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Iron & Wine “The Creek Drank The Cradle” / アイアン・アンド・ワイン『ザ・クリーク・ドランク・ザ・クレイドル』


Iron & Wine “The Creek Drank The Cradle”

アイアン・アンド・ワイン 『ザ・クリーク・ドランク・ザ・クレイドル』
発売: 2002年9月24日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 サウスカロライナ州チャピン(Chapin)出身のシンガーソングライター、サム・ビーム(Sam Beam)。ステージ・ネームと、レコーディング・ネームとして、「アイアン・アンド・ワイン」を名乗る彼の1stアルバム。

 1974年、サウスカロライナ州チャピンに生まれたサム・ビーム。地元の高校を卒業後、バージニア・コモンウェルス大学へ進学。さらに同大卒業後、フロリダ州立大学大学院へ進学し、映画を専攻して修士号を取得しています。

 90年代中頃から、作曲を開始。2002年には、友人から4トラックのレコーダーを借り、デモテープの制作を開始します。完成したデモテープの1本を、友人のマイケル・ブリッドウェル(Michael Bridwell)に渡し、彼はそのテープをイエティ・マガジン(YETI magazine)というカルチャー雑誌の編集者をしている友人に渡します。

 ちなみにブリッドウェルは、のちにバンド・オブ・ホーセズ(Band Of Horses)を結成することになる、ベン・ブリッドウェル(Ben Bridwell)。

 ビームのデモテープは、イエティ・マガジンのまとめるコンピレーションCDに収録。それがシアトルのインディー・レーベル、サブ・ポップの運営者ジョナサン・ポーンマン(Jonathan Poneman)の耳に入り、サブ・ポップとの契約に至りました。

 本作がリリースされたのは2002年。サム・ビームが、28歳のときです。10代でデビューするバンドもいるなか、遅いデビューと言って良いでしょう。

 サム・ビームが、個人でレコーディングしたデモテープが元となった本作。そのため、音質はお世辞にも良いとは言えません。そんな飾り気のないサウンド・プロダクションの中で浮かび上がるのは、彼の紡ぐメロディーと歌心。

 サウンドと比例するように、むき出しのメロディーと歌が前景化されたのが本作です。他に前に出すものが無い、とも言えるのですが…。ただ、歌唱とソングライティングが、本作の中心に置かれているのは事実。伴奏もアコースティック・ギターを中心にした、穏やかでシンプルなもの。

 1曲目の「Lion’s Mane」から、アコースティック・ギターの粒だったフレーズに、ささやき系のボーカルが重なり、穏やかな空気を演出しています。奥の方ではスライド・ギターらしき音も聞こえ、牧歌的な空気に立体感をプラス。

 2曲目「Bird Stealing Bread」も、さざ波のように穏やかに揺れるギターのリズムに乗って、高音を用いたメロディーが漂う、流麗な1曲。

 3曲目「Faded From The Winter」は、ギターの軽やかで小刻みなフレーズに、長めの音符を多用したボーカルのメロディーが、対比的に重なる1曲。再生時間2:08あたりから始まるギターソロも、ボーカル以上に歌心があり、心地よく響きます。

 7曲目「Southern Anthem」は、穏やかに流れるような曲想の多い本作において、やや縦ノリのリズムを持った曲。とはいえ、もちろんゴリゴリのビートで進行するわけではなく、ギターと歌のメロディーが、ゆったりと揺らぎを持って、リズムを刻んでいきます。

 9曲目「Weary Memory」は、ゆったりとしたテンポに乗せて、コード・ストロークとスライド・ギター、歌のメロディーが、丁寧に音を置いていく1曲。各フレーズは「有機的に組み合う」という感じではないのですが、空間を音で満たすように、互いに
干渉することなく、広がっていきます。

 アコースティック・ギターの奏でるフォーキーなサウンドと、穏やかな歌が中心に据えられたアルバムです。伴奏のギターと、歌のメロディー、それにギターソロや副旋律がところどころで足されるシンプルなアンサンブルが、アルバム全編にわたって展開。

 シンプルなアンサンブルの中で、穏やかに流れるメロディーが際立つ1作です。前述のとおり、デモテープが元になった簡素なサウンド・プロダクションを持った本作ですが、それが欠点に感じられることは少なく、むしろメロディーとも相まって、穏やかな空気を演出しています。

 





