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Sleeping People “Growing” / スリーピング・ピープル『グローイング』


Sleeping People “Growing”

スリーピング・ピープル 『グローイング』
発売: 2007年10月9日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身のマスロック・バンド、スリーピング・ピープルの2ndアルバム。

 前作『Sleeping People』リリース後、ギターのジョイリー・コンセプション(Joileah Concepcion)がバンドを脱退。代わりに、彼女の友人でもあり、後にダーティー・プロジェクターズに参加することになるアンバー・コフマン(Amber Coffman)が加入。

 しかし、2007年初頭にジョイリー(本作では結婚して性が変わったのか、Joileah Maddockと表記)が復帰。入れ替わるように、コフマンはダーティー・プロジェクターズに参加するため、スリーピング・ピープルを脱退。ニューヨークへ引っ越しています。結果として、本作では一部の曲のレコーディングにはコフマンも参加。

 前作は、わかりやすいスピード感や複雑さよりも、丁寧に組み上げられたバンドのアンサンブルが前面に出たアルバムでした。2作目となる本作でも、前作のアプローチを踏襲し、さらに音楽性とアンサンブルが深化した作品と言えます。

 マスロックは、直訳すれば「数学ロック」ということになりますが、本作でも全て計算し尽くされたかのような、複雑かつ正確なアンサンブルが展開されていきます。

 1曲目「Centipede’s Dream」では、冒頭から2本のギターが絡み合うようにフレーズを紡ぎだし、リズム隊も加わってアンサンブルを構成。フレーズの音の動きと、ツイン・ギターの重なり方には意外性があり、摩訶不思議な空気を作り出していきます。

 2曲目「James Spader」には、アンバー・コフマンが参加。歪んだギター・サウンドを中心に据えて、複数のギターとリズム隊が噛み合いながら、躍動感のあるアンサンブルを展開していきます。

 3曲目「Yellow Guy / Pink Eye」では、シンプルなギターのフレーズに、小刻みに鋭くリズムを刻むドラムが重なり、スピード感の溢れる演奏が展開。

 4曲目「Mouth Breeder」は、イントロから2本のギターがチクタクと機械仕掛けのようなフレーズを紡ぎ、ベースとドラムもタイトにリズムを刻み、各楽器が緻密に組み合い、アンサンブルを構成。テンポは抑えめで、各フレーズも特別に難しくはなく、むしろシンプルな部類に入りますが、徐々に複雑さとスピード感を増していきます。

 5曲目「 …Out Dream」も、4曲目の引き続き、ギターが音階練習のようなシンプルなフレーズを弾き、徐々に複雑さを増していく1曲。各楽器が正確にリズムを刻み、編み上げていくアンサンブルは、まさに数学的。

 6曲目「Three Things」は、音質とアンサンブルの両面で、前2曲に比べるとアグレッシヴで、ロックのダイナミズムが際立った1曲。ねじれるようなギターのフレーズに、各楽器が絡みつくように、演奏が展開されます。

 8曲目「Underland」は、ドラムがフィーチャーされていて、ここまでのアルバムの流れの中では、毛色の違う1曲。

 10曲目「People Staying Awake」は、各楽器とも硬質な音作りで、ロック的なグルーヴ感と躍動感を持った1曲。ミドルテンポの曲で、ゆったりとしたテンポが、音質とアンサンブルの重みをますます際立てせています。後半から、はっきりとメロディーを歌うボーカルが入ってくるところも、インストが基本の本作においては、意外性を演出。

 マスロックらしい正確性と複雑性に、ロックが持つダイナミズムが表現された、クオリティの高い1作。複雑さや実験性を過度に強調することなく、多彩なアンサンブルが繰り広げられます。

 真面目に、誠実に作られたマスロックという印象で、個人的には安心して人にオススメできるアルバムです。

 





Sleeping People “Sleeping People” / スリーピング・ピープル『スリーピング・ピープル』


Sleeping People “Sleeping People”

スリーピング・ピープル 『スリーピング・ピープル』
発売: 2005年1月1日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)

