Bastro “Sing The Troubled Beast”
バストロ 『シング・ザ・トラブルド・ビースト』
発売: 1990年
レーベル: Homestead (ホームステッド), Drag City (ドラッグ・シティ)
デイヴィッド・グラブス(David Grubbs)と、ジョン・マッケンタイア(John McEntire)が在籍したバンド、バストロの2ndアルバムであり、ラスト・アルバム。(活動終了後の2005年に、ライブ・アルバムのリリースはあります。)
グラブスはガスター・デル・ソル(Gastr Del Sol)やソロ活動、マッケンタイアはトータス(Tortoise)での活動をはじめ、非常に多岐にわたって活躍する2人。そのため、彼らの音楽性を単純にジャンルに振り分けることは困難ですが、本作で展開されるのは、歪んだギターを中心にしたハードな音像と、実験的なアレンジが同居したポスト・ハードコア・サウンド。
ガスター・デル・ソルの実験的なアコースティック・サウンド、あるいはシカゴ音響派の筆頭としてのトータスを、頭に置きながら本作を聴くと、意外な印象を持たれるかもしれません。しかし、バストロとガスター・デル・ソルやトータスが、全く断絶していて音楽性の繋がりが無いのかと言えば、そんなことはなく、地続きになっているのも事実。
元々は、デイヴィッド・グラブスが在籍していたパンク・ロック・バンド、スクワール・バイト(Squirrel Bait)解散後に、メンバーだったグラブスとクラーク・ジョンソン(Clark Johnson)によって、結成されたバストロ。パンク・ロックからハードコア、さらにはポスト・ハードコアとポストロックへの、橋渡しとなるバンドと言っても良いでしょう。
さて、前述のスクワール・バイトは、激しいサウンドや高速のテンポはハードコア的と言えますが、同時にその後のマスロックに繋がるような複雑さと実験性も持ち合わせており、広い意味ではポスト・ハードコアと言っても良いサウンドを持ったバンドでした。
そして、スクワール・バイト解散後に結成されたバストロの1stアルバム『Diablo Guapo』は、スクワール・バイトの音楽性をさらに一本進めたと言っていい、攻撃性と実験性が、高い次元で両立された1作でした。
そんな『Diablo Guapo』に続く、本作『Sing The Troubled Beast』では、さらにアンサンブルの複雑性と実験性が増し、ポストロック色が濃くなったと言い換えても良い音楽が展開されています。また、疾走感や攻撃性が失われていないのも、特筆すべきところ。
1曲目の「Demons Begone」は、足が絡まりそうなリズムで走り抜けていく、複雑さと疾走感の同居する1曲。
2曲目「Krakow, Illinois」も1曲目に続いて、疾走感と実験性を併せ持っています。イントロから、立体的かつ躍動感の溢れるアンサンブルが展開。ギターの回転するようなフレーズと、タイトで正確なリズム隊との一体感が、直線的なリズムで走るだけでは生まれない、立体感と躍動感を生んでいきます。
3曲目「I Come From A Long Line Of Shipbuilders」は、イントロの呪文のようなスポークン・ワードに続いて、下品に歪んだジャンクなサウンドによる、パワフルで塊感のある演奏が展開される1曲。
7曲目「Jefferson-In-Drag」は、粒だった音が転がるような、タイトで正確かつグルーヴ感のあるアンサンブルが繰り広げられます。
8曲目「The Sifter」は、不穏な持続音と、ノイズ的なサウンドが重なる、アンビエントな1曲。
9曲目「Noise / Star」は、タイトに鋭くリズムを刻むリズム隊と、金属的に尖ったギターのサウンドが絡み合い、疾走感の溢れる演奏を展開する1曲。ラフな部分と、タイトな部分のバランスが秀逸で、このバンドの演奏スキルの高さが垣間見えます。
アルバムのラストを飾る10曲目の「Recidivist」は、ピアノとオルガンによるボーカルレスの1曲。2台の鍵盤が複雑に絡み合い、アングラ臭を伴った演奏が展開されます。激しく歪んだギターは用いずに、アングラ感やジャンク感を演出するセンスは見事。
疾走感とジャンク感のあるハードコア・サウンドを下敷きにしながら、随所に実験的なサウンドやアレンジが散りばめられた本作。表層的なサウンドはハードで、その後のガスター・デル・ソルやトータスとの共通点を見出しにくいかもしれませんが、新しい音楽へと向かう態度とアイデアは、共通していると言えるでしょう。
1990年にリリースされた本作ですが、2005年にシカゴの名門インディー・レーベル、ドラッグ・シティより1stアルバム『Diablo Guapo』と本作『Sing The Troubled Beast』を1枚にまとめた形で再発されています。残念ながら2018年7月現在、デジタル配信はされていないようです。