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Elliott Smith “Either/Or” / エリオット・スミス『イーザー/オア』


Elliott Smith “Either/Or”

エリオット・スミス 『イーザー/オア』
発売: 1997年2月25日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)

 ネブラスカ州オマハ生まれ、オレゴン州ポートランド拠点のシンガーソングライター、エリオット・スミスの3rdアルバム。前作『Elliott Smith』に引き続き、ポートランドを代表するインディーズ・レーベル、キル・ロック・スターズからのリリース。

 1991年結成のオルタナティヴ・ロック・バンド、ヒートマイザー(Heatmiser)のメンバーとしても活動していたエリオット・スミス。しかし、同バンドは1996年に解散。本作は、ヒートマイザー解散後にリリースされる、エリオット・スミス初のソロ作でもあります。

 グランジやオルタナが、最盛期を迎えていた90年代前半。ヒートマイザーも、ざらついた歪みのギターを全面に押し出した、グランジ色の濃い音楽性を持っていました。

 しかし、エリオット・スミスがソロで披露する音楽は、アコースティック・ギターを中心に据えた、内省的でメロウなもの。前作『Elliott Smith』も、アコースティック・ギターを主軸に据え、弾き語りに近いアレンジの楽曲が並んでいます。

 本作では、引き続きアコギと歌を中心にしていますが、よりバンド感の高まったアンサンブルを披露。躍動感と立体感の増した演奏が展開しています。

 1曲目「Speed Trials」では、手数の少ないシンプルなドラムとギターによる伴奏が、歌を支えます。音数を絞ったミニマルな演奏ですが、スカスカ感は無く、歌と一体となってアンサンブルを構成。

 2曲目「Alameda」でも1曲目に続き、ドラムとギターが手数は少ないながら、効果的に音を置いていきます。シンプルな演奏に、コーラスワークが重なり、幽玄な雰囲気を作りあげる1曲。

 4曲目「Between The Bars」は、さざ波のように一定のリズムで揺れるギターと、ささやき系のボーカルが重なる、メロウなスローバラード。

 7曲目「Rose Parade」は、ボーカルのメロディーとギターのフレーズがお互いを追い抜き合うように、有機的に絡まり、一体感を伴って進行する1曲。

 9曲目「Angeles」は、子気味よく躍動するギターに導かれ、浮遊感のあるメロディーが流れる、軽やかな曲。途中から導入されるキーボードと思しき持続音が、楽曲に神秘的な雰囲気を足しています。

 12曲目「Say Yes」は、ギターと歌のみで構成されるアンサンブルの中で、メロディーとハーモニーが浮かび上がる、穏やかな1曲。

 ギター以外の楽器も、ほぼ全て自らで演奏する、マルチ・インストゥルメンタリストのエリオット・スミス。本作でもギターの他、ドラムやキーボードなど全ての楽器を、自身で演奏しています。

 前述のとおり、前作と比べると楽器の数が増え、バンド感の増したアンサンブルが展開される本作。しかし、エリオット・スミス本人が全ての楽器を演奏しているためか、前作が持っていた親密さは変わらず健在。

 エリオット・スミスの抑えめの声量で、穏やかにメロディーを紡ぐ歌唱は、当時全盛だったグランジ・サウンドとは異なるアプローチです。

 良い意味で箱庭感のあるアンサンブルに乗せて、パーソナルな歌が響くアルバム。





Elliott Smith “Elliott Smith” / エリオット・スミス『エリオット・スミス』


Elliott Smith “Elliott Smith”

エリオット・スミス 『エリオット・スミス』
発売: 1995年7月21日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)

 ネブラスカ州オマハ生まれ、幼少期をテキサス州で過ごし、その後はオレゴン州ポートランドで育ったシンガーソングライター、エリオット・スミスの2ndアルバム。ポートランドを代表するインディー・レーベル、キル・ロック・スターズからのリリース。

 1991年に結成されたオルタナティヴ・ロック・バンド、ヒートマイザー(Heatmiser)でもボーカルとギターを務めるエリオット・スミス。バンド活動と並行し、1994年にアルバム『Roman Candle』でソロ・デビュー。

 激しく歪んだギターが前面に出たヒートマイザーとは打って変わって、ソロ作では歌を中心に置いた、内省的な世界観が表現されています。

 ソロ2作目となる本作は、前作『Roman Candle』に引き続きアコースティック・ギターと歌を中心に構成。ヒートマイザーのギタリスト、ニール・ガスト(Neil Gust)と、ワシントン州オリンピア拠点のインディー・ロック・バンド、ザ・スピネインズ(The Spinanes)のレベッカ・ゲイツ(Rebecca Gates)が、1曲ずつレコーディングに参加していますが、ほぼエリオット・スミスが全ての楽器を演奏しています。

