Paik “The Orson Fader”
パイク 『ジ・オーソン・フェーダー』
発売: 2002年6月15日
レーベル: Clairecords (クレアコーズ)
オハイオ州トレド出身のバンド、パイクの3rdアルバムです。シューゲイザーを得意とするレーベル、Clairecordsからのリリース。
シューゲイザーを思わせる、倍音豊かな厚みのあるギターも聞こえますが、ドローン・メタルを彷彿とさせる音像や、ポストロック的なアンサンブルも共存するアルバムです。全編インスト、かつスローテンポの曲が多く、音響を前景化した作品であるとも思います。
1曲目の「Detroit」は、ざらついた質感のギターが空間を満たし、リズム隊がゆったりとリズムをつける、スローテンポでアンビエントな雰囲気の1曲。音符の数は多くないですが、ギターのサウンドには厚みがあり、時間と空間が音で充満しているかのような、サウンド・プロダクション。
2曲目「Tall Winds」は、1曲目と比較すると、各楽器のサウンドの輪郭がはっきりしており、アンサンブルを認識しやすい1曲。ゆったりと各楽器が絡み合う、ポストロック的なアンサンブルが展開されます。
4曲目の「Black Car」は、深くエフェクトのかかったギターが隙間を埋め尽くす、ドローン・メタルを彷彿とさせる1曲。ですが、ドラムが激しく叩きつけるリズムがアクセントになり、一般的なドローン・メタルよりは、遥かに聴きやすいと思います。シューゲイザー的なサウンドで、ドローン・メタルに近い音楽を実行した、というイメージです。
6曲目の「Ghost Ship」は、タイトルのとおりというべきなのか、不穏かつ幻想的な空気が漂う1曲。イントロから、しばらくはアンビエントな音像ですが、再生時間1:41あたりから、ドラムがはっきりとビートを刻み始めると、緩やかなポストロックのようなアンサンブルが形成されます。
シューゲイザー系のレーベルからの発売という先入観を抜きにしても、ギターサウンドにはシューゲイザーを感じるアルバムです。シューゲイザー的なサウンドを用いて、ドローン・メタルや音響系ポストロックを演奏した1作、と言ってもいいでしょう。
ただ、シューゲイザーというと、轟音ギターや空間系エフェクター特盛のギター・サウンドに、耽美なボーカルが乗る、という構造のバンドが多いなか、このバンドは全編インスト。アンビエントやドローンの要素も強く、やや敷居の高いバンドであるとも思います。