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Owen “At Home With Owen” / オーウェン『アット・ホーム・ウィズ・オーウェン』


Owen “At Home With Owen”

オーウェン 『アット・ホーム・ウィズ・オーウェン』
発売: 2006年11月7日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 エモの伝説的バンド、キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)からキャリアをスタートした、マイク・キンセラ(Mike Kinsella)によるソロ・プロジェクト、オーウェンの4thアルバム。

 アコースティック・ギターを中心に据えた、ナチュラルなサウンド・プロダクションからスタートしたオーウェン。そこからアルバムごとに、アンサンブルとサウンドの幅を広げてきました。4作目となる本作では、前作から比較しても、ますます壮大さを増したアンサンブルが展開されています。

 アコースティック・ギターの多用と、随所に差し込まれるテクニカルなフレーズは、1stアルバムの頃から共通。本作では込み入ったフレーズが増加し、サウンド・プロダクションの面でも多彩さを増しています。

 しかし、ハードルの高い難しい音楽になっているというわけではなく、聞こえてくるのは、穏やかで耳ざわりの良いジャンルレスな音楽です。

 1曲目「Bad News」は、ヴェールのように全体を包みこむ持続音と、みずみずしいアコースティック・ギターの音色が溶け合うイントロから始まり、その後は多様な展開を見せる1曲。再生時間0:52あたりからの、音が雨粒のように降り注ぐアレンジ。1:37あたりからの穏やかな波のように音が流れるアレンジなど、ヴァースとコーラスの循環とは別の次元で、目まぐるしい展開があり、飽きさせません。

 3曲目「Bags Of Bones」は、タイトに細かくリズムを刻むドラムと、複数のギターが、複雑に絡み合う1曲。

 4曲目「Use Your Words」は、ゆったりとしたテンポに乗って、バンド全体がゆるやかに躍動しながら進行していく1曲。ドラムのリズムに覆い被さるようにギターが重なり、ピアノはアクセントとしてポンと音を置いていき、バンド全体がひとつの生命体のように感じられます。

 5曲目「A Bird In Hand」は、アコースティック・ギターと、多層的なコーラスワークにからなる幻想的なイントロから始まり、厚みのある音の壁が作り上げられる1曲。穏やかなサウンド・プロダクションの曲ですが、隙間が無いぐらいに濃密な音が形成されます。再生時間4:35あたりから、押しつぶされたように歪んだ音色のギターによるソロも、不思議と耳にうるさくなく、楽曲のアクセントに。

 7曲目「Femme Fatale」は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)のカバー。ちなみに「宿命の女」という邦題もついています。本作のカバーでは、アコギのオーガニックな音色と、倍音たっぷりの電子音の音色が、反発し合うことなく溶け合っています。

 8曲目「One Of These Days」は、ピアノとギター、柔らかな電子音に、ボーカルのメロディーが溶け合う、穏やかで美しい1曲。

 生楽器と電子音をブレンドする手際が見事で、生楽器を使ったからルーツ・ミュージック的、テクノロジーを駆使したからポストロック的、という単純な議論を超えた、新しいポップ・ミュージックが聞こえるアルバムです。

 多くの曲ではアコースティック・ギターが主要な役割を担っているのですが、フォークやカントリー色は薄く、「ジャンルレスで無国籍なグッド・ミュージック」とでも呼びたくなる音楽が鳴り響きます。

 





Owen “I Do Perceive” / オーウェン『アイ・ドゥ・パーシーヴ』


Owen “I Do Perceive”

オーウェン 『アイ・ドゥ・パーシーヴ』
発売: 2004年11月9日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)やアメリカン・フットボール(American Football)での活動でも知られる、シカゴのポストロック・シーンの中心人物の一人、マイク・キンセラによるソロ・プロジェクト、オーウェンの3rdアルバム。

 アコースティック・ギターを多用した、ナチュラルなサウンド・プロダクションの前2作と比較して、エレキ・ギターや電子音の使用頻度が格段に上がった、ということはありませんが、随所に効果的に電子楽器が用いられ、ポストロック色の濃いサウンドになっています。