Rumah Sakit “Obscured By Clowns” / ルマ・サキッ『オブスキュアード・バイ・クラウンズ』


Rumah Sakit “Obscured By Clowns”

ルマ・サキッ 『オブスキュアード・バイ・クラウンズ』
発売: 2002年6月4日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のインスト・マスロック・バンド、ルマ・サキッの2ndアルバム。

 「マスロック」と一口に言っても、その音楽性はバンドによって様々。インドネシア語で病院を意味する、ルマ・サキッという奇妙なバンド名を持ったこのバンドの特徴は、各楽器が奏でる幾何学的に制御されたかのようなフレーズが、機械のように組み合わさり、一体感のあるアンサンブルを構成するところ。

 前作『Rumah Sakit』と比較すると、2作目となる本作では、さらに理路整然とした、複雑かつ正確なアンサンブルが展開。前作で聞かれた荒々しい攻撃性はやや控えめになり、全てが計算で作り込まれたかのような演奏が繰り広げられます。

 1曲目「Hello Beginning, This Is My Friend… The End」は、アルバム1曲目ということもあり、バンドがさりげなく音合わせを始めるかのような、自由でラフな雰囲気の1曲。

 2曲目「New Underwear Dance」は、各楽器が折り重なるように絡み合い、織物のように有機的で一体感のあるアンサンブルを構成していく1曲。随所でリズムの切り替えや、テンポの加速と減速があり、楽曲が姿を変えながら、スリリングに進行していきます。

 3曲目「No-One Likes A Grumpy Cripple」は、タイトでシンプルなドラムに、ベースが絡みつくようにフレーズを重ね、さらにギターが重なり、全ての楽器が複雑に絡み合うようなアンサンブルが展開。

 5曲目「Obscured By Clowns」は、イントロのギターのシンプルなフレーズに導かれ、徐々に楽器が加わり、立体的で緩やかな躍動感のある演奏が展開される1曲。10分を超える大曲ですが、次々と展開があり、壮大な絵巻物のよう。

 6曲目「Are We Not Serious? We Are Rumah Sakit!」は、曲名は長いですが、30秒ほどのインタールード的な役割の1曲。曲というより、メンバーの声とミニマルなベースのフレーズのみで、スタジオでの一場面(悪ふざけ?)を切り取ったようなトラックです。

 9曲目「Hello Friend, This Is My End… The Beginning」は、電子音らしきサウンドが鳴り響くイントロから始まり、バンドの音が次々と重なり、アンサンブルを作り上げていく1曲。サウンド・プロダクションの面でも、演奏の面でも、ジャンクな空気が充満しています。しかし、ハードルが高いというわけではなく、むしろチープとも言える音質が、キュートで親しみやすい雰囲気をプラス。

 時にはハードな音色も用いて、攻撃性も持ち合わせていた前作から比べると、本作では各楽器ともシンプルな音色が多用され、よりアンサンブルに重きを置いたアルバムになっています。

 テンポも抑えめの曲が多く、圧倒的なスピード感や、複雑怪奇なテクニカルなフレーズよりも、全ての楽器が組み合う、アンサンブルの正確性と表現力を追求した1作。

 





Chicago Underground Duo “Axis And Alignment” / シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ『アクシス・アンド・アラインメント』


Chicago Underground Duo “Axis And Alignment (Axis & Alignment)”

シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ 『アクシス・アンド・アラインメント』
発売: 2002年3月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 コルネットのロブ・マズレク(Rob Mazurek)と、ドラムとパーカッションのチャド・テイラー(Chad Taylor)によるジャズ・デュオ、シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの3rdアルバム。

 レコーディング・エンジニアとミックスは、バンディー・K・ブラウンとジョン・マッケンタイアが、楽曲によって分け合うかたちで担当。

 ジャズ的なフレーズや即興性を、ポストロック的な手法で再構築。シカゴ・アンダーグラウンド・デュオの音楽性を一言であらわすなら、そう言って差し支えないでしょう。3作目となる本作でも、ジャズのパーツを用いて、全く新しい音楽を作り上げようという意思が感じられます。

 1曲目「Micro Exit」は、ヴィブラフォンの細かい音の粒が、サイケデリックかつ幻想的な空気を作りだす1曲。

 2曲目「Lifelines」は、コルネットのフレーズとドラムのリズムからは、ジャズの香りが立ちますが、全体のアンサンブルにはスウィングや躍動感が希薄で、バラバラに解体された後に組み立て直したような耳ざわりの1曲です。