 マルチ・インストゥルメンタリストである彼は、ギターの他、ドラム、タンバリン、オルガン、ハーモニカ、チェロを自ら担当。とはいえ、基本的にはギターと歌を中心に据えた、弾き語りに近いアレンジのアルバムです。

 歌心の溢れるメロウなアルバムであることは確か。なのですが、コード進行とハーモニーにところどころ独特の濁りがあり、オルタナティヴな空気も香る1作です。ヒートマイザーという、ジャンクなサウンドを持ったバンドを結成する人ですから、ストレートな美メロだけではない、アヴァンギャルドな志向も持ち合わせているということでしょう。

 1曲目の「Needle In The Hay」は、先行シングルとしてもリリースされた楽曲。アコギと歌のみのアレンジですが、ジャカジャカとコード・ストロークをかき鳴らすのではなく、弦をおそらく2本ずつ弾き、ミニマルなフレーズで構成。ハーモニーにどこか不協和な部分が含まれ、隙間が多く静かな演奏ですが、オルタナティヴな空気も漂います。

 2曲目「Christian Brothers」では、複数のアコースティック・ギターとドラムを用いた、立体的なアンサンブルが展開。ボーカルのコーラスワークも加わり、音がレイヤー状に重なっていきます。

 3曲目「Clementine」は、イントロから濁りのあるコードが響く、意外性のあるコード進行と、ささやき系の高音ボーカルが重なる1曲。アコースティック・ギターとボーカル、パーカッションによる穏やかなサウンドの曲ですが、サイケデリックな空気も持ち合わせています。

 4曲目「Southern Belle」は、流れるようなギターのフレーズから始まる、軽やかな躍動感を持った1曲。

 5曲目の「Single File」には、ヒートマイザーで活動を共にするニール・ガストが、エレキ・ギターで参加。アコースティック・ギターのコード・ストロークに、エレキ・ギターの音がポツリポツリと足され、立体感をプラス。エレキ・ギターが発する音は単音で、音数も少ないものの、存在感は抜群。

 8曲目「Alphabet Town」は、ハーモニカが用いられたカントリー色の濃い1曲。穏やかにバウンドするアコギのストロークと、ささやき系のボーカルに、ハーモニカのロングトーンが重なり、寂しげな雰囲気を演出します。

 9曲目の「St. Ides Heaven」には、ザ・スピネインズのレベッカ・ゲイツがバッキング・ボーカルで参加。男女混声によるアンニュイなコーラスワークが展開します。ギターとドラムによる伴奏は、中盤以降少しずつシフトを上げ、躍動感が増加。

 11曲目「The White Lady Loves You More」は、風に揺れる木の葉のようなギターのフレーズに、ゆったりと時間を伸ばすボーカルのメロディーが重なり、流麗なアンサンブルが構成される1曲。

 ボーカルの歌唱も、全体のサウンド・プロダクションも、基本的には穏やか。しかし、前述のとおり、意外性のある音を含んだコードが随所で用いられ、ほのかにアヴァンギャルドな空気も香るアルバムになっています。

 歌が中心にあるのは間違いないのですが、エリオット・スミスという人は、ハーモニーやサウンドも含めた曲の雰囲気全体で、表現を試みているのではないかと思います。

 歌のメロディーのみでも、十分に不安な感情が示されているのに、さらに不安的なコードや意外性のあるフレーズで、その感情を増幅した表現となっている。そのようなアレンジが、随所で感じられる1作です。

 





The Thermals “The Body The Blood The Machine” / ザ・サーマルズ『ザ・ボディ・ザ・ブラッド・ザ・マシーン』


The Thermals “The Body The Blood The Machine”

ザ・サーマルズ 『ザ・ボディ・ザ・ブラッド・ザ・マシーン』
発売: 2006年8月22日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Brendan Canty (ブレンダン・キャンティ)

 オレゴン州ポートランド拠点のバンド、ザ・サーマルズの前作から約2年半ぶりとなる3rdアルバム。

 プロデューサーは、前作のクリス・ウォラに代わり、フガジ(Fugazi)のブレンダン・キャンティが担当。

 ガレージロック風味の荒々しいサウンドとアンサンブルに、流麗なボーカルのメロディーが合わさり、ラフさとポップさを持ち合わせた音楽性が魅力のザ・サーマルズ。3作目となる本作では、過去2作と比べると疾走感は控えめに、よりアンサンブルを重視した音楽を展開しています。

