Elliott Smith “Elliott Smith” / エリオット・スミス『エリオット・スミス』


Elliott Smith “Elliott Smith”

エリオット・スミス 『エリオット・スミス』
発売: 1995年7月21日
レーベル: Kill Rock Stars (キル・ロック・スターズ)

 ネブラスカ州オマハ生まれ、幼少期をテキサス州で過ごし、その後はオレゴン州ポートランドで育ったシンガーソングライター、エリオット・スミスの2ndアルバム。ポートランドを代表するインディー・レーベル、キル・ロック・スターズからのリリース。

 1991年に結成されたオルタナティヴ・ロック・バンド、ヒートマイザー(Heatmiser)でもボーカルとギターを務めるエリオット・スミス。バンド活動と並行し、1994年にアルバム『Roman Candle』でソロ・デビュー。

 激しく歪んだギターが前面に出たヒートマイザーとは打って変わって、ソロ作では歌を中心に置いた、内省的な世界観が表現されています。

 ソロ2作目となる本作は、前作『Roman Candle』に引き続きアコースティック・ギターと歌を中心に構成。ヒートマイザーのギタリスト、ニール・ガスト(Neil Gust)と、ワシントン州オリンピア拠点のインディー・ロック・バンド、ザ・スピネインズ(The Spinanes)のレベッカ・ゲイツ(Rebecca Gates)が、1曲ずつレコーディングに参加していますが、ほぼエリオット・スミスが全ての楽器を演奏しています。

 マルチ・インストゥルメンタリストである彼は、ギターの他、ドラム、タンバリン、オルガン、ハーモニカ、チェロを自ら担当。とはいえ、基本的にはギターと歌を中心に据えた、弾き語りに近いアレンジのアルバムです。

 歌心の溢れるメロウなアルバムであることは確か。なのですが、コード進行とハーモニーにところどころ独特の濁りがあり、オルタナティヴな空気も香る1作です。ヒートマイザーという、ジャンクなサウンドを持ったバンドを結成する人ですから、ストレートな美メロだけではない、アヴァンギャルドな志向も持ち合わせているということでしょう。

 1曲目の「Needle In The Hay」は、先行シングルとしてもリリースされた楽曲。アコギと歌のみのアレンジですが、ジャカジャカとコード・ストロークをかき鳴らすのではなく、弦をおそらく2本ずつ弾き、ミニマルなフレーズで構成。ハーモニーにどこか不協和な部分が含まれ、隙間が多く静かな演奏ですが、オルタナティヴな空気も漂います。

 2曲目「Christian Brothers」では、複数のアコースティック・ギターとドラムを用いた、立体的なアンサンブルが展開。ボーカルのコーラスワークも加わり、音がレイヤー状に重なっていきます。

 3曲目「Clementine」は、イントロから濁りのあるコードが響く、意外性のあるコード進行と、ささやき系の高音ボーカルが重なる1曲。アコースティック・ギターとボーカル、パーカッションによる穏やかなサウンドの曲ですが、サイケデリックな空気も持ち合わせています。

 4曲目「Southern Belle」は、流れるようなギターのフレーズから始まる、軽やかな躍動感を持った1曲。

 5曲目の「Single File」には、ヒートマイザーで活動を共にするニール・ガストが、エレキ・ギターで参加。アコースティック・ギターのコード・ストロークに、エレキ・ギターの音がポツリポツリと足され、立体感をプラス。エレキ・ギターが発する音は単音で、音数も少ないものの、存在感は抜群。

 8曲目「Alphabet Town」は、ハーモニカが用いられたカントリー色の濃い1曲。穏やかにバウンドするアコギのストロークと、ささやき系のボーカルに、ハーモニカのロングトーンが重なり、寂しげな雰囲気を演出します。

 9曲目の「St. Ides Heaven」には、ザ・スピネインズのレベッカ・ゲイツがバッキング・ボーカルで参加。男女混声によるアンニュイなコーラスワークが展開します。ギターとドラムによる伴奏は、中盤以降少しずつシフトを上げ、躍動感が増加。

 11曲目「The White Lady Loves You More」は、風に揺れる木の葉のようなギターのフレーズに、ゆったりと時間を伸ばすボーカルのメロディーが重なり、流麗なアンサンブルが構成される1曲。

 ボーカルの歌唱も、全体のサウンド・プロダクションも、基本的には穏やか。しかし、前述のとおり、意外性のある音を含んだコードが随所で用いられ、ほのかにアヴァンギャルドな空気も香るアルバムになっています。

 歌が中心にあるのは間違いないのですが、エリオット・スミスという人は、ハーモニーやサウンドも含めた曲の雰囲気全体で、表現を試みているのではないかと思います。

 歌のメロディーのみでも、十分に不安な感情が示されているのに、さらに不安的なコードや意外性のあるフレーズで、その感情を増幅した表現となっている。そのようなアレンジが、随所で感じられる1作です。