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Hella “Hold Your Horse Is” / ヘラ『ホールド・ユア・ホース・イズ』


Hella “Hold Your Horse Is”

ヘラ 『ホールド・ユア・ホース・イズ』
発売: 2002年3月19日
レーベル: 5 Rue Christine (5ルウ・クリスティーン)
プロデュース: Aaron Prellwitz (アーロン・プレルウィッツ)

 カリフォルニア州サクラメント出身、ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)からなるマスロック・バンド、ヘラの1stアルバムです。キル・ロック・スターズのサブレーベルである、5 Rue Christineからのリリース。

 高校時代に、レッグス・オン・アース(Legs On Earth)というバンドで、活動を共にしていたスペンサーとザック。レッグス・オン・アースの解散後に、より非主流的な音楽を追求するために2人が結成したのが、このヘラです。

 ギターとドラムのみの2人編成ということで、アンサンブルには隙間も多いのですが、2人も手数の多いテクニカルな演奏を繰り広げるため、スカスカには感じません。むしろ、楽器が少ないために、2人のバカテク具合がより引き立っています。

 緩急をつけながら多様なフレーズを繰り出すギターと、四方八方から飛び交うような手数の多いドラム、そんな2人が織りなす複雑怪奇なアンサンブルが、このアルバムの魅力と言えるでしょう。言い換えれば、メロディーとコード進行がどうこう、ハーモニーがどうこうというアルバムではないので、とにかく2人の変態的なテクニックに身を委ねるのが、正しい楽しみ方だと思います。

 ここのリズム構造はどうなっているんだろう、ここはどうやって合わせているんだろう、とプレイヤー視点で楽しむのも良いかもしれません。頭が混乱してきそうですが(笑)

 1曲目の「The D.Elkan」は、ファミコン的なチープでかわいらしい電子音で奏でられる、イントロダクション的なトラック。ギターのスペンサー・セイムは、アドバンテージ(The Advantage)というファミコンの音楽をカバーするバンドでも活動していますから、彼の志向が反映されているのでしょう。

 2曲目「Biblical Violence」は、ギターとドラムが共に手数多く、小刻みに複雑なフレーズを繰り出していきます。前のめりのような、ぎこちないようなリズムに乗って疾走していく、2ピースだからこそのスリルが溢れる演奏。

 3曲目「Been A Long Time Cousin」は、叩きつけるようなパワフルなドラムと、唸りをあげるギターが絡み合う1曲。

 4曲目「Republic Of Rough And Ready」は、加速と減速を繰り返しながら、ギターとドラムがもつれるように躍動していきます。

 6曲目「Brown Metal」は、タイトルのとおりと言うべきなのか、ギターもドラムも金属的な響きが特徴的。立体的でスリリングなアンサンブルが展開されます。他の曲に比べるとリズムが直線的で、その分、ロックのダイナミズムと、凄まじいスピード感に溢れています。

 7曲目「Cafeteria Bananas」は、イントロから正確かつ複雑怪奇なリズムで、目まぐるしくアンサンブルが展開される、マスロックらしい1曲。

 8曲目「City Folk Sitting, Sitting」は、7分を超える1曲で、随所にリズムの切り替えがあり、音楽が姿を変えながら、展開していきます。ロック的なグルーヴ感と、マスロックのストイックな精密性を併せ持った1曲。

 9曲目「Better Get A Broom!」は、手数の多いギターとドラムが、お互いに噛み合うように、一体感と疾走感のあるグルーヴを作りあげていきます。アルバム中で、最も有機的なアンサンブルだと思います。

 テクニック的に非常に優れた2人のメンバーが、次々と複雑なアンサンブルを聴かせるアルバムですが、1曲目のファミコン的なサウンドに象徴されるように、どこかコミカルな要素を持っていて、難解さよりも、ワルノリ的な面白さの方が、色濃く出ています。

 もっと敷居の高いアヴァンギャルドな空気が充満していても良さそうなのに、疾走感に溢れ、リズムの複雑さもフックとなっています。気心の知れた人間同士の、2ピースというミニマルな編成であることも、このアルバムのどこかコミカルで、親しみやすい空気に繋がっているんじゃないかと思います。

 ドラムもギターも手数が多いので、2ピースぐらいの方が、アンサンブルに適度に隙間ができて、聴きやすいのかなとも思います。いずれにしても、変態的なテクニックを堪能でき、ロックのダイナミズムも多分に含んだ、理想的なマスロックのアルバムです。

 