 1曲目「Here’s Your Future」は、まずイントロのオルガンが、新たな音楽性の広がりを予感させます。その後はジャカジャカと前作までを彷彿とさせるギターに、ドタバタと弾むようなドラムが重なり、躍動感を演出。疾走感に溢れつつも、タイトに絞り込まれたアンサンブルが展開されます。

 2曲目「I Might Need You To Kill」は、ゆったりと波を打つようなリズムに乗せて、ボーカルのメロディーが前景化される、ミドルテンポの1曲。ギターは歪みながらも、各弦のツブが立って分離して聴き取れる、厚みのあるサウンド。

 4曲目「A Pillar Of Salt」は、ギターの分厚いコード弾きと、単音によるフレーズ、バンドの上を走り抜けるようにメロディーを紡ぐボーカル、タイトで立体的なリズム隊と、それぞれの楽器の組み合い、疾走感あふれる演奏を繰り広げる1曲。ノリの良い曲ですが、アレンジは無駄がなく練り込まれ、機能的です。

 5曲目「Returning To The Fold」は、縦に覆いかぶさるようなリズムで、立体的なアンサンブルが作り上げられる1曲。リズム・ギターとベースとドラムによるタイトなリズム隊の上に、ラフで自由なギター・ソロとボーカルが乗り、縦にも横にも広がりのある演奏。

 6曲目「Test Pattern」は、シンプルで無駄を省いたサウンド・プロダクションによる、ミドルテンポの1曲。テンポが速いわけでも、音圧が高いわけでもありませんが、弾むようなリズムからは、ゆるやかなグルーヴ感が生まれ、バンド・アンサンブルの魅力を多分に持っています。

 9曲目「Power Doesn’t Run On Nothing」は、ややテンポが速く、タイトで疾走感のある1曲。リズムを重視し、抑え気味にメロディーを歌い上げるボーカルも、疾走感を生んでいきます。

 10曲目「I Hold The Sound」は、ドタバタ感のある、パワフルで立体的なアンサンブルが展開される1曲。ドラムの生き生きと弾むようなサウンドだけでも、体が動き出すほど躍動感があります。再生時間2:11あたりからのドラムのみになり、その後ボーカルや他の楽器が加わるアレンジも、立体的かつ躍動感に溢れ秀逸。

 スピードを抑えたミドル・テンポの曲が増加した本作。各楽器が絡み合い、バンドが一体の生き物のように躍動する、グルーヴ感を重視した演奏が、アルバム全体をとおして展開されています。

 前述のとおり、ブレンダン・キャンティがプロデュースを担当するということで、フガジに近い生々しく尖ったサウンド・プロダクションになっているのではないかと想像していました。本作のサウンドは、フガジのように鋭く尖ってはいませんが、楽器の原音を大切にした生々しい音像という意味では、フガジ的と言えるでしょう。

 アレンジとサウンドの両面で、これまでのローファイ感は控えめに、より洗練された1作です。

 





The Thermals “Fuckin A” / ザ・サーマルズ『ファッキン・エー』


The Thermals “Fuckin A”

ザ・サーマルズ 『ファッキン・エー』
発売: 2004年3月18日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)
プロデュース: Chris Walla (クリス・ウォラ)

 オレゴン州ポートランド拠点のバンド、ザ・サーマルズの2ndアルバム。

 デビュー・アルバムでもある前作『More Parts Per Million』は、4人編成でレコーディングされていましたが、その後ギタリストのベン・バーネット(Ben Barnett)が脱退。2枚目のアルバムとなる本作『Fuckin A』は、3人編成でレコーディングされています。

 レコーディング・エンジニアを務めたのは、当時デス・キャブ・フォー・キューティー(Death Cab For Cutie)のメンバーだったクリス・ウォラ。

 ガレージロック的な生々しくざらついた音像と、ローファイ風味の荒さを持った前作と比較すると、音圧が高まり、輪郭もはっきりとした、サウンド・プロダクションへと変化した本作。やや現代的なパンク・ロックの音に近づいたとも言えますが、アンサンブルはガレージロックの荒々しさを変わらず持っています。

 演奏の荒々しさのみが優先されるわけではなく、メロディーの良さもこのバンドの魅力。ポップパンクやメロコアのような突き抜けるメロディーの爽快感とは違いますが、歌のメロディーとバンドが一体となって転がるようなアンサンブルからは、疾走感と躍動感が溢れます。

 1曲目「Our Trip」は、各楽器が組み合い、徐々に加速していくシンプルなロック・チューン。

 2曲目「Every Stitch」は、前のめりになったリズムがフックとなり、推進力を生み出していく1曲。

 3曲目「How We Know」は、硬質なサウンドのベースが主導的に曲を引っ張り、タイトに加速していく1曲。途中まではスポークン・ワードのように淡々としたボーカルが、サビでは起伏の大きなメロディーへと一変。激しくうなりをあげるギターも相まって、コントラストが鮮やか。