 3曲目「Particle And Transfiguration」は、ドラムもコルネットも、高速で音符の詰め込まれたフレーズを繰り出す、フリージャズ色の濃い1曲。徐々に、全体にエフェクト処理が加えられ、攻撃的でアヴァンギャルドなサウンドへと変化していきます。

 4曲目「Exponent Red」は、ポリリズミックなドラムと、コルネットのリリカルなフレーズはジャズそのもの。しかし、シンセの太い音色がモダンな空気を演出し、全体のジャズ色を薄め、テクノのようなサウンドに仕上げています。

 5曲目「Average Assumptions And Misunderstandings」は、ピアノとヴィブラフォンが不協和に重なり合う、アヴァンギャルドな1曲。ジャズというより、現代音楽に近い雰囲気。

 7曲目「Two Concepts For The Storage Of Light」は、叩きつけるようにパワフルかつ自由なリズムを刻むドラムと、歌い上げるようにフレーズを紡ぐコルネットが絡み合う、フリージャズ色の濃い前半から、シンセが加わりモダンな空気を増した後半へと展開。全体としても、躍動感に溢れ、単純にかっこいい曲です。

 8曲目「Memoirs Of A Space Traveller」は、フリーな高速フレーズを繰り出すコルネットとドラムを、ノイズ的な電子音が包み込む、アヴァンギャルドな1曲。

 10曲目「Access And Enlightenment」は、トライバルなドラムと、軽快なシンセとコルネットが絡み合う、立体的で躍動感に溢れた1曲。ジャズ的なフレーズと即興性を持ったコルネット、変幻自在にカラフルなリズムを刻むドラム、オルタナティヴな空気を持ち込むシンセの音色が溶け合い、フックの多い音楽を作りあげています。

 アルバムによって、アプローチの方法とバランスを変化させながら、常にジャズを用いた新しい音楽を目指しているシカゴ・アンダーグラウンド・デュオ。

 本作でもジャズのスウィング感や即興性を、ポストロック的な感覚で解体・再構築し、ジャンルを超えた音楽を完成させています。

 





Owen “No Good For No One Now” / オーウェン『ノー・グッド・フォー・ノー・ワン・ナウ』


Owen “No Good For No One Now”

オーウェン 『ノー・グッド・フォー・ノー・ワン・ナウ』
発売: 2002年11月19日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)やアメリカン・フットボール(American Football)での活動でも知られる、マイク・キンセラ(Mike Kinsella)によるソロ・プロジェクト、オーウェンの2ndアルバム。

 オーウェン名義での1作目となった前作『Owen』に引き続き、アコースティック・ギターを中心にしたオーガニックなサウンド・プロダクションを持ったアルバム。前作から比較すると、アンサンブルがやや躍動的になり、バンド感が増しています。

 また、穏やかなボーカリゼーションも、基本的には前作と共通していますが、本作ではところどころエモーションを爆発させるように、力強く歌う部分があり、より豊かな歌心を感じる作品になっています。

 1曲目「Nobody’s Nothing」では、穏やかな波のようなギターのコード・ストロークが、一定のペースで満ち引きを繰り返します。それを追いかけるように、徐々に他の楽器が加わり、躍動感のあるアンサンブルが展開。

 2曲目「Everyone Feels Like You」は、無駄を削ぎ落としたシンプルなアコースティック・ギターと歌のイントロから始まり、エレキ・ギターの唸りをあげるようなソロを皮切りに、ゆったりとしたテンポの中で、たっぷりとタメを作った立体的なアンサンブルが展開される1曲。2本のアコースティック・ギターが、折り重なるようにお互いを噛み合うアレンジも、楽曲に奥行きを加えています。

 3曲目「Poor Souls」は、複数のギターがそれぞれ細かく音を紡ぎ出し、優しく降り注ぐ雨粒のように、その場を埋めていく1曲。まるでタペストリーのように、各楽器が有機的に融合してひとつの模様を作り上げていくアンサンブルは、音楽が「織り込まれる」と表現したくなります。

 4曲目「The Ghost Of What Should’ve Been」は、各楽器とも手数は少なく、フレーズもシンプルなのに、穏やかな躍動感のある曲。

 7曲目「Take Care Of Yourself」は、ヴェールのように全てを包みこむ柔らかな電子音と、アコースティック・ギターの暖かな響きが溶け合う、優しいサウンド・プロダクションの1曲。再生時間1:13あたりからの、目の前が一気に広がるようなアレンジなど、遅めのテンポと穏やかなサウンドを持ちながら、1曲の中でのダイナミズムが大きく、コントラストが鮮やか。