Okkervil River “Don’t Fall In Love With Everyone You See” / オッカーヴィル・リヴァー『ドント・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・エヴリワン・ユー・シー』


Okkervil River “Don’t Fall In Love With Everyone You See”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ドント・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・エヴリワン・ユー・シー』
発売: 2002年1月22日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの2002年に発売された1stアルバム。本作以前には、1998年から1999年にかけて、2枚のEPと1枚のシングルをリリースしています。

 フロントマンのウィル・シェフ(Will Sheff)による、物語性の高い歌詞が特徴のひとつに挙げられるオッカーヴィル・リヴァー。本作でも、5曲目の「Westfall」は彼らの地元オースティンで起こった、連続殺人事件(Yogurt Shop Murders)から着想を得るなど、ストーリーテラーとしての才能をすでに示しています。

 音楽的には、フォークやカントリーを思わせるオーガニックなサウンドを基調に、4人のメンバー以外にも多数のサポート・ミュージシャンが参加。多種多様な楽器を用いた、非常に幅の広いサウンドを響かせています。オッカーヴィル・リヴァーが奏でるのが、ルーツ・ミュージックへのリスペクトと、バンドのオリジナリティが、分離することなく融合し、文学的な歌詞世界も相まって、重層的で奥深いポップ・ミュージックです。

 1曲目「Red」は、アコースティック・ギターを中心にしたカントリー風の牧歌的な曲。淡々と吟遊詩人のように言葉を紡ぐボーカルも、ゆるやかなテンポと楽曲の雰囲気にマッチしています。

 2曲目「Kansas City」は、こちらもカントリー風の穏やかな雰囲気の曲ですが、ハーモニカとストリングスが用いられ、柔らかで多層的なサウンドを作り上げます。後半はドラムを筆頭に、各楽器の音数が増え、ダイナミックなアンサンブルが展開。

 3曲目「Lady Liberty」では、2本のアコースティック・ギターによる厚みのあるコード・ストロークに、ホーンが重なり、生楽器によるオーガニックな音の壁を構成。小気味よくタイトにリズムを刻むドラムが、全体を引き締めています。

 4曲目「My Bad Days」は、スローテンポに乗せて、音数を絞った、ミニマルでストイックなアンサンブルが展開される1曲。感情を抑えたように歌うボーカルと、1音の重みが相対的に増すアレンジは、スロウコアを彷彿とさせます。

 5曲目「Westfall」は、前述のとおりオースティンで起こった事件をあつかった曲。ウィル・シェフによる事件の回想に起因する歌詞とのことですが、アコースティック・ギターを中心に据えたスローテンポの曲に乗せて、犯人の視点から淡々と語られます。音楽的にはカントリー要素の方が色濃く出ていますが、語りの手法はブルースに近い1曲です。

 6曲目「Happy Hearts」には、ダニエル・ジョンストン(Daniel Dale Johnston)がゲスト・ボーカルとして参加。彼の穏やかで、どこかとぼけたボーカルに呼応するように、ドラムとアコースティック・ギターからもリラクシングな空気が漂い、途中から入ってくるキーボートと思しき電子音も、キュートでアヴァンギャルドな雰囲気をプラス。

 7曲目「Dead Dog Song」は、バンジョーが曲を先導するブルーグラス的な疾走感の溢れる1曲。

 8曲目「Listening To Otis Redding At Home During Christmas」は、アコースティック・ギターとボーカルの音数を絞った前半から、徐々に音数が増え、ストリングスも加わり、厚みのあるサウンドが立ち現れる後半へと展開する1曲。

 9曲目「Okkervil River Song」は、アコーディオンの倍音豊かな音色、バンジョーのハリのあるサウンドなどが溶け合い、立体的で躍動感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 全体として、牧歌的でカントリー色の濃いアルバムですが、意外性のあるアレンジや電子音が、随所に効果的に散りばめられ、現代的な雰囲気も併せ持っています。1stアルバムから、非常に高い完成度の作品。

 また、前述したとおり、ウィル・シェフの書く文学的な歌詞も、このバンドの魅力のひとつ。彼の詞は散文的なので、英語が苦手な方でも、単語の意味を確認しながら読めば、魅力を感じやすいのではないかと思います。

 現在のところSpotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは配信されていないようです。





Town & Country “C’Mon” / タウン・アンド・カントリー『カモン』


Town & Country (Town And Country) “C’Mon”

タウン・アンド・カントリー 『カモン』
発売: 2002年2月19日
レーベル: Thrill Jockey (スリル・ジョッキー)

