The Daysleepers “Drowned In A Sea Of Sound”
ザ・デイスリーパーズ 『ドラウンド・イン・ア・シー・オブ・サウンド』
発売: 2008年5月13日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)
プロデュース: Doug White (ダグ・ホワイト)
ニューヨーク州バッファローにて、2004年11月に結成されたバンド、ザ・デイスリーパーズの1stアルバム。ちなみにアイスランドにも、「The」の付かないデイスリーパーズ(Daysleepers)というバンドがいるみたいです。
シューゲイザー専門レーベル、クレアコーズからのリリース。クレアコーズからのリリースという事実を差し引いても、空間系エフェクターの多用されたギター・サウンドと、男女混声のよるコーラスワークが、幻想的なサウンドを作り出し、シューゲイザーらしい音楽が展開されています。
クレアコーズは、一定以上のクオリティのシューゲイザーをリリースしている、良いレーベルだと思いますけど、やはりジャンルというのは袋小路に陥りやすいよな、とも思います。
そして、このジャンルにとってマイブラの影響力は、やはり無視できないほど大きいよなとも。男女混声によるボーカルが、バンドに溶け合うように一体化したサウンドを聴くと、自ずと『Loveless』が思い浮かびます。
ただ、ある程度の形式を借りた上で、自分たちのオリジナリティを表現するというのは、シューゲイザーというジャンルに限りません。シューゲイザーは、過度なエフェクターの使用、轟音ギターの導入など、サウンド・デザインに共通項を見つけやすいので、似ていると見なされやすいという一面もあるのでしょう。
そんなわけで、ザ・デイスリーパーズの1stアルバム『Drowned In A Sea Of Sound』。前述したとおり、コーラスなど空間系エフェクターが使用されたギター・サウンドを主軸に、シューゲイザー然としたサウンドを持ったアルバムです。
アルバムのタイトルは「音の海に溺れる」という意味ですが、確かに水を思わせる透明感のあるサウンドと、波を思わせるグルーヴするアンサンブルを併せ持っています。圧倒的な轟音で洪水を表現するのではなく、バンドのアンサンブルで、リスナーを音楽の海に引き込み、身を委ねさせることを狙っているようです。
1曲目「Release The Kraken」は、コーラスが深くかかり透明感のあるギターと、男女混声による幻想的なコーラスワークに、ビートのはっきりしたリズム隊が重なります。ギターとボーカルのみのイントロからは、音響を重視したアプローチを予想しましたが、リズムもある程度はっきりと刻むところが、この曲およびアルバム全体を通した特徴。
5曲目「Tiger In The Sea」は、空間系エフェクターの効いた浮遊感のあるギターと、立体的でソリッドな耳ざわりのベースとドラムが、アンサンブルを構成。
9曲目「The Secret Place」は、スローテンポに乗せて、音数を絞った緩やかなアンサンブルが展開される、アンビエントな音像を持った1曲。エレクトロニカを彷彿とさせる電子的な持続音も使われていますが、リズム隊もゆったりとグルーヴを生み、バンド感を残したアレンジです。
リズム隊の音量を抑えれば、もっと音響が前景化したアルバムにしたエレクトロニカ色の濃い作品に仕上がると思いますが、ベースとドラムのグルーヴが思いのほか前面に出てきて、音響と同じぐらいアンサンブルを重視した作品と言えます。
クレアコーズの作品に限らず、2000年以降のいわゆる「ニューゲイザー」と言われるバンドは、電子音を導入しエレクトロニカ色の濃いバンドと、このザ・デイスリーパーズのように轟音やエフェクト過度なサウンドに頼らず、アンサンブルも丁寧に組み上げるバンドの2種類に、大別されるのではないかと思います。
これもジャンルが成熟していく過程の宿命なのでしょうが、当該ジャンルのどの要素を際立たせるか、どのエッセンスを音楽に含めるか、というところに終着していくんでしょうね。