Bluetip “Join Us” / ブルーチップ『ジョイン・アス』


Bluetip “Join Us”

ブルーチップ 『ジョイン・アス』
発売: 1998年10月1日
レーベル: Dischord (ディスコード)
プロデュース: J. Robbins (J・ロビンス)

 元スウィズ(Swiz)のメンバーである、デイヴ・スターン(Dave Stern)と、ジェイソン・ファレル(Jason Farrell)を中心に結成されたバンド、ブルーチップの2ndアルバム。

 プロデューサーは、前作のイアン・マッケイに代わって、J・ロビンスが担当。このJ・ロビンスという人は、本名ジェームス・ロビンス(James Robbins)。ジョーボックス(Jawbox)などで自らもバンド活動をする傍ら、プロデューサーおよびエンジニアとしても有名です。

 前作『Dischord No. 101』に引き続き、実にディスコードらしいポスト・ハードコアなアルバムと言えます。とはいえ、ジャンル名だけでは、実際にどのような音楽が鳴っているのか、何も語っていないのと同然ですから、このアルバムの志向する音楽、個人的に聴きどころだと思う魅力について、書いていきたいと思います。

 単純化が過ぎるのを恐れずに言うなら、ハードコア・パンクは、歌のメロディーやバンドのアンサンブルよりも、スピード感を重視した音楽だと、ひとまず定義できるでしょう。そのため、複雑なリフやアレンジよりも、高速でシンプルなリフやパワーコードが多用される傾向にあります。

 また、限界まで速度を上げたテンポ、過度に歪んだ硬質なギター・サウンドなど、サウンド面で(時には歌詞の面でも)攻撃性が際立っているのも、特徴と言えます。

 ブルーチップの2枚目のアルバムとなる本作では、歪んだギター・サウンドが用いられてはいますが、疾走感やハイテンポよりも、バンドの複雑なアンサンブルの方が重視され、歌のメロディーも起伏があり、コントラストが鮮やか。ハードコアの攻撃性と、グルーヴ感あふれる演奏、歌メロの魅力が、見事に溶け合った1作です。

 複雑なアンサンブルによって、テンポを上げるのみでは表現できない攻撃性や、感情を表しているようにも思え、まさにポスト・ハードコアと呼ぶにふさわしいクオリティを備えたアルバムであると言えます。

 1曲目の「Yellow Light」から、段階的にシフトを上げていく、多層的で弾むようなアンサンブルに乗せて、流れるようなメロディーが紡がれていきます。躍動感と疾走感、シングアロングしたくなるような親しみやすいメロディーが共存した1曲です。

 2曲目「Cheap Rip」は、ざらついた質感のギターを中心に、タイトなアンサンブルが展開される1曲。随所でリズムを切り替え、伸縮するように躍動しながら、進行していきます。

 3曲目「Join Us」は、金属的な響きのギターが、キレ味鋭くリフを弾き、立体的なアンサンブルが形成。各楽器がお互いにリズムを食い合うように重なり、生き物のように躍動感と一体感のある演奏が、繰り広げられます。

 5曲目「Carbon Copy」は、スローテンポで、音数も少なめ。無駄を削ぎ落とし、一音ごとの重みを増し、ゆっくりと地面に沈んでいくようなアンサンブルが展開。スロウコアが目指すようなアプローチの1曲。

 6曲目「Salinas」は、ハードに歪んだギターと、シャウト気味のボーカルが絡み合う、立体的でパワフルな1曲。

 8曲目「I Even Drive Like A Jerk」は、ギターは毛羽立ったように歪み、ボーカルも感情を叩きつけるように歌い、全体としてアングラな雰囲気を持っています。静と動のコントラストが鮮烈で、ダイナミズムの大きい1曲。

 9曲目「Bad Flat」は、ゆったりとしたテンポで、各楽器の音数も控えめ。ボーカルも感情を排したかのような歌い方で、随所にスポークン・ワードが挟まれます。しかし、後半になると、歌とギターが、メロディーの起伏ではなく、歌い方とサウンドに感情を込めるように、エモーショナルに音を紡いでいきます。

 1stアルバムと比較しても、楽曲とアレンジの幅が確実に広がったアルバムです。音質はハードでソリッドですが、音量や速度だけに頼ることはなく、テンポを落とし、アンサンブルと各楽器のフレーズを前景化させるように、丁寧に作り上げられたアルバム、という印象。

 特に一部の曲では、スローテンポに乗せて、音数を絞った演奏が展開され、各楽器が絡み合い、有機的なアンサンブルを構成する彼らの志向が、あらわれていると思います。