 シカゴを拠点に活動していたバンド、タウン・アンド・カントリーの3rdアルバム。生楽器を用いて、ミニマルかつフリーなアンサンブルを展開するのが特徴の4人組です。シカゴの名門インディペンデント・レーベル、スリル・ジョッキーからのリリース。

 前作『It All Has To Do With It』と比較すると、ミニマルで音響を重視したアプローチであるのは共通していますが、本作の方がコードの響きの部分で、やや不安的で実験的な色が濃くなっています。また、ハーモニウム(リード・オルガン)の持続音や、コントラバスの単音が目立っていた前作に比べ、流れるようなアコースティック・ギターの粒だった音が前面に出ています。

 2000年代以降、シンセサイザーをはじめ、電子楽器を用いたアンビエントなポストロックやエレクトロニカも数多くある中で、タウン・アンド・カントリーは生楽器で独特の温もりのあるサウンドを作り上げています。

 1曲目「Going To Kamakura」は、イントロからギターとコントラバスが、音数が少なくミニマルなアンサンブルを展開。徐々に音の動きが多くなっていき、ハーモニウムの持続音も加わります。全体のハーモニーと、各楽器の音の動きには、どこか不穏な空気が漂う1曲。

 2曲目「I’m Appealing」は、アコースティック・ギターの細かく速い音の波が、イントロから押し寄せる1曲。一般的なポップ・ミュージックの感覚からすると展開に乏しくミニマルな曲ですが、音の動きには微妙に変化があり、途中から音が加わったり、音程が変わったりと、音楽の表情は刻一刻と変化を続けます。

 3曲目「Garden」は、各楽器ともゆったりとロング・トーンを奏でる、アンビエント色の濃い1曲。ドローンというほどには、音の動きが少ないわけではなく、余裕を持ったテンポのなかで、ゆるやかにアンサンブルが構成されます。

 4曲目「The Bells」は、イントロからトランペットの音が印象的な1曲。こちらも3曲目に引き続き、各楽器が奏でる音が長めで、音響が前景化された曲と言えます。生楽器が使用されているため、サウンド・プロダクションは非常に穏やか。再生時間1:48あたりからの各楽器が重なる響きなど、コード感にはやや不思議なところがあります。

 5曲目「I Am So Very Cold」は、各楽器がバウンドするような、軽やかなリズムを持った1曲。耳ざわりも非常に心地よく、グルーヴ感と呼ぶほどではありませんが、ゆるやかにスウィングしていく曲です。

 6曲目「Palms」は、音数が少なく、ミニマルで穏やかな1曲。ヴィブラフォンなのか、鉄琴のような音が、幻想的で童話の世界のような雰囲気を演出します。

 7曲目「Bookmobile」は、各楽器の音の動きが激しく、絡み合うようなアンサンブルが展開されます。フリー・ジャズのような雰囲気も漂いますが、激しくせめぎ合う圧巻のグルーヴという感じではなく、ゆるやかに絡み合いながら、ひとつの有機的な音楽を作り上げる、穏やかな曲です。そう感じるのは、生楽器のみを用いたサウンドによるところも大きいと思います。本作の中でも、わかりやすく音楽的な曲であり、徐々にバンドの熱が上がっていくような、加速感のある曲。とても、かっこいいです。

 ミニマルな作品ではありますが、リズムや音響へのストイックな拘りが感じられ、多種多層な風景を見せてくれるアルバムです。スリル・ジョッキーからリリースされているという先入観を抜きにしても、「アコースティックなトータス」といった趣のある1枚。

 ちなみにスリル・ジョッキーから発売のUS盤は7曲収録ですが、徳間ジャパンから発売された日本盤にはボーナス・トラックが3曲追加され、10曲収録となっています。僕は輸入盤しか所持していないので、ボーナス・トラックについては未聴です。

 





Paik “The Orson Fader” / パイク『ジ・オーソン・フェーダー』


Paik “The Orson Fader”

パイク 『ジ・オーソン・フェーダー』
発売: 2002年6月15日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)

 オハイオ州トレド出身のバンド、パイクの3rdアルバムです。シューゲイザーを得意とするレーベル、Clairecordsからのリリース。

 シューゲイザーを思わせる、倍音豊かな厚みのあるギターも聞こえますが、ドローン・メタルを彷彿とさせる音像や、ポストロック的なアンサンブルも共存するアルバムです。全編インスト、かつスローテンポの曲が多く、音響を前景化した作品であるとも思います。

