンドが構築される1曲。輪郭のはっきりしたサウンドの多かった、前作との違いを感じる曲です。

 3曲目「Inertia」は、空間が歪むようなギター・サウンドと、耽美な男女混声コーラスワークが溶け合う、シューゲイザーのお手本のような1曲。マイブラを強く感じさせる音像を持っています。

 4曲目「Reunion」は、リズム隊によるはっきりしたビートと、エフェクトのかかった浮き上がるようなギター・サウンドが、躍動感あるアンサンブルを展開していきます。

 5曲目「Distance」は、ギターとベースの音が、ゆっくりと空間に広がっていくような、アンビエントな空気を持った1曲。

 10曲目「Happiness 4」は、アルバム冒頭の「Happiness 3」に引き続き、ボーカルとエフェクトの深くかかったギターが、スローテンポの中で溶け合う、穏やかでアンビエントな1曲。

 前述したとおり、前作から比較するとエフェクターが深くかけられ、アンサンブルよりもサウンドを重視したアプローチが色濃くなったアルバムと言えます。

 言い換えれば、かなりシューゲイザー色…というより、マイブラ色が強くなったなぁ、という印象。ただ、それはネガティヴな意味ではなくて、音楽を構成する要素が一体となったシューゲイザー作品としてのクオリティは、前作を上回っています。

 ちなみに、クレアコーズから発売されたCD版では10曲収録でしたが、クインス・レコーズ(Quince Records)から発売された日本盤、および現在サブスクリプションなどで配信されているものは、ボーナス・トラックが2曲追加され、12曲収録となっています。

 





Tears Run Rings “Always, Sometimes, Seldom, Never” / ティアーズ・ラン・リングス『オールウェイズ、サムタイムズ、セルダム、ネヴァー』


Tears Run Rings “Always, Sometimes, Seldom, Never”

ティアーズ・ラン・リングス 『オールウェイズ、サムタイムズ、セルダム、ネヴァー』
発売: 2008年4月8日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 1990年代中頃より活動するジ・オートクランツ(The Autocollants)というバンドを前身に、2006年に結成されたシューゲイザー・バンド、ティアーズ・ラン・リングスの1stアルバム。シューゲイザー専門レーベル、クレアコーズからのリリース。

 ギターとボーカル担当のマシュー・バイス(Matthew Bice)と、ベースとボーカル担当のローラ・ワトリング(Laura Watling)による男女混声ボーカルが、耽美で浮遊感のあるメロディーを紡いでいく本作。

 各楽器のサウンドともエフェクト過多ではなく、分離して聞き取れるバランス。しかし、ボーカルもバンド・アンサンブルの一部のように溶け合うサウンド・プロダクションは、歌メロやバンドのグルーヴ感よりも、音響を前景化するシューゲイザー的なアプローチと言えます。

 2曲目「How Will The Others Survive?」では、鼓動を打つようなバスドラに、ギターが多層的に多い被さり、ささやき系の男女混声ボーカルが重なります。完全にバンドが一体化するのではなく、リズム隊、ギター、ボーカルと、分離して聞き取れるサウンドとバランスを維持しながら、レイヤー状に音楽を構成。

 3曲目「Beautiful Stranger」は、シンプルなリズム隊の上に、空間系エフェクターの深くかかったギターと、毛羽立った歪みのギター、柔らかなボーカルが重なり、幻想的な雰囲気を作り出す1曲。ゆったりしたテンポの上で、メロディーとサウンドが際立つバランスには、音楽に身を委ねる心地よさが溢れています。

 4曲目「Fall Into Light」は、テンポは速くないものの、ビートがはっきりしていて、ゆるやかな躍動感と疾走感のある1曲。ノリノリのロックとは違いますが、風のように自然に流れていく音楽には、ゆるやかに体を揺らす魅力があります。

 7曲目「Waiting For The End」は、イントロからドラムが立体的に響き、浮遊感を持った各楽器とボーカルが絡み合い、アンサンブルを構成していきます。バンド感のあるアンサンブルと、エレクトロニカや音響系ポストロックを思わせる、アンビエントな音像が共存した1曲。

 10曲目「Send Me Back」は、毛羽立った歪みのギターと、耽美なボーカルが、不釣り合いなようでありながら、自然に溶け合い、ゆるやかなグルーヴ感のあるロックが展開されます。

 幻想的な空気を持った、ささやき系の男女混声ボーカルと、エフェクターを駆使したギター・サウンドが同居し、歌メロと音響の魅力が不可分の溶け合った作品。

 サウンドの面でも、アンサンブルの面でも、音楽を作り上げる要素に一体感があり、実にシューゲイザーらしい1作であると思います。

 音響的なアプローチの「Happiness – Part One」から始まり、「Happiness – Part Two」で締めくくるアルバム全体の流れも、なかなか秀逸。