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Hella “The Devil Isn’t Red” / ヘラ『ザ・デビル・イズント・レッド』


Hella “The Devil Isn’t Red”

ヘラ 『ザ・デビル・イズント・レッド』
発売: 2004年1月20日
レーベル: 5 Rue Christine (5ルウ・クリスティーン)

 ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)による2ピース・マスロック・バンドの2ndアルバム。前作に引き続き、キル・ロック・スターズのサブレーベル、5 Rue Christineからのリリース。

 カリフォルニア州サクラメント出身のバカテク2人によるマスロック・バンドです。マスロックとは、数学を意味するmathが冠されているとおり、非常に高度なテクニックを持ったメンバーが、ロック的なフレーズやダイナミズムを内包しつつ、複雑なアンサンブルを理路整然と組み立てていく音楽。

 本作は、凄まじいテクニックを持ったギタリストとドラマーが、躍動感と疾走感に溢れたアンサンブルを繰り広げる、まさにマスロックと言える音楽が展開されるアルバムです。しかし、ただテクニックをひけらかすだけではなく、コミカルで親しみやすい部分も持ち合わせているのが、このバンド及び本作の魅力。

 1曲目の「Hello Great Architect Of The Universe」は、プッシュ回線のピコピコした電話の音と、それに続くエフェクトのかかった「Hello」という応答からスタート。その後ギターとドラムが、前のめりにマシンガンのように押し寄せます。手足が何本あるのかと不思議に思うぐらい、手数の多いドラムが圧巻。コミカルで、かわいいイントロから、壮絶なアンサンブルへとなだれ込むコントラストも鮮やかです。

 3曲目「The Mother Could Be You」は、ギターとドラムが一丸となって駆け抜ける、スピード感に溢れた1曲。直線的に走るだけでなく、テンポを抑える部分もあり、次々に伸縮するようなリズムに耳がつかまれます。

 4曲目「Top Twenty Notes」は、メタリックな響きのギターと、タイトに細かくリズムを叩きつけるドラムが、絡み合うようにアンサンブルを構成します。

 5曲目「Brown Medal 2003」は、テンポも手数もやや抑え目に、工場の作業音を思わせるジャンクなサウンドを持った1曲。再生時間1:06あたりから、堰を切ったかのように音が押し寄せ、ロックが持つエキサイトメントも持ち合わせています。

 7曲目「The Devil Isn’t Red」は、比較的に隙間の多いアンサンブルですが、ギターとドラムが複雑なリズムを次々と応酬し合い、多彩な展開を見せる1曲です。音のメリハリがはっきりしており、ラフな部分とタイトな部分のバランスも絶妙。

 8曲目「You DJ Parents」は、エフェクト処理により、ジャンクでノイジーなサウンド・プロダクションを持った1曲。ノイズ要素が強めですが、メロディーとサウンドには、コミカルでおどけたように感じるらるところがあります。

 11曲目「Welcome To The Jungle Baby, Your Gonna Live!」は、ストイックでロックのダイナミズムが溢れるアンサンブルが展開される1曲。この曲は、演奏が非常にタイトで、2人の正確無比なプレイが堪能できます。

 メロディーや展開がどうこうというよりも、演奏が持つ機能性や断片的なかっこよさが前景化されたアルバムですが、ポップさが犠牲になっているという印象は薄く、実験性とポップ性のバランスが抜群に良いです。

 また、1曲目のイントロの電話音にも象徴的ですが、随所の遊び心が見え、ストイックさや複雑さを中和し、アルバム全体を親しみやすくしていると思います。

 ノイジーな音色と、圧倒的な演奏スキルを含み、ハードルの高い音楽であってもおかしくありませんが、随所に差し込まれるファニーな音色と、ワルノリ的な高速フレーズにより、どこかかわいく、親しみやすくなっているところが、個人的に大好き!

 





Hella “Hold Your Horse Is” / ヘラ『ホールド・ユア・ホース・イズ』


Hella “Hold Your Horse Is”

ヘラ 『ホールド・ユア・ホース・イズ』
発売: 2002年3月19日
レーベル: 5 Rue Christine (5ルウ・クリスティーン)
プロデュース: Aaron Prellwitz (アーロン・プレルウィッツ)

 カリフォルニア州サクラメント出身、ギターのスペンサー・セイム(Spencer Seim)と、ドラムのザック・ヒル(Zach Hill)からなるマスロック・バンド、ヘラの1stアルバムです。キル・ロック・スターズのサブレーベルである、5 Rue Christineからのリリース。

