The Thermals “More Parts Per Million” / ザ・サーマルズ『モア・パーツ・パー・ミリオン』


The Thermals “More Parts Per Million”

ザ・サーマルズ 『モア・パーツ・パー・ミリオン』
発売: 2003年3月4日
レーベル: Sub Pop (サブ・ポップ)

 2002年にオレゴン州ポートランドで結成。同地を拠点に活動するバンド、ザ・サーマルズの2003年リリースの1stアルバム。

 結成から本作レコーディング時までは4人編成ですが、2003年にギターのベン・バーネット(Ben Barnett)が脱退。次作以降は、3ピース編成となります。

 ガレージロックの無骨さと、パワーポップの親しみやすさを併せ持ったアルバム。ギターのざらついた音作りと、ぶっきらぼうに疾走する演奏はガレージロック的なのに、歌のメロディーはシングアロングが起こりそうなポップさを持っており、パワーポップ的。

 キラキラとしたポップなメロディーと、ハードな音像と演奏が合わさり、疾走感と高揚感を持ち合わせた音楽が展開。ややローファイを感じさせるチープな音質でもあり、このローファイ感が、さらに親しみやすさを高めています。

 1曲目「It’s Trivia」では、波のように縦に揺れながら躍動するバンドに対して、ボーカルはルーズにメロディーを重ねていきます。「ルーズ」と言っても雑だということではなくて、スポークン・ワードに近い自由なリズムと音程を持っているということです。

 2曲目「Brace And Break」は、塊感のある演奏が繰り広げられる、疾走感あふれる1曲。バックビートの効いたリズムで一体となったバンドに対して、ボーカルはそこから浮き上がるようにメロディーを紡いでいきます。

 3曲目「No Culture Icons」は、ジャカジャカと大きくリズムを刻むギターに応えるように、ボーカルもシャウト気味に高らかとメロディーを歌い上げる1曲。

 5曲目「Out Of The Old And Thin」は、バンド全体がリズム楽器のように、タイトに力強くリズムを刻んでいく曲。ボーカルもその波に乗るように、流れるようにメロディーを歌います。

 7曲目「Time To Lose」は、ざらついたギターの音色と、エフェクトのかかったボーカルが耳をつかむ、ガレージロック色の濃い1曲。

 8曲目「My Little Machine」では、パワフルで荒々しいサウンドで、立体的なアンサンブルが展開されます。いい意味で各楽器のリズムにルーズな部分があり、荒々しさとグルーヴ感を生む演奏。再生時間1:35あたりからのアヴァンギャルドなアレンジも、楽曲の奥行きを増しています。

 10曲目「A Passing Feeling」は、イントロのドラムから、シンプルなロックンロールが展開する1曲。あまりバンド名を出して曲を説明するのは、バンドに対して失礼なようで気が引けるのですが、ラモーンズとストロークスの中間点のようなサウンドと演奏。

 メロディーは、ややバックの演奏に引っ張られているようにも感じられるのですが、コード進行と並行しているだけのメロディーラインではなく、適度に音程の動きがあり、平面的な印象はありません。先ほど、ラモーンズとストロークスを例に出しましたが、サーマルズもメロディーの中毒性が高く、じわじわと耳にこびりついて、離れなくなります。

 ポップさとハードさのバランスが秀逸で、デビュー・アルバムらしい荒々しさも持ち合わせた良作。