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Dinosaur Jr. “You’re Living All Over Me” / ダイナソーJr.『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』


Dinosaur Jr. “You’re Living All Over Me”

ダイナソーJr. 『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』
発売: 1987年12月14日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)
プロデュース: Wharton Tiers (ウォートン・ティアーズ)

 マサチューセッツ州アマースト出身、グランジ・オルタナブームを代表するバンドのひとつ、ダイナソーJr.の2ndアルバム。

 1stアルバム『Dinosaur』は、ニューヨークを拠点にするインディー・レーベル、ホームステッド(Homestead Records)からのリリース。1stアルバムのリリース後、ニューヨークを拠点にするソニック・ユースに認められ、2ndアルバムである今作は、当時のソニック・ユースと同じくSSTからのリリースとなります。

 激しく歪んだギターを中心に据えて、多彩なアンサンブルが展開されるアルバム。ダイナソーJr.の魅力は、轟音一辺倒ではなく、同じ歪みでも適材適所でサウンドを使い分け、カラフルな世界観を描き出すところです。同時に、3人の個性がぶつかり合う緊張感、ヒリヒリとした焦燥感も共存しています。

 流れるようなメロディーと、ノイジーなサウンドが溶け合い、ダイナソーJr.特有の音世界が繰り広げられるアルバムです。

 1曲目「Little Fury Things」では、ワウがかかったギターと、圧縮されたようなノイジーなギター、ボーカルのシャウトが、イントロから鳴り響きます。歌メロが始まると、ボーカルは穏やかで、思いのほか緩やかなグルーヴが形成される1曲。ソニック・ユースのリー・ラナルドが、バッキングボーカルで参加しています。

 2曲目の「Kracked」は、野太く歪んだギターと、高音域を使ったギターが絡み合う、疾走感のある1曲。

 6曲目「Tarpit」は、圧縮されたギターのサウンドと、シンプルなリズム隊からは、シューゲイザーの香りもします。曲の終盤、再生時間3分過ぎからは、空間を埋め尽くす轟音ギターが押し寄せます。

 7曲目「In A Jar」は、シンプルながら、各楽器が有機的に絡み合うアンサンブルが展開される1曲。J-POP的な感性からすると、メロディーの展開や起伏が少なく淡々と進んでいきますが、単調という感じはしません。その理由はバンドのアンサンブルが前景化され、歌メロ以外にも聴くべき要素があるからでしょう。再生時間2:30あたりからのギターソロは、メロディアスに響きます。

 8曲目「Lose」は、イントロからギターが唸りをあげる疾走感あふれる1曲。複数のギターが重なり、音の壁のような厚みのあるサウンドを作り上げます。

 前述したとおり、多種多様なギターのサウンドを用いて、各楽器がせめぎ合うようなアンサンブルが構成される1作です。一体感というよりも、お互いの力を誇示するようなスリルがあります。

 そんなアンサンブルに、J・マスシスの無気力で気だるいボーカルが乗り、一聴するとノイジーでレイジーな雰囲気ですが、メロディーラインは耳に残り、彼のソング・ライティング能力の高さも垣間見えます。

 ダイナソーJr.のアルバムは、作品によって音質と音楽性に微妙に差違がありますが、本作『You’re Living All Over Me』は、彼らの作品のなかでも傑作と言っていい1作だと思います。

 





Dinosaur Jr. “Bug” / ダイナソーJr.『バグ』


Dinosaur Jr. “Bug”

ダイナソーJr. 『バグ』
発売: 1988年10月31日
レーベル: SST (エス・エス・ティー)

 マサチューセッツ州アマーストで結成されたバンド、ダイナソーJr.の3rdアルバムです。2ndアルバム『You’re Living All Over Me』に続き、SSTからのリリース。

 1990年代のグランジ・オルタナブームを代表するバンドと目されるダイナソーJr.。現代的なハイファイ・サウンドから比較すれば、音圧が圧倒的に高いというわけではないけど、彼らの轟音ギターにはキレと奥行きがあり、時空を切り裂くように、なおかつ耳に心地よく響きます。

 「グランジ」や「オルタナ」といったジャンル名、また彼らの音楽性を形容するときにしばしば用いられる「轟音」というワードが帯びる先入観を抜きにして聴くと、音作りの巧みさ、特に歪んだギター・サウンドの多様性には驚かされます。

 1曲目「Freak Scene」は、イントロからクランチ気味のギターとリズム隊が、コンパクトなロックを響かせます。再生時間0:31あたりから、堰を切ったようになだれ込んでくる轟音ギター。クリーン・トーンから、激しく歪んだディストーションまで、様々なサウンドのギターを効果的に使い分けるのが、このバンドの魅力。

 2曲目「No Bones」は、イントロから、やや潰れたように歪んだギターが響きわたります。テンポは抑え目に、物憂げなボーカルと、激しく歪んだギターが溶け合い、スピードではなくサウンドでエモーションを描き出す1曲。再生時間1:35あたりから加わるアコースティック・ギター、再生時間1:57あたりから唸りをあげる歪んだギターなど、段階的に異なるサウンドのギターが用いられ、楽曲に奥行きと多彩さをもたらしています。

 3曲目「They Always Come」は、イントロから、倍音たっぷりの厚みのあるディストーション・ギターが曲を先導し、バンド全体もタメを使って加速感を演出する、疾走感のある1曲。

 5曲目「Let It Ride」は、金属的なサウンドのギターが、耳をつんざくように鋭く響き、ややルーズなボーカルも、ジャンクな雰囲気をプラスする1曲。

 7曲目「Budge」は、ギターのサウンドもコーラスワークも、多層的で厚みのある1曲。音が洪水のように押し寄せ、塊感のあるサウンドを持っています。

 「轟音」という意味では、もっと音圧が高く、一聴すると迫力のあるサウンドを鳴らすバンドはいますが、ダイナソーの魅力はサウンド・プロダクションにこだわりが感じられ、非常に耳ざわりが良いところです。

 歪みにも種類を持たせ、クリーントーンも効果的に導入し、楽曲をカラフルに彩っています。轟音一辺倒に頼るのではなく、コントラストによって轟音の効果を最大限に引き出すところもさすがだなと思いますね。