 高校時代に、レッグス・オン・アース(Legs On Earth)というバンドで、活動を共にしていたスペンサーとザック。レッグス・オン・アースの解散後に、より非主流的な音楽を追求するために2人が結成したのが、このヘラです。

 ギターとドラムのみの2人編成ということで、アンサンブルには隙間も多いのですが、2人も手数の多いテクニカルな演奏を繰り広げるため、スカスカには感じません。むしろ、楽器が少ないために、2人のバカテク具合がより引き立っています。

 緩急をつけながら多様なフレーズを繰り出すギターと、四方八方から飛び交うような手数の多いドラム、そんな2人が織りなす複雑怪奇なアンサンブルが、このアルバムの魅力と言えるでしょう。言い換えれば、メロディーとコード進行がどうこう、ハーモニーがどうこうというアルバムではないので、とにかく2人の変態的なテクニックに身を委ねるのが、正しい楽しみ方だと思います。

 ここのリズム構造はどうなっているんだろう、ここはどうやって合わせているんだろう、とプレイヤー視点で楽しむのも良いかもしれません。頭が混乱してきそうですが(笑)

 1曲目の「The D.Elkan」は、ファミコン的なチープでかわいらしい電子音で奏でられる、イントロダクション的なトラック。ギターのスペンサー・セイムは、アドバンテージ(The Advantage)というファミコンの音楽をカバーするバンドでも活動していますから、彼の志向が反映されているのでしょう。

 2曲目「Biblical Violence」は、ギターとドラムが共に手数多く、小刻みに複雑なフレーズを繰り出していきます。前のめりのような、ぎこちないようなリズムに乗って疾走していく、2ピースだからこそのスリルが溢れる演奏。

 3曲目「Been A Long Time Cousin」は、叩きつけるようなパワフルなドラムと、唸りをあげるギターが絡み合う1曲。

 4曲目「Republic Of Rough And Ready」は、加速と減速を繰り返しながら、ギターとドラムがもつれるように躍動していきます。

 6曲目「Brown Metal」は、タイトルのとおりと言うべきなのか、ギターもドラムも金属的な響きが特徴的。立体的でスリリングなアンサンブルが展開されます。他の曲に比べるとリズムが直線的で、その分、ロックのダイナミズムと、凄まじいスピード感に溢れています。

 7曲目「Cafeteria Bananas」は、イントロから正確かつ複雑怪奇なリズムで、目まぐるしくアンサンブルが展開される、マスロックらしい1曲。

 8曲目「City Folk Sitting, Sitting」は、7分を超える1曲で、随所にリズムの切り替えがあり、音楽が姿を変えながら、展開していきます。ロック的なグルーヴ感と、マスロックのストイックな精密性を併せ持った1曲。

 9曲目「Better Get A Broom!」は、手数の多いギターとドラムが、お互いに噛み合うように、一体感と疾走感のあるグルーヴを作りあげていきます。アルバム中で、最も有機的なアンサンブルだと思います。

 テクニック的に非常に優れた2人のメンバーが、次々と複雑なアンサンブルを聴かせるアルバムですが、1曲目のファミコン的なサウンドに象徴されるように、どこかコミカルな要素を持っていて、難解さよりも、ワルノリ的な面白さの方が、色濃く出ています。

 もっと敷居の高いアヴァンギャルドな空気が充満していても良さそうなのに、疾走感に溢れ、リズムの複雑さもフックとなっています。気心の知れた人間同士の、2ピースというミニマルな編成であることも、このアルバムのどこかコミカルで、親しみやすい空気に繋がっているんじゃないかと思います。

 ドラムもギターも手数が多いので、2ピースぐらいの方が、アンサンブルに適度に隙間ができて、聴きやすいのかなとも思います。いずれにしても、変態的なテクニックを堪能でき、ロックのダイナミズムも多分に含んだ、理想的なマスロックのアルバムです。

 





The Advantage “Elf-Titled” / アドバンテージ 『エルフ・タイトルド』


The Advantage “Elf-Titled”

アドバンテージ 『エルフ・タイトルド』
発売: 2006年1月24日
レーベル: 5 Rue Christine (5ルウ・クリスティーン)
プロデュース: Antreo Pukay JR (アントレオ・ピューケイ・JR), John Golden (ジョン・ゴールデン)