 また、アンサンブルの面でも、3作目ということもあってか、ソロ・プロジェクトでありながら、バンド感の強い演奏が展開。立体的で多彩なアンサンブルが堪能できる作品でもあります。

 1曲目「Who Found Who’s Hair In Who’s Bed?」は、鼓動のようなリズムと、透明感のあるみずみずしい音色のアコースティック・ギター、穏やかなボーカルが溶け合う1曲。

 2曲目「Note To Self」は、ギターとドラムの紡ぎ出す細かい音符が絡み合うイントロから始まり、立体的で躍動感に溢れたアンサンブルが繰り広げられる1曲。歪んだ音色のエレキ・ギターがアクセントとなり、楽曲に尖ったサウンドを加えています。

 3曲目「Playing Possum For A Peek」は、流れるようなアコギのアルペジオに、静かに語りかけるようなボーカルが重なる1曲。

 4曲目「That Tattoo Isn’t Funny Anymore」は、イントロから、リズムが伸縮するように、いきいきと躍動するバンド・アンサンブルが展開される1曲。

 7曲目「Bed Abuse」は、立体的かつパワフルにリズムを叩くドラム、流れるように音を紡ぎ出すアコースティック・ギター、奥の方で鳴る持続音と、多様な要素が溶け合った、ポストロック色が濃いアンサンブルが繰り広げられます。再生時間1:53あたりからの唸りをあげるディストーション・ギターなど、次々と展開があり、情報量の多い1曲。

 8曲目「Lights Out」は、ゆったりとしたリズムに乗せて、たっぷりとタメを作りながら、音数を絞ったアンサンブルが展開。「静と動」というほどにはダイナミズムが大きくはありませんが、少ない音数で鮮やかにコントラストを作り出しています。

 前2作と比較して、アンサンブルがより複雑に、幅を広げた作品と言ってよいでしょう。特にアルバム終盤の7曲目と8曲目は、派手さは無いものの、巧みな音の組み合わせによって、未来のロックを感じさせるサウンドを獲得。あらためて、マイク・キンセラの音楽性の幅広さを感じる1作です。

 ちなみに通常は8曲収録ですが、and recordsからリリースされた日本盤には、アメリカのロックバンド、エクストリーム(Extreme)のカバー「More Than Words」など、ボーナス・トラックが3曲追加され、計11曲が収録されていました。

 





Owen “No Good For No One Now” / オーウェン『ノー・グッド・フォー・ノー・ワン・ナウ』


Owen “No Good For No One Now”

オーウェン 『ノー・グッド・フォー・ノー・ワン・ナウ』
発売: 2002年11月19日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)やアメリカン・フットボール(American Football)での活動でも知られる、マイク・キンセラ(Mike Kinsella)によるソロ・プロジェクト、オーウェンの2ndアルバム。

 オーウェン名義での1作目となった前作『Owen』に引き続き、アコースティック・ギターを中心にしたオーガニックなサウンド・プロダクションを持ったアルバム。前作から比較すると、アンサンブルがやや躍動的になり、バンド感が増しています。

 また、穏やかなボーカリゼーションも、基本的には前作と共通していますが、本作ではところどころエモーションを爆発させるように、力強く歌う部分があり、より豊かな歌心を感じる作品になっています。

 1曲目「Nobody’s Nothing」では、穏やかな波のようなギターのコード・ストロークが、一定のペースで満ち引きを繰り返します。それを追いかけるように、徐々に他の楽器が加わり、躍動感のあるアンサンブルが展開。

 2曲目「Everyone Feels Like You」は、無駄を削ぎ落としたシンプルなアコースティック・ギターと歌のイントロから始まり、エレキ・ギターの唸りをあげるようなソロを皮切りに、ゆったりとしたテンポの中で、たっぷりとタメを作った立体的なアンサンブルが展開される1曲。2本のアコースティック・ギターが、折り重なるようにお互いを噛み合うアレンジも、楽曲に奥行きを加えています。