 カリフォルニア州サンディエゴ出身のマスロック・バンド、スリーピング・ピープルの1stアルバム。

 ノレそうでノレない、ぎこちないとも言えるリズムに乗せて、複雑なアンサンブルが展開されるアルバム。正確にデザインされたアンサンブルと、それを寸分の狂いなく実行していくテクニックは、まさにマスロックと呼ぶべき音楽です。

 1曲目「Blue Fly Green Fly」は、各楽器が絡み合うようにアンサンブルを構成し、生き物がうごめくように躍動感する1曲。特別にテンポが速い、フレーズが複雑だというわけではなく、むしろ各フレーズとリズムは、マスロックにしては比較的シンプルですが、各楽器が折り重なるように組み上げられるアンサンブルの完成度は、非常に高いです。

 2曲目「Nasty Portion」は、不自然なほど前のめりになったようなリズムで、疾走していく1曲。急ぎすぎて足がもつれるかのように、各楽器が我先にとフレーズを繰り出していきます。

 3曲目「Fripp For Girls」は、回転するようなフレーズの動きが、実にマスロックらしい響きを持った1曲。この曲でも、各楽器が複雑に絡み合い、もつれるようにして演奏が進行します。

 4曲目「Technically You…」では、上から流れ落ちるようなフレーズが繰り返され、小刻みなリズムが緊張感を演出。フレーズに用いられる音符は細かいのですが、疾走感やスピード感よりも、複雑さの方が前景化した1曲。

 5曲目「Nachos」は、イントロから音が乱れ飛ぶ、アヴァンギャルドな空気を持った1曲。適当に無茶苦茶にプレイしているようでいて、合わせるところは非常にタイトで、このバンドの演奏力の高さを改めて感じます。

 6曲目「Johnny Depp」は、2本のギターによる、細かく緻密なフレーズから始まり、その後もツイン・ギターのアンサンブルが中心に置かれた1曲。リズム隊も含め、正確無比でスリリングな演奏が展開されていきます。

 テクニックを前面に押し出すわけではなく、リズムもアンサンブルも、一聴するとそこまで複雑には聞こえません。しかし、正確にタイトなアンサンブルをこなしていく演奏からは、各メンバーの高度なテクニックが窺えます。

 予定調和の静と動に頼らず、やり過ぎないバランス感覚が、このバンドの魅力。黙々とフレーズを紡ぎ、バンド全体で有機的なアンサンブルを組み立てていく態度からは、彼らのストイシズムが漂います。

 





Rumah Sakit “Obscured By Clowns” / ルマ・サキッ『オブスキュアード・バイ・クラウンズ』


Rumah Sakit “Obscured By Clowns”

ルマ・サキッ 『オブスキュアード・バイ・クラウンズ』
発売: 2002年6月4日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のインスト・マスロック・バンド、ルマ・サキッの2ndアルバム。

 「マスロック」と一口に言っても、その音楽性はバンドによって様々。インドネシア語で病院を意味する、ルマ・サキッという奇妙なバンド名を持ったこのバンドの特徴は、各楽器が奏でる幾何学的に制御されたかのようなフレーズが、機械のように組み合わさり、一体感のあるアンサンブルを構成するところ。

 前作『Rumah Sakit』と比較すると、2作目となる本作では、さらに理路整然とした、複雑かつ正確なアンサンブルが展開。前作で聞かれた荒々しい攻撃性はやや控えめになり、全てが計算で作り込まれたかのような演奏が繰り広げられます。

 1曲目「Hello Beginning, This Is My Friend… The End」は、アルバム1曲目ということもあり、バンドがさりげなく音合わせを始めるかのような、自由でラフな雰囲気の1曲。

 2曲目「New Underwear Dance」は、各楽器が折り重なるように絡み合い、織物のように有機的で一体感のあるアンサンブルを構成していく1曲。随所でリズムの切り替えや、テンポの加速と減速があり、楽曲が姿を変えながら、スリリングに進行していきます。

 3曲目「No-One Likes A Grumpy Cripple」は、タイトでシンプルなドラムに、ベースが絡みつくようにフレーズを重ね、さらにギターが重なり、全ての楽器が複雑に絡み合うようなアンサンブルが展開。

 5曲目「Obscured By Clowns」は、イントロのギターのシンプルなフレーズに導かれ、徐々に楽器が加わり、立体的で緩やかな躍動感のある演奏が展開される1曲。10分を超える大曲ですが、次々と展開があり、壮大な絵巻物のよう。