 ゲーム音楽をカバーし、ニンテンドーコア(Nintendocore)と呼ばれるジャンルの代表的バンドのひとつ、アドバンテージの2ndアルバム。

 主にファミコンのゲーム音楽をカバーしているバンドですが、マスロック・バンド、ヘラのスペンサー・セイム(Spencer Seim)もメンバーに名を連ね、非常にテクニカルな演奏を展開します。今となってはローファイと言っていいファミコンのオリジナル音源と、アドバンテージによるマスロック的な複雑で緻密なアレンジの対比は、アンバランスとも思えますが、元の楽曲の魅力を引き出していると思います。

 1stアルバム『The Advantage』と比較して、今作『Elf-Titled』は、アンサンブルには隙間が少なくソリッドに、グルーヴ感も増加。前作はオリジナルのファミコン音源のシンプルさも残しつつ、緻密なアンサンブルを構成していましたが、今作ではよりテクニカルで複雑な演奏が展開されます。音楽的には、マスロック色が濃くなっているとも言えます。

 1曲目は「Batman – Stage 1」。曲名は、ゲーム・ソフトのタイトルの後に、楽曲のタイトルが続くかたちで表記されています。「Batman – Stage 1」は、その名のとおりバットマンのビデオ・ゲームのステージ1の音楽をカバーしたもの。せわしなく小刻みなリズムで、各楽器がカッチリと噛み合う1曲で、アンサンブルは緻密で、疾走感があります。

 2曲目の「Contra – Alien’s Lair / Boss Music」(魂斗羅)は、めまぐるしくリズムが切り替わる、マスロックの要素が特に強い1曲。

 3曲目「Double Dragon 3 – Egypt」(ダブルドラゴン3)は、2曲目に続き、複雑なアンサンブルが構成される1曲。シンセサイザーのファニーな音色が耳に残りますが、それ以外の楽器も正確にテクニカルな演奏を繰り広げています。

 7曲目「Bomberman 2 – Wiggy」(ボンバーマンII)は、リズムもサウンドも立体的。ポリリズミックな構造というわけではなく、複数のリズムが絡み合い、折り重なるように多層的なアンサンブルが構成されます。

 8曲目「Castlevania – Intro + Stage 1」(悪魔城ドラキュラ)は、1分30秒ほどの曲ですが、ドラマチックなイントロから、めまぐるしく展開があり、短いながらもプログレのような1曲。

 9曲目「Solar Jetman – Braveheart Level」。このソフトは、アメリカのTradewestという会社が制作したもので、日本では未発売だったようです。楽曲は複数のギターが重なり、ほぼ隙間なく、音の壁とも言うべき、分厚いアンサンブルを構成しています。

 10曲目「The Goonies 2 – Wiseman」(グーニーズ2 フラッテリー最後の挑戦)。2本のギターが絡み合いながら、細かくフレーズを刻む、マスロックらしい耳ざわりの1曲。

 11曲目「Double Dragon 2 – Mission 5: Forest Of Death」(双截龍II)。各楽器が折り重なるように、複雑で立体的なアンサンブルが構成される1曲。

 13曲目「Mega Man 2 – Stage Select / Metal Man」(ロックマン2)。ステージを選ぶ際のBGMと、メタル・マンのテーマがメドレーのように繋がれており、疾走感と緊張感の溢れる演奏が繰り広げられます。タイトなドラム、絡み合う2本の正確無比なギター、メロディアスなベースと、全ての楽器に聞きどころがあります。

 アルバム最後の16曲目は「Wizards & Warriors – Tree Trunk / Woods / Victory」(伝説の騎士エルロンド)。ラストにふさわしく、3曲が組曲のように繋がれ、奥行きのある曲です。4分弱と、一般的なポップ・ソングとすれば普通の長さですが、展開が多く、情報の多さを感じます。アンサンブルも機能的かつタイトで、このバンドの魅力が凝縮されたような演奏。

 前述したとおり、1stアルバムから比較すると、アレンジは格段に複雑で、マスロックやプログレを彷彿とさせるアルバムに仕上がっています。もっと、色々な楽曲を聴いてみたいところですが、残念ながらアドバンテージがリリースしたアルバムは、この2枚のみ。それ以外には、配信限定の『B-Sides Anthology』と、自主制作のEPやライブ音源をいくつかリリースしています。

 前作に引き続き、僕はほとんど原曲を知りませんでしたが、それでもマスロックやポストロックの作品として、十分に楽しめるクオリティを備えた作品であると思います。

 





The Advantage “The Advantage” / アドバンテージ『アドバンテージ』


The Advantage “The Advantage”

