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Bluetip “Polymer” / ブルーチップ『ポリマー』


Bluetip “Polymer”

ブルーチップ 『ポリマー』
発売: 2000年9月26日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 ワシントンD.C.出身のポスト・ハードコア・バンド、ブルーチップの3rdアルバム。ここまでの2作同様、ディスコードからのリリース。プロデューサーは、前作に引き続き、J・ロビンスが担当。

 元スウィズ(Swiz)のメンバーである、デイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたブルーチップですが、デイヴ・スターンが脱退。本作では、新ギタリストとしてブライアン・クランシー(Brian Clancy)を迎えています。

 ハードコア・パンクから出発して、アルバムを追うごとに徐々に音楽性を広げていく、というようなバンドの変化は、ハードコアに限っらず往往にしてあります。

 ハードコア・バンド、スウィズの元メンバーによって結成されたブルーチップは、当初からポスト・ハードコア的な志向を持つバンドでしたが、作品を重ねるごとに、そのポスト性が増してきている、と個人的には感じます。

 その理由は、1stアルバムの時点で、ハードコア的なソリッドで硬質なサウンドを持ちながら、スピード重視ではなくアンサンブル重視の音楽を展開していた彼らが、2枚目、そして3枚目となる本作と、さらに複雑なアンサンブルを構成しているからです。

 1曲目「Polymer」は、ギターと歌メロが中心に据えられながら、それに巻きつくようにリズムを刻むドラムともう1本のギターが加わり、有機的なアンサンブルが組む上げられていきます。

 2曲目「New Young Residents」は、ギターがラフに音をばら撒きながら、全体としては音が交差するように絡み合い、躍動感あふれる演奏が繰り広げられます。

 3曲目「New Shoe Premonition」は、イントロからギターとドラムが回転するようにリズムを刻み、タイトで立体的なアンサンブルを作り上げる1曲。

 6曲目「Magnetified」は、空間系エフェクターも使用されているのか、厚みある豊かな歪みのギターが、ほのかにサイケデリックな空気を振りまき、タイトで的確に刻んでいくリズム隊と溶け合います。

 9曲目「Anti-Bloom」では、各楽器とも異なるリズム、フレーズを持ち寄り、全体として躍動感と一体感あるアンサンブルを構成。ミドルテンポの1曲ですが、展開も多彩で、ダイナミズムの大きな1曲です。

 前作と比較して、特にギターの音作りをはじめ、音色の幅が広がっています。前述したとおり、アレンジの面でも、攻撃性やスピード感より、アヴァンギャルドなフレーズやアレンジが増え、ハードコアからはだいぶ離れたポスト・ハードコア・サウンドが展開されるアルバムと言えます。

 





Bluetip “Join Us” / ブルーチップ『ジョイン・アス』


Bluetip “Join Us”

ブルーチップ 『ジョイン・アス』
発売: 1998年10月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 元スウィズ(Swiz)のメンバーである、デイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたバンド、ブルーチップの2ndアルバム。

 プロデューサーは、前作のイアン・マッケイに代わって、J・ロビンスが担当。このJ・ロビンスという人は、本名ジェームス・ロビンス(James Robbins)。ジョーボックス(Jawbox)などで自らもバンド活動をする傍ら、プロデューサーおよびエンジニアとしても有名です。

 前作『Dischord No. 101』に引き続き、実にディスコードらしいポスト・ハードコアなアルバムと言えます。とはいえ、ジャンル名だけでは、実際にどのような音楽が鳴っているのか、何も語っていないのと同然ですから、このアルバムの志向する音楽、個人的に聴きどころだと思う魅力について、書いていきたいと思います。

 単純化が過ぎるのを恐れずに言うなら、ハードコア・パンクは、歌のメロディーやバンドのアンサンブルよりも、スピード感を重視した音楽だと、ひとまず定義できるでしょう。そのため、複雑なリフやアレンジよりも、高速でシンプルなリフやパワーコードが多用される傾向にあります。

 また、限界まで速度を上げたテンポ、過度に歪んだ硬質なギター・サウンドなど、サウンド面で(時には歌詞の面でも)攻撃性が際立っているのも、特徴と言えます。

 ブルーチップの2枚目のアルバムとなる本作では、歪んだギター・サウンドが用いられてはいますが、疾走感やハイテンポよりも、バンドの複雑なアンサンブルの方が重視され、歌のメロディーも起伏があり、コントラストが鮮やか。ハードコアの攻撃性と、グルーヴ感あふれる演奏、歌メロの魅力が、見事に溶け合った1作です。