 6曲目「Are We Not Serious? We Are Rumah Sakit!」は、曲名は長いですが、30秒ほどのインタールード的な役割の1曲。曲というより、メンバーの声とミニマルなベースのフレーズのみで、スタジオでの一場面(悪ふざけ?)を切り取ったようなトラックです。

 9曲目「Hello Friend, This Is My End… The Beginning」は、電子音らしきサウンドが鳴り響くイントロから始まり、バンドの音が次々と重なり、アンサンブルを作り上げていく1曲。サウンド・プロダクションの面でも、演奏の面でも、ジャンクな空気が充満しています。しかし、ハードルが高いというわけではなく、むしろチープとも言える音質が、キュートで親しみやすい雰囲気をプラス。

 時にはハードな音色も用いて、攻撃性も持ち合わせていた前作から比べると、本作では各楽器ともシンプルな音色が多用され、よりアンサンブルに重きを置いたアルバムになっています。

 テンポも抑えめの曲が多く、圧倒的なスピード感や、複雑怪奇なテクニカルなフレーズよりも、全ての楽器が組み合う、アンサンブルの正確性と表現力を追求した1作。

 





Rumah Sakit “Rumah Sakit” / ルマ・サキッ『ルマ・サキッ』


Rumah Sakit “Rumah Sakit”

ルマ・サキッ 『ルマ・サキッ』
発売: 2000年12月26日
レーベル: Temporary Residence (テンポラリー・レジデンス)
プロデュース: Jeremy deVine (ジェレミー・ディヴァイン), Scott Campbell (スコット・キャンベル)

 カリフォルニア州サンフランシスコ出身のインスト・マスロック・バンド、ルマ・サキッの1stアルバム。バンド名はインドネシア語で、病院を意味するとのこと。(「Rumah Sakit」は「sick house」に相当するらしい。)

 マスロック、ポストロックに強いレーベル、テンポラリー・レジデンスからのリリース。プロデュースは、同レーベルの設立者であるジェレミー・ディヴァインが手がけています。

 テクニカルなフレーズと、多彩なリズムによって織り上げられる、マスロックかくあるべし!というアルバム。というより、2000年にリリースされた本作が、その後のマスロックに影響を与えた、と言った方が正しいんでしょうね。

 静と動を往復する音量面でのコントラスト、テンポとリズム・フィギュアを緩急自在に操るリズム面でのコントラスト。その両面が、バランスよくアンサンブルに溶け込んでいます。

 1曲目「I Can’t See Anything When I Close My Eyes」は、アルバムの幕開けにふさわしく、理路整然とした部分と、荒々しくドライブしていく部分が共存し、多様な音が降りそそぐ1曲。タイトにキメるところと、ラフに音が押し寄せるところを使い分け、メリハリの効いたアンサンブルが展開。

 2曲目「Scott & Jeremiah」は、ゆったりとしたリズムの中で、音数を絞ったミニマルなアンサンブルの前半から、徐々に音が増えていき、後半は怒涛の展開を見せる1曲。

 3曲目「Careful With That Fax Machine」は、ギターの複雑なフレーズが絡み合い、不協和な響きを持った不思議なサウンドができあがる1曲。クリーントーンを用いたソフトなサウンドの前半から、後半は歪みを多用したパワフルでハードなサウンド・プロダクションへ。

 4曲目「Wind & Wing」は、細かい音が有機的に組み合い、ひとつの生き物のような躍動感のあるアンサンブルを展開していく1曲。ゆるやかなパートと、激しく躍動するパートを往復する、コントラストが鮮やかな曲です。

 6曲目「Stomachache Due To The Sincere Belief That The Rest Of My Band Is Trying To Kill Me」は、複雑なリズムを刻んでいくドラムに、テクニカルで変幻自在なギターが絡みつき、爆発力を伴って疾走していく1曲。歌の無いインスト・バンドではありますが、エモーショナルで音の情報量に圧倒されます。

 各楽器ともテクニックに裏打ちされたフレーズを繰り出し、アンサンブルも正確かつ変幻自在。アルバムを通して次々と音楽が表情を変え、展開していく、スリリングな1作です。