Tears Run Rings “Distance” / ティアーズ・ラン・リングス『ディスタンス』


Tears Run Rings “Distance”

ティアーズ・ラン・リングス 『ディスタンス』
発売: 2010年6月2日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 2006年に結成されたシューゲイザー・バンド、ティアーズ・ラン・リングスの2ndアルバム。前作に引き続き、シューゲイザーの名門レーベル、クレアコーズからリリース。

 マシュー・バイス(Matthew Bice)と、ローラ・ワトリング(Laura Watling)による男女混声ボーカルを擁し、エフェクターを多用したサウンド・メイキングで、アンサンブルを作り上げる手法は、正しくシューゲイザー的と言えるバンド。

 前作『Always, Sometimes, Seldom, Never』では、エフェクターを多用しつつも、使用過多にはならず、各楽器が分離して聞き取れるバランスが保たれていましたが、2作目となる本作では、エフェクトがより深くかかっています。

 そのため前作と比較すると、より音響が前景化され、各楽器の音がシームレスで、塊感のあるサウンド・プロダクションとなっています。

 また、前作は「Happiness Part One」から始まり、「Happiness Part Two」で終わるという流れでしたが、今作も「Happiness 3」から始まり、「Happiness 4」で締めくくられ、前作の流れを踏襲。アルバムという作品に対しての、こだわりが感じられるところです。

 アルバムの幕開けとなる1曲目の「Happiness 3」は、鼓動のような暖かみのあるビートと、幻想的なボーカル、空間系エフェクターの効いたギターが溶け合う、音響を前景化したアプローチの1曲。

 2曲目の「Forgotten」は、トレモロをはじめとした空間系エフェクターを用いた複数のギターが絡み合い、複雑に入り組んだ立体的なサウンドが構築される1曲。輪郭のはっきりしたサウンドの多かった、前作との違いを感じる曲です。

 3曲目「Inertia」は、空間が歪むようなギター・サウンドと、耽美な男女混声コーラスワークが溶け合う、シューゲイザーのお手本のような1曲。マイブラを強く感じさせる音像を持っています。

 4曲目「Reunion」は、リズム隊によるはっきりしたビートと、エフェクトのかかった浮き上がるようなギター・サウンドが、躍動感あるアンサンブルを展開していきます。

 5曲目「Distance」は、ギターとベースの音が、ゆっくりと空間に広がっていくような、アンビエントな空気を持った1曲。

 10曲目「Happiness 4」は、アルバム冒頭の「Happiness 3」に引き続き、ボーカルとエフェクトの深くかかったギターが、スローテンポの中で溶け合う、穏やかでアンビエントな1曲。

 前述したとおり、前作から比較するとエフェクターが深くかけられ、アンサンブルよりもサウンドを重視したアプローチが色濃くなったアルバムと言えます。

 言い換えれば、かなりシューゲイザー色…というより、マイブラ色が強くなったなぁ、という印象。ただ、それはネガティヴな意味ではなくて、音楽を構成する要素が一体となったシューゲイザー作品としてのクオリティは、前作を上回っています。

 ちなみに、クレアコーズから発売されたCD版では10曲収録でしたが、クインス・レコーズ(Quince Records)から発売された日本盤、および現在サブスクリプションなどで配信されているものは、ボーナス・トラックが2曲追加され、12曲収録となっています。