 複雑なアンサンブルによって、テンポを上げるのみでは表現できない攻撃性や、感情を表しているようにも思え、まさにポスト・ハードコアと呼ぶにふさわしいクオリティを備えたアルバムであると言えます。

 1曲目の「Yellow Light」から、段階的にシフトを上げていく、多層的で弾むようなアンサンブルに乗せて、流れるようなメロディーが紡がれていきます。躍動感と疾走感、シングアロングしたくなるような親しみやすいメロディーが共存した1曲です。

 2曲目「Cheap Rip」は、ざらついた質感のギターを中心に、タイトなアンサンブルが展開される1曲。随所でリズムを切り替え、伸縮するように躍動しながら、進行していきます。

 3曲目「Join Us」は、金属的な響きのギターが、キレ味鋭くリフを弾き、立体的なアンサンブルが形成。各楽器がお互いにリズムを食い合うように重なり、生き物のように躍動感と一体感のある演奏が、繰り広げられます。

 5曲目「Carbon Copy」は、スローテンポで、音数も少なめ。無駄を削ぎ落とし、一音ごとの重みを増し、ゆっくりと地面に沈んでいくようなアンサンブルが展開。スロウコアが目指すようなアプローチの1曲。

 6曲目「Salinas」は、ハードに歪んだギターと、シャウト気味のボーカルが絡み合う、立体的でパワフルな1曲。

 8曲目「I Even Drive Like A Jerk」は、ギターは毛羽立ったように歪み、ボーカルも感情を叩きつけるように歌い、全体としてアングラな雰囲気を持っています。静と動のコントラストが鮮烈で、ダイナミズムの大きい1曲。

 9曲目「Bad Flat」は、ゆったりとしたテンポで、各楽器の音数も控えめ。ボーカルも感情を排したかのような歌い方で、随所にスポークン・ワードが挟まれます。しかし、後半になると、歌とギターが、メロディーの起伏ではなく、歌い方とサウンドに感情を込めるように、エモーショナルに音を紡いでいきます。

 1stアルバムと比較しても、楽曲とアレンジの幅が確実に広がったアルバムです。音質はハードでソリッドですが、音量や速度だけに頼ることはなく、テンポを落とし、アンサンブルと各楽器のフレーズを前景化させるように、丁寧に作り上げられたアルバム、という印象。

 特に一部の曲では、スローテンポに乗せて、音数を絞った演奏が展開され、各楽器が絡み合い、有機的なアンサンブルを構成する彼らの志向が、あらわれていると思います。

 





Faraquet “The View From This Tower” / ファラクエット『ザ・ヴュー・フロム・ディス・タワー』


Faraquet “The View From This Tower”

ファラクエット 『ザ・ヴュー・フロム・ディス・タワー』
発売: 2000年11月14日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 ディスコード所属のバンド、ファラクエットの1stアルバムであり、唯一のスタジオ・アルバム。彼らの音楽性は、フガジ、ジョーボックス、ネイション・オブ・ユリシーズなどディスコード所属のバンドに強く影響を受けており、ポスト・ハードコアの文脈で語られることも多いのですが、変拍子が多用される複雑なアンサンブルから、マスロックにカテゴライズされることもあります。(当サイトのカテゴリーでは「マスロック」に入れてあります。)

 また、前述したディスコードのバンド群と並んで、キング・クリムゾン(King Crimson)からの影響もあり、テクニカルで複雑怪奇なアンサンブルを繰り広げるバンドです。本作では、メロディアスな歌と、タイトかつ複雑なリズムが共存し、ポスト・ハードコアともマスロックとも言える音楽が展開されています。

 1曲目「Cut Self Not」は、硬質なサウンドを持った各楽器が、リズムを巧みに切り替えながら、複雑に絡み合う1曲です。そんな複雑なアンサンブルに乗せて、ボーカルは高らかにパンク的な親しみやすいメロディーを歌っていきます。実験性と大衆性を高い次元で併せ持っているのが、このバンドのすごいところ。

