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The Promise Ring “Nothing Feels Good” / ザ・プロミス・リング『ナッシング・フィールズ・グッド』


The Promise Ring “Nothing Feels Good”

ザ・プロミス・リング 『ナッシング・フィールズ・グッド』
発売: 1997年10月11日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のエモ・バンド、ザ・プロミス・リングの2ndアルバムです。

 疾走感とエモーションの溢れる、若さはじける1枚。なのですが、単にスピード重視で加速していくだけでなく、ギターのフレーズやアンサンブルに、効果的に曲を加速し、前進させていく技巧がいくつも見つかります。

 エモいボーカルと、疾走感あふれるリズムにのるだけでも十分に楽しめるアルバムですが、アンサンブルにも工夫が見られるところが本作の、そしてこのバンドの魅力です。

 1曲目は「Is This Thing On?」。感情が吹き出したかのような、疾走感のあるイントロ。ボーカルが入ってきてからのドラムの絶妙なタメ、再生時間0:26あたりからの両チャンネルに振り分けられた2本のギターなど、段階的にスピード感を増していくアレンジが、随所に仕掛けられています。

 4曲目の「Why Did Ever We Meet」は、バンド全体がぴったりと縦を揃えたイントロから、曲が進むにつれて、各楽器がはみ出したり、またピタリと合わせたり、コントラストが鮮やかな1曲。

 7曲目「A Broken Tenor」。立体的に響くドラム、高音が耳に刺さるギター、硬質なサウンドのベース。まず各楽器のサウンドがかっこよく、それら全てが有機的に絡み合うアンサンブルも秀逸な1曲。

 前述したように、感情そのままに突っ走る部分と、機能的なアンサンブルが両立したアルバムです。若さ溢れるエモーショナルなボーカルと疾走感、緻密さを感じるアレンジがバランスよく共存しています。

 まずは彼らのエモさに身を任せ、それからアレンジをじっくり堪能しましょう。

 





Joan Of Arc “How Memory Works” / ジョーン・オブ・アーク『ハウ・メモリー・ワークス』


Joan Of Arc “How Memory Works”

ジョーン・オブ・アーク 『ハウ・メモリー・ワークス』
発売: 1998年5月12日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)
プロデュース: Casey Rice (ケイシー・ライス), Elliot Dicks (エリオット・ディックス)

 シカゴのエモ、ポストロック・バンド、ジョーン・オブ・アークの2ndアルバム。

 オーガニックなアコースティック・ギターと電子音、実験性と歌ものポップ性のバランスが絶妙だった1stアルバム『A Portable Model Of…』。本作は、実験性とポップさのバランスをとりながら、さらに音楽性を広げた1作と言えます。

 1曲目の「Honestly Now」は、電子音のような、マレット系の打楽器のような音が響き、やがて増殖していく1分にも満たない曲。ただのエモ・バンドではないことを、早速認識させられます。

 2曲目「Gin & Platonic」は、つっかえながらも突っ走る、ポストロック的=ロック的でないアンサンブルが構成される1曲。緩やかに絡み合う2本のギターと、独特のタイム感で刻んでいくリズム隊が心地よい。

 4曲目「This Life Cumulative」は、鳥のさえずりのような音域の電子音が鳴り響くイントロから、躍動感あるパワフルなバンド・サウンドが、堰を切ったように入ってきます。エモやパンクを下敷きにしながら、電子音が楽曲に彩りをプラス。

 5曲目「A Pale Orange」は、前半はギターと歌が入っているものの、やがて高音の電子音とノイズが降り注ぐ展開。後半は完全にアンビエント・ミュージックか、エレクトロニカのような音像。

 8曲目「A Name」は、各楽器が前のめりに、お互いを追い抜きあうようなイントロが心地よい。歌もサウンド・プロダクションもポップで聴きやすい曲ですが、アンサンブルは緻密。

 1作目以上に、エモ的な歌唱と疾走感、ポストロック的なアンサンブルや電子音との融合が、高次に実現されている1枚です。エモい声とメロディーに、実験性を忍ばせた知的なアンサンブルが絡む、絶妙なバランスのアルバムだと思います。

 





Joan Of Arc “A Portable Model Of…” / ジョーン・オブ・アーク『ア・ポータブル・モデル・オブ』


Joan Of Arc “A Portable Model Of…”

ジョーン・オブ・アーク 『ア・ポータブル・モデル・オブ』
発売: 1997年6月10日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)

 シカゴのエモ・バンド、キャップン・ジャズ(Cap’n Jazz)解散後に、その元メンバーを中心に結成されたジョーン・オブ・アーク。本作『A Portable Model Of…』は、1997年にリリースされた、彼らの1stアルバムです。

 電子音とアコースティック・ギター、絞り出すようにエモーショナルで時に不安定な音程のボーカル。楽曲にはフリーな形式や、ポストロック的なアンサンブル重視の展開も見られ、エモい歌が中心でありながら、それだけにとどまらない奥行きを持ったアルバムです。