 前作に引き続き、電子音と生楽器のバランスが秀逸で、フォークやカントリーを前面に出さずに、アコースティック・ギターの魅力を引き出したアルバム。

 もはやエモの伝説となった感もあるキャップン・ジャズ。穏やかなサウンドを持ちながら、各楽器が時に複雑に絡み合い、ポストロック的アプローチへと踏み出したアメリカン・フットボール。それらのバンドを経て、オーウェン名義で活動を始めたマイク・キンセラ。

 オーウェンはソロ・プロジェクトということもあり、彼のメロディーやアレンジメントの素の部分が見えるプロジェクトだと思います。2作目となる本作でも、生楽器と電子音を巧みにブレンドし、歌心も引き立つ、絶妙なバランスを持った音楽が展開されています。

 





Pele “Enemies” / ペレ『エネミーズ』


Pele “Enemies”

ペレ 『エネミーズ』
発売: 2002年10月15日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のポストロック・バンド、ペレの5thアルバム。本作リリースから2年後の2004年に解散するため、現在のところ最後のアルバムとなります。

 2009年には、B面の曲などを収録したコンピレーション・アルバムを発売。2014年には再結成も果たしていますが、2018年6月現在、本作以降に新たな音源のリリースはありません。

 解散前のラスト・アルバムとなる本作では、清涼感あふれるクリーントーンのギターを中心に、各楽器が緩やかに絡み合い、躍動するアンサンブルが繰り広げられます。ポストロックにカテゴライズされることの多いペレ。複雑なリズムの切り替えや変拍子を随所に混じえ、時にぎこちなさを感じさせるアンサンブルは、ポストロック的と言えるでしょう。

 また、ジャズからの影響もたびたび指摘されるペレ。前作『The Nudes』は、スムースジャズを彷彿とさせる、ゆるやかなスウィング感と、爽やかなサウンド・プロダクションを持ち合わせていましたが、本作では分かりやすいジャズ色は薄れ、よりジャンルレスで実験的な色が濃くなっています。

 1曲目「Crisis Win」では、小節線をはみ出すように、前のめりなリズムのドラムとハンド・クラップによるイントロから、各楽器とも前のめりに疾走していく1曲。各楽器ともタイトで、キレのある演奏。

 2曲目「Safe Dolphin」は、電子音やノイズ的な音が飛び交うイントロから始まり、ベースを中心にした躍動感の溢れるパートと、音数を絞ったアンビエントなパートが、交互に訪れる1曲。

 3曲目「Hooves」は、ギターと電子音を用いて、音響を前景化させたアンビエントな1曲。

 4曲目「Hospital Sports」は、手数は少ないながら立体的なドラム、メロディアスに動くベース、クリーントーンの複数のギターが絡み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルを繰り広げる1曲。激しく歪んだギターと電子音もアクセントになり、楽曲の奥行きを増しています。

 5曲目「Hummingbirds Eat」は、ギターとベース、手数を絞ったタイトなドラムが、絡みながら疾走していく1曲。同じ型のリズムをピッタリと合わせるのではなく、各学区がリズムを噛み合うように構成されるアンサンブルは、全員一致で8ビートを刻むよりも、疾走感と躍動感を生んでいます。

 6曲目「Super Hate」は、柔らかな電子音で作り上げれらた、ミニマルでアンビエントな1曲。

 7曲目「Sepit」は、穏やかでナチュラルなギターのサウンドと、キレ味の鋭いドラム、上下に動き回るベースが、グルーヴ感溢れるアンサンブルを展開する1曲。

 8曲目「Cooking Light」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、立体的なアンサンブルが構成される1曲。ドラムは余裕を持って変幻自在にリズムを刻み、ベースはアンサンブルの隙間を自由に泳ぐようにフレーズを弾き、ギターは細かい音符の早弾きからコード弾きまで、多様なプレイを聴かせています。

 清涼感のあるサウンドを用いたアンサンブルを中心にしながら、一部の楽曲では音響を前景化し、エレクトロニカのような音像を作りあげています。

 前述したとおり、本作を最後に一旦解散するペレ。ラスト・アルバムということもあるのか、ここまでの5作のアルバムの中で、最も音楽的な語彙の豊富さを感じる作品になっています。