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Pele “Enemies” / ペレ『エネミーズ』


Pele “Enemies”

ペレ 『エネミーズ』
発売: 2002年10月15日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のポストロック・バンド、ペレの5thアルバム。本作リリースから2年後の2004年に解散するため、現在のところ最後のアルバムとなります。

 2009年には、B面の曲などを収録したコンピレーション・アルバムを発売。2014年には再結成も果たしていますが、2018年6月現在、本作以降に新たな音源のリリースはありません。

 解散前のラスト・アルバムとなる本作では、清涼感あふれるクリーントーンのギターを中心に、各楽器が緩やかに絡み合い、躍動するアンサンブルが繰り広げられます。ポストロックにカテゴライズされることの多いペレ。複雑なリズムの切り替えや変拍子を随所に混じえ、時にぎこちなさを感じさせるアンサンブルは、ポストロック的と言えるでしょう。

 また、ジャズからの影響もたびたび指摘されるペレ。前作『The Nudes』は、スムースジャズを彷彿とさせる、ゆるやかなスウィング感と、爽やかなサウンド・プロダクションを持ち合わせていましたが、本作では分かりやすいジャズ色は薄れ、よりジャンルレスで実験的な色が濃くなっています。

 1曲目「Crisis Win」では、小節線をはみ出すように、前のめりなリズムのドラムとハンド・クラップによるイントロから、各楽器とも前のめりに疾走していく1曲。各楽器ともタイトで、キレのある演奏。

 2曲目「Safe Dolphin」は、電子音やノイズ的な音が飛び交うイントロから始まり、ベースを中心にした躍動感の溢れるパートと、音数を絞ったアンビエントなパートが、交互に訪れる1曲。

 3曲目「Hooves」は、ギターと電子音を用いて、音響を前景化させたアンビエントな1曲。

 4曲目「Hospital Sports」は、手数は少ないながら立体的なドラム、メロディアスに動くベース、クリーントーンの複数のギターが絡み合い、ゆるやかに躍動するアンサンブルを繰り広げる1曲。激しく歪んだギターと電子音もアクセントになり、楽曲の奥行きを増しています。

 5曲目「Hummingbirds Eat」は、ギターとベース、手数を絞ったタイトなドラムが、絡みながら疾走していく1曲。同じ型のリズムをピッタリと合わせるのではなく、各学区がリズムを噛み合うように構成されるアンサンブルは、全員一致で8ビートを刻むよりも、疾走感と躍動感を生んでいます。

 6曲目「Super Hate」は、柔らかな電子音で作り上げれらた、ミニマルでアンビエントな1曲。

 7曲目「Sepit」は、穏やかでナチュラルなギターのサウンドと、キレ味の鋭いドラム、上下に動き回るベースが、グルーヴ感溢れるアンサンブルを展開する1曲。

 8曲目「Cooking Light」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、立体的なアンサンブルが構成される1曲。ドラムは余裕を持って変幻自在にリズムを刻み、ベースはアンサンブルの隙間を自由に泳ぐようにフレーズを弾き、ギターは細かい音符の早弾きからコード弾きまで、多様なプレイを聴かせています。

 清涼感のあるサウンドを用いたアンサンブルを中心にしながら、一部の楽曲では音響を前景化し、エレクトロニカのような音像を作りあげています。

 前述したとおり、本作を最後に一旦解散するペレ。ラスト・アルバムということもあるのか、ここまでの5作のアルバムの中で、最も音楽的な語彙の豊富さを感じる作品になっています。

 





Pele “The Nudes” / ペレ『ザ・ヌーズ』


Pele “The Nudes”

ペレ 『ザ・ヌーズ』
発売: 2000年9月19日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のポストロック・バンド、ペレの4thアルバム。前作『Emergency Room Egg』は、CD-Rでのリリースとなったリミックス・アルバムなので、純粋なスタジオ・アルバムとしては3作目。

 「ポストロック」と一口に言っても、言葉の射程が広すぎて、音楽性が掴みにくいのがこのジャンル。(ポストロックに限ったことでもありませんが…)

 ペレの4作目となる本作では、清涼感のあるクリーントーンのギターを中心に、随所に変拍子を取り入れたポストロックらしい一面を持ちながら、同時に流れるように爽やかで、耳馴染みのいいアンサンブルが展開されています。

 ジャズからの影響も指摘されるペレ。本作でも確かに、サウンド・プロダクションの面ではスムースジャズを思わせる清潔感があり、アンサンブルには即興演奏で徐々に加速して行くような感覚があります。ジャズの文法もある程度取り込みながら、ロック的な躍動感や疾走感を目指したアルバム、とも言えるのではないかと思います。

 1曲目「Nude Beach. Pin Hole Camera」では、各楽器のポツリポツリとした音が有機的に絡み合い、徐々に躍動感が増していく1曲。その感覚は、音を「紡ぎ出す」という表現がぴったり。タイトに小気味よくリズムを刻むドラムは、表情豊かで、ドラムを追っているだけでも十分に楽しめるアンサンブルが展開されます。

 2曲目「The Mind Of Minolta」は、各楽器ともタイトでキレが良く、軽快なアンサンブルが繰り広げられる1曲。

 3曲目「Therapists」は、ゆったりとしたリラクシングなイントロから始まり、ドラム、続いてベースが入ると、立体感と躍動感が増していきます。各楽器がリズムをわずかに追い越し合うように、ゆるやかな疾走感のある1曲。

 4曲目「Visit Pumpy」は、ギターとベースのフレーズ、ドラムのリズム共に、幾何学的というべきなのか、ひとまとまりの練習フレーズのような各パートが折り重なり、アンサンブルを構成。正確かつ複雑なフレーズが絡み合い、通常のロックとは異なる躍動感を生んでいく演奏は、マスロック的と言ってもいいでしょう。

 5曲目「Total Hut」が、個人的にはこのアルバムのベスト・トラック。アコースティック・ギターによるイントロから、断片的なピアノのフレーズが両チャンネルから飛び交い、ドラムとヴィブラフォンらしき鉄琴が、ミニマルかつタイトなリズムを刻んでいきます。

 生楽器の音色をいかしたオーガニックなサウンド・プロダクションと、アヴァンギャルドなリズムとフレーズの組み合わせが、未来の音楽を感じさせます。言い換えれば、聴いたことがある音を使って、聴いたことがない音楽を作り上げているということ。僕が「ポストロック」にカテゴライズされる音楽を聴き続ける理由は、このような音楽に出会えるからです。

 6曲目「Black Socks」は、流れるようなギターのフレーズと、立体的に絡み合うリズム隊が、穏やかな波のように、段階的にじわじわと押し引きを繰り返す1曲。

 7曲目「Gugi」は、ややテンポが速く、激しく動きまわるベース、タイトに鋭くリズムを刻むドラムが、疾走感を生んでいく曲。

 8曲目「Monkey Monkey Las Vegas」は、細かく刻まれた各楽器の音符が、ひとつの生命体を形づくるように一体となり、躍動していく1曲。各楽器をそれぞれ別に聴いていくと、バラバラとズレる部分と、ぴったりと合わさる部分があり、ズレる部分が音楽のフックとなり、同時に躍動感と進行感を生んでいます。

 アルバム全体を通して、昼下がりのカフェで流れていそうな清涼感のあるサウンドを持ちながら、さらりと複雑なアンサンブルを聴かせてしまうアルバムです。

 ポストロックと呼ばれる音楽の一部は、この手の音楽を聴かない人には正直ハードルが高いものもありますが、本作はロック的な躍動感、ジャズ的なグルーヴ感も持ち合わせており、間口の広い作品に仕上がっていると思います。