Okkervil River “Don’t Fall In Love With Everyone You See” / オッカーヴィル・リヴァー『ドント・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・エヴリワン・ユー・シー』


Okkervil River “Don’t Fall In Love With Everyone You See”

オッカーヴィル・リヴァー (オッカヴィル・リヴァー) 『ドント・フォール・イン・ラヴ・ウィズ・エヴリワン・ユー・シー』
発売: 2002年1月22日
レーベル: Jagjaguwar (ジャグジャグウォー)

 テキサス州オースティン出身のバンド、オッカーヴィル・リヴァーの2002年に発売された1stアルバム。本作以前には、1998年から1999年にかけて、2枚のEPと1枚のシングルをリリースしています。

 フロントマンのウィル・シェフ(Will Sheff)による、物語性の高い歌詞が特徴のひとつに挙げられるオッカーヴィル・リヴァー。本作でも、5曲目の「Westfall」は彼らの地元オースティンで起こった、連続殺人事件(Yogurt Shop Murders)から着想を得るなど、ストーリーテラーとしての才能をすでに示しています。

 音楽的には、フォークやカントリーを思わせるオーガニックなサウンドを基調に、4人のメンバー以外にも多数のサポート・ミュージシャンが参加。多種多様な楽器を用いた、非常に幅の広いサウンドを響かせています。オッカーヴィル・リヴァーが奏でるのが、ルーツ・ミュージックへのリスペクトと、バンドのオリジナリティが、分離することなく融合し、文学的な歌詞世界も相まって、重層的で奥深いポップ・ミュージックです。

 1曲目「Red」は、アコースティック・ギターを中心にしたカントリー風の牧歌的な曲。淡々と吟遊詩人のように言葉を紡ぐボーカルも、ゆるやかなテンポと楽曲の雰囲気にマッチしています。

 2曲目「Kansas City」は、こちらもカントリー風の穏やかな雰囲気の曲ですが、ハーモニカとストリングスが用いられ、柔らかで多層的なサウンドを作り上げます。後半はドラムを筆頭に、各楽器の音数が増え、ダイナミックなアンサンブルが展開。

 3曲目「Lady Liberty」では、2本のアコースティック・ギターによる厚みのあるコード・ストロークに、ホーンが重なり、生楽器によるオーガニックな音の壁を構成。小気味よくタイトにリズムを刻むドラムが、全体を引き締めています。

 4曲目「My Bad Days」は、スローテンポに乗せて、音数を絞った、ミニマルでストイックなアンサンブルが展開される1曲。感情を抑えたように歌うボーカルと、1音の重みが相対的に増すアレンジは、スロウコアを彷彿とさせます。

 5曲目「Westfall」は、前述のとおりオースティンで起こった事件をあつかった曲。ウィル・シェフによる事件の回想に起因する歌詞とのことですが、アコースティック・ギターを中心に据えたスローテンポの曲に乗せて、犯人の視点から淡々と語られます。音楽的にはカントリー要素の方が色濃く出ていますが、語りの手法はブルースに近い1曲です。

 6曲目「Happy Hearts」には、ダニエル・ジョンストン(Daniel Dale Johnston)がゲスト・ボーカルとして参加。彼の穏やかで、どこかとぼけたボーカルに呼応するように、ドラムとアコースティック・ギターからもリラクシングな空気が漂い、途中から入ってくるキーボートと思しき電子音も、キュートでアヴァンギャルドな雰囲気をプラス。

 7曲目「Dead Dog Song」は、バンジョーが曲を先導するブルーグラス的な疾走感の溢れる1曲。

 8曲目「Listening To Otis Redding At Home During Christmas」は、アコースティック・ギターとボーカルの音数を絞った前半から、徐々に音数が増え、ストリングスも加わり、厚みのあるサウンドが立ち現れる後半へと展開する1曲。

 9曲目「Okkervil River Song」は、アコーディオンの倍音豊かな音色、バンジョーのハリのあるサウンドなどが溶け合い、立体的で躍動感のあるアンサンブルが展開される1曲。

 全体として、牧歌的でカントリー色の濃いアルバムですが、意外性のあるアレンジや電子音が、随所に効果的に散りばめられ、現代的な雰囲気も併せ持っています。1stアルバムから、非常に高い完成度の作品。

 また、前述したとおり、ウィル・シェフの書く文学的な歌詞も、このバンドの魅力のひとつ。彼の詞は散文的なので、英語が苦手な方でも、単語の意味を確認しながら読めば、魅力を感じやすいのではないかと思います。

 現在のところSpotifyでは配信されていますが、AppleとAmazonでは配信されていないようです。