 2曲目「Carefully Planned」は、ギター、ベース、ドラムの小刻みなリズムが、正確に組み合わさり、一体感ある音楽を作り上げる曲。

 3曲目「The Fourth Introduction」は、イントロからリスナーの耳と空間を切り裂くような、切れ味鋭いサウンドのギターが印象的。再生時間1:03あたりからの、なだれ込むようなドラムも立体的で迫力満点。

 4曲目「Song For Friends To Me」は、トランペットの使用がアクセントになっています。トランペットと言うと、スカコアのような開放感とパーティー感のある雰囲気を想像しますが、この曲では切れ味鋭く、細切れになったフレーズを吹いています。マスロック的なアプローチのトランペットと言える演奏。

 5曲目「Conceptual Separation Of Self」は、ゆったりとしたテンポで、ポストロック色の濃い1曲。この曲にはチェロが導入されていて、全体を包み込むように、音の被せています。

 6曲目「Study Complacency」は、ギターが細かくコード・ストロークを繰り出し、疾走感の溢れる1曲。直線的に走り抜けるだけでなく、随所でリズムが切り替わり、マスロックらしく複雑で、一寸先は闇な展開。

 8曲目「The View From This Tower」は、音の輪郭とリズムがくっきりした、タイトな1曲。イントロから、タイトで隙間の多いアンサンブルが展開されますが、再生時間0:50あたりから濃密で躍動感のある演奏に一変するなど、音楽がいきいきと変化しながら、進行します。

 9曲目「The Missing Piece」は、各楽器ともナチュラルな音作りで、音数を絞ったアンサンブルが展開される1曲。サウンドは穏やかですが、演奏は正確かつ複雑。電子音とトランペットの音色も、楽曲に奥行きと色どりを加えています。

 アルバム全体を通して、歌無しのマスロックとしても機能する非常に完成度の高い音楽を展開していますが、同時に歌モノとしても成立させているのが、この作品の特異なところだと思います。非常に複雑なアンサンブルが繰り広げられ、それだけでも十分に聴くに値する音楽であるのに、思わずシングアロングしたくなるような歌メロも浮き上がることなく、楽曲に溶け込んでいます。

 ハードコア・パンクを好む人、マスロックを好む人の両方に、自信を持ってオススメできるクオリティを備えたアルバムです。

 





The Promise Ring “Nothing Feels Good” / ザ・プロミス・リング『ナッシング・フィールズ・グッド』


The Promise Ring “Nothing Feels Good”

ザ・プロミス・リング 『ナッシング・フィールズ・グッド』
発売: 1997年10月11日
レーベル: Jade Tree (ジェイド・トゥリー)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のエモ・バンド、ザ・プロミス・リングの2ndアルバムです。

 疾走感とエモーションの溢れる、若さはじける1枚。なのですが、単にスピード重視で加速していくだけでなく、ギターのフレーズやアンサンブルに、効果的に曲を加速し、前進させていく技巧がいくつも見つかります。

 エモいボーカルと、疾走感あふれるリズムにのるだけでも十分に楽しめるアルバムですが、アンサンブルにも工夫が見られるところが本作の、そしてこのバンドの魅力です。

 1曲目は「Is This Thing On?」。感情が吹き出したかのような、疾走感のあるイントロ。ボーカルが入ってきてからのドラムの絶妙なタメ、再生時間0:26あたりからの両チャンネルに振り分けられた2本のギターなど、段階的にスピード感を増していくアレンジが、随所に仕掛けられています。

 4曲目の「Why Did Ever We Meet」は、バンド全体がぴったりと縦を揃えたイントロから、曲が進むにつれて、各楽器がはみ出したり、またピタリと合わせたり、コントラストが鮮やかな1曲。

 7曲目「A Broken Tenor」。立体的に響くドラム、高音が耳に刺さるギター、硬質なサウンドのベース。まず各楽器のサウンドがかっこよく、それら全てが有機的に絡み合うアンサンブルも秀逸な1曲。

 前述したように、感情そのままに突っ走る部分と、機能的なアンサンブルが両立したアルバムです。若さ溢れるエモーショナルなボーカルと疾走感、緻密さを感じるアレンジがバランスよく共存しています。

 まずは彼らのエモさに身を任せ、それからアレンジをじっくり堪能しましょう。