 1曲目の「Detroit」は、ざらついた質感のギターが空間を満たし、リズム隊がゆったりとリズムをつける、スローテンポでアンビエントな雰囲気の1曲。音符の数は多くないですが、ギターのサウンドには厚みがあり、時間と空間が音で充満しているかのような、サウンド・プロダクション。

 2曲目「Tall Winds」は、1曲目と比較すると、各楽器のサウンドの輪郭がはっきりしており、アンサンブルを認識しやすい1曲。ゆったりと各楽器が絡み合う、ポストロック的なアンサンブルが展開されます。

 4曲目の「Black Car」は、深くエフェクトのかかったギターが隙間を埋め尽くす、ドローン・メタルを彷彿とさせる1曲。ですが、ドラムが激しく叩きつけるリズムがアクセントになり、一般的なドローン・メタルよりは、遥かに聴きやすいと思います。シューゲイザー的なサウンドで、ドローン・メタルに近い音楽を実行した、というイメージです。

 6曲目の「Ghost Ship」は、タイトルのとおりというべきなのか、不穏かつ幻想的な空気が漂う1曲。イントロから、しばらくはアンビエントな音像ですが、再生時間1:41あたりから、ドラムがはっきりとビートを刻み始めると、緩やかなポストロックのようなアンサンブルが形成されます。

 シューゲイザー系のレーベルからの発売という先入観を抜きにしても、ギターサウンドにはシューゲイザーを感じるアルバムです。シューゲイザー的なサウンドを用いて、ドローン・メタルや音響系ポストロックを演奏した1作、と言ってもいいでしょう。

 ただ、シューゲイザーというと、轟音ギターや空間系エフェクター特盛のギター・サウンドに、耽美なボーカルが乗る、という構造のバンドが多いなか、このバンドは全編インスト。アンビエントやドローンの要素も強く、やや敷居の高いバンドであるとも思います。

 





All Girl Summer Fun Band “All Girl Summer Fun Band” / オール・ガール・サマー・ファン・バンド『オール・ガール・サマー・ファン・バンド』


All Girl Summer Fun Band “All Girl Summer Fun Band”

オール・ガール・サマー・ファン・バンド 『オール・ガール・サマー・ファン・バンド』
発売: 2002年
レーベル: K Records (Kレコーズ)

 オレゴン州ポートランドで結成されたバンド、オール・ガール・サマー・ファン・バンドの1stアルバムです。

 ローファイ風味のある、オシャレでギターポップな4人組のガールズ・バンド。クリーントーンのギターを使用した、リラクシングな雰囲気でありながら、緩やかなグルーヴ感もある1枚。同時に、音楽の奥からはエモーションも感じられます。

 これはとてもいいです。サウンド・プロダクションも楽曲の雰囲気もソフト。晴れた春の日の昼下がりに、ぴったりのアルバムだと思います。

 前述したとおり、女性の4ピース・バンド(後に1人脱退して3ピースになります)ですが、コーラスワークも重層的で、メンバーの声の相性も良く、本当に素晴らしい。

 1曲目「Brooklyn Phone Call」は、アルバムの幕を開ける1曲目にふさわしく、疾走感のある曲。と言ってもパワーコードでゴリゴリに押しまくる曲ではなく、軽やかにスキップするような1曲です。

 2曲目の「Canadian Boyfriend」は、立体的なアンサンブルとコーラスワークが心地よい1曲。

 3曲目の「Car Trouble」は、やや歪んだギターの音を筆頭に、古き良きロックンロールの香り漂う1曲。

 6曲目「Somehow Angels」は、各楽器が穏やかに絡み合うスローテンポの1曲。耳元で歌っているかのようにレコーディングされた、ソフトで幻想的なコーラスワークも良い。

 10曲目「Stumble Over My」は、ドラムのビートが強く、ノリの良い1曲。爽やかで流れるようなボーカリゼーションと歌メロも良いです。再生時間0:33あたりからのドラムの低音が、パワフルに響くところもアクセント。

 ポップでキュートで、パリのカフェで流れていそうなぐらいオシャレ。しかし、緩やかなグルーヴと、僅かに切なさや憂いも内包していて、聴きごたえのある作品だと思います。

 このバンドは大好きなバンドです。ギターポップ、女性ボーカルを好む人には、ぜひとも聴いてもらいたいアルバム。ですが、残念ながら今のところデジタル配信はされておらず、CDでの入手も難しいようです…。