 1曲目の「I Love A Woman (Who Loves Me)」は、アコースティック・ギターと歌を中心に据えながら、時おり聞こえる電子音がアクセントになった1曲。

 2曲目「The Hands」でも、1曲目と同じく、イントロからファニーな電子音が耳に残ります。オモチャのような、かわいらしいそのサウンドが、感情的なボーカルと激しく歪んだギターとコントラストをなし、独特のポップ感を演出。

 3曲目は「Anne Aviary」。こちらも鳥の鳴き声のような、トレモロで揺れる電子音のような音が使われています。ゆったりと余裕を持ってアンサンブルを構成するバンドと、エモみの強いボーカルのテンションと、違和感なく溶け合うのが不思議。

 6曲目の「Post Coitus Rock」は、絡み合うような2本のギターを中心に、緩やかにグルーヴしながら前進していく1曲。

 7曲目「Count To A Thousand」は、8分を超える曲。明確なフォームを持たず、前半はアンビエントな雰囲気。中盤からギターが入ってくると、ポストロック的なサウンドスケープが展開されます。

 9曲目「In Pompeii」は、ざらついた音質の低音のビートが鳴り響く、1分40秒弱のアンビエントな1曲。

 アコースティック・ギターを主軸に、エモーショナルな歌ものアルバムでありながら、随所にエレクトロニカ的な音響、ポストロック的なアプローチが垣間見える1作です。

 実験的と思われるサウンドや、全く歌ものではないアンビエントな楽曲も含みながら、アルバム全体としては整合性が感じられる絶妙なバランス。

 個人的には、様々な方法論で初期衝動を切り取っているから、そのような絶妙なバランスが成り立っているのかな、と思います。

 





Cap’n Jazz “Analphabetapolothology” / キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ)『アナルファベータポロソロジー』


Cap’n Jazz “Analphabetapolothology”

キャップン・ジャズ(カプン・ジャズ) 『アナルファベータポロソロジー』
発売: 1998年1月8日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)

 ティムとマイクのキンセラ兄弟をはじめ、後にJoan Of ArcやThe Promise Ring、 Make Believe、American Footballといったバンドでも活動するメンバーたちが集った伝説的なバンド、キャップン・ジャズ。そんな彼らのほぼ全ての音源を網羅した2枚組のアンソロジー盤が、本作『Analphabetapolothology』です。

 発売されたのは1998年ですが、収録されている楽曲がレコーディングされたのは1993年から1995年の間。1993年というと、ティムは19歳、マイクは16歳(!)です。

 そんな情報を抜きにしても、みずみずしい感性と、若さがはじける疾走感に溢れたエモ全開の1枚。ですが、直線的なスピード感のみというわけではなく、随所にポストロック的な複雑なアプローチや技巧も垣間見えます。

 ただ、やはりこのバンドが全面に押し出しているのは、みずみずしい感性とエヴァーグリーンなメロディーであるのも事実。そして、なんといっても、ところどころ音程のあやしい部分もあるボーカルの声がエモい。

 a-haの「Take On Me」のカバー、『ビバリーヒルズ高校白書』(Beverly Hills, 90210)のテーマ曲「Theme To ‘90210’」も収録されています。

 前述したとおりアンソロジー盤であるので、通常のアルバムのように曲順通りにどうこうという作品ではないのですが、Disc1の1曲目「Little League」から、バンド全体で駆け抜けていくようなスピード感あふれる曲で始まります。

 完全に塊になって進むというより、それぞれがもつれ合いながら走るようなラフさのある1曲。再生時間1:45あたりから、一旦テンションを落として休憩するようなアレンジもコントラストを演出していて、勢いだけではないことを感じさせます。

 Disc1の2曲目「Oh Messy Life」では、絡み合うような、もつれるような2本のクリーントーン・ギターのイントロから、爆音のサビへと展開。6曲目の「Yes, I Am Talking To You」は、轟音と静寂が目まぐるしく循環する、ダイナミズムの大きさとコントラストが鮮烈な1曲。

 前述したとおり13曲目にはa-haのカバー「Take On Me」が収録。有名な曲なので、原曲との差異を認識しやすいと思いますが、80年代の空気満載のあの曲が、エモコアに昇華されています。再生時間1:45あたりから入ってくるピアノもアクセント。

 2枚組で34曲収録というボリュームですが、通しで聴いてみると、リズムには直線的なだけではないフックがあり、サウンド面でも、暴力的な歪みのギターと、はずむようなクリーントーンのギターを適材適所で使いわけるなど、音楽的なアイデアの豊富さと柔軟さを感じさせます。

 だけど、やっぱりこのバンドの一番の聴きどころは、若さが弾けるみずみずしい演奏と、ボーカリゼーションです。極上のエモ作品としても、その後のシカゴ・シーンの源流のひとつとしても、価値ある作品だと思います。

 ただ、このアルバム2018年3月現在の時点では、残念ながらデジタル配信はされていないようです。