アドバンテージ 『アドバンテージ』
発売: 2004年4月6日
レーベル: 5 Rue Christine (5ルウ・クリスティーン)
プロデュース: Eric Broyhill (エリック・ブロイヒル)

 1998年に、カリフォルニア州ネバダシティで結成されたバンド、アドバンテージの1stアルバムです。

 マスロック・バンド、ヘラ(Hella)のギタリスト、スペンサー・セイム(Spencer Seim)がドラマーとして参加していることもあり、ヘラ関連のバンドとして紹介されることもありますが、それよりも任天堂ファミコンのゲーム音楽を、ロックの形式でカバーするバンドとして有名。

 アドバンテージのような音楽は、ニンテンドーコア(Nintendocore)、ニンテンドー・ロック(Nintendo rock)とも呼ばれ、一部に熱狂的なファンがいるようです。日本で言えば「歌ってみた」的なノリなのでしょうか(笑) ちなみにアドバンテージは、日本ツアーを行ったこともあります。

 今作も、スーパーマリオやボンバーマンなど、ファミコンの名作の音楽を、26曲収録した作品。前述したとおり、ヘラのスペンサー・セイムが参加しているのも示唆的で、非常にテクニックがあり、緻密なアンサンブルを構築するバンドです。8bitのファミコン音楽が、マスロック的なテクニックによって、現代に鮮やかに蘇る1枚です。(「現代」と言っても、このアルバムが発売されたのは2004年で、すでにけっこう時間が経っていますが…)

 アルバム1曲目を飾るのは「Megaman 2 – Flashman」。メガマンっていきなり知らないソフトだと思いましたが、日本語のタイトルは「ロックマンワールド2」です。このアルバムの曲目表記は、ゲームのタイトル、曲のタイトル、という並びで表記されています。「ロックマンワールド2」の「フラッシュマン」のテーマ曲ということです。

 タイトなリズム隊に、ギター2本が緻密に絡み合うアレンジ。正直、僕はほとんどゲームをやらないので、原曲にはなじみが無いのですが、コンパクトにまとまったマスロックといった趣の1曲です。ちなみの「ロックマンワールド2」は、ファミコンではなくゲームボーイで発売されたソフトのようですね。

 2曲目は「Double Dragon II – Mission 2 At the Heliport」。こちらは日本語だと「双截龍II」。メロディアスなベースラインに、2本のギターが乗り、1曲目に近いコンパクトなアレンジです。

 4曲目は「Bubble Bobble – Theme」(バブルボブル)。こちらのゲームのメインテーマのようです。2本のギターとベース、ドラムにより、立体的なアンサンブルが展開される1曲。

 7曲目「Bomberman II – Areas 1,3 & 5」(ボンバーマンII)。リズムの加速と減速があり、メリハリのついたタイトなアンサンブル。ドラムのリズムも複雑で、ファミコン音楽のポップでかわいい耳ざわりでありながら、マスロックの顔が見え隠れする1曲です。

 18曲目は「Super Mario Bros. 3 – Underworld」(スーパーマリオブラザーズ3)。この曲は、さすがに僕でも知っていました。「Underworld」というタイトルですが、土管に入って地下で流れるあの曲です。ドラムが余裕を持ってリズムをキープし、その上にギターとベースが、正確にメロディーを刻んでいきます。ギターとベースの多層的なアレンジは、原曲を知らなくともかっこいいと思います。

 19曲目「Blaster Master – Stage 2」(超惑星戦記メタファイト)。「Stage 2」とのことですが、ボス戦のような疾走感と緊張感のある曲です。

 全部で26曲収録のアルバムですが、多くの曲が2分以内の長さのため、全体の収録時間は42分弱です。僕はあまりゲームをやらない、なおかつファミコン世代でもないので、知らない曲が多かったのですが、それでもネタ的な意味でなく、純粋にかっこいい楽曲群です。もちろん、話のネタとして聴いても、損は無いアルバムだと思います。

 オリジナルのファミコン音源は、同時発音数も限られ、音楽を鳴らす条件としては非常に厳しいものであったと思いますが、こうして別の形式でアレンジされたものを聴いてみると、メロディーが持つ強度の高さを感じます。きっと当時の作曲家(ソフトによってはプロの作曲家ではなかったかもしれません)の方たちは、限られた条件下で、ゲームを演出するため、努力と知恵を絞って作曲されていたのだろうと想像します。

 元のゲームに思い入れがあろうとなかろうと、面白い作品であることは確かです。ヘラのスペンサー・セイムが参加している別プロジェクトとして聴いても、十分に楽しめますよ!