 4曲目「When You’re Thrown」は、ファズとオーヴァー・ドライヴの中間ぐらいに歪んだギターが、パワフルに曲を主導していく1曲。

 6曲目「A Stare Like Yours」は、フィードバックやハーモニクスを織り交ぜ、ノイジーに疾走するギターが目立つ1曲。アンサンブルはタイトかつ躍動感に溢れ、ボーカルは親しみやすいメロディーを高らかに歌い上げます。

 7曲目「Let Your Earth Quake, Baby」では、弾むようなリズムに乗って、軽快なアンサンブルが展開。各楽器が絡み合い、バンド全体が波打つように躍動していきます。

 10曲目「Forward」は、ギターを中心に、堰を切ったように音が前のめりに噴出する、スピード感の溢れる1曲。

 前述のとおり、前作から比較するとサウンドがローファイからハイファイになり、パワフルな音像を伴って疾走感あふれる演奏が繰り広げられます。

 しかし、ただ直線的に走るのでは無く、ガレージロック的なラフさと、ローファイ的な揺らぎを変わらず持ち続けているところが、このバンドの魅力と言えるでしょう。

 





The Thermals “More Parts Per Million” / ザ・サーマルズ『モア・パーツ・パー・ミリオン』


The Thermals “More Parts Per Million”

ザ・サーマルズ 『モア・パーツ・パー・ミリオン』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 2002年にオレゴン州ポートランドで結成。同地を拠点に活動するバンド、ザ・サーマルズの2003年リリースの1stアルバム。

 結成から本作レコーディング時までは4人編成ですが、2003年にギターのベン・バーネット(Ben Barnett)が脱退。次作以降は、3ピース編成となります。

 ガレージロックの無骨さと、パワーポップの親しみやすさを併せ持ったアルバム。ギターのざらついた音作りと、ぶっきらぼうに疾走する演奏はガレージロック的なのに、歌のメロディーはシングアロングが起こりそうなポップさを持っており、パワーポップ的。

 キラキラとしたポップなメロディーと、ハードな音像と演奏が合わさり、疾走感と高揚感を持ち合わせた音楽が展開。ややローファイを感じさせるチープな音質でもあり、このローファイ感が、さらに親しみやすさを高めています。

 1曲目「It’s Trivia」では、波のように縦に揺れながら躍動するバンドに対して、ボーカルはルーズにメロディーを重ねていきます。「ルーズ」と言っても雑だということではなくて、スポークン・ワードに近い自由なリズムと音程を持っているということです。

 2曲目「Brace And Break」は、塊感のある演奏が繰り広げられる、疾走感あふれる1曲。バックビートの効いたリズムで一体となったバンドに対して、ボーカルはそこから浮き上がるようにメロディーを紡いでいきます。

 3曲目「No Culture Icons」は、ジャカジャカと大きくリズムを刻むギターに応えるように、ボーカルもシャウト気味に高らかとメロディーを歌い上げる1曲。

 5曲目「Out Of The Old And Thin」は、バンド全体がリズム楽器のように、タイトに力強くリズムを刻んでいく曲。ボーカルもその波に乗るように、流れるようにメロディーを歌います。

 7曲目「Time To Lose」は、ざらついたギターの音色と、エフェクトのかかったボーカルが耳をつかむ、ガレージロック色の濃い1曲。

 8曲目「My Little Machine」では、パワフルで荒々しいサウンドで、立体的なアンサンブルが展開されます。いい意味で各楽器のリズムにルーズな部分があり、荒々しさとグルーヴ感を生む演奏。再生時間1:35あたりからのアヴァンギャルドなアレンジも、楽曲の奥行きを増しています。

 10曲目「A Passing Feeling」は、イントロのドラムから、シンプルなロックンロールが展開する1曲。あまりバンド名を出して曲を説明するのは、バンドに対して失礼なようで気が引けるのですが、ラモーンズとストロークスの中間点のようなサウンドと演奏。

 メロディーは、ややバックの演奏に引っ張られているようにも感じられるのですが、コード進行と並行しているだけのメロディーラインではなく、適度に音程の動きがあり、平面的な印象はありません。先ほど、ラモーンズとストロークスを例に出しましたが、サーマルズもメロディーの中毒性が高く、じわじわと耳にこびりついて、離れなくなります。

 ポップさとハードさのバランスが秀逸で、デビュー・アルバムらしい荒々しさも持ち合わせた良作。