 3曲目「Poor Souls」は、複数のギターがそれぞれ細かく音を紡ぎ出し、優しく降り注ぐ雨粒のように、その場を埋めていく1曲。まるでタペストリーのように、各楽器が有機的に融合してひとつの模様を作り上げていくアンサンブルは、音楽が「織り込まれる」と表現したくなります。

 4曲目「The Ghost Of What Should’ve Been」は、各楽器とも手数は少なく、フレーズもシンプルなのに、穏やかな躍動感のある曲。

 7曲目「Take Care Of Yourself」は、ヴェールのように全てを包みこむ柔らかな電子音と、アコースティック・ギターの暖かな響きが溶け合う、優しいサウンド・プロダクションの1曲。再生時間1:13あたりからの、目の前が一気に広がるようなアレンジなど、遅めのテンポと穏やかなサウンドを持ちながら、1曲の中でのダイナミズムが大きく、コントラストが鮮やか。

 前作に引き続き、電子音と生楽器のバランスが秀逸で、フォークやカントリーを前面に出さずに、アコースティック・ギターの魅力を引き出したアルバム。

 もはやエモの伝説となった感もあるキャップン・ジャズ。穏やかなサウンドを持ちながら、各楽器が時に複雑に絡み合い、ポストロック的アプローチへと踏み出したアメリカン・フットボール。それらのバンドを経て、オーウェン名義で活動を始めたマイク・キンセラ。

 オーウェンはソロ・プロジェクトということもあり、彼のメロディーやアレンジメントの素の部分が見えるプロジェクトだと思います。2作目となる本作でも、生楽器と電子音を巧みにブレンドし、歌心も引き立つ、絶妙なバランスを持った音楽が展開されています。

 





Owen “Owen” / オーウェン『オーウェン』


Owen “Owen”

オーウェン 『オーウェン』
発売: 2001年9月18日
レーベル: Polyvinyl (ポリヴァイナル)

 キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)、アメリカン・フットボール(American Football)での活動を経て、2001年から始動したマイク・キンセラ(Mike Kinsella)によるソロ・プロジェクト、オーウェンの1stアルバム。

 今やエモの伝説となったキャップン・ジャズ。穏やかなボーカルと、歌心のある各楽器のフレーズが、有機的なアンサンブルを織りなすアメリカン・フットボール。その後に続く、オーウェンの1stアルバムは、アコースティック・ギターと、柔らかな電子音を中心に、穏やかなサウンド・プロダクションを持った作品となっています。

 ゆるやかに各楽器が絡み合うアンサンブルは、アメリカン・フットボールの延長線上と言える部分もありますが、本作の方がより音数を絞り込み、音響が前景化。サウンドの面でもアンサンブルの面でも、より楽器の音やメロディー自体にスポットを当てたアルバムと言えるでしょう。

 1曲目「That Which Wasn’t Said」は、アコースティック・ギターと電子音が溶け合い、全てを包みこむヴェールのような音像を作り上げるインスト曲。

 2曲目「Most Days And」は、アコースティック・ギターのナチュラルな響きと、穏やかなボーカル、エフェクトのかかった弾むような電子音がリズムを刻んでいく1曲。電子音と生楽器が溶け合い、穏やかなサウンドを作り上げていきます。再生時間2:33あたりからドラムが入ってくると、立体的でソリッドなアンサンブルへと展開。

 3曲目「Most Nights」は、ゆっくりと流れる川のように、静かに波打つバンド・アンサンブルが展開される1曲。アコースティック・ギターを中心に据えながら、随所に用いられる電子音がアクセント。

 4曲目「Accidentally」は、アコースティック・ギターの紡ぎ出すフレーズと、鼓動のように低音で響くリズムが絡み合うインスト曲。徐々に楽器と音数が増え、多層的なサウンドへと展開。

 8曲目「Places To Go」は、ギターの軽快なコード・ストロークに主導される、ゆるやかな躍動感のあるギターポップ。

 9曲目「Think About It」は、アルバムのラストにして、個人的にはベスト・トラックだと思う1曲。轟音ギターで全てを押し流すシューゲイザーとは全く異なるサウンドながら、アコースティック・ギターとクリーン系の音作りのエレキ・ギターが幾重にも重ねられ、厚みのある音の壁を構築しています。

 前述したとおり、生楽器と電子音が共存した、穏やかなサウンド・プロダクションが本作の特徴。多くの曲でアコースティック・ギターが中心的な役割を担っていますが、フォークやカントリーといったルーツ・ミュージック色は薄く、現代的な耳ざわりに仕上がっています。

 その理由は、電子音を効果的に融合させていることに加えて、フレーズの面でも意外性のある音の動きが、ほのかにアヴァンギャルドな空気を漂わせているからでしょう。

 





Cap’n Jazz “Analphabetapolothology” / キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ)『アナルファベータポロソロジー』


Cap’n Jazz “Analphabetapolothology”

キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ) 『アナルファベータポロソロジー』
発売: 1998年1月8日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)

 ティムとマイクのキンセラ兄弟をはじめ、後にJoan Of ArcやThe Promise Ring、 Make Believe、American Footballといったバンドでも活動するメンバーたちが集った伝説的なバンド、キャップン・ジャズ。そんな彼らのほぼ全ての音源を網羅した2枚組のアンソロジー盤が、本作『Analphabetapolothology』です。

 発売されたのは1998年ですが、収録されている楽曲がレコーディングされたのは1993年から1995年の間。1993年というと、ティムは19歳、マイクは16歳(!)です。

 そんな情報を抜きにしても、みずみずしい感性と、若さがはじける疾走感に溢れたエモ全開の1枚。ですが、直線的なスピード感のみというわけではなく、随所にポストロック的な複雑なアプローチや技巧も垣間見えます。

 ただ、やはりこのバンドが全面に押し出しているのは、みずみずしい感性とエヴァーグリーンなメロディーであるのも事実。そして、なんといっても、ところどころ音程のあやしい部分もあるボーカルの声がエモい。

 a-haの「Take On Me」のカバー、『ビバリーヒルズ高校白書』(Beverly Hills, 90210)のテーマ曲「Theme To ‘90210’」も収録されています。

 前述したとおりアンソロジー盤であるので、通常のアルバムのように曲順通りにどうこうという作品ではないのですが、Disc1の1曲目「Little League」から、バンド全体で駆け抜けていくようなスピード感あふれる曲で始まります。

 完全に塊になって進むというより、それぞれがもつれ合いながら走るようなラフさのある1曲。再生時間1:45あたりから、一旦テンションを落として休憩するようなアレンジもコントラストを演出していて、勢いだけではないことを感じさせます。

 Disc1の2曲目「Oh Messy Life」では、絡み合うような、もつれるような2本のクリーントーン・ギターのイントロから、爆音のサビへと展開。6曲目の「Yes, I Am Talking To You」は、轟音と静寂が目まぐるしく循環する、ダイナミズムの大きさとコントラストが鮮烈な1曲。

 前述したとおり13曲目にはa-haのカバー「Take On Me」が収録。有名な曲なので、原曲との差異を認識しやすいと思いますが、80年代の空気満載のあの曲が、エモコアに昇華されています。再生時間1:45あたりから入ってくるピアノもアクセント。

 2枚組で34曲収録というボリュームですが、通しで聴いてみると、リズムには直線的なだけではないフックがあり、サウンド面でも、暴力的な歪みのギターと、はずむようなクリーントーンのギターを適材適所で使いわけるなど、音楽的なアイデアの豊富さと柔軟さを感じさせます。

 だけど、やっぱりこのバンドの一番の聴きどころは、若さが弾けるみずみずしい演奏と、ボーカリゼーションです。極上のエモ作品としても、その後のシカゴ・シーンの源流のひとつとしても、価値ある作品だと思います。

 ただ、このアルバム2018年3月現在の時点では、残念ながらデジタル